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「一緒に体験する感覚を」
悪い芝居の “記憶”を辿る新作について
主宰・山崎彬にインタビュー

内に抱えるモヤモヤ、鬱憤をエネルギーに変えて舞台に放つ京都の劇団・悪い芝居。作・演出の山崎彬が描く物語は、一見ポップな雰囲気を装いながら、その中には、時に息苦しさを感じるほどの人間臭さが漂う。前作『駄々の塊です』が岸田國士戯曲賞の最終候補にノミネートされるなど、公演を重ねながら着実に力をつけている彼らが、大阪・in→dependent theatre 2ndで“記憶”や“過去”をめぐる新作『カナヅチ女、夜泳ぐ』を上演。作品について山崎に話を訊いた。

――まず、作品の内容から教えていただけますか。

山崎:モチーフになっているのは、「記憶」や「時間」、「ここじゃない場所」「ここじゃない時間」ですね。で、そういうものを身体が感じる感覚として、「無重力」のようなものを取り入れています。物語としては、地元を離れていた29歳の女性の主人公が、12年ぶりに地元に帰るところから始まる話。その主人公が昔のことをざっくりとしか覚えていなくて、記憶を思い出していく。過去と現在と未来をフワフワと泳いでいるイメージで展開させたいなと思っています。

――それらをモチーフにして描くことで見せたいものとは?

山崎:僕自身20代最後の歳になるので、今の自分にできることを出したいと思っていて。で、30歳にもなったら過去の青春の話ってやりにくくなるんじゃないかなって思ったんですね。29歳って、普通に就職している人たちでも仕事のこととか、結婚とか色々考えるきっかけが多くなる時期だと思うんです。過去を振り返らずに未来を見据えるようなことってよく言われていると思うんですけど、結局は過去のことを乗り越えるためとか忘れるため、また、生かしてっていうように、過去の経験を糧にして進んでいると思うんですよね。だから、後ろ向きではなく、すごく前向きに過去しか見られないんだよということを感じてもらえたらなと思います。主に青春から10年くらい経ったすべての人たちに贈る青春の話ですね。

――同年代の人たちが共感できる話に?

山崎: お客さん自身も観ていて「今じゃない時間」や「今じゃない場所」のことを一緒に思い出していけるものにしたいんです。どうしたら一番良い状態で感じてもらえるんだろうっていうのを探って。で、過去も記憶も、何かを感じられる場所というのは、大体、夜とか自分の部屋とかトイレの中とか、周りから遮断されたところのイメージがあって。自分の輪郭以上のものを考えなくていい場所というので、夜の話にしたんです。客席に座りながら、自分の中にある何かがブワーッと甦ってきたら面白いなと思うんですよね。高校生が観るのと、僕等の年代の人たちが観るのと、さらに大人の人が観るのとでは、全然違うものになるというところはきちんと狙いたい。

――年代によって見え方が変わる。

山崎:そうですね。老若男女全ての人に捧げることはないと思っているんですが、自分の年代が一番実感してもらえるものを作れば、上の人たちも下の人たちも、別の角度からそれを観てもらえると思っているので。毎回、今の自分の感覚と自分の場所をちゃんと考えて作ろうとはしていて。どんな顔されるのか、毎回不安ですけどね(笑)。

――前回は回転する舞台で見せたり、舞台美術なども印象的ですが、今回はどのように見せようと考えていますか?

山崎:人間も含め、記憶の断片みたいなものが常に舞台上にあるようにしたいなと思っています。パーツがたくさん落ちているような状態で、それを入れ替えたり並べたりしていく感じ。そうして話を展開しながら、お客さんにそれをどう体験してもらおうかなというのが、課題ですね。『人間失格』みたいに、これは自分のことを書いているぞっていう感覚に陥るような作品にしたいんですよ(笑)。それも男女で違ったり、環境によって違ったりすると思うんですけど。女の子を主人公にしたのは、作家の“ノンフィクション”だと思ってほしくないというのもあって。“俺が”ではなく、“君が”の話にしたいから。やっぱりそこがいちばん難しいですね。

――今から始まって、過去に戻っていく感じ?

