徹底した自己プロデュース力で男役を極めた元宝塚宙組トップスターの大空祐飛。昨年7月に退団した彼女が、唐十郎作、蜷川幸雄演出の「唐版 滝の白糸」で約1年ぶりの舞台に立ち、禁断の恋に命を燃やす妖艶な女・お甲を演じる!
――ついに、宝塚退団後初の舞台に立たれます。ファンにとっては待ちに待った作品です。
「在団中は考える余裕がなく、次の人生に何をするかは本当に何も考えていませんでした。退団後、自分をクールダウンさせる時間を持ち、そこから『私のやりたいことってなんだろう?』と考え始めました。舞台は一切辞めようかなと思っていた時期もありましたが、やっぱり引っ掛かったのは、私はお芝居がすごく好きだということ。男性を演じることだけを考えてきた私が女性を演じることができるのかは不安ですが、一度チャレンジしてみないと一生気持ちを引きずってしまうかもしれないと思いました」
――そんな中で、蜷川(幸雄)さんとの出会いが。
「そうですね。いろいろアドバイスをいただきました。『(宝塚時代とは)全然違うものに挑戦してみるのがいいんじゃないか』という言葉もいただいて、やっぱり挑戦してみたいと思いました」
――宝塚の男役出身の方独特のものとして、女優でありながら“女性”を初めて演じるということがありますよね。
もちろん女性を演じることは新しいチャレンジですが、皆さんの目がそこにいくことで、作品の邪魔をしたくないです。そのためには自分が意識的にバッサリと、女性を演じるしかないと思います。」
――その退団後、初の舞台となるのが「唐版 滝の白糸」。唐十郎さんが描くアングラの世界は宝塚の舞台とは対極という印象を、一般的には受けますが。
「だからいいと思いました。ただ宝塚の舞台同様、ある意味ちょっとファンタジーですね。大きくジャンプして異空間にたどり着くみたいなところが、私が面白いなと思った最初の理由でもあります」
――戯曲を最初に読まれた印象はいかがでした?
「すごく吸引力を感じました。どこかに連れ去られる感がありました。そういう世界観に身を置き、自分もその“めくるめく連れ去り感”を役者として表現できたらいいですね」
――ちなみに「唐版 滝の白糸」は「盲導犬-澁澤龍彦『犬狼都市』より-」(8月)に続く、唐(作)×蜷川(演出)連続上演の2作目として上演されますが、「盲導犬」はご覧になりましたか?
「はい。すごく好きな世界でした。何回も観たくなるような、私にとっては感覚で楽しめる作品でしたね」
――理屈抜きであの世界が好きという感覚があれば、自由に飛び込んでいけそうですね。
「まだ『できる』とは言い切れないですが、芝居はアタマでやるものではなくて、感覚と神経、あとはその何かに成り代わること。どんな作品でもその3点は変わらないと思うので、見たことのない世界に飛び込んでみたいという思いが強いです」
――演じるお甲についてはどう感じていらっしゃいますか? 観客からすると、初めて演じられる女性が、非常に女性性の強い“ザ・女”的な役柄であることにも注目してしまうのですが。
「人間を演じるという点では変わらないのでは?と思います。ただお甲は、女性ならではの魅力や官能を持っている女性。ちょっと性悪かもしれないけれど、逆にすごく情が厚く、まっすぐでピュア。相反する面――私はそれこそが“女”の魅力じゃないかなと思うので-それが色香となって膨らんで、人を惹き付ける。そう演じられたら素敵ですね」
――演出の蜷川さんの印象は?
「厳しい反面とても優しい言葉をくださいますし、蜷川さんについていけば間違いないと思っています。宝塚退団後の初舞台の演出が蜷川さんであることは、本当に幸運です。努力をして、体当たりでぶつかれば、役者から何かを絶対に引き出してくださる方ですので、その稽古場に身を置けることはとても幸せです。」
――共演者の窪田正孝さん、平幹二朗さんの印象は?
「窪田さんはとても真面目で誠実そうな方。それにとても瑞々しいですね。アリダ(役)にぴったりで、演じられたらきっと素敵だろうと思いました。平さんは座っていらっしゃるだけで存在感がすごくて!ポスター撮りの時点ですでに役作りが出来上がっていらっしゃっていて、役者さんのオーラというのは凄いと感じました」
――ちなみに、ポスターを撮影されたのは写真家の蜷川実花さん(蜷川幸雄の実娘)。実花さんが蜷川(幸雄)さんの作品に携わるのは初めてで、蜷川さんも立ち会っていた現場で、実花さんは非常に緊張されていたそうですが、撮影される側としてはいかがでしたか?
「今回のような衣装は初めてでしたが、実花さんは宝塚時代から撮ってくださっているので安心して委ねられました。それにこのポスター自体が作りこまれた印象があり、世界観に入りやすかったですね」
――宝塚時代からのファンも多くいらっしゃると思うのですが、関西のファンにメッセージをお願いします。
「退団後初めての舞台を関西でも公演できて、宝塚時代も観てくださっていた方々に、観ていただけるというのはとてもうれしいことです。『大空祐飛が宝塚以外の舞台ではどう演じているかな』という興味本位でもいいので(笑)、ぜひ観ていただきたいな、と思います」
――今回お話を伺って、周りは、女性役やストレートプレイやアングラ劇といった“初挑戦”について構えて見がちですけど、大空さんご本人は非常にニュートラルに、これまでの経験と地続きなものとしてとらえていらっしゃるんだなと感じました。
「“大空祐飛 生まれ変わる”みたいな表現をされることは確かに多いですね。もちろんゼロからのスタートでもう一度お勉強することはいっぱいありますが、これまでと地続きのものと受け止めています。今回の挑戦でたとえ課題がたくさん見えたとしても、全て私の人生に起こるべくして起きていると思うので、さらに役者として成長し続けられるように進んでいきたいです」