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「主役ふたりの鮮度を楽しんでもらいたい」(仲代)
次世代が挑む無名塾の『ロミオとジュリエット』が
大阪・サンケイホールブリーゼに登場!

1950年代、日本映画黄金期と言われる時代にデビューし、瞬く間にトップスターの座へ。そして60年を過ぎた今なお舞台や映像作品で活躍している仲代達矢。1975年からは俳優を育成する「無名塾」を亡き妻、宮崎恭子と主宰し40年。多くの俳優たちを世に送り出してきた。
昨年9月からは無名塾公演「ロミオとジュリエット」で日本中を駆け巡り、その公演回数は約100回超と、日本の演劇界においては異例のロングラン。多くの人々に生の舞台の魅力と面白さを伝えている。そしていよいよ、ここ大阪・サンケイホールブリーゼで千秋楽へ。そこで、本公演ではロレンス神父役を勤める仲代と、ロミオ役の進藤健太郎、ジュリエット役の松浦唯を迎え、作品についてはもちろん、役者としてのこれからや、進藤、松浦の塾生ふたりにとっての仲代像など、多くを語ってもらった。

仲代達矢(以下、仲代):今までロミオの役をやっていましたが、私も81歳になり教え子の進藤と松浦の次世代に渡そうと思っています。
 
進藤健太郎(以下、進藤):今回、ロミオ役を演じます。この作品は毎年必ず、いろんな形で上演されていますが、無名塾の「ロミオとジュリエット」はこういうものだというところを楽しんでいただけたらと思います。
 
松浦唯(以下、松浦):4月13日(日)が大千秋楽ということで、仲代さんはじめ素敵な先輩方と共演させていただきました。自分の糧にもなるような、いいものを皆様に観ていただきたいと思います。
 
――本作で進藤さんと松浦さんを主役に抜擢されました。
 
仲代:日本の新劇界では、無名塾は一番小さいグループですが、なるだけいい俳優を育てようと思って始めました。今回、演出は文学座の高橋さんにお願いしていますが、配役は私がしました。配役は芝居のすべて。「ロミオとジュリエット」の場合は、初々しさや鮮度、そういうものがないとできません。テクニックだけではできない。長い間見ていて、先輩も後輩もいますが、この二人が適役だと思いました。新鮮さを大事にしたいですね。
 
――仲代さんは、若い二人のよき理解者であるロレンス神父を演じられます。
 
仲代:私もそろそろ支え役になろうと。でも支え役といっても、役者というのは不思議なもので、“こいつらに負けてたまるか”となりますね(笑)。私も30歳の頃に「ハムレット」をやりまして、それから5、6本やりましたが、シェイクスピアというのは役者にとっては非常に難しい。この「ロミオとジュリエット」も、終わったときには若い役者も一段とレベルが上がるんじゃないかなと思っています。
 
――ロレンス神父のポジションについては、いかがですか?
 
仲代:ロミオとジュリエットという若い二人がいて脇といえば脇ですが、ただ、主役も脇も同じだなって。そんなことが81歳になって分かるという、ずいぶん晩生だなとも思うのですが。私は映画でも脇というのはあんまりやっていないのですが、やっぱり主役を引き立たせるためにある技といいますか。それは昔の新劇で、我々の先輩でもある小沢栄太郎先生、東野英治郎さん、千田是也、そういう人たちは脇としてしっかり主役を支えてやってきました。西村晃さんとかいろんな“確かな人”がいて、主役を盛り立てるために脇はありました。今、映画を観ていますと、それなりに面白いのですが、脇として主役を立てる役者がずいぶん少なくなってまいりました。それはどういうことなのか分からないですが、かつては新劇のベテランががっちり固めて映画を作っていたいい時代がありましたものですから、「ロミオとジュリエット」も我々脇がしっかり主役二人を引き立てないとと思います。
 
――仲代さんが脇役にいらっしゃって、ロミオをジュリエットを演じるにあたってはどうですか?
 
