インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 関西小演劇界で活躍する役者陣を招いて繰り広げる 演劇ユニット・スイス銀行の最新作『ラブソングでも 書いてみる(ヒマだから)』についてインタビュー!

関西小演劇界で活躍する役者陣を招いて繰り広げる
演劇ユニット・スイス銀行の最新作『ラブソングでも
書いてみる(ヒマだから)』についてインタビュー!

嶋田典子、久野麻子という女優二人と作家・桝野幸宏、大村アトムによる演劇ユニット・スイス銀行が最新舞台である第5回公演『ラブソングでも書いてみる(ヒマだから)』を大阪・日本橋のインディペンデントシアター1stで上演する。旗揚げ公演から第4回までも、演出家や俳優など主に関西で活躍する舞台人を招いて上演してきた彼ら。本作でも、たかせかずひこ(ババロワーズ)、片岡百万両(ミジンコターボ)、得田晃子を客演に迎えて繰り広げる。また、本作は第9回OMS戯曲賞最終候補作『お察しします。』(2001年、扇町ミュージアムスクエアにて上演)、当時の超改訂版。約10年の時を経て『ラブソングでも書いてみる(ヒマだから)』によみがえった本作について、作家の桝野幸宏と嶋田典子、久野麻子に話を聞いた。

--ぴあ関西版WEBです。よろしくお願いいたします。まず、2001年に上演された『お察しします。』を今回、取り上げようと思われたきっかけから教えてください。

桝野幸宏(以下、桝野):当時、GISELLE(ジゼル)という団体がありまして、そこに久野がいて、僕が書いた『お察しします。』を上演しました。そして今、もう1回やりたいとリクエストがありまして、じゃあやりましょうかと。

--なぜ、リクエストをされたんでしょう。

久野麻子(以下、久野):まあ、いい作品なので、いやってもいいなぐらいに思っていたんです。それで、今、やるのにいい題材かなと思ったりして。

桝野:今まで4回、スイス銀行で上演してきて、コメディではあるんですけど、人の悪いところばっかり描いている作品ばかりで。1回、ハートウォーミングをやろうよという話もあって『お察しします。』が上がってきたんですが、再演するにあたって書き換えたら、やっぱり悪い感じの話になっていました(笑)。

--悪い感じというのは?

桝野:癖があって、弱い部分を持っていて。そういうボロが出ていってという感じです。

--なるほど。ほかに、再演されるに当たって書き換えれらたところはありますか?

桝野:登場人物が大きく変わりまして、前回は余命宣告を受けた人をカウンセリングするカウンセラーが登場していて。カウンセラーはカウンセラーで悩みを持っいながら、余命宣告を受けたという弱い立場の人を救う話でした。今回は、そのカウンセラーを外して、余命宣告を受けた人の愛人を登場させて、今度はこの愛人が患者たちを奮い立たせる役割を担っています。そこが一番大きな違いです。

--それはなぜ、そういうふうにしようと思われたんですか?

桝野:10年経って、『お察しします。』が“余りにもいい話過ぎる”と僕の中でありまして。言葉は悪いですが、“今は、そんなんええねん”ってなって。それと、スイス銀行での作品はすべてそうなんですけど、弱いところやかっこ悪いところ、ダメなところをどんどん見せて、それにちゃんと向き合う姿を書きたいなと思って。あと、改めて読んでみて、自分が観客として観た場合に、物足りない感じがして。キレイにまとめちゃっているのが、ちょっと違うなと。いい話を書こうとしているところに“おい!”って。いい結末に持っていこうとしているところが、“だっさいな~”って思います。10年後にはまた、同じことを思っているかもしれませんが。

--久野さんと嶋田さんは、どうですか? 

