ホーム > インタビュー&レポート > 可笑しくも切ない、“世界の終わり”を描いた 土田英生の人気作『燕のいる駅』が再演!
まず、「土田英生セレクション」を始めたきっかけから……。
「京都を拠点に、20年以上MONOの活動をしていますが、基本的にMONOは実験を兼ねて新作をやっているので、1度上演しただけで終わってしまうという状態なんです。プロデュース公演では、自分が作品を通してやりたかったこととは少し違った形で上演されることもあるので、劇団とプロデュース公演との間の企画として「土田英生セレクション」を始めさせていただき、'10年に第1弾として『―初恋』を上演しました。出演者に関しては、MONOのメンバーにはない“シュート力”のある方、なおかつパスが回せる方にお声掛けをさせていただいています。前回はヒロイン役に田中美里さん、男性では今井朋彦さん、ラーメンズの片桐仁さんなど魅力的なメンバーに集まっていただき、僕自身手ごたえを感じたので、第2弾として『燕のいる駅』をやらせていただくことになりました。今回も一緒にやりたかった素晴らしいメンバーに出演していただいています」
その「素晴らしい」キャストについて、詳しく聞いた。
「千葉雅子さんは前回からの連投ですね。千葉さんには毎回出ていただきたいと勝手に思っています(笑)。ほかのメンバーは初めてやる方が多いですね。酒井美紀さんは、岩井俊二さんの『Love Letter』の頃から大ファンで、もちろん、『白線流し』とかも好きでした。ちょうど出産を終えられて活動再開するという情報を聞いたので、声を掛けさせていただきました。久ヶ沢徹さんはいろんな作品に出ている方で、横から茶々を入れる役が多かったんですが、ふざけていないところが観たいという思いがあったので、窮屈な役を演じていただいています。内田滋くんも蜷川さんの舞台やいろんなところでご活躍されている役者さんで、『相対性浮世絵』('10年/脚本:土田・演出:G2)を観て芝居のテンポが良いなと思っていました。土屋裕一君は*pnish*というグループのメンバーで、昨年の夏に演出作品をご一緒したときに、「出たい」と言ってくださっていたこともあり、キャスティングさせていただきました。中島ひろ子さんは20年ほど前の『桜の園』からの大ファン。あの時の彼女の演技が忘れられないんです。MONOを観に来ているという情報を聞いて会わせていただき、『桜の園』の頃からの思いのたけをぶつけたところ、出ていただけることになりました。あとは、MONOから尾方宣久が出ます」
舞台は突然人がいなくなった人口の島。駅に残された人たちの何気ない会話が繰り広げられる。震災後の日本と重ねずにはいられない設定だが……。
「なぜかわからないけどある島から人がいなくなり、残された人たちが最後の列車を待っているという状況での話ですね。元々、2月に演目を決めて書き直そうとしたところ、震災が起きたんです。原発事故で強制避難区域の映像を見ると、木々が揺れていたり犬が歩いていたりするけど、人だけがいない。15年前に想像だけして書いていたような風景が現実に目の前に起きていて。それとどうしてもリンクしてしまうので、演目を変えようかとか、書き直しをどうしようかと考えたんですが、逆に今この作品をどう受け止めていただけるのかなと思い、元々の作品の持つ軸だけを再度洗い直して上演しています。すでに東京公演を終えましたが、こちらが意図していないところまで汲み上げて観て頂いているような感じがしましたね。きっと距離的な問題で、東京の人の方がより身近に感じている部分は大きいと思います。明らかに、以前とはお客さんの見方が変わったんじゃないかなという気がしますね」
そんな設定の中で、それぞれが演じる役柄について聞いた。
