藤山寛美を祖父にもつ藤山扇治郎が語る
松竹新喜劇の魅力、そして目指す高みとは?
道頓堀が喜劇で沸く大阪松竹座の2月公演を前に
次世代ホープにインタビュー!
2月7日(金)より大阪松竹座で幕を開ける「道頓堀喜劇祭り」。稀代の喜劇役者、藤山寛美の代表作であり、松竹新喜劇の名作と謳われる『一姫二太郎三かぼちゃ』と『裏町の友情』を基にした『大阪下町物語~浪花のロミオとジュリエット~』の2作を上演する。
ある田舎に暮らす四男二女に恵まれた西田家の家族模様を描いた『一姫二太郎三かぼちゃ』では、松竹新喜劇の渋谷天外が演出を担い、父親役に芦屋小雁、母親役に星由里子、三男・三郎に藤山扇治郎、四男・四郎にますだおかだの増田英彦が登場(一部Wキャスト)。そして二男の妻役を舞羽美海が演じる。『大阪下町物語~浪花のロミオとジュリエット~』では、クリーニング屋の主人・貞一役を渋谷天外が、炭屋の主人を曽我廼家寛太郎が演じ、“下町の敵同士”による丁々発止のやり取りを繰り広げる。また、それぞれの息子、娘役を藤山扇治郎、舞羽美海が勤め、タイトルどおり“ロミオとジュリエット”よろしく恋人同士を演じる。
本公演は、喜劇の伝統を引き継ぎながらも、枠にとらわれない大阪らしい喜劇を上演することをコンセプトとし、昨年の11月公演で松竹新喜劇に入団を果たした藤山扇治郎をはじめ、増田英彦、舞羽美海らの“挑戦”も見どころの一つとなっている。そこで、フレッシュな顔として松竹新喜劇に新風を巻き起こしている藤山扇治郎に、11月の舞台を振り返ってもらいつつ、間もなく開幕の「道頓堀喜劇祭り」の魅力や見どころ、喜劇の楽しみなどを聞いた。
――今度の「道頓堀喜劇祭り」についてお伺いする前に、11月の「松竹新喜劇特別公演」についてお聞きしたいのですが、入団後初の舞台はいかがでしたか?
藤山扇治郎(以下、扇治郎):「松竹新喜劇特別公演」で上演された『お祭り提灯』という作品は、誰が見ても喜んでもらえるもので。丁稚が出てきて、ハッピーエンドという、まず本が素晴らしいと思いました。『堀江川』にも出させてもらって。『堀江川』はハッピーエンドではないですが、『お祭り提灯』のような大爆笑を誘う作品と並んで、『堀江川』のような涙を誘う作品もあるというのが、松竹新喜劇の面白さじゃないかなと思いました。
――扇治郎さんは藤山寛美さんのお孫さんということでも注目されていますが、松竹新喜劇で寛美さんの当たり役を演じるというのは、どういう心境ですか?
扇治郎:僕が役者を目指したのは、祖父の舞台映像を観たことがきっかけなんです。そういう意味では憧れというか、なかなか出させてもらえるところではないと思っていました。なので、まず出させてもらった喜びや嬉しさが大きかったですね。プレッシャーを感じるというところまでも行っていなかったのかもしれません。ただ、初めて僕を観たお客様の目にどういうふうに映るかと考えると、やっぱり祖父とは違うでしょうし、自分なりのものプラス、祖父のいいところを踏襲していきたいと思いました。やっぱり時代が変わっても根本的なところは変わらないと思うので、いいところを受け継いで、自分なりの工夫や先輩がやってこられたことをミックスして、つないでいきたいなと思いました。
――「道頓堀喜劇祭り」の製作発表の際、寛美さんの舞台は魔法だとおっしゃっていましたね。その“魔法”について、もう少しお話いただけますか。
扇治郎:お客様に喜んでほしいという、ただただ純粋な気持ちだと思うんです。その気持ちが、舞台に出ただけでお客さんを笑わせたり、まじめなことを言っていても面白くなったりしているのだと思います。
――20代という扇治郎さんの世代は“藤山寛美”という存在を知らない方もいらっしゃると思うんです。扇治郎さんは、そういう世代にも松竹新喜劇を周知する存在であるかなと思うのですが。
扇治郎:祖父が劇団を引っ張っていた頃、“藤山寛美といえば松竹新喜劇”だったと思うんです。でも、今の若い世代は知らない。僕らの世代も頑張って、松竹新喜劇と言えば“ああ、今、大阪松竹座でやってるな”と知っていてもらえるような、そういう力になれればという思いでさせていただいています。
――実際に松竹新喜劇に出られて、新喜劇そのものの魅力は、どのように感じられましたか?
