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「人間の難しさだけでなく、愛おしさ、可愛らしさも
含めて表現したいと思っています」--蓬莱竜太
5年ぶりの再演となる『楽園』、作品への思いを聞いた

人の心をとらえる繊細で骨太な作品作りで高く評価されている劇団モダンスイマーズの、5年ぶりの上演となる『楽園』が、東京・吉祥寺シアター、兵庫・兵庫県立芸術文化センターほかで上演される。
作・演出は、第53回岸田國士戯曲賞を受賞し、めざましく活躍する蓬莱竜太。劇団外でひっぱりだこの蓬莱にとって今回の上演作は、自身の劇団だからこそ表現できる作品に。上演を前に、心境を語った。

――演劇だからこそ表現できることがある

『楽園』は、演劇の可能性を探っている頃に書いた作品です。大人になった登場人物の姿で、子供時代を演じるということで、最初は客席に戸惑いもありました。でも、了解して頂くのも早かったんです。これが演劇の不思議なところで。(状況設定の)ルールが沁み渡ると、その方が子供の時の感覚を理解して頂きやすかったりもして。
 観た人にどこまで想像して頂けるか、想像するという範疇を「取り分」として、どこまでお客様に渡すことができるか、ということが演劇の醍醐味だと思っています。
 人間が人間を解明することの難しさ、紐解きようのないものが存在しているということを描きたい。お客様と同じ空間を共有している、「同時性」のある演劇だからこそ伝えられることがある。人間の難しさだけでなく、愛おしさ、可愛らしさも含めて表現したいと思っています。

――簡単に「紐解ききれない」子供の世界

 子供の頃には、時間単位でパワーバランスが変わっていった感覚があります。今日いじめていた人が、明日はいじめられる人になっていたり、15分だけいじめられたり…。
 いじめが話題になると「原因を究明する」という人が現れますよね。原因が分かるなら、それを取り除けば解決できるはず。でも、いじめはなくならない。どこまで解明すれば「解明した」ことになるのか。利害関係から起こること、例えばお金が欲しくて泥棒に入ったというようなことは原因が分かりやすい。でも、子供はそのような利害で動かない。無意識に、嫌われたくないとかいうことはあるかもしれませんが。だから本能的に、反射的な嘘をついてしまうことがある。実際は、走るのが遅いのに「50メートル7秒で走った」と言ってしまうとか…。それが嘘だとわかったことで、集団の中で立ち位置が変わったり、大人になっていく過程に影響を与えたりすることもある。
 理屈でなく、感覚的に起こってしまうことは、本人たちにも簡単に原因が説明できない。その瞬間に同時に起きたいろいろなことが、広いレンズで録画されてでもいれば分かるのかもしれません。そういう映像を、大人になって覗き見するような感覚で、この芝居を観て頂けたらと思います。

――大切なのは、想像力

 大人も子供も、他人に対する想像力が欠落しているからこそ起きることが、たくさんありますよね。その人にも背景や人生があると分かっていたらやれないはずのことを、やってしまう。
 他人の「痛み」を知る前には、言葉がナイフになることもあるし、自分本位の行動をする時がある。何かが起こった時、よくないことをしてしまったと思える子の人生の方が「豊か」。何も感じないで通過してしまう人は、きっとあらゆることを通過していくのだろうと思います。
 『楽園』は、劇団員にも好きだと言ってもらえている作品です。演出も本も「今」に合わせて、少し手直しを考えています。僕が書いた言葉がフィルターになって創る世界を「想像力」でどうとらえて頂けるか。きっと観る方それぞれに、意味が変わってくるだろうと思います。初演は東京だけの上演でしたから、各地のお客様にどんなふうに受け止めて頂けるのかも、楽しみにしています。

――ヒロインは、深沢敦!

ヒロインの篠井ユリコは、みんなの人気者。非常に大事な役で、キレイというだけでは駄目な人物です。大人の世界では「キレイ」だという事は利点になる。でも小学生の頃の人気者はちょっと妙で、もっと尺度が曖昧だった気がします。アイドル的なかわいさよりも、足が速いからとか、転校生だからとか。だからこそ、人気者になったり、一夜にしてその座を追われたりする。深沢さんはこの芝居にフィットする、「この手があったか!」というヒロインです。 




(2012年10月30日更新)


蓬莱竜太
ほうらいりゅうた●モダンスイマーズには1999年の旗揚げより参加し、作・演出を務める。劇団外での活動も多く、舞台版『世界の中心で、愛をさけぶ』『東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~』などの脚本、映画『ガチ☆ボーイ』原作など、多岐にわたり活躍中。2009年『まほろば』で第53回岸田國士戯曲賞受賞。兵庫県神戸市出身。

●公演情報

モダンスイマーズ『楽園』

発売中(11月27日(火)まで販売)

Pコード:422-327

▼11月29日(木) 19:00
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

全席指定-3000円

[劇作・脚本][演出]蓬莱竜太

[出演]古山憲太郎/津村知与支/小椋毅/西條義将/深沢敦

※公演終了後アフタートークショーあり(〔出演〕蓬莱竜太/他)。未就学児童は入場不可。

[問]芸術文化センターチケットオフィス
[TEL]0798-68-0255

モダンスイマーズ公式サイト
http://www.modernswimmers.com/

前売チケットは11/27(火)まで!
チケット情報はこちら

●あらすじ

舞台はある地方の廃屋となったホテル。秘密基地であり、大人から解放される“楽園”でもあるこの場所に集まった、5人の小学生。無邪気に見える彼らの間にも子供なりのパワーバランスが存在している。他愛もない会話を発端に、その関係性はいとも簡単に一変、新たな関係が生まれる。そして5人にとって、一生忘れることのできない出来事が起こる――。