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井上ひさしが最後に書いた
音楽伝評劇『組曲虐殺』が
3年の時を経て再演! 
主演の井上芳雄と石原さとみに
開幕直前インタビュー!

29年と4ヶ月という短い生涯を閉じたプロレタリア文学の旗手、小林多喜二。自由に表現の許されない時代に生き、内気で優しい気性の青年がなぜ凄惨な拷問に耐え、虐殺という死をも怖れない人間になり得たのか? 多喜二がその生涯を閉じるまでの2年9ヶ月、家族や仲間、恋人、そして官憲たちとの日々の営みを描いた『組曲虐殺』。

初演は2009年。演出に栗山民也、主演の多喜二役に井上芳雄を迎えて上演され、第17回読売演劇大賞・芸術栄誉賞(井上ひさし)、最優秀スタッフ賞(小曽根真)、優秀演出家賞(栗山民也)、優秀作品賞と主演演劇賞を受賞し、井上ひさしの代表作となった。

そんな本作が3年の時を経て、演出家・栗山民也をはじめ井上芳雄、石原さとみほか、キャストもスタッフも全員初演のままに、さらに深化してシアタードラマシティで幕を開ける。そこで、小林多喜二役の井上芳雄と多喜二の恋人・瀧子役の石原さとみに再演へかける意気込みなど、話を聞いた。

--まず、初演と再演との違いがあれば、教えてください。

井上芳雄(以下、井上):稽古場の段階から言えば台本があるのとないのとでは大きな違いで(笑)。初演時は初日の4日前に台本が完成ということもあって、みんな極限状態でやっていたところがあったんですが、今回は当たり前ですが最初から台本があるので、改めて『組曲虐殺』がどういう作品か、分かりましたね。



--石原さんは、再演にあたって、この作品をどう受け止めていますか?

石原さとみ(以下、石原):再演では、生きることに必死になっている瀧子の姿がより明確になって、そこが瀧子の明るさにつながっている感じがしますね。それで初演とはまた違う感情が生まれています。多喜二が死ぬまでのお話というよりも、登場人物それぞれの生き様、彼らがどんな過去を背負って、そして未来をどう生きていこうとしているかということが伝わる作品だなと改めて思いました。

井上:瀧ちゃんはすごくしっかりしていて、とても生活力がある。かつて身を売った子だけど、それは本当に大変なことだと思います。でも、そこで自暴自棄になるのではなく、生きていこうという力に溢れている。そこが瀧ちゃんの魅力だと思いますね。初演の時も同じように描かれていたと思うのですが、僕は初演では、そこまで分からなかったし、再演ではより強調されていて、さらに魅力的になったように思いますね。

石原:瀧子が一番、現実的な生活をしている感じが伝わりますね。

井上:多喜二は理想を追い求めて、思いが先行しがちなんですね。そこを瀧ちゃんが、「この仕事じゃ生活できないから、新しい仕事にした」とか、ちゃんと説明してくれたり。

石原:そんな瀧子の現実的な部分が初演時以上に、深められている感じはしますね。

井上:それは、一つ一つの役もそうですね。(高畑淳子演じる多喜二の)お姉ちゃんは楽天的な部分が強くなっていますし。再演ではより、人物が立体的になっていると思います。



--では、この『組曲虐殺』という作品に出会って、何かご自身の中で変わったことはありましたか?

石原:涙腺が緩みました(笑)。

井上:それはあるね。他の作品でもすごく泣いちゃうんだ(笑)。

石原:そうなんだ!(笑) 本当、毎日演じていてもここまで泣ける作品は珍しいなと思います。高畑さんともそう話していて。「絶対に涙をこぼさない日がない。それってすごいことだね」って。井上ひさし先生が書いた言葉を発しただけで泣けてくる、聞いただけで泣けてくる。こんな作品は他にはないですね。

--初演と再演とでは、涙腺の緩み方も違いますか?

石原:初演が私にとって3度目の舞台で、この作品の前がつかこうへいさんの『幕末純情伝』でした。その時は毎日、台詞が変わっていたので、泣くポイントも毎日、変わっていたんです。だけど『組曲虐殺』で、台詞が全く変わらない芝居を1ヶ月間、演じるということを初めて経験して。その時は“泣かなきゃいけないのかな?”という意識が働いていたから、毎回、同じところで泣けたのかもと思っていたのですが、今回は初演の時以上に、自然と泣けて…。不思議だなと思いましたね。

井上:『組曲虐殺』は僕にとってもすごく大きな作品ですが、演じるまでは多喜二のことをあんまり知りませんでした。でも、初演を経てから“できるだけ多喜二に恥じない生き方をしなきゃ”と思いながら生きてきた気がします。多喜二を演じるにあたって、どの顔をして「俺が多喜二だ」と言えばいいのか?と思ってしまったりもするので、初演からずっと、少しでも多喜二に近づきたいと思っていましたね。



--井上さんは小林多喜二という人物を、どう受け止められていますか?