山崎: 東京で仕事も辞めて、恋人とも別れて夜行バスで地元へ帰るとこから始まるんです。過去に戻るというよりも、思い出すから立ち上がってくるという感じですね。

――主人公と、過去に関わった人たちが過去を立ち上げていくというような?

山崎:家族とか友達とか恋人だった人たち11人が出てくるんですが、彼女ははっきりとは覚えていない。その過去に関わった主な11人が、お芝居という構造を使って思い出させていくんです。当時は仲が良くてよく喋ってたりしても、卒業してから会ってない人とか、思い出せなかったりしません?「あー、そう言われれば……」っていうことよくあるなって思って。昔は手を繋いで歩いていたりしてたかもしれないのに、接し方もぎこちなくなったりして(笑)。友達だけじゃなくて、親戚とかにも敬語で喋って気持ち悪がられたり。子どものときは何も考えずに喋ってたから。

――接し方がわからなくなる感じ、わかります。

山崎:でも相手からすると、そのよそよそしい感じがひっかかるし。その微妙な雰囲気を全編にわたって出しながら、進められたらいいなという感じではあるんですけど。人格みたいなものって大人になったらまた変わりますよね。自分的には変わらない信念を持っているつもりなんですけど、変わっていっている気がする。

――海の近くという設定にしたのは?

山崎:その街の匂いとか空気の感触のようなものによって、記憶が呼び起こされるイメージがあって。海の匂いって、誰にでも想像しやすいなと思ってこの設定にしました。で、いろいろ聞いたり調べていると、潮風によって公園の遊具とかバイクとかすぐ錆びるし、学校の白い壁もカビだらけになったりして。その雰囲気が面白いなと思ったんです。女の子が錆びたくなくて街を出るっていう。で、東京に出て地元が一緒の男と恋に落ちて(笑)。

――ありがちですね(笑)。

山崎:そう、普通なんです。前回の『駄々の塊です』もそうだったんですが、ドラマにならない人たちをドラマにしたいから。ヒーローがいないんですよね。劇的さがない人たち。だからジメッとしたような話ばかり書いちゃうんです。でも、すごく前向きになって帰ってほしいとは思っているんですよ、いつも。あまりそうは思われないんですけど(笑)。

“普通”だからこそ生々しく、観ているうちに引きずりこまれていくような彼らの舞台。今作では、主人公と一緒に記憶を辿る感覚をどのように味わわせてくれるのか、楽しみにしたい。

(取材・文/黒石悦子)
 




(2012年6月13日更新)


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写真はすべて前回公演より。

●公演情報

悪い芝居vol.13『カナヅチ女、夜泳ぐ』

発売中

▼6月13日(水)19:30★
▼6月14日(木)19:30★
▼6月15日(金)19:30
▼6月16日(土)14:00/18:00
▼6月17日(日)14:00/18:00
▼6月18日(月)19:30
▼6月19日(火)19:30
▼6月20日(水)15:00
※受付は開演の45分前より開始。開場は30分前。

in→dependent theatre 2nd 

一般2900円/学生2400円
前半割引 一般2500円/学生2000円
※前半割引は、公演前半ステージ(★)限定の料金になります。
高校生以下 全ステージ1000円
(当日券各500円増)

[出演]池川貴清/植田順平/大川原瑞穂/呉城久美/畑中華香/宮下絵馬/森井めぐみ/山崎彬(以上、悪い芝居)
村上誠基/大塚宣幸大阪バンガー帝国/渡邉圭介アマヤドリ(ひょっとこ乱舞改め)/吉川莉早

[問]悪い芝居公式サイト
http://waruishibai.jp/

●プロフィール

悪い芝居●作・演出を務める山崎彬を中心に、'04年に旗揚げ。京都を拠点に、「今、自分たちがこの場所でしか表現できないこと」を芯に据えた作品を発表している。本公演のほか、ライブハウスでの台本ありのバンドライブや、築80年を超える日本家屋での上演などの企画公演も行い、表現の可能性を広げている。『嘘ツキ、号泣』で第17回OMS戯曲賞佳作を受賞。前回公演『駄々の塊です』では、佐藤佐吉賞2011最優秀作品賞受賞、第56回岸田國士戯曲賞最終選考に残った。