劇作家・井上ひさしが描いた昭和庶民伝三部作の
第一部『きらめく星座』が栗山民也演出でこの秋上演!
井上作品は3作目となる秋山菜津子にインタビュー
太平洋戦争開戦の1年前、昭和15年から16年の東京・浅草を舞台にした井上ひさしの『きらめく星座』。浅草に居を構えるレコード屋・オデオン堂の家族とその下宿人が、数々の愛すべき流行歌とともに繰り広げる小さな営みを描いた傑作舞台で、昭和庶民伝三部作の第一部として書き下ろした不朽の名作だ。これまでも何度か上演されてきた本作だが、2014年の秋は、こまつ座オリジナルバージョンで再登場。そこで井上作品への出演は3作目となる女優、秋山菜津子に、井上作品への思い、栗山演出についてなどを聞いた。
--井上ひさしさんの作品は『キネマの天地』(2011年)と『藪原検校』(2012年)にご出演されて、いずれも栗山民也さんの演出ですが、井上作品との接点はいつごろにあるのでしょうか?
秋山:最初に出会ったのが高校生の頃で。演劇クラスだったので、クラスの最終公演で『十一ぴきのねこ』を上演しました。それが最初の出会いで、「不思議な作品だなぁ」と思っていましたね。それから栗山さんにお会いしてからは「(井上作品に)出ろ出ろ」と、井上さんがご存命の頃から「出ないとだめだよ」と言われていて。「ご縁があれば」なんて言っていたのですけど、スケジュールが合わなかったり、タイミングが合わず。初めて出させていただいたのが『キネマの天地』で、残念ながらその時はもう井上さんが亡くなられた後でしたね。
--高校生の頃に初めて『十一ぴきのねこ』に出会って。高校生の頃と大人になってからでは、作品への受け止め方など違うでしょうね
秋山:そうですね。あの頃は何も分かりませんでした。『キネマの天地』の前に、栗山さんが演出した作品など拝見して、昔の作品もいろいろ読ませていただいていたのですが、井上作品では『日本人のへそ』とか、『藪原検校』とか、あの辺の芝居がとても好きですね。何か濃くて(笑)。
--舞台で井上さんの台詞を発するというのは、どんなお気持ちなんですか?
秋山:不思議な感覚ですね。『キネマの天地』に出させていただいたとき、共演者の方が「(井上作品は)台詞が体に入りこむとリズムになる」とおっしゃっていたのですが、私は初めてだったので「そうなんだ」ぐらいに思っていました。(出演作品は)まだ2本で、今度の『きらめく星座』でまた新たな発見があると思いますが、長い台詞とかト書きとか“やはりすごいなぁ”と思います。
--『キネマの天地』、『藪原検校』はいずれも栗山さんが演出されました。栗山さんはどういう演出をされる方ですか?
秋山:今は温和になった気がするんですけど、最初にお会いしたときはなんか目つきは悪いし、怖いなって思っていました(笑)。演出は的確で、細かくて。その一方で自由にやらせてくれるところもあって。ちょっと違うことをやってみせてもちゃんとそれが成立していれば取り入れてくださるし。ダメ出しも、的確に細かく言ってくださってすごくありがたいですね。そういう演出家の方は少ないので信頼しています。
--栗山さんとは、どのくらいのお付き合いなんですか?
秋山:2004年に上演した三好十郎さんの『胎内』以来です。『胎内』は3人芝居で、檀臣幸さんと千葉哲也さんと私の役者3人と栗山さんだったので、すごく密度の濃い経験をしました。稽古場で鍛えられましたね。三好十郎作品もすごく難しかったです。
--物語の舞台は浅草のレコード屋で、浅草という土地は井上さんの劇作家としてのスタート地点でもありますよね。
秋山:私の母が浅草の生まれだったんです。浅草橋あたりには母の姉が戦後初めて海外の化粧品を輸入したというお店をやっていて。今はもうないのですが…。あの辺りの芸妓さんも買いに来られていたようです。母もそのお店を手伝っていたみたいで、作品の時代とも近いですし、何か親近感を覚えますね。
--当時の浅草のお話を、お母様から聞かれたことは?
