3/14(金)~16日(日)大阪・シアターBRAVA!にて
音楽劇『もっと泣いてよフラッパー』がいよいよ上演!
大盛況のうちに終了した東京・シアターコクーン公演をレポート!!
例えるなら、星新一のSF作品に漂うスマートなユーモアと、ガルシア・マルケスが誘うロマンチックな切なさ、そこに、児童文学の名著『モモ』や『不思議の国のアリス』の主人公らが体験したスリルとワクワク感を詰め込んで……ポン!と創り出されたような世界。そんな、摩訶不思議な劇空間に遊ぶ楽しさを教えてくれる、音楽劇『もっと泣いてよフラッパー』がいよいよ大阪にやってくる。仕掛け人は、コクーン歌舞伎などを手掛ける演出家の串田和美。『上海バンスキング』生んだ劇団「オンシアター自由劇場」時代の、もう1つの代表作だ。俳優が自ら楽器を演奏する、斬新な演出で注目を集めた伝説の音楽劇。22年ぶりの復活とあって、上演中の東京公演では、連日立ち見がでるほどの盛況ぶり。場内はさながら、移動サーカスのテント小屋のような雰囲気。大の大人が目を輝かせ、ステージの幕開きを今か今かと待っている。当時の興奮を知らない世代にとっては、まさにリアル・タイムトリップな体験となりそうだ。
時は1920年代。シカゴと思しき町ではギャングが抗争に明け暮れ、フラッパーと呼ばれる小粋な女の子たちは流行の服やメイクで着飾り、キャバレーで歌い踊る。禁酒法の影で狂乱の夜が続くこの町に、スターを夢見て舞い降りた踊り子ジル。お目当てのクラブを探すうち、夢とも現実ともつかない世界に紛れ込む。用心のために男装すれば伝説の殺し屋に間違われ、地下街ではネズミ一家のケンカに遭遇、ゴミ箱から這い出せば、運命の恋人が目の前に……。その後も、さまざまな恋の炎が燃えては、煙のように消えていく。傍らにはいつも、音楽が流れていた。

ジルを演じる松たか子は黒目勝ちな瞳を輝かせ、パッと華やぐような存在感がとってもキュート。鈴の音のように弾む歌声も心地よく、終始コミカルに物語を運ぶ。恋人のボクサー役を演じる大東駿介は、身体作りや楽器演奏など挑戦の多い舞台にあって、『欲望という名の電車』のスタンリーばりのマッチョボディを披露する。ソロを担うチューバ演奏も聴き所だ。また、フラッパースタイルを誰よりも着こなす踊り子サラ役の、秋山菜津子にも見惚れる。サラは歌舞伎俳優・片岡亀蔵が演じる皇太子に求愛されるが、小娘ほどには素直になれず。待ち受ける恋の顛末が哀しい。一方、石丸幹二は昂ぶる感情をオペラ調に吐露する、熱血新聞記者役を好演。正義感ゆえの衝動だが、端正なマスクと本領発揮の美声が“変人”ぶりに拍車をかけてハマり役。
その他、鈴木蘭々、大森博史ら魅力的なキャストが多い中、断トツで視線を集めるのが松尾スズキだろう。常に身体のどこかをぐらつかせる特徴的な発声スタイルで、3役以上を自在に演じ分ける。毎度絶妙な間合いで小ボケを挟んでは、進行もソツなく行う。一瞬若手芸人かと見紛うほどの活躍ぶりだが、なるほど、後に東京乾電池、東京ヴォードヴィルショーを生む自由劇場メンバーを率いた、串田を前にすれば、松尾も“若手”ということか。現在まで脈々と受け継がれるアナーキーな演劇の、幹となる存在が自由劇場であり、串田和美なのかもしれない。串田が美術から出演まで務める、全2幕約3時間半の超大作。色あせない夢の続きは劇場で……。
公演は3月14日(金)から16日(日)まで大阪・シアターBRAVA!にて。チケット発売中。
取材・文:石橋法子
(2014年3月 5日更新)
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