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1980年に発表されたサム・シェパードの傑作戯曲
『TRUE WEST』をスコット・エリオットの演出で上演!
兄役リーを演じる内野聖が語る作品への思いとは

1983年、ジョン・マルコヴィッチがオフ・ブロードウェイで本公演に出演し、シアターワールド賞、クラレンスダーウェント賞、オリビエ賞など数々の賞を受賞。そして、2000年にはブロードウェイで、フィリップ・シーモア・ホフマンとジョン・C・ライリーが出演し、トニー賞作品賞、主演男優賞、演出家賞にノミネートされたサム・シェパード作の『TRUE WEST~本物の西部~』。

砂漠での放浪生活を終えて戻ってきた粗野で無学な兄・リーと、一流大学を卒業し、脚本家として活躍している弟・オースティンは、5年ぶりに再会を果たす。この再会を機に、真正面から対峙するふたりだが、それぞれが抱えてきた葛藤、コンプレックス、そして父親への思いが徐々にほころび始めて…。

兄と弟の力関係が刻一刻と変化し、やがては想像のはるか先へと転がりこんでいく傑作戯曲に挑むのは、兄役の内野聖陽と弟役の音尾琢真、そしてプロデューサー役の菅原大吉と兄弟の母親役の吉村実子の4人。少数精鋭で繰り広げるこの濃密な会話劇について、主演の内野聖陽に聞いた。

――まずは、作品の見どころをお聞かせください。
 
内野聖陽(以下、内野):最初に台本を頂いた時に面白い会話劇だなと思いましたね。短い台詞のやり取りでどんどん進んでいき、なおかつ兄弟の立場がめまぐるしく変わっていく。そういうところが見どころになると思います。ステージの外側から観る方がサム・シェパードが描きたかったことがよく見えるんじゃないかな。僕も客席に座って観てみたいですね。兄と弟の、白と黒とか、明と暗とか、一人の人間に内在してるような対照的なキャラクターも観ていて面白いと思いますね。
 
――リーという役柄についてはいかがでしょうか?
 
内野:僕が演じる兄貴のリーは、無学で無骨でどうしようもない男なんです。砂漠に住んでいるような男で、空気の醸し出し方が変なんです。そういう感じをいかにつくるかが勝負となっているので、自分にとってはそこが頑張りどころかなと思いますね。弟は有名大学を出ていて、非常に品行方正。そこそこの成功を手にして、家族もあり車もありという生活をしているんですけど、兄貴はそういうものは一切持っていない。そういう定形外な感じを見せることが一番の戦いどころです。
 
――外国の戯曲ですが、作品自体はどのように受け止めていらっしゃいますか?
 
内野:これはアメリカの話なんだけども、やっぱり日本人のお客さんの心に届けたいと思ってやっているわけで。ただ、『TRUE WEST』とは何かっていうところなんですよね。アメリカ人の西部劇というものが日本人にとっては何か。侍か?とか思って。『TURE SAMURAI』でいいんじゃないかっていうぐらいの気持ちでやってますね。例えば、リーという男は昔かたぎの「男は馬を愛するんだ。西部を愛するんだ」っていうのが好きなんです。それを今の日本人のお客さんに伝える時に、三船敏郎か? 勝新太郎か?と。そういうものが好きな男でいいんじゃないかなとか思いますね。あとは一緒です。ハリウッドという、いわゆるショービジネスの業界に毒されている部分を皮肉っているところもあるし、芸術性と娯楽性の狭間で揺れるというところも日本にはあるし、ほとんど日本に置き換えられるように思います。
 
――アメリカでも数々の賞を受賞した会話劇で、先ほども“面白い”とおっしゃっていましたが、そこをもう少し詳しく教えてください。
 
内野: 1980年に発表されたんですが、ちょうどアメリカ人が心理学的なものに興味を持ち始めた時代なんですね。それもあって、弟と兄の会話が非常に根が深いというか、シニカルだし、もって回った言い方で人をどう傷つけるかとか、裏から攻めたりとか、心理戦を繰り広げているところがあるんです。そこも楽しみどころの一つじゃないかな。笑いながら嫌味を言ったり、笑いながら人を傷つけ合ったりとか、そういうところがたくさんあります。表面だけやっていてもできない芝居なんですよね。リーで言うと、すごいコンプレックスを持って弟と対峙していたりするんです。そういうところが表面に出ていないから非常にやっかいで。そこも面白いなと思います。
 
--演出家のスコット・エリオットさんとは、どんなやり取りをされていますか?
 
内野:サム・シェパードの戯曲を細かく噛み砕いていく時に、彼の演出はとても分かりやすいですね。サム・シェパードが紡いだ一つ一つの台詞に解説を加えてくれるので、弱い台詞にならないというか。日本人に伝わりにくい固有名詞も彼が説明してくれるとすごく分かって。分かるとその台詞にそれなりのニュアンスを付け加えることができるので、サム・シェパードに造詣の深い演出家でよかったなと思いますね。また、彼は役者をいい芝居に持っていくテクニックをたくさん持っているんです。例えば、二人で面と向かう芝居があったら、周りを一切意識せず、本当に至近距離、にらめっこをするような距離でボソボソと、“僕らに聞こえなくていいからやって”って言うんです。それをやった後では、僕らの芝居がガラリと変わったりするんです。そういうエクササイズをたくさん持っているので、自分の演技の肌触りすら変われるんじゃないかという期待も持ってしまうくらいですね。もともと俳優さんだったし、17年間、劇団をやってきて、コンテンポラリー演劇を追求して来られた方だけあるなって思いますね。
 
――日本語に置き換える際、スコットさんとは台詞のニュアンスをどのように伝えられているんですか?
 
