ホーム > インタビュー&レポート > 俳優・坂口修一が魅せる一人芝居『走れメロス』 メロスという一人の男について大いに語る!
――まず、『走れメロス』の演出を手掛けるのが、茨城県の劇団、百景社の志賀亮史さんということで、きっかけは何だったんですか?
坂口修一(以下、坂口):去年、赤星マサノリという俳優と二人芝居(「貧乏ネ申」-The PoorZombies-)を行いまして、三重県津市のあけぼの座というところでも公演させていただきました。その時、「この間、あけぼの座でやった百景社の『走れメロス』の一人芝居が面白くてね」というお話を聞いて、その流れから「坂口さんがやっても面白いと思うよ」という話になって。飲み会の席だったんですけど、その場で百景社の志賀さんに電話されて、ぜひやりましょうということになりました。
――坂口さんと志賀さんは、交流はおありだったんですか?
坂口:全く面識がなくて。ただ、あけぼの座の油田さんと、三重県文化会館の松浦さんという、しっかりお芝居を観ていただいてくださるお二人が揃って「あけぼの座でやった一人芝居が面白い」ってあまりにも言うものですから、ぜひ一度と。「貧乏ネ申」ツアーも、その土地で上演することで自分の演劇の場所が広がらないかなと思って開催していて、三重県でひとつ種を植えて、来年、何とか花を咲かせられないかなとも思っていたので、ちょうどいいなと。
――今回は、大阪公演の前に、その三重で幕開けとなりまして、志賀さんとともに三重に滞在して最後の仕上げをされるということですが、そういうお芝居の作り方はよくされている方なんですか?
坂口:最近ですね。
――大阪以外の土地で作られるっていうのは、どんな感覚ですか?
坂口:面白いですね。オリジナルテンポでもスロベニアの人と共同制作をして、昨年はスロベニアに1ヶ月半行ったりして。それは国内での制作とは全然、別だったんですけど…。国も違うし、あまりにも育ってきた環境とか文化が違いすぎて、共通項を見つけることがなかなか難しかったんですけど、札幌に行って作った時は、札幌の作・演出の方が作った作品をするので、書いている風景とか、そういうものを見て体験するのは違うんだろうなと思いましたね。
――なるほど。今回はまた特殊ですね。
坂口:そうですね、書いた人が太宰治で、演出家は茨城県の人で、大阪の僕が混ざってとなるので、どういうふうになるのかなと思いますね。
――そして『走れメロス』ですが、演じられるのは初めてということで、改めてこの作品に向き合って、どのような印象をお持ちですか?
坂口:正直、国語の教科書で読んだくらいの印象で。ただ、なんとなく親友が人質になっていて、3日以内に戻ってこないとだめで、それで最後はめでたしめでたしみたいな記憶があって、友情の話だったなと。個人的にはすごく好きだったような気がして。改めて読んでみたんですけど、全然…。やっぱり詳細は忘れているじゃないですか。分かります?
――全然覚えてません(笑)。読んだことは覚えていますが、メロスが走っていることしか覚えてません。
坂口:そうなんですよ。しかも国語の教科書に全文載っていたかどうかも定かじゃなくて。音読したら45分とかで結構な文量だったので。で、読んでみたら、自分がちょっと曲がった大人になったからなのか、ツッコミどころ満載なんですよ。……全然走ってないんですよ、メロスは。ざっくり話をするとむちゃくちゃで。
(ここから、坂口修一による“語り”をお楽しみください)
『走れメロス』 語り:坂口修一 |
坂口:メロスは羊飼いなんですけど、文章のところどころに「勇者メロスは」って書いてあるんですよ。子供の頃、羊飼いというイメージよりも、ギリシャの勇者というイメージを抱いてたと思うんです。でも村の一介の羊飼いで、特に勇者としての功績はない。「勇者メロスは」とか、「メロスほどの男でも」と時々出てくるだけで、具体的なメロスの描写としては「持ち前ののんきさを取り戻した」とか、「のんきなメロス」とか、キャラクターとしてのんきとしか書かれていないんです。で、地の文の端々に「勇者」と書かれていて。そういう目で見るからツッコミがいがあるだけで、まあ羊飼いとしてはようがんばってるというか…。いきなり王様を殺しにいくのはどうかとは思うんですけど。
――一通り話を聞くと、ボケなのか、何なのか、分からないですね。
坂口:そうなんですよ、意図しているのかどうかも分からないですね。当然ですけど、めちゃくちゃまじめに書いているは思うんです。「勇者メロスは」の「勇者」の部分とか、「メロスほどの男でも」とか言うけど、「メロスほどの男」の要素は何も書かれていない(笑)。
――そんな『走れメロス』をどうお見せしようとお考えですか?