扇治郎:観るのと演じるのとでは雲泥の差で、観させてもらう分には“何て分かりやすい、面白い芝居なんだ”と。でも、演じてみると、登場人物は僕よりはるかに人生経験がありますし。だんだん、情けという言葉も僕らの年代では薄くなっていると思うんですが、新喜劇の中にはちゃんと描かれているので、こういうお芝居も若い人に観てもらいたいと思います。あと、松竹新喜劇という劇団のすごさに、チームワークのよさがありまして、長年、同じメンバーでされてきた間(ま)であったり、匂いだったり、すべてが松竹新喜劇になるんですよ。喜劇を愛してはるという思いがすごく大きいと感じました。
――では、2月の「道頓堀喜劇祭り」ですが、『一姫二太郎三かぼちゃ』『大阪下町物語~浪花のロミオとジュリエット~』はそれぞれ、ご覧になったことはありますか?
扇治郎:『一姫二太郎三かぼちゃ』は映像で観たことあります。『大阪下町物語』の基になった『裏町の友情』を松竹新喜劇の60周年記念公演で天外さんがされていたのを拝見しました。いいお芝居ですよね。2本とも家族の話で、それこそ周りの人とのつながりとか、近所の人との係わり合いが描かれていて、面白い作品だと思いました。今回、本当に頑張るしかないと、それだけですね!
――松竹新喜劇の公演とは違って、星さん、舞羽さん、そして増田さんといった方々がご一緒で、また雰囲気が違ってくるでしょうね。
扇治郎:全然違うでしょうね。松竹新喜劇の作品をご一緒にしたらどういうふうになるのか楽しみです。こういう公演ができるのはありがたいですし、僕も負けずに、“やっぱり新喜劇の役者さんって面白いな”、“松竹新喜劇の本って面白いな”って思ってもらえるように頑張りたいです。
――『一姫二太郎三かぼちゃ』では増田さんとご兄弟の役ですね。
扇治郎:まさか増田さんとご一緒するとは思ってもみませんでした。それこそ長年、漫才をされてきたすごい方じゃないですか。学ぶこと、勉強することも多いと思います。しかも芸人さんって瞬発力がすごいですから、本当に楽しみです。増田さんは僕の弟役なんですが(笑)、僕たち兄弟の喧嘩も見どころやと思います!
――『大阪下町物語~浪花のロミオとジュリエット~』では、炭屋と敵対するクリーニング屋の息子役で登場されます。
扇治郎:松竹新喜劇でロミオとジュリエットというだけでもう、楽しみですよね。下町を舞台にした炭屋とクリーニング屋の戦いがありながら、子ども同士の恋愛もあって、すごく温かいお芝居になるんじゃないかなと思います。
――では、ちょっと質問を変えまして、扇治郎さんはどういった音楽とか、映画が好きですか?
扇治郎:僕ね、映画は「釣りバカ日誌」が好きなんです。あと、「男はつらいよ」。“寅さん”とか“釣りバカ”を見たら、ほわ~っとするんですよね。あれも人情物、喜劇ですよね。音楽は何でも聴きます。大学に入ってから前川清さんも聴くようになりました。サザンオールスターズ、ミスターチルドレン、ケツメイシも好きですね。でも一番好きなのは、東京で聴く前川清さんの「東京砂漠」です。夜の新宿の歩道橋の上で聴く前川清さんの「東京砂漠」、これがいいんですよ! なんとも言えない気持ちになって…、人生というのは厳しいものだなと思ったりして。都会の風に当たりながら感じてましたね。
――なるほど(笑)、では、おじい様のほかに憧れの役者さんがいらっしゃったら教えてください。
扇治郎:もう本当に昔から好きなのは、中村勘三郎さんです。勘三郎さんが『怪談乳房榎』という夏芝居をされたとき、息子役で出させてもらって。それが僕の初舞台でした。そういうご縁もあるんですけど、若い人に歌舞伎を観てもらいたいというエネルギーがすごいなと思って。お芝居はどうすれば盛り上がるか、お客様に喜んでほしい、お客様に楽しんでもらいたいと、自分のことよりも考えていらっしゃって。そして、子どもみたいに純粋で、まっすぐで。初舞台に出させてもらったときも小学生ながらにかっこいいなと思いました。勘三郎さんから受けた影響はすごく大きいです。
――将来はこんな役者になりたいというのは?
扇治郎:幅広い層の方々に松竹新喜劇を観てもらいたくて。僕の中で“役者”という言葉にはどこか古いイメージがあるのですが、勘三郎さんにしろ、祖父にしろ、ある意味職人だと思うんです。約1ヶ月間、毎日同じお芝居をして。僕も、“松竹新喜劇に藤山扇治郎という役者がいる”“扇治郎は面白いな、楽しいな”と少しでも言っていただくことが目標です。そのためには松竹新喜劇をたくさんの方に観てもらわないといけないですし、お客様にお芝居を観て喜んでもらいたい。…そうですね、お客様に喜んでもらえるような、“松竹新喜劇ができる役者”になりたいです!
キャストが顔をそろえた製作発表をレポート!

