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ケラリーノ・サンドロヴィッチが
自身の劇団ナイロン100℃に書き下ろした2年ぶり書き下ろし作
『百年の秘密』についてインタビュー!

ナイロン100℃の舞台『百年の秘密』が間もなく、大阪のシアターBRAVA!で上演される。ケラリーノ・サンドロヴィッチが劇団に書き下ろした作品としては2年ぶりとなる本作は、二人の女性の半生を描いた物語。青春時代に出会い、友情関係を築いた二人が、人生の局面で幾度か再会し、やがて死んでいく。笑いの多い舞台で知られるナイロン100℃だが、本作はシリアス度もシニカル度も高めという。そんな『百年の秘密』について、劇団員の大倉孝二と客演の山西惇に聞いた。

――ぴあ関西版です。今日はよろしくお願いします。『百年の秘密』は2年ぶりの純描き下ろしの作品ですが、最初に出来上がった台本を手にされて、東京公演の本番を迎えられたに至って、作品に対する受け止め方など何か変化はあったりしましたか?

大倉孝二(以下、大倉):今回は、稽古に入る前からケラさんが断片的に言っていることと、出来上がったものにブレがなかったかな。本人の中では整合性があると思うんですけど。いつも最初の段階で言っていることと、出来上がったものとでは違っていたりするんですけどね。割と目指していたものと出来上がったものとにずれがなかったですね。

――この2年間でのケラさんの変化など、感じられたことは?

大倉:わかんないです。僕、ケラさんのことあんまりわかんないですよ、実を言うと…(笑)。

――大倉さんは95年にナイロン100℃に入団されて17年ですが…。

大倉:そうなんですが、あんまり知らないようにしてます(笑)。その方が関係性にも緊張感がすごくありますし、それがなくなったらいけないとも思うんです。あと、作家さんとしても、演出家としても、ケラさんに質問したりとか、話を聞いたりしたこともないですし、稽古中も作品について何にインスパイアされたのかとか、聞いたことがないんですよ。

――なるほど。では、山西さんにお伺いします。山西さんはナイロン100℃へは14年ぶりのご参加になりますが、稽古期間を含め14年ぶりに参加されてみてどうですか?

山西惇(以下、山西):前回、出せていただいたのは『ザ・ガンビーズショウ』だったのですが、これはケラさんの単独での作・演出ではなく、いろんな人と共作したりしたお祭り的な要素の強い公演だったんです。そして今回、純描き下ろし新作で。「これぞまさに本公演なんだな」という感じを体験させていただきましたね。

――たとえばどういうところで「これぞまさに」と感じられましたか?

山西:何と言うのか…、ナイロンの役者陣の本公演に対する気合みたいなものが違います。新しいナイロンの世界を全員で作るんだという気合が半端ないなと思いましたね。役者陣もケラさんに「その芝居をもう見たことあるよ」と言われたくないというのもあるだろうし、作品を書いたケラさんも、みんなが最初に読んだときに「これ、あれと似てるよね」とか絶対に言われたくないという。そういう、最初に台本を手にしたときの、役者陣とケラさんとの緊張感に「ああ、すげえ!」と思いました(笑)。

大倉:そうなんですかね? まあ、みんな、無意識に怖い顔をしているんでしょうね。ああ~、でも、ケラさんが作品の説明の合間にちょっとおもしろげなこと入れ込んで来たりするんですけど、劇団員は誰も笑ってない。客演の方々は和やかに反応してくれるんですけど、劇団員はもう、能面みたいな表情になってますね。

山西:集中してる(笑)。

大倉:“そんなん要らんわ、はよ読もうぜ”っていう(笑)。

山西:でも、それはね、ある程度同じことの繰り返しにならざるを得ないところで、20年近く一緒にやってきた人たちが新作というものに対してこれだけの気合で挑むことはすごいことだと、はたから見て思いましたね。

大倉:確かにそうですね。期待と不安が延々に続くので、緊張の糸が切れることはあんまりないですね。

山西:ストイックですよね。ナイロンの人たちは芝居というものに対して。本当に真面目だなと思います。

――客演というと、山西さんを始め、萩原聖人さん、近藤フクさん、田島ゆみかさんが出られますが、それぞれの役者さんとのコミュニケーションはどんな感じですか?