「あまり物事を深く考えない、のんびりとした高島という駅員を久ヶ沢さんにやっていただいています。グローブ座で相葉君がやったときには“若者の無知”だったんですが、久ヶ沢さんの場合は、大人が物事を知らない感じで、観てて余計に腹が立つんですよね。それが良い効果を生んでるんじゃないかなと思っています。酒井さんは売店で働く女性。高島とのほのかな大人の恋愛を描いています。不安を感じつつも最後まで「大丈夫」と言いきる芯の強い役ですね。ご本人も柔らかいイメージですが、しっかりした面があって非常にマッチしていると思います。で、ローレンコ次郎というもうひとりの駅員が内田滋君。外国人差別が厳しい「日本村四番」の中で、ローレンコ君は日本人扱いなんですが、赤いバッジをずっとつけさせられていて……という、ちょっと影のある役ですね。中島さんには酒井美紀さんの昔の家庭教師で下河部友紀という役をやっていただいています。外国人排斥反対運動をしている弟を駅で待っているうちに最後の電車に乗れず、駅に留まっている役です。さらに、人とコミュニケーションがとれない男性の祭大輔という役をMONOの尾方が演じ、今回書き足した葬儀屋さんの部長・水口陽子を千葉さん、部下の真田貴志を土屋君が演じてくれています。葬儀屋のふたりの淡い恋物語も楽しんでいただきたいですね」
以前から好きだったという女優ふたり、酒井美紀、中島ひろ子についてはどういうところが魅力かを尋ねた。
「酒井さんは、あの垢抜けなさが良いんですよね。今となってはドラマで浮気された奥さんの役とかやってるんですが、『白線流し』の頃の可愛かった酒井さんは今もいるんです。30歳を超えた大人の魅力もあるけど、その中に可愛さも確実に存在している。僕としてはその酒井さんを出したいと思ったんですよね。中島さんは立っているだけでなんとなく影があって、憂いを含んだ表情が良いんです。でも最近では意地悪な役とか、お金持ちの奥さんとかやっているんです。僕が『桜の園』で見ていた中島さんの魅力はそうじゃないんですよね。だから、僕が好きだったあの頃のふたりが生かされた役になっています。男性が観たらみんな好きになるんじゃないですかね(笑)」
また、’99年にMONOで上演したときとは手触りが違うという。
「当時は30代前半で、今回は割と年齢が高めなんです。なので、大人なのに現実を直視しないようなところがより出ている気がしますね。若いからしょうがないよねって思えない。あと受け取られ方かもしれないですが、明らかに最後の客席の雰囲気が深刻なんです(笑)。MONOのときはもうちょっと愉快な感じだったと思うんですけど……」
最初に上演されたのは’97年。阪神・淡路大震災の影響を受けたのだろうか。
「日常が突然分断されるということをすごく実感したのが阪神・淡路大震災だったので、多分、その影響は受けていると思うんですよね。’99年の再演のときは“ノストラダムス”の影響があったと思います。小さい頃ノストラダムスがすごく怖くて、総理大臣に手紙を書いたほどですから(笑)。書き直すときは無意識でしたが、なんとなくそれが“世界の終わり”みたいな設定になったのかなという気がしますね」
今の日本の状況とも重なるような、深刻になりがちな設定だが、土田作品ならではのテンポの良い掛け合いや会話のズレも楽しめる本作。
「いろんな思いを潜ませてはいますが、テーマ劇でもなんでもないんです。途中までは会話のズレを楽しみながら、笑える哀しい話として観ていただけたらと思います」
土田が厚い信頼を寄せるキャストを集め、新たに生まれ変わった『燕のいる駅』。絶妙なアンサンブルと、可笑しくも切なく、心に沁みる物語に期待して。
(取材・文/黒石悦子)
(2012年6月 4日更新)
発売中
Pコード:418-698
▼6月13日(水)19:00
▼6月14日(木)18:30
サンケイホールブリーゼ
一般-5300円(全席指定)
[劇作・脚本][演出]土田英生
[出演]酒井美紀/内田滋/千葉雅子/土屋裕一/尾方宣久/中島ひろ子/久ヶ沢徹
※学生券は取り扱いなし。未就学児童は入場不可。
[問]ブリーゼチケットセンター[TEL]06-6341-8888