進藤:仲代さんが脇だという感覚で台詞を聞いたことは一度もないです。僕たちが舞台上で聞く仲代さんの言葉はロレンス神父の言葉なので。ただ、今回は各地のお客様に「あなたより仲代さんが見たかった」と言われることを覚悟の上で全国ツアー行かなきゃだめだと。そういうことを全部受け止める意識で行きましたね。
 
松浦: 1本のお芝居が終わるとへとへとになってしまうんです。それで、仲代さんはずっとこのお年まで、こんなに体力の消耗する中で主役を張ってこられたんだと、今回、ジュリエットを演じさせていただいて改めてすごさが分かって、頭が下がる思いでした。今回は、一歩引いた立場とはいっても仲代さんが座長としてチームにいてくださって、自然とみんなが仲代さんのところに集まるので、場をまとめなくちゃいけないとか、お芝居以外のところであまり気を張らなくてもいいといいますか、お芝居に集中させていただいておりまして、それは本当にありがたいです。仲代さんがいてくださって、安心感があります。
 
――無名塾ならではの「ロミオとジュリエット」とはどんなところでしょうか。
 
仲代:これは愛情物語なので、愛の告白ひとつにしても「私はあなたを愛しています」という言葉に半ページくらいの装飾をしています。これは日本人には不得手なところがあって。基本的には韻文、シェイクスピアは詩から発展して台詞を書いていて、特に新劇の人間は韻文の芝居はあまりないので、そういう意味では言いこなすのは俳優にとっては非常に難しい。ただ、期待していいのは新鮮さとテンポ。こういう「ロミオとジュリエット」もあったのかなと思っていただけると非常にありがたいです。
 
――そして無名塾も40年です。
 
仲代:昔から劇団というのは初代がだめになったら壊れる。大体そうなるんですね。無名塾はそうしたくない、次世代に引き渡したいという思いがありまして。恥を晒すようですが、ロングラン公演で100回となると、(上演期間は)半年かかるんですね。そうするとマスコミに出られなくなると言って、優秀な役者でも辞めていく者もいます。そういう者には推薦状を渡すのですが、寂しい気持ちがありますね。私もかつて、映画のために舞台を2年休んだことがありますが、2年休むと立てないですね、舞台に。感覚というか、またもう一度やり直さないといけない。だから、必ず1年に1度は舞台に立つと。いろんなところで書いてますが、上半期は映像、映画、下半期は通行人でも舞台をやると。これを俳優座の27年間でやってきて、今でもどうにか舞台に立っていられます。若い彼や彼女にも舞台は忘れないでほしいと思っているのですが、それだけ舞台の技というのは難しくて。ただ、無名塾という名前だけ残って内容が伴わなければ、消えてなくなってもいいと思ってます。……こういうこと言っちゃだめか(笑)。そのくらいのつもりでやらないと、どうしても他のジャンルに負けるので。(※進藤、松浦に向かって)お願いしますね(笑)。
 
――進藤さん、松浦さんにとって、仲代さんはどんな方ですか?
 
進藤:毎回のように答えているのですが、僕の中で仲代さんは、宇宙で一番緊張する人です。今こうして並んでいるときも、手汗が出ています。ただ、不思議と舞台の上では緊張しなくて。今回で言えば、仲代さんはロレンス神父として立っていらして、僕は神父を頼るという関係でいられるので、舞台上では全然緊張せずにいられます。もしかしたら、一番まっすぐ目を見られるのは舞台上だけかもしれません。そこそこ長いこと無名塾にはいますが、入塾当初からその緊張感は変わりませんね。舞台の上では緊張せず楽しいです。
 
松浦:仲代さんは憧れであり、目標であり、理想の役者です。もちろん、舞台上でお芝居をさせていただいているときは、役としてその場にいるのですが、袖にいるときは、仲代さんのお芝居の技をどこか盗めないかと思って観ています。ただ、いつも見入って、お芝居に入り込んでしまってなかなか盗めないないのですが(笑)。
 
仲代:言いにくいよな。悪口は言えない(笑)。
 
――冒頭、次世代にバトンを引き渡したいとおっしゃいました。その真意についてもう少し詳しく教えてください。
 
仲代:19歳で俳優の道に入ました。俳優学校を3年行き、それから27年間、俳優座でやらせていただいて、その後のれん分けという形で無名塾を起こしました。もう、俳優生活もそろそろかなと。ライブというのは、“やっぱり劇場に来てよかったな”と思われるものを作らないといけません。そこも次世代の若者たちに期待するというか、そういう心境です。
 
――それは体力的な衰えも考慮されてのことでしょうか?
 