内野:スコットは日本語を全然しゃべれない男なんですけど、どうやら分かるみたいなんですよ(笑)。もちろんサム・シェパードの作品に造詣が深くて、サム・シェパードの台本を分かっていて、劇構造も分かっているので、僕らの意図がきっちりしていれば言語が違っていても全部通じるんですよね。これは不思議なもんだなあって思いますね。彼自身も、日本で演出しているうちに「僕は日本語が分かるんじゃないかな?」って言ってて(笑)。「いつのまにか日本語がしゃべれるんじゃないかっていう自信が持てた」って。なんか面白いですね。演劇って海を越えられないのかなと勝手に思ってたけど、言語って結構、同じなんだよねっていうか。別に“アメリカ人だから”というのはあんまりないなと思いました。
 
――物語では父親は不在ですが、その存在は重要な位置を占めています。この兄弟にとって父親とは、どういう存在でしょうか。
 
内野:とても大きなものとして存在していますね。見えない求心点はどこかしらあるかもしれないですね。彼らの父親も大酒飲みで、離婚して、砂漠を放浪して、借金もあって。もう更正はできないだろうという父親像なんですね。お芝居には出てきませんが。兄のリーにしては自分に似たところがあると思っていて。そこが兄弟の心に暗い影を落としていて、兄弟のキャラクターを表現する助けにもなっているなと思います。
 
――公演資料の中で、演出家のスコット・エリオットさん曰く「最もアメリカ的な戯曲だ」と記されていますが、ここが日本とは違うと思うところはどこでしょうか?
 
内野:アメリカ演劇の通ではないのでよく分からないですけど、まず違うのはイメージが広大なことですね。例えば“砂漠から帰ってきた兄貴”とか、砂漠って日本にはないし、国境までの距離感も広大だし、広大なイメージの中で起こっている感じが自分の中で今までにない気がしますね。心理戦というのも80年代当時のアメリカ的なものでしょうし、ハリウッドにまつわるインチキさみたいなものもアメリカ的なのかなと思いますね。大吉さんがプロデューサーの役ですが、彼はハリウッドをシンボライズしたような存在で、大成功を収めているけど相当なインチキ野郎で。僕ら日本人がふと思うアメリカ的なものというのは、そういうところでしょうか。
 
――では、特に分からなかった部分はありますか?
 
内野:僕が一番分からなかったのは、“砂漠暮らしをしていた兄貴”というところですね。そこが一番、引っかかって。「どうして砂漠で生きていけるの?」って、いの一番にスコットに質問したんですよ。「砂漠で生活するのはどういうことなの?」って。そしたら、「そんなのアメリカ人だってどういうことだと。“信じられないよ”っていうことだ」と。それで“ああ、そうか”と。砂漠っていうのは一つの記号であって、そこで過ごしていたということ自体がインチキくさいことなんだと合点がいって。砂漠で暮らしていたというリアリティは描きようがないから、それはそれで安心しました(笑)。
 
――リーは無骨で荒くれ者ということですが、役作りはどのようにされていますか?
 
内野:取材の時に足を投げ出して、態度を悪くするとかですか?(笑)。スコットは、あり得ないくらい品をなくす、「汚い習癖を増やしてくれ」とか言ってましたね。
 
――弟役の音尾琢真さんとの共演はいかがでしょうか。
 
内野:琢真とか、琢ちゃんとか呼んでいるんですけど、変な緊張感とか気遣いもないので徹底的にやるだけですね。彼も舞台に慣れていますので、同じリングに上がる人間としては戦いがいがあって楽しいです。俺もリーというキャラクターに近いわけでもないし、音尾くんもオースティンに近いわけじゃないのですが、そこでどれだけ表現できるか。お互いにハードルを高くしていけば、いい化学反応、いい戦いが生まれると思います。
 
――最後に、この作品が伝えたいことは何だと思われますか?
 
内野:この作品を通じて思うのは、家族が一番、えげつないことをする関係の動物なのかなって。リーの中にある兄弟像というのは、殺し合いまで発展をするかもしれない危険性を孕んだ関係だと思うんです。“兄弟というレッテルをベリっとはがしたら、何があるんでしょう?”みたいな、そういうところも、この作品には描かれていると思います。
 



(2013年10月 7日更新)


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『TRUE WEST~本物の西部~』

発売中

Pコード:429-605

▼10月17日(木) 18:30

▼10月18日(金) 13:00

▼10月19日(土) 13:00/ 18:00

▼10月20日(日) 13:00

梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

全席指定-8500円

[作]サム・シェパード

[演出]スコット・エリオット

[出演]内野聖陽/音尾琢真/菅原大吉/吉村実子

※未就学児童は入場不可。

[問]梅田芸術劇場
[TEL]06-6377-3888

梅田芸術劇場
http://www.umegei.com/

チケット情報はこちら

■TV番組情報!■

【番組名】
朝日放送(関西ローカル)
『スタンダップ!』

【放送日時】
10月10日(木) 26:13 ~ 26:33 (予定)
10月12日(土) 26:19 ~ 26:39 (予定)

【出演】内野聖陽 (VTR出演)

※10月12日(土)放送分は10月10日(木)放送分の再放送。