ホーム > インタビュー&レポート > 森鴎外『舞姫』の舞台を現代に置き換えて…!? ワンシチュエーション・ラブコメディで贈る 新解釈『舞姫』について脚本家と演出家にインタビュー
--森鴎外の『舞姫』を現代に置き換えて、ということですが、脚本を書くときに意識したことは何ですか?
桝野幸宏(以下、桝野):作家についてはできるだけ掘り下げたりせず、書いてあることだけ受け取ろうと。明治時代の日本とドイツの関係とか、歴史的背景とか、そんなことは一切考えず、なるべくお勉強にならないようにしましたね。
--別れ方が一つの見どころだと思いますが、そのあたりはどのように?
桝野:原作はハッピーエンドではないので、そこだけは原作に忠実に。ただ、他のコメディタッチのところも原作に沿ってるというか、今だったらこういう言葉で、こういう状況があって説得するだろうなと思いながら書きました。
--では大塚さんにお伺いします。演出する上でのポイントは何ですか?
大塚雅史(以下、大塚):脚本をいただいて読んだときに、おもしろいと思ったことをできるだけ舞台上に乗せようと考えて、日々役者と格闘してます(笑)。読んでいる時は面白くても、いざやると面白かったはずのところが、ちょっとした間合いとか、テンポで変わってしまうこともあるので、いつになく丁寧に作り込んでますね。自分自身に「丁寧に、丁寧に」と言い聞かせて、気になったところはあとに残さずとか、基本に忠実にしてます(笑)。
--お二人は脚本、演出という関係でのお仕事は初めてですか?
大塚:ガッチリ組むのは今回が初めてです。どちらかというと僕はコメディと呼ばれるジャンルのお芝居もそんなに作ったこともないし、会話劇というのも……やる気はめちゃめちゃあるんですけども、そういう話を持ってきてもらえない立ち居地にいまして(笑)。だから今回は“何で僕なん?”と思いながら、非常にうれしかったです。そういう芝居はとても好きだし、演出も一度やってみたいという思いは前々からあったので、やる気満々です(笑)。僕自身は楽しく関わらせてもらっています。
--では、お互いの印象を聞かせていただけますか。
桝野:こんなに動かすんだとか、こんなテンション高い感じで行くんだとか、最初はちょっとびっくりしていたのですが、だんだんいい感じになってます。あと、“そこ、そんなにかっこよくしてくれるんだ”とか(笑)。柔らかく現場を仕切ってくれて、もう委ねますという感じですね。“こんなふうにしてください”と思うところもちょこちょこあって、最初は大先輩にどこまでお伝えしたらよいのかと思っていたのですが(笑)、ちゃんと受け入れてくださって。
大塚:最初に脚本を読んだ時は、“うわ~、プロの書く脚本だ~”って(笑)。僕は今回、書く立場じゃなかったので、好き勝手に「舞姫どうですか?」「いいじゃないですかー!」みたいな感じで軽く言ってて(笑)、どういう台本が上がってくるんだろうとワクワクしながら待っていたんです。そして上がった台本がワンシチュエーションで。もうワンシチュエーションであること自体が僕にとっては驚きで、その上コメディで、しかも『舞姫』の大切な部分、原作で伝えようとしている部分は残っている。最初は、『舞姫』を使った悪ふざけ(笑)、“舞姫コントになるんちゃうか”って思ってたんですけど(笑)、話が進むにつれて、原作で感じた部分もちゃんと脚本にも残っていて、本当にお世辞抜きで“自分にはまねできない仕事だな”と感じました。もちろん動き出す前から気合が入っていたんですけど、もう一つ、気合を入れ直して挑まないとっていうプレッシャーからスタートしました。
--キャストの方はどのようにして決められたんですか?
大塚:桝野さんが作品イメージを抱いてはって、ある程度“こんな雰囲気の役者がほしい”とか、その辺のご意見を聞いて当てはまるような方を探しました。
桝野:例えば主人公の役は、映画では郷ひろみさんがかっこよくやっていたんですけど、それとは真逆の感じでいこうと思って、まあ……大変失礼なことを言うてるんですけど、男前ではなく“モテへんやろうな~こいつ…って人、誰でしょうね~”って相談して決まったりとか(笑)。スケベな大臣が出てくるんですけど、満場一致でや乃さんになったりとか(笑)。
--役者さん同士のチームワークはいかがですか?
