ホーム > インタビュー&レポート > いよいよ最後の1回となった立川談春 12ヶ月連続独演会 2012年に挑んだ“無謀なる”落語会を談春が語った!
立川談春(以下、談春):「評価というのは他人がするものだから、自分がどう思っても間違っていることの方が多いと僕は思う」と言った談志のセリフが非常に身に沁みる1年でしたね。洒落や冗談で言っているわけではないんです。『慶安太平記』をやった時も、『九州吹き戻し』をやった時も、僕がつまんないよと言った噺は本当につまんないと思っているんです。このつまんないというのは、ニーズが違うんじゃないの?ってことなんだけど。でも、ああいう類の噺を初めて聞いたお客さんが喜んでくれるんだと分かった。その逆に、これは喜んでくれるんじゃないの?と思うものが、ふっと反れたりもして。落語は、何年やっても分かんないものだなということも一つ、痛感しましたね。
--10月に口演した『九州吹き戻し』については、思うところが様々あったようだ。
談春:僕がスタッフだったら“本当のところはどうなんだ”と思って、ロビーに張り付いてお客の本音をどうにか引き出そうとしますね。本人には言わないけど。僕は面白かったと思うけど、この女の人がこの若さで面白いと思うのか、どうか。何か一言漏らさないかと思って、しばらく後をついていく。ただ、漏れ伝わるところによると、終わった後、ほ~っとため息をついている人が結構いたと。そのリアクションは、おそらく日本中で大阪だけだと思いますね。あれは超絶ソロです。恐ろしいほどの名人がギターのソロテクニックを見せるだけの噺です。邦楽で言う曲弾き、その曲弾きに耐え得るか。それを“イリュージョン”とか“アトラクション”ではなくて、“すごいね”と思ってくれる人が、しかも僕より年下のお客さんがいるとしたら、すごいことだと思うし、“これは曲弾きなんだね”と分かってくれたリアクションが返ってきたのは初めてじゃないかなと思いました。
--そして、神戸、大阪をはじめ、その土地のリアクションについても語る。
談春:大阪でうまくいったものを同じトーンで神戸に持っていっても、“あれ? ずれている?”と僕が思う。もちろんお客さんより先に感じます。そこで悟られたらどうにもならない。そして神戸と西宮が違い、もちろん札幌、博多も違う。「上手も下手もなかりけり、行く先々の水に合わねば」という言葉の意味もちょっと分かった。そうして、一つ一つ分かることが増える。ただ、気を付けないと、増えた引き出しに振り回されることもあるのでしょうね。
--また、神戸での公演では、以下のように振り返る。
談春:改めて意味づけをするわけではないですが、傷を負うなら負って2年後に取り返せるかどうかの勝負だと思って、この〈12ヶ月連続 独演会〉を企画しました。当初は大阪だけのつもりでしたが、神戸にもご縁があってやらせていただいて。そういう意味では神戸が一番面白かったです。1月のお客さんは一生懸命、聞こうとして緊張をなさっていました。それが2月、3月でだんだんほどけてきて、5月、6月には、僕が“こんなに無防備に高座に上がったのは日本で初めてじゃないか”と思うくらいになりました。これは成長というのか? 堕落じゃないのか?と不安になるぐらい。しかもそれを待ってくれて、受け止めてくれるお客さんになった。これを信頼関係と呼ぶには甘えかもしれないけど、半年、付き合うことで芸人とお客様でこんな空気感が作れるのだということを、まさか神戸で味わうとは思いませんでした。やってよかったと思いましたね。
--一方、大阪は以下のように喩える談春。
談春:大阪は行儀がいいと思いましたね。見事に最後の一線は超えてこない。好きなヤツはもっともっとと言うし。当然、その“もっと、もっと”は気分が多い。それは、こっちもだけど。「今日、ハンバーグが食いたい」とか、「今日は土瓶蒸しを出せ」とか。そういうことを言うの。でも、大阪は意外とそれがない。「お前を信用しているから、お前の店には必ず行くよ」と。けどそこで、「僕だから席を空けろ」とは言わない。ちゃんと予約してくれる。もしかしたら、2、3年経って「ちょっと近頃、自由に作ってるね」と言うのかもしれない。そこがすごく怖いし、面白いですね。
--そんな大阪で感じ取ったものとは?