井上:とても純粋で真っ直ぐで、強い信念を持っていて、決してぶれない人だろうと思います。逆に言えばあまり器用ではなかったとも思うのですが、とても強い人だろうなという気がしますね。



--では最後に観劇を楽しみにされているお客様や読者にメッセージをお願いします。

井上:『組曲虐殺』とショッキングなタイトルですが、種明かしをすると虐殺のシーンはありません。これは愛すべき人間を描いた作品です。小林多喜二という人がいて、彼を愛して、支えた人たちがいて。そして多喜二に影響を受けて変わっていった人もいます。これは、栗山さんがおっしゃっていたのですが、「自分が演劇を始めたころ、演劇が世界を変えられると思って、みんな情熱を持ってやっていた。今は世の中も演劇もそうじゃなくなってきた。だけど、この作品にはそれがあるんだよな~って」。

石原:ああ、おっしゃっていましたね。

井上:そんなふうに何か熱くなるというか、“僕たちこのままじゃいけない”とか、熱い気持ちにさせるものがありますね。

石原:あと、実話ということがすごいですし、多喜二が確信を持って行動している部分にすごく引っ張られるというか、一緒にいて引き込まれますね。

井上:“こういう人が今、いないかな?”って思いますね。今もいるかもしれないですけど、いると信じて井上先生が託してくれたのだと思います。

石原:いたらついていきたいよね。

井上:そういう人を求めているんだろうね、僕たち。初演の3年前に比べて世の中も変わってきて、いろんな面で不安や危うさがあって。今観ると、より身につまされる話になっていると思います。

石原:「井上ひさしはよく3年前に分かっていたな~」って観られた方みんな、おっしゃいますよね。

井上:今は一歩間違うと自由に物が言えなくなるとも限らない、という危機感もありますよね。だからこそ今、『組曲虐殺』を上演する意義があるのだと思います。




(2013年1月19日更新)


Check
撮影:河上良(bit Direction lab.)
井上芳雄
いのうえよしお●2000年、ミュージカル『エリザベート』ルドルフ役でデビュー。以降、その高い歌唱力と存在感で数々のミュージカルや舞台に出演し、CD制作やソロコンサートなど歌手活動や映画や映像等も積極的に行っている。主な作品は、【舞台】ミュージカル『モーツァルト!』『ミス・サイゴン』『ミー&マイガール』/ ストレート・プレイ『ハムレット』『ロマンス』『負傷者 16 人―SIXTEEN WOUNDED』【テレビ】『OLにっぽん』【映画】『おのぼり物語】『宇宙兄弟』【CD】【Welcome To
石原さとみ
いしはらさとみ●2003年、映画『わたしのグランパ』のヒロイン・伍代珠子役でデュー。主な作品は、【舞台】『奇跡の人』『幕末純情伝』『ロミオ&ジュリエット』【テレビ】大河ドラマ『義経』『ナースあおい』『ヴォイス~命なき者の声~』『リッチマン、プアウーマン』【映画】『包帯クラブ』『カラスの親指』。デビュー作の映画『わたしのグランパ』で第27回日本アカデミー賞 新人俳優賞をはじめとする数多くの新人賞を受賞。映画『北の零年』で第29回日本アカデミー賞 優秀助演女優賞を受賞。

●公演情報

こまつ座&ホリプロ公演『組曲虐殺』

発売中(1/20(日)23:59まで販売)
Pコード:423-697

▼1月19日(土) 17:30
▼1月20日(日) 12:30/17:30
▼1月21日(月) 12:30

梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
全席指定-9800円
注釈付指定席-9800円

[脚本]井上ひさし
[演出]栗山民也
[演奏][音楽]小曽根真
[出演]井上芳雄/石原さとみ/山本龍二/山崎一/神野三鈴/高畑淳子

※注釈付のお席は一部見えづらい場面のある可能性がございますので予めご了承下さい。未就学児童は入場不可。1/19・20公演はいずれも前売り券完売。当日券は要お問い合わせ。1/21公演は若干枚数あり。

[問]梅田芸術劇場
[TEL]06-6377-3888

梅田芸術劇場 『組曲虐殺』公演ページ
http://www.umegei.com/schedule/216/

1/21(月)公演のチケットは
1/20(日)23:59まで販売!
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