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「いちばん最初に観てもらいたい作品」
岸田國士戯曲賞受賞・岩井秀人の自信作
痛々しくも笑える家族劇『て』がやってくる!

引きこもり経験のある作・演出の岩井秀人が、自身のシリアスな体験をもとに、痛々しさを笑いに変えて物語を紡ぎ出す。6月5日(水)より、伊丹AI・HALLで上演されるハイバイの『て』は、自身の家族が題材。祖母の認知症をきっかけに再集合した家族が、家族を立て直そうとチャレンジするものの、さらに大爆発する様子が描かれる。劇団公演としては3度目の再演となる、代表作のひとつだ。昨年はドラマ脚本で向田邦子賞を、今年は第57回岸田國士戯曲賞を受賞と、作家として高い評価を得る岩井が、『て』について語ってくれた。

 

――結成10周年記念ツアーで『て』を選んだ理由。

僕が思う面白い作品は、「お客さんが自分について考えられる作品」なんです。シンプルだけど、その先にものすごく豊かなものがあって、自分に返ってくるようなもの。どんな表現も、生きていることについて考えたり感じたりするためにあると思うんですよね。僕たちの作品の中でそれに当たるものを考えたときに、『て』が思い浮かんだんです。家族について描いていて、観ているうちにいつの間にか自分のことを考えてしまう。シリアスだけど、笑いたい人は笑うし、泣きたい人は泣く。登場する家族の人たちと一緒に笑ったり悩んだりしながら観てもらいたいですね。

 

――ひどい父親のことを笑えるようになった家族。

『て』は僕の家族のことをそのまま書いた作品なんです。‘06~’07年の頃、祖母が認知症を患ったのをきっかけに、バラバラに住んでいた家族が再結成することになって。そもそもバラバラに暮らしていたのは、父がひどいゲンコツ親父で、酔っ払って管を巻いては子どもたちに手を出すという面白い父親で(笑)。それが嫌でみんな出て行ったんですが、今や父も引退して枯れているだろうから、もう一回チャンスをあげようって集まってみたものの、前よりひどくなっているっていう話(笑)。僕の中では、その話を笑えるようになった家族が何かすごく強いものを持っている気がして、作品にして共有できればいいなという感覚があったんです。初演のときは不安でしたが、初日を開けてみると面白がってもらえて。フィクションではなく、自分の身の周りで起きたことをやるのにすごく確信を持てた作品なので、この機会にたくさんの人に観て頂けたらと思います。

 

――同じ時間を、自分と母の視点から描く。

祖母が認知症になって、兄の祖母に対する態度がとても冷たかったんです。僕にはそれがなぜだか全然わからなかったから、最初は兄と父を悪者にするために書いていたんですよ。それでもっとふたりのエピソードを入れようと母に取材をしたら、母の見方が全然違っていたんです。兄が祖母に冷たい理由は受け止められないからなんだって。その話を聞いたことで、同じ時間を僕と母の両方の視点から描いてみようと思ったんです。

 

――お客さんによって反応が違う。

僕は笑いながら『て』を書いていたんですが、東京ではお客さんが引いていったり、泣かれたりしていたので、“こんな作品だったっけ?”ってちょっとした違和感を感じていたんです。でも、’09年に福岡で上演したら同じ場面でも笑いが起きて。そうやって地方によっても反応が違うし、育ってきた家族とか環境によって全然違う見え方がするというのは、すごく面白いですよね。

 

――女装しているおじさんを観て、自分の家族を考え始める面白さ。

どの作品でも、母親が出てくると大体は男性に演じてもらっていて、今回は僕が母を演じます。あくまでも女の人っぽくならないように演じることが大前提。お客さんが役の人物を感じることは大事だと思うんですが、そこに至る過程も演劇の面白さなんですよね。というのも、女装しているおじさんをずっと観ていたら、いつの間にか自分の家族のことまで考え始めたっていうのって、感情の動きの距離をかなり移動させることができたっていう気がするんですよ。最後までおじさんにしか見えなかったって言われると失敗なのかもしれないですけど(笑)。

 

――未見の方にはいちばん最初に観てもらいたい。

映画でも舞台でも、いちばん最初に観る作品でイメージがついてしまうから、最初に何を観るかがすごく大事ですよね。『て』はちょっとシリアス過ぎるかなと思うんですけど、おそらくこれから先、自分が作っていこうとしているものを考えると、まず『て』を観て判断して頂きたいなと思うんです。これを観て合わないと思ったら、今後もダメだと思う。他の劇団を観てくださいって言うしかない(笑)。舞台上に人間がいて、みんなと同じように生活しているけど、ちょっとだけ、たちの悪いことの起きる頻度が高いかなっていう(笑)。懸命に対処するけど、なんとかなったり、ならなかったりしながら時間が進んでいく。そんな作品をこれからも見せていきたいし、作っていきたいと思っているので、『て』を観て面白がって頂けるとすごく嬉しいですね。

(取材・文/黒石悦子)




(2013年5月22日更新)


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岩井秀人
いわい ひでと●1974年、東京都出身。劇作家、演出家、俳優。2003年にハイバイを結成し、全ての作品で作・演出を手掛ける。岩井自身の16歳から20歳まで引きこもりだった、シリアスで個人的な体験を、演劇という装置でろ過して“生々しいけれど笑えるコメディ”に昇華。2012年にNHK BSドラマ『生むと生まれるそれからのこと』で向田邦子賞、ヒューゴ・テレビ賞の奨励賞を受賞。2013年『ある女』で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。

●公演情報

ハイバイ
〈10周年記念全国ツアー〉
『て』

発売中

Pコード:427-757

▼6月5日(水)19:00

▼6月6日(木)14:00/19:00

AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)

一般-3000円

学生入場券引換券-2500円(公演当日要学生証)

[作][演出][出演]岩井秀人

[出演]上田遥/永井若葉/平原テツ/青野竜平/奥田洋平/佐久間麻由/高橋周平/富川一人/用松亮/小熊ヒデジ/猪股俊明

※未就学児童は入場不可。6/6(木)14:00公演は、岩井秀人によるアフタートークあり。

[問]ハイバイ
[TEL]080-6562-4520

ハイバイ公式サイト
http://hi-bye.net/

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