仲代:それはあります(笑)。特に舞台は足腰ですから、ウォーキングなり、プールなどで歩いたりして訓練はしていますが、やっぱり体は衰えてきますね(笑)。あと、海馬のほうもだいぶん衰えてきて、若い頃は一瞬のうちに台詞を覚えたのに、今はその10倍かかります(笑)。といって、アスリートやスポーツ選手は40歳を過ぎると引退になりますが、役者の引退はなかなかないですから。80を過ぎても、その年齢なりの役があるので。ただ、そろそろ引退かなと思っています。ですから、無名塾が続くためには次世代の若者に引き渡したいという気持ちですね。ただ、テーマは「生涯修行、死ぬまでプロ」。……引退できないし、困ったな(笑)。まあ、数年うろうろすると思います(笑)。
 
――これからの目標は?
 
仲代:あと10本くらいやりたい作品があります。この次は一人芝居をします。お客さんには分かりにくいものをやりたくなってね(笑)。お客さんに感動してもらいたい、理解してもらいと思っていた老優は、自分のやりたいことをやるんだという心境に多少、なっております。
 
――無名塾の次世代の方に期待したいことは何でしょうか?
 
仲代:演劇というジャンルは、今の世相になかなか合わなくなっていて。映画も劇場にお客様を呼ぶことが大変な時代になっています。でもやっぱりライブ、“うちでテレビを見ているより、劇場に行って観るほうがすごいなあ”と思わせるものをこっちが作らないとつまらないですから、そういうことを若手に期待します。芝居は、基本的には役者の力でお客様に魅力を与えられなければいけません。もっと技を上げれば劇場にお客さんを足を運ばせることができると思っています。なので、次世代の若者たちにはもっと技をしっかりしろと言っていますね。
 
昨年9月28日、石川県七尾市・能登演劇堂からスタートした無名塾「ロミオとジュリエット」もついに千秋楽へ。上演を重ねるたびにアンサンブルもよくなっているという仲代。全国津々浦々で演じ、舞台の魅力を伝えてきた彼らの集大成をお見逃しなく! 公演は4月13日(日)、大阪・サンケイホールブリーゼにて。
 



(2014年4月 7日更新)


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●仲代達矢
なかだい・たつや…1952年、俳優座演劇研究所付属俳優養成所入所。1975年から俳優を育成する「無名塾」を亡き妻・宮崎恭子(女優、脚本家、演出家)と主宰。舞台、映画、テレビと60年以上にわたって第一線で活躍、2011年には日本映画批評家大賞ダイヤモンド大賞・日本映画復興賞を受賞。2013年には第31回川喜多賞を受賞。
●進藤健太郎
しんどう・けんたろう…1995年、無名塾入塾(19期生)。主な出演作品に舞台「オイル」「罪と罰」など多数。映画「助太刀屋助六」「座頭市 THE LAST」「SPACE BATTLE SHIP YAMATO」、ドラマ「坂の上の雲」「相棒Season10」などに出演。今回、初のロミオを演じる。
●松浦唯
まつうら・ゆい…2009年、無名塾入塾(27期生)。主な出演作品に舞台「マクベス」「炎の人」「ホブソンズ・チョイス」「無明長夜」。進藤と同じく、本作で初のジュリエット役を演じる。

無名塾「ロミオとジュリエット」

▼4月13日(日) 17:30

サンケイホールブリーゼ

全席指定-7500円

[作]シェイクスピア

[翻訳]小田島雄志

[演出]高瀬久男

[出演]仲代達矢/進藤健太郎/松浦唯/他

※未就学児童は入場不可。

[問]ブリーゼチケットセンター
[TEL]06-6341-8888

無名塾
http://www.mumeijuku.net/

サンケイホールブリーゼ
http://www.sankeihallbreeze.com/