写真左から増田英彦、藤山扇治郎、星由里子、渋谷天外、舞羽美海。
先日、行われた「道頓堀喜劇祭り」製作発表では、星由里子、渋谷天外、藤山扇治郎、ますだおかだの増田英彦、舞羽美海、が出席。それぞれ意気込みを語った。
『一姫二太郎三かぼちゃ』で西田家の母・おひさを演じる星由里子は、大阪松竹座の出演は平成19年以来、約7年ぶり。藤山寛美との思い出も深く、中座に出演した際には畳半畳ほどもあろうかというカステラを楽屋見舞いにもらったそうだ。今回、寛美の孫の扇治郎と共演するにあたり、「ぜひともご恩返しをしたい」と星。そして「家族愛や家族の楽しさ、悲しさ、温かみ、そういったものがお客様に伝わり、喜んでもらえるよう、大阪の皆さんに楽しんでもらいたい」と語った。
松竹新喜劇の劇団代表であり、『一姫二太郎三かぼちゃ』では演出を、『大阪下町物語』ではクリーニング店の店主・貞一を演じる渋谷天外は、この「道頓堀喜劇祭り」を起爆剤に「今後、いくつもの喜劇の劇団が大阪から生まれたらいいとなと思う。松竹新喜劇にとってもいいことなので、お手伝いできたらと思っている」と展望を語り、かかる2作についは「2本とも、うちの名作中の名作。内容には間違いありません。演じる人間が変わると作品の匂いも変わるので、そういうところも楽しんでもらえたら」と自信を覗かせた。
『一姫二太郎三かぼちゃ』で三男・三郎を、『大阪下町物語』では貞一の息子・新治を勤める藤山扇治郎は、「大阪松竹座で喜劇の公演ができるのは本当に幸せです。しかも、『一姫二太郎三かぼちゃ』ではお母さんが上品な星由里子さん、お父さんが面白い芦屋小雁さん、増田さんとは兄弟、『大阪下町物語』では彼女が綺麗な舞羽さん。そして渋谷天外さん、曽我廼家寛太郎さんという不思議な方もおられて(笑)、夢のようなキャストとお芝居ができるのはなかなか、ない経験だと思います。お客様に喜んでもらえるよう一生懸命、頑張ります!」とにこやかに語った。
舞台初挑戦となる増田英彦は、『一姫二太郎三かぼちゃ』で四男・四郎役を勤める。「漫才では途中で脱線したりとか自由にできますが、お芝居ではどこまで自由にできるのか。稽古で探りながら、様子を見ながら、ほどほどに崩していきたいですね。頑張ります!」と初舞台ながら何やら目論んでいる様子!?
最後に、『一姫二太郎三かぼちゃ』で二男の妻・房江と『大阪下町物語』で炭屋の主人・吾平(曽我廼家寛太郎)の娘・妙子を勤める舞羽美海。喜劇は初挑戦だ。「伝統ある松竹新喜劇に挑戦できること、大阪松竹座の舞台に立てることを光栄に思います。観る楽しさと、演じる難しさを感じていますが、精一杯がんばります!」と意気込んだ。
(2014年1月20日更新)
Check
藤山扇治郎
ふじやま せんじろう●京都府出身。2013年11月の大阪松竹座「松竹新喜劇特別公演」にて、祖父・藤山寛美の当たり役の一つである『お祭り提灯』の丁稚・三太郎などで松竹新喜劇へ加入。幼少より日舞、小唄に親しみ、初舞台は平成5年歌舞伎座の『怪談乳房榎』にて、十八世中村勘三郎(当時・勘九郎)の倅役を勤める。その後、祖父の追善公演にて『はなのお六道中みやげ』や、『桂春団治』の池田屋丁稚で伯母・藤山直美と共演するなど舞台出演を重ねる。大学卒業後に青年座研究所に入所し演技を学び、映像世界でも活躍してい
道頓堀喜劇祭り
『一姫二太郎三かぼちゃ』
『大阪下町物語
~浪花のロミオとジュリエット~』
発売中
Pコード:434-221
▼2月7日(金)12:00
▼2月8日(土)12:00/16:00
▼2月9日(日)12:00/16:00
▼2月10日(月)12:00
▼2月11日(火)12:00/16:00
▼2月12日(水)12:00/16:00★
▼2月13日(木)12:00★
▼2月14日(金)12:00/16:00
▼2月15日(土)16:00
▼2月16日(日)12:00
大阪松竹座
1等席-10000円
2等席-6000円
3等席-4000円
『一姫二太郎三かぼちゃ』
[作]茂林寺文福
[演出]澁谷天外
『大阪下町物語
~浪花のロミオとジュリエット~』
[作]茂林寺文福・舘直志
[演出]川浪ナミヲ
[出演]
星 由里子
渋谷天外
芦屋小雁
藤山扇治郎
増田英彦(ますだおかだ)
舞羽美海
曽我廼家寛太郎
長江健次
紅 萬子
洋 あおい
他
※未就学児童は入場不可。
[問]大阪松竹座
[TEL]06-6214-2211
★…増田英彦は出演なし。『一姫二太郎三かぼちゃ』の四郎役は田村ツトム。
大阪松竹座
http://www.shochiku.co.jp/play/shochikuza/