久野:確かに、前回の“ちょっとええ話感”はだいぶん、なくなりましたね。もっとリアルに近づいたというか。初演時は、私たちも20代だったり、30代だったりして、余命宣告と言われても、どこかで絵空ごとだったりしたんです。あれから、いろんなことを経験して、いろんな人を亡くして、それで思うことが今回の『ラブソングを書いてみる(ヒマだから)』にはすごくあるような気がします。残される人の立場や、余命宣告を受けた人がどんな思いで亡くなっていくのかなど、どちらかというとそういうことがメインになっていますね。

桝野:30代で宣告されるのと、40代で宣告されるのとでは、抱える問題も変わってくると思いますね。僕たちは大体、実年齢でやっているんですが、きっと、この年代の人たちがこんな問題を抱えるであろうということを、できるだけきれいに描かない。でも、リアルにし過ぎるとそれはそれで後味が悪い過ぎるだろうし、その辺のさじ加減ですね。描くものは基本、コメディなので。笑いあり、毒あり、下ネタあり。登場人物の中に“33歳童貞”が出てくるので、必然的に下ネタありです(笑)。

--なるほど、続いて、今回の客演であるたかせかずひこさん、片岡百万両さん、得田晃子さんについて教えてください。

久野:たかせさんは、前から知っていますが一緒にお芝居をするのは今回が初めてです。でも、初めてという気がしない人ですね。何か、知らない間にその場に溶け込んでいる感じがします。片岡くんは、舞台ですごくカッコイイ役しか拝見してなくて。今回は思いがけずミニチュアのマスコットみたいなかわいらしさがあるなぁと思いますね。ビジュアル的にも何か持っている方です。そして得田晃子ちゃんは、以前もお芝居でご一緒したことがあって。その時はちょっとイタイ女子高生役、いじけてひねくれている役を演じていたんですが、その時に彼女に惚れこんで。今回、ぜひ出てほしいとお願いしました。

--嶋田さんはどうですか?

嶋田典子(以下、嶋田):10年ぐらい前に一度、たかせさん演出のお芝居に出させていただいたことがあったんですが、お芝居されている時もいい意味で変わらないところがすごいと思っています。例えば、稽古場で雑談をしていても、お芝居していても、その溶け込み方が半端ないですね。

久野:“この人、スイス銀行の人なんじゃないか?”って思うぐらいの存在感ですね。

嶋田:境界線がない人ですね。片岡くんは、すごく柔軟な人です。稽古の段階からその片鱗が見えて、きっとアメーバーみたいに変わっていきはるように思います。得田さんは、バランス感覚がすごくよくて、年下なのに日常生活でも細やかにフォローしてもらっているような気がします。舞台に立つとスイッチをしっかり入れて、それで出すオーラもすごくなぁと思いますね。本当に三人三様で、自画自賛ですが、稽古をしながら“これは面白いものになるのではないか”とひしひしと感じています。

--芝居作りで、客演の方から受ける刺激はどんな感じですか?

久野:毎回、初めてご一緒にお芝居する方ばかりなので、やっぱり面白いですし、劇団のカラーを背負って来られる方もいて、そういう方の違う面が見えたりすると“ああ、呼んでよかった”と思いますね。ありがたいことに、いろんなお芝居を観に行かなくても、出ていただいた方である程度、“ここの劇団はきっと、こういう芝居の作り方をするんだろう”ということも垣間見ることができて、そういう部分も楽しみですね。

--スイス銀行さんの作品は、基本的にコメディということですが、コメディの魅力を改めて聞かせてください。

久野:お客さんの反応がダイレクトに伝わってくるところが、やりがいがありますね。ただ、漫才やコントではないので、常に爆発的な笑いが起こるわけではなく…。まあ、お客さんがにやっとしてくれたらいいなぁと。そんなポイントをおしゃれに出していけたらいいとは思いますね。

桝野:笑いがほしいところで全然来なかったり、“ここウケる!?”みたいなことがあったりして、それが不思議ですね。書く側としては狙ったところ笑いが起こってほしいので、毎回、試験を受けている感じがしますね。

久野:演じる私たちもかなりドキドキします(笑)。でもそこは、脚本を信じるしかないので。もちろんお芝居を受け入れていただけるかどうか、この面白いニュアンスがお客さんに伝わるかどうかということは大前提に考えてします。