談春:僕は大阪のお客様に愛されていると思います。「よく言うよ」って思うかもしれないけど、これはおそらく、誰にも分からないです。センターに座らないと分からない。大阪は、うまくいった時のリアクションも過大だし。「ごめんねって言わなきゃいけない?」って聞いた時に、「ううん、来月もあるさ」という慰め方に「ああ、これは愛されているんだろうな」と思いましたね。
--〈12ヶ月連続 独演会〉の実現は、月並みな表現だが、たやすいことではなかったはずだ。この1年間、続けることができた原動力とは、何だったのだろうか。
談春:本当に1年、恥をかくことなく客席を埋めていただいたことに心から感謝します。ただ、甘ったれた性格なので、この1年間、どうにかお客様にお出でいただいたということの大きさは2、3年経たないと分からないのかもしれません。2008年の末にフェスティバルホールで独演会ができたことがどれほどすごいことだったのか、どれほどの幸運だったのか、今になって分かります。その時に分かった方がいいのでしょうが、もし分かっていたら、もしかしたら僕は次の年から走っていけなかったかもしれない。フェスティバルホールから3年、好き勝手ではあるけれど駆け出して、それにつきあってくれるお客様がいて。でも決して手は抜いていない。その3年があったので、やっとフェスを振り返るようになって、今年も勢いで駆け抜けることができました。また、少しは年をとったので、その勢いを支えてくれている方がお客様だけでなく、スタッフがどれだけ頑張っているかということも分かってきました。ただ、分かってきたんだけど、できたら分かんない方がいいのだろうなということも分かりました。
--東京落語の談春が、関西で土壌を耕しているこの状況については、どのように捉えているのだろうか。
談春:今まで自分がやっていた会場よりも大きなところでやろうとしている柳家三三みたいな落語家も出てきているし。それで言うと、関東の芸人には大阪に対する間違ったアレルギーはないでしょう。その一端にはなれたかなと思いますね。「あいつが12回やってどうにかなってんだから、まるっきり聴かないってことはないんだろう?」と。でも、これが次の人に託されてどうにかなるというのは、やっぱり10年はかかるでしょうね。5年ではなかなか出てこないだろうな。何でもやればいいってものでもないだろうけど、誰かがやらなきゃいけなくて。僕は、そういう役だったんだと思います。適任かと問われると、どうかなとは思いますけどね。
--そして、残すところあと1回となった12月公演への意気込みを聞いた。
談春:わずか3年ではあるけど、大阪で落語をやることを許してくれるお客さんができたのはフェスティバルホールのおかげです。12月25日でした。一時閉館前で、クリスマスイルミネーションも脇にあって、フェスも電飾に飾られていて。今でも電飾を見ると12月の大阪を思い出します。まあ、ちっぽけなことだけど、12月の神戸の幕が下りた時、大阪の会場に入った時に、自分なりに「ああ、1年間、やったんだな」という感慨が湧いてくると思います。当然、会が近づけばその感慨を想像することもあるでしょうから、準備もするでしょう。「ん?」っと首を傾げられる状況は絶対に嫌なので、もしかするといくらかでも普段より気合が入るのかもしれません。
--演目については、『富久』を挙げた談春。
談春:『富久』って大阪にない噺でしょう。何でないんだろう…。大阪は暮れにほっとする噺を聞きたいという文化がないのかもしれないね(笑)。それどころじゃないんだろうね。お金を回収しに行かなきゃいけないからね。取られるヤツは逃げなきゃいけないし、東京より殺気と活気が漲ってんだよね。東京は「節分まで待ってください」って頼んだら聞いてくれるかもしれないけど、大阪は「ダメダメ」って(笑)。
--最後に、〈12ヶ月連続 独演会〉を経て、2013年の関西での展望を聞いた。
談春:来年は決まっていません。来年は通用しませんよ、「これ、珍しいですよね」というのは、きっと。談志が1回、高座にかけただけで「ダメだ」って言ってほっぽった噺はいくらだってあります。『鼠小僧』もあれば『青龍刀権次』もある。でも、来年はそれをやってもダメだろうと思います。2年も続かないよ。といって、では何が聞きたいかというと、きっと『らくだ』とか『たちきり』、『除夜の雪』なんでしょう。でも、それは商売上、まだやらない(笑)。僕にも『算段の平兵衛』もやってみたいなとか、そういう思いはあるけど、何をやるかは自分で決めていかないといけない。60歳から70歳の10年間はどうするの?と考えた時に、やっぱりいくらか残しておきたい噺もあります。むしろ逆に変わらざるを得ない『芝浜』とかを、この過渡期にどうするの?と、もしかするとそっちの方が大事かもしれない気がします。
(2012年12月27日更新)
▼12月28日(金)19:00
神戸朝日ホール
▼12月29日(土) 15:00
森ノ宮ピロティホール
[出演]立川談春
両日とも前売り券完売。当日券についてはキョードーインフォメーションまで。
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション
[TEL]06-7732-8888
≪1月≫
『按摩の炬燵』『居残り佐平次』
(『牛ほめ』立川春太)
≪2月≫
『夢金』『明烏』
(『堀の内』立川春太)
≪3月≫
『黄金の大黒』『お若伊之助』
(『猫と金魚』立川春太)
≪4月≫
『紙入れ』『慶安太平記』
≪5月≫
『百川』『文違い』
≪6月≫
『岸流島』『品川心中』
(「出来心」立川春松)
≪7月≫
『包丁』『紺屋高尾』
≪8月≫
『かぼちゃ屋』『小猿七之助』『景清』
≪9月≫
『おしくら』『五貫裁き』
≪10月≫
『九州吹き戻し』『厩火事』
≪11月≫
『白井権八』『三軒長屋』
≪12月≫
『富久』、他『お楽しみ』