大倉:山西さんはもちろん、萩原さんもケラさんの作品に何回か出ていらっしゃいますし、近藤くんも劇団員に知り合いが多いみたいで。ゆみかちゃんぐらいですかね、みんながあんまり面識なかったのは。だからその辺はあんまり問題なく。

――そして今作は、シリアス度が高めということだそうですね。

大倉:今作は、コメディではないですね。それはナイロンにとって珍しいことかもしれませんが、ケラさんは常にいろんなことを実験しよう、挑戦しようと思っているので、だから笑いがあるかないかという違いだけではないと思うんです。今までもシリアスなことをたくさんやってきましたし、シリアスだから今回は特別だということではないと思うんです。どこかちょっと欠けている人たちが一生懸命生きているという姿に、笑えるように見えたら笑えるだろうし、見ようによってはすごく悲しいだろうし、そういうことの違いのような気はします。ただ、ケラさんはどんなに悲しい話をやってもコメディの要素を入れていましたが、今回はちょっとクスッとするところがあるかもしれないですけど、それは明らかにコメディではないです。

――そして、女性同士の友情が作品の軸としてあると思いますが、お二人の場合、男性同士についてどう捉えますか?

山西:高校の友達とたまに会ったりしますが、それぞれ職業も違うし、生活環境も違いますが、そういうことは大して壁にはならず、結局集まれば、高校の時と同じですね。男同士の友情ってそんなものなのかなって思うとそうかもしれないです。

大倉:男友達は、相手の状況にあんまり気を使わないですよね。会う前にああだ、こうだと相手のことを考えない。

――では、男女の友情についてはどうでしょうか。特に大倉さんは劇団という集団に属していますが…。

大倉:正直、劇団員は友達でもないし、仕事仲間と呼ぶにも違和感があったりするし…。

山西:不思議な関係だよね。

大倉:そうですね。今更特別、異性を意識することもないし(笑)。でもそれは、芝居をやっているような人間にはあり得ることかもしれないです。

――男女の関係性を超えている?

大倉:そうなんでしょうね。まあ、そんなことすら考えないですね。

――劇団員の女性を意識したことはないですか?

大倉:もちろん若いときはありますよ。でもずっと続くわけではないですし。みんなもそういうことにはあんまりとらわれていないんじゃないですか。同じ劇団でお芝居を作っていくなんて、恥をさらしあうことですから、恥ずかしいことなんてもう別にないですからね。稽古とかでも、「今ここでそれをやってみろ」と言われて、やって、一生懸命やったことに対してみんなの前でダメ出しを受けて、そういうことを20年近くやっているわけですからね。こんな恥ずかしいことはないですよ(笑)。めちゃくちゃ恥ずかしいですから。でもそのくらいのことはという感じでもありますし、もう今さら…。照れたら負けだと思って。

山西:乗り越えてますな。

大倉:お互いに、よく見られたいとか、ないですからね。友情と呼ぶものに近い感覚はあるのかもしれないですけど、ただ、友達ではない。

――会社での同僚みたいなものでしょうか。

山西:いや、同僚ともまた違う。会社は損得という大きなくくりがあって、みんなで得に向かって行きますが、芝居作りは損得関係ないですからね。別の価値基準でやってますから。

大倉:そうですね。よく見られたいとか思わないけど、絶対に負けたくないという思いもありますからね。だから、かなり焦点の絞られた関係性ですね。芝居以外のことはどうでもいいというか。

――なるほど。では最後に、大阪公演に向けてメッセージをください。

大倉:『百年の秘密』は、力作だと思うんです。かなり。苦労しましたけども、最後まであきらめずに作ったので…。ナイロンの舞台を見てくださってきた方たちももちろん、楽しめる舞台になっていると思いますし、割とオールド演劇ファンのような方からも受け入れてもらえそうな感触がありますね。

山西:東京公演を観てもらった方々から「分厚い長編小説を読み終えたような感じがある」と言ってもらったりして、それも言い得て妙かもなと思ったんです。観終わった後の感触がすごくいいと思うんです。3時間半という長丁場ですけども、長いからこその読後感を味わっていただけるお芝居になっていると思うので、長いやんと思わずにぜひ、目撃しに来ていただきたいと思います。

――今日はありがとうございました!




(2012年5月25日更新)


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写真左から、山西惇、大倉孝二。

●公演情報

ナイロン100℃『百年の秘密』

発売中

Pコード:418-865

▼5月26日(土) 13:00/18:00

シアターBRAVA!

全席指定-6900円

[劇作・脚本][演出]ケラリーノ・サンドロヴィッチ

[出演]犬山イヌコ/峯村リエ/みのすけ/大倉孝二/松永玲子/村岡希美/長田奈麻/廣川三憲/安澤千草/藤田秀世/水野小論/猪俣三四郎/小園茉奈/木乃江祐希/伊与勢我無/萩原聖人/近藤フク/田島ゆみか/山西惇

※未就学児童は入場不可。

[問]梅田芸術劇場[TEL]06-6377-3888