坂口:今年、俳優生活20年なんですけど、20年やってきてこの先、どうなんだとか、(俳優を)始めたころに思っていた20年後の位置と、今の自分の位置がどうなんだろうっていうかね。もっとちゃんとしているはずじゃなかったのかとも思いつつ、メロスじゃないけど“それなりにがんばった”と思う気持ちもありながら。『走れメロス』の走っているようで走っていなさが、なんとなく役者としての自分の現時点の位置と似てるというか。“俺、結構走ってきたな”と思ってきたけど、あんまり走ってないかもしれない。多分、僕だけじゃなく、いろんな人がそういうことを思うんじゃないかなと思って、今、このタイミングで『走れメロス』をやると面白くできそうだなって思いました。いろんな切り口から伝えることができるんじゃないかなと。演出の志賀さんともそういう話をしました。
――話が前後しますが、一人芝居を始めたのは?
坂口:一人芝居は、タントリズムという劇団にいた頃からやっていて。その時、劇団の活動自体の悩みというか、ちょっと一人でやりたいって思って。大学の先輩でもある作・演出家にあえて一人芝居をお願いして、マンツーマンでやってもらうっていうのが始まりでした。
――劇団に所属している時と、フリーになってからとで、大きな違いはありましたか?
坂口:解散してからはずっとフリーで、一人でいろんな劇団に客演で出ていたんですけど、母体がないと磨り減っていくなって思うというか…。客演では自由にさせてもらったり、基本的に僕のことを分かってもらったうえで呼んでもらうので、のびのびとやれるんです。劇団という団体は面倒くさいところもあるんですけど、それがなくなると、どういうことをしたい人なのかとか、そこらへんもなくなって。名刺がなくなるというのか、いろんなお芝居に客演で出ていても、「今回はこんな役をやっていますけど、僕はタントリズムの坂口なんです。タントリズムで一番、僕のやっていることが出ているのでよかったら観にきてください」っていう。それが客演だけになると次はどんな芝居に出るか全く分からないですし、その中でどれくらい自分を確立するのかということも難しくなってきたんですね。それで、一人芝居を企画して自分をもっと育てる…自分の畑に肥料をやる活動をしていかないといけないなって思って、単純に最初はそういう意味で始めましたね。
――劇団に所属していた時は、一人芝居の醍醐味をどのように感じられていましたか?
坂口:演出も俺にだけつけてほしい、お客さんも俺だけ見てほしいしっていう、そういう邪な考えで一人芝居を始めて(笑)。最初はすごい楽しかったですね。劇団活動をしている時はアンケートに俺の名前があんまりないとか、拍手されても「この台本が面白かったから」とか、ちょっとひねくれていて「俺はダメなんだ」みたいな感じでしたね。
――今はどうですか?
坂口:フリーになってからですけど、2007年から2008年の1年間、『火曜日のシュウイチ』という一人芝居をずっとやってみて、一人芝居は一人芝居という一つのジャンルだなと。当たり前ですが、一人芝居は相手役がいないので、最初はそれがいいというか、自分の好きなようにできる、相手役に対して考えなくていいと、その時はそれを望んでやっていたんですけど、でも本来はお芝居っていうキャッチボールっていうか、一人で生み出していくものではなくて、相手と受け取って広げていくものなんだとも思いましたし、またそこが面白かったりするんだなって。そういう意味では一人芝居って演出家やお客さんがキャッチボール相手のポジションに当たると思うんですけど、形態は随分違います。舞台には当然、自分しかいないので救いの手は少ないです。シチュエーションにもよりますけど、たとえばびっくりする場面だと、自分でびっくりして、自分で拾っていかなくちゃいけないので、走り続ける燃料をいかに貯めてスタートするかってことを思いますね。
――そういう中で、今、お芝居をするということに対してどのようにお考えですか?
坂口:一人でやっていると誰かと芝居をしたくなるというか。客演なんかに出たりすると、そのやり取りが楽しいというか「少なくともこうやって作っていくのがお芝居なんだな」って。そうやっていろんなことを経験しながら、自分の立ち位置に戻ってくると、一人芝居もちょっと違うような気がするんです。一人で走りきる楽しさを知りました。
――なるほど。今日はありがとうございました!
(2013年7月17日更新)
▼7月19日(金)20:00
▼7月20日(土)14:00/18:00
▼7月21日(日)12:00/15:00
in→dependent theatre 1st
前売2500円
当日2800円
学生1500円(日時指定自由席)
[原作]太宰治
[構成・演出]志賀亮史(百景社)
[出演]坂口修一
[問]ライトアイ■06-6647-8243
in→dependent theatre 1st
http://itheatre.jp/1st.html