ホーム > インタビュー&レポート > 京都の人気劇団・ヨーロッパ企画が新作ツアーを敢行! “空間のねじれ”をテーマにした漂流コメディを上演
――前回から挑戦されている“企画性コメディ”。その意味合いと、今作の枠組みを教えてください。
「前回の『ロベルトの操縦』は、砂漠を舞台に“ロベルト”という巨大な兵器のようなものを真ん中にドンと置いて、兵士たちがそれに乗ってコーラを買いに行く話。背景が動くことによって、いかに乗り物が走っているように見せるかを考えたんです。そういった企画性やコンセプト、システムを軸に据えて、その周りで物語や世界観を積み上げていくスタイルが面白いなと思って、前回はそれをすごく意識した“企画性コメディ”の第一弾として移動コメディを上演しました。そしてこの第二弾は夜の底に漂うチンピラたちの物語を描きたいと思っています。チンピラが路地裏のような町の裏側を彷徨い、ふと辿り着いた思いがけないスイートスポットに出合う。“漂流してある場所に漂着する”ことをやりたくて、時空間をテーマにした仕掛けを軸に据えて、そこでどんな物語が描けるかに挑戦しています」
――スイートスポットとはどういう場所ですか?
「これはなんとなく付けた言葉で、例えば、深夜に若い男女たちがコンビニの横でたまっている空間。彼らはここですごく青春を感じていたりとか、彼らにしか味わえない夜の空気を感じていると思うんです。そんな、どことなく甘い空間という意味でスイートスポットと付けました。今回曲を作って頂いているmoools(モールス)さんの歌詞で、「それぞれがそれぞれの場所に座って行きつけの過去に寄り添う」という言葉があり、そういった言葉が連想されるようなイメージです」
――では、そのmooolsさんの魅力を教えてください。
「以前からすごく好きなバンドで、音楽性がすごく高くて、マニアックなことをやりながらも遊び心がある。その中でも一部、やさぐれ系の楽曲がすごく好きで。そこから世界観を膨らませたりもしています。例えば世間では「前へ歩いていこう」とか「先へ進もう」とか、「もっと上へあがろう」というような、上昇志向の楽曲が多い中、mooolsさんの歌詞には、「このままここに僕は残る」とか、「終了のホイッスルが鳴っているけどもう少しこのままにしておきたいんだ」というような、“残る”ことを描いた言葉があって、その世界観がすごくエポックなことだと思うんです。そういう、過去に寄り添う感じがお芝居のねじれの位置ともうまく絡ませられたらと思い、mooolsさんに曲をお願いすることになりました」
――路地裏や高架下という“町の裏側”に注目をされたのは?
「演劇はセリフを下地にして作られていくことが多いと思うんですが、僕は常々、空間から話を作っていきたいと思っています。例えば高架下は、電車を走らせたり、道路を走らせるためにできた場所で、意図して作られた空間ではないと思うんですね。電車は通勤や通学する人たち、いわば世の中の表側にいる人たちが乗る物だとしたら、そうじゃない場所に集まる人たちというのは演劇的にすごく面白いなと思ったんです。あと、ビルの間の隙間も、建てる時にたまたまできた空間だったりする。そんな偶発的にできた、世界の表ではない場所にすごく惹かれるものがあるんですよね」
――今回、「企画性コメディ」の第二弾ということで、なぜ“漂流”というキーワードを選ばれたのですか?
「表面的にはずっとコメディをしてきたんですが、20代の頃は割と真面目に、自分たちが置かれている状況とか自分たちの集団性と、世界の状況を慎重に考えながら、今だからこれをやろうということをやってきました。で、そこからは今何がいちばん面白いかということを順番にやっていきたいと思うようになったんです。いくつかやりたい企画はありつつ、前回こんな作品をしたから次はちょっと違う形のものをという感じで、楽しく決めていますね。『ロベルトの操縦』は砂漠を疾走するというかなりドライな話だったので、今回は都会の話で、建てこんだものの中で翻弄されるものだとか、ウェットなことをやりたいなと思って。そういったバランスですね。あと、前回は“移動することで状況が変わる”面白がり方をしたので、その逆に、漂流していきがちな世界の中で、どうやってスイートスポットにしがみついていられるかということをやると面白そうだなと」
――大阪公演は本公演としては初のシアターBRAVA!での上演ですが、劇場のスケールは意識して作られていますか?