秋山:そうですね、ずいぶん後になってから空襲のことなど聞きましたね。「どうだったの?」と聞いたら、「亀戸あたりがこうだったから、こういうふうに逃げた」とか。何で聞いたかは覚えていないのですが…。
--『きらめく星座』では、当時の流行歌も歌われるそうですね。
秋山:楽しみですね。ただ、昔の曲は全然知らなくて。聞いたら「知ってる」ってなると思うので、大丈夫かなと思いながら(笑)。楽しんで歌えたらなと思います。
--ちなみに歌はお好きですか?
秋山:好きですね。小さい頃から好きです。栗山さんが演出された『母・肝っ玉とその子供たち』(2005年)も歌があって、その時は栗山さんと日本語の詞をどう乗せるか一緒に考えたりもして。その時も生演奏で、芝居と音楽が一体になっている感じが好きですね。
--現在、秋山さんはドラマ『家族狩り』(TBS)にもご出演されていますが、映像作品とはまた異なる、舞台ならではの魅力とはどういうところにあるとお考えですか?
秋山:まず、当たり前ですが、舞台は生であるということ。生の舞台でどこまでできるか、同じ作品でも上演ごとに違いますし…。時々思うのですが、たとえば1ヶ月、2か月公演ともなると、公演期間中に誰か一人でも欠けたら上演できなくなるじゃないですか。みんな同じ時間にいつも集まって、えらいなぁって。当たり前のことですが(笑)。そして映画とかテレビは、たとえば演技を一時ストップすることもできますが、舞台はそうはいかない。その緊張感。同じ時間、同じ劇場に、お客さんも含めて大人数が集まって、一瞬を共有する。不思議だなと思うのですが、そういうところが好きなんだと思います。
--では最後に、『きらめく星座』を楽しみにされている方々にメッセージをください。
秋山:私が「今度『きらめく星座』に出るんだよ」と言うと、「あれいいよね」とか、「本当にいい作品だね」と、第一声でおっしゃる方が多くて、私も楽しみです。私も初めて『きらめく星座』を経験するのですが、同じようにまだ観たことない方にも観てほしいですね。若い世代の方もぜひ。昔の流行歌を歌うシーンもあれば、辛らつなシーンもあって、最後のシーンではドキッとして、「ああ、すごいなぁ」って思って。ご覧になる皆さんも、きっと感じることがいっぱいあると思います。ぜひとも劇場に来てください。私も“もんぺ”をはいて頑張ります(笑)。
(2014年8月11日更新)
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秋山菜津子
あきやまなつこ…女優。10月8日生まれ、東京都出身。舞台、映画、ドラマと幅広く活躍。現在放送中のTBS金曜ドラマ『家族狩り』(22:00~)にて、警部補・馬見原(遠藤憲一)の妻、馬見原佐和子役で出演中。また、8月1日から映画『ピカ☆★☆ンチ LIFE IS HARD たぶんHAPPY』が公開中。2001年に第36回紀伊國屋演劇賞 個人賞、2002年に第9回読売演劇大賞 優秀女優賞、杉村春子賞、2007年に第14回読売演劇大賞 優秀女優賞をそれぞれ受賞。
こまつ座「きらめく星座」
発売中
Pコード:436-127
▼10月10日(金) 13:00
▼10月11日(土) 13:00
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
A席-7000円 B席-5000円
[作]井上ひさし
[演出]栗山民也
[出演]秋山菜津子/山西惇/久保酎吉/田代万里生/木村靖司/後藤浩明/深谷美歩/木場勝己/他
※未就学児童は入場不可。
[問]芸術文化センターチケットオフィス
[TEL]0798-68-0255
兵庫県立芸術文化センター
http://www1.gcenter-hyogo.jp/