桝野:うちはスタイルとしてボケないんです。ボケの台詞をできるだけ書かないでやっているので、そういう意味でも怖いですね。

久野:よくある、はい、ボケました、何でやねん!みたいなシーンは皆無ですね(笑)。

--なるほど、では最後に意気込みやメッセージをお願いします。

久野:舞台は病院で、“余命宣告を受けた人”が登場しますが、重たいテーマとか、メッセージ性は一切無しなので、楽しんでいただけたらなと思います。生活の一部を切り取ったところをみんなで笑ってもらえたら嬉しいですね。

桝野:劇中、ロックミュージシャンが出てきますが、うちのスタイルとしてはロックといえども歌謡曲とか、ポップスみたいな、みんなが口ずさめるような感じなので、気軽に来ていただければと思います。幅広い年齢層に向けて、演劇を見たことがない人にもとっつきやすい作品です。たまに“よくわからんかった”というご意見を聞きますが、うちは全然、そんなことないので。“演劇を観に行くぞ!”と構えることなく、気軽にお越しください。
 




(2012年5月 9日更新)


Check
第4回公演『悪役姉妹~ムチと五寸釘~』より
第4回公演『悪役姉妹~ムチと五寸釘~』より
第4回公演『悪役姉妹~ムチと五寸釘~』より

●公演情報

演劇ユニット スイス銀行

『ラブソングでも書いてみる(ヒマだから)』

●5月11日(金)19:30

●5月12日(土)14:00/18:00

●5月13日(日)14:00

●5月14日(月)13:00/19:30

in→dependent theatre 1st

前売3000円

当日3300円

学生2000円

(日時指定・自由席)

[作]桝野幸宏

[演出]大村アトム

[出演]嶋田典子/久野麻子/たかせかずひこ(ババロワーズ)/片岡百萬両(ミジンコターボ)/得田晃子

[問]ライトアイ06-6647-8243

演劇ユニット・スイス銀行公式サイト
http://www.swiss-ginko.com/

インディペンデントシアター
http://itheatre.jp/

●あらすじ

ある総合病院の屋上の片隅―。天野(たかせ)と松岡(片岡)が見舞いに来た人数を競い合っている。小山田(得田)はそんな2人に呆れ、なにやら作成中。そこへ吉川(嶋田)がやってくる。
ここが余命宣告をされた患者たちの溜まり場と聞いてやって来たらしい。
3人は吉川に、ここの唯一のルールを告げる。それは「ここで泣かない」こと。
元ツアコンで槍投げの選手だった吉川はワケアリで転院してきた様子。
天野は売れないロックミュージシャン。最期の願いは離婚して会えなくなった息子に会うこと。
小山田はこの病院の大ベテラン。子供の頃から入退院を繰り返しており、院内のスキャンダルにも詳しい。最期の願いは病院を抜け出して犬の散歩。今は知り合った子供にもらった姫路城を作っていた。
松岡の願いはヒーロー映画を撮ること。実家が映画館だったらしい。映画への熱い思いを語る。実は童貞で、院内に好きな看護婦がいる。
彼らは残された人生の時間をゆるゆると過ごしていた。
そこへ天野のマネージャー、タカコが現れる。
二人の特殊な雰囲気に一同困惑し、席を外そうとするが、呼び止められる。
「丁度いいからみんな聞いて。陪審員になってよ」。
議題は「書いてよ、ラブソング」問題。
タカコは学生時代から天野のマネージャー。「売れるためにラブソングを書いて」と言い続けたが、天野は拒否していた。それはロックじゃない、と。
しかし、今回も拒否するなら入院費用の援助を打ち切る、と言い残して彼女は去って行った。
天野はタカコと長年にわたり愛人関係で、しかも貢いでもらっていたのだ。今回の入院費用も出してもらっているらしい。
どうする?
天野は入院費用の為にラブソングを書くのか?
そして一同も本当にやりたいことを考え直す。このまま漫然と死を迎えるのか?
「きれいごとで死んでいくつもり? せっかく時間があるのに。私は後悔を残したくない」。
タカコの言葉が突き刺さる。
残された時間を濃厚に生きる、貪欲エンディングコメディ。