「7都市をまわるので、全ての劇場を想像しながら作っています。劇場が大きいと物語のサイズやスケール感も変わってくる。例えば、大きな劇場で恋愛や人間同士が憎しみ合うことをしても、起きていることはとても小さなこと。それよりも、万里の長城がそびえてて、それをいかにして上るかというようなことの方が有効になってくるんです。時空を飛ぶということもハマると思うんですよね。何を大きくすれば話が成立するか、逆に、大きくしなくていいところは何かをすごく考えるようになりました。『ロベルトの操縦』も、兵器のようなモノ自体を大きくしたので、軍事や戦争のことを絡めて描かなくても、“コーラを買いに行く”という小さな話でも成立する。第25回公演の『火星の倉庫』から、比較的大きな劇場を使わせていただくようになりましたが、ゼロからのスタートになったくらい、考え方は変わりましたね」
――今回も壮大な仕掛けを作りながら、小さな話をやるイメージで?
「そういう話にもっていきたいですね(笑)。それが上手くいくかどうか難しいところですが本来なら芝居にすることでもない話を、大きな劇場を使って機能させることはすごく面白い。観ている方に「大掛かりなことやってるのに、ちっちゃいな」って感覚になってもらえると嬉しいです」
――“路地裏”とか“チンピラ”というキーワードで、バイオレンス映画をイメージしたのですが、そういった映画を参考にされたりもしますか?
「SABU監督の『弾丸ランナー』とか『アンラッキー・モンキー』という映画で、路地裏に逃げ込むシーンがあるんです。路地裏を縫うように走るのを延々と見続けるだけで面白いんですよね。映画で描いて面白いことと舞台で描けることは違いますし、それは音楽もしかりで。でもできるだけほかの領域からもらえるエッセンスをもらいながら、演劇でやるとどうなるかということを追求すると、お芝居が豊かになると思うんです。なので、今回は結構バイオレンス映画を観たりしていますね」
――初めてご覧になる方はもちろん、ヨーロッパ企画の舞台を以前から観られている方にとっても新しいものになりそうですね。
「1年間、個々での活動をしてきた僕たちにとって、本公演はいちばん総力を結集できる場所。やったことないけどやってみたいという試みを全力でやります。初期の頃から一貫してコメディをやってきて、その中で、群像劇やSFを取り入れたもの、舞台と有機的に絡むものというように、過去にやったことを血肉にしながら、新しい要素を取り入れてきました。今回も今までの要素を基に、新しい試みがひとつ入っている感覚なので、こういうコメディがあるんだと、楽しんでいただきたいです」
(取材・文:黒石悦子)
(2012年11月 6日更新)
発売中
栗東芸術文化会館さきら 中ホール
Pコード:423-890
▼11月9日(金)19:00
全席指定-2000円
※プレビュー公演
京都府立文化芸術会館
Pコード:423-891
▼11月15日(木)19:00
▼11月16日(金)19:00
▼11月17日(土)13:00/18:00
▼11月18日(日)13:00
全席指定(一般)-3000円
※11/17(土)18:00公演は、おまけトークショーあり(〔出〕ヨーロッパ企画メンバー)。
シアターBRAVA!
Pコード:423-891
▼12月21日(金)19:00
▼12月22日(土)13:00/18:00
▼12月23日(日・祝)13:00
前売-4000円(指定)
※12/22(土)18:00公演は、おまけトークショーあり(〔出〕ヨーロッパ企画メンバー)。
[作][演出]上田誠
[出演]石田剛太/酒井善史/角田貴志/諏訪雅/土佐和成/中川晴樹/永野宗典/西村直子/本多力/望月綾乃/加藤啓
※学生券は取り扱いなし。未就学児童は入場不可。12/22(土)はビデオ撮影のため、客席にカメラが入ります。
[問]サウンドクリエーター
[TEL]06-6357-4400
ヨーロッパ企画公式サイト
http://www.europe-kikaku.com/