大塚:ある意味、僕の狙い通りだったんですが、いいバランスでかわいい子を盛り込んだことで、その子を基点にみんなが仲良くなって、そこからチームワークがよくなっていますね(笑)。
桝野:かわいいだけじゃなく、代役もしっかりやってくれるし、代役ばっかりの日でも嫌な顔せず。
大塚:稽古がない日でも来てくれて、代役も楽しくやってくれています。
--先ほど少し稽古を見学させてもらいましたが、役者さん同士も話し合いながら作っている雰囲気でした。
大塚:そんな空気にしないとと、いつも心がけているというか…。僕の一言を待っている稽古場は嫌なんです(笑)。意見を求められても、分かることもあれば分からない部分もあるし、自信を持ってやっている部分もあれば、半信半疑で指示していることだってあるから、そこを僕に託さないでって。だから役者さんの間で気持ち悪いところを話し合ってという雰囲気になってもらわないとと、いつも思っています。
--今回のキャスティングでは、自然とそういうふうになったんですか?
大塚:そうですね。皆さんほぼ芝居では初顔合わせで、最初は距離のあるところからのスタートだったので、練習の仕方とか工夫しましたね。特に今回は会話劇で、コミュニケーションが大事になる。笑いのポイントもコミュニケーションのズレとか、そういう部分なので、まずはその関係性を築くところから始めました。そこさえできれば少々稽古が押していても、十分盛り返すことができると。
--公演はワンシチュエーションということで、舞台美術はどのようにお考えですか?
大塚:舞台は楽屋。いわゆる劇場の地下にあるレッスンルーム。まあ、古い劇場なのでレッスンルームというほどきれいじゃないのですが…。そのレッスンルームで話し合いの場が持たれます。特に演劇的な時間経過もないので、ほぼリアルタイムの進行になります。
--お客様も同じ時間軸で体験できますね。
大塚:はい。地下なので照明も変化しないような予感がするし…。地上階だったら昼になったとか、夜になったとかあるでしょうけど、いま一つ、外の状況も分からないという感じで、もう何もない。
--ということは、大塚さんの得意技が…。
大塚:すべてを封じられています(笑)。
桝野:書いてて、“あれ?これ大塚さん、照明どうしはるやろう”って思いながら…(笑)。
大塚:得意技を使えない(笑)。でも、自分では面白いと思っていて。そういう意味で本当にドキドキです。
桝野:まあ、でも、大塚さんは絶対にやってくれるやろうと。
大塚:それ、書いてるときは絶対、気にしてはらへんかったでしょう(笑)。照明は最後のおまけくらいでお見せします(笑)。
(2013年3月 5日更新)
▼3月7日(木)19:00
▼3月8日(金)15:00/19:00
▼3月9日(土)11:00/15:00
▼3月10日(日)14:00
吹田市文化会館 メイシアター 小ホール
[原作]森鴎外
[脚本]桝野幸宏(演劇ユニット スイス銀行)
[演出]大塚雅史
[出演]山本禎顕(スクエア)/西尾瑠衣/森崎正弘(MousePiece-ree)/Sun!!(ミジンコターボ)/や乃えいじ(PM/飛ぶ教室)/徳田尚美(劇団伽羅倶梨)/山本杏奈/嘉納みなこ(かのうとおっさん)/澤田祐衣/ザ・プラン9 お~い!久馬
[前売]一般3000円 学生2000円
[当日]一般3500円 学生2500円
(全席指定)
[問]メイシアター(06-6380-2221)
※未就学児童は入場不可。
吹田メイシアター
http://www.maytheater.jp/
2013年、春。ベルリンで持ちあがった、ある別れ話―。
女は傾きかけた老舗劇場を可憐な踊りで支える20歳のトップダンサー。
男は日本の外務省から派遣された超エリートだが、カタブツゆえ30歳にしてこれが初めての恋。
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「いやいや君、そんなん言うてるけど、愛なんて今だけやで。日本帰りーや!」
さらにクセモノ揃いの関係者が絡み合い、それぞれの思惑をぶつけあって交渉の場は大混乱!
男が選ぶのは、愛か、未来か…。
(公式サイトより)