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「『テキサス』はただ単純に面白いものをやろうという
情熱だけで作り上げたものでした」--河原雅彦
11年前に上演された伝説の舞台が間もなく蘇る!

2001年、河原雅彦率いるパフォーマンス集団「HIGHLEG JESUS」俳優陣総出演で上演された長塚圭史作・演出の『テキサス -TEXAS-』。“HIGHLEG without JESUS/長塚JESUS"と銘打たれたカンパニーは当時、大阪にも上陸し、扇町ミュージアムスクエアで本公演を行った。また、フジテレビ『演技者。』にてドラマ化もされ、長塚圭史の初期の作品として強い印象を残した。
そして2012年、河原雅彦演出、星野源主演で装い新たにパルコプロデュース公演として蘇ることに。そこで、本作に対し並々ならぬ思い入れを持つ河原に、その意気込みを聞いた。

--まずは11年前、『テキサス』初演に至るまでの経緯を聞いた。

河原雅彦(以下、河原)「僕は当時、HIGHLEG JESUSというパフォーマンス集団をやっていたんですけども、でたらめなことばっかりやっていたので、劇団員たちが急に“お芝居をやりたい”と言い出して。“じゃあいいよ”と言ったんですが、その当時僕はストーリーのある演劇に全く興味がなかったんです。それで、誰か任せられる人はいないかなということで、親交のあった長塚くんにお願いしました」

--では、その頃、河原から見た長塚の作風とは?

河原「当時の演劇って意外とストーリー性のあるものって少なかったんです。鴻上尚史さんをはじめ、ちょっと上の世代には物語を書く人がいたんですけども、自分たちはちょうどカウンター世代で、もっと新しいものを見たいという機運が高まっていたんです。そんな頃に長塚くんの作品をたまたま何本か観させてもらったんですが、若いのに物語で勝負しようという熱を発していて。若くて新しい才能が出てきたなぁって思っていましたね」

--そんな長塚の熱を感じて書き下ろしを依頼した河原。そうして出来上がったのが『テキサス』だった。

河原「本番では僕は、客席から観させてもらって、本当にノータッチだったんですが、えらく面白かったですね。長塚くんは当時、外部に書き下ろすことをあんまりしていなかったんですけど、作風も長塚くんの劇団で書いているものとはちょっと違っていたりして、それがまたとても面白かったです。お互い、小さい劇場でしかやっていなくて、『テキサス』という舞台をしたところで一銭の得にもならないような、そういう時代でしたけど、『テキサス』はただ単純に面白いものをやろうという熱で作り上げたものでしたね」

--そうして灯された『テキサス』の火はその後も、河原の中で消えることはなかった。

河原「去年か、一昨年になりますが、プロデュース公演として何かやりたいものはあるかと聞かれたときに、真っ先に浮かんだのが『テキサス』でした。11年前の上演時には、僕は芝居作りに参加していなかったので、そのことも含めて、改めてプロデュース公演という形でできたらいいなと。まあけじめというか…。でも、とても面白い作品だったから、いいのではないかと」

--それにしてもなぜ、そこまで思い入れがあるのだろうか。

河原「とてもありがたいことに、今、こうしてお芝居をお仕事にさせていただいていますが、『テキサス』は、お客さんに受けたいとか、お金がほしいとか、えらくなりたいとか、そういう欲望が一切ない時代に、信頼できる人たちと単純に面白いことをやろうと言って作られたもので。そういうことが今はなかなか難しくなっていますし、こうして改めて向き合えることは、自分にとってご褒美的な感じでもありますね」

--そうしてもうひとつ、長塚圭史への思いもあるという。

河原「オファーをした時、僕の劇団員を全員出して、書いてくれって、結構、乱暴な感じだったんですけど、快く引き受けてくれて。そしてとても面白く作ってくれたので、少しでも恩返しになればいいなと思っています」

--そして2012年、会場規模も拡大し、キャストも一新しての上演となるが、演出に当たってはどのように考えているのだろうか。

河原「大阪はシアター・ドラマシティでやるんですね…。その現実を今、受け止めきれないです(笑)。まあ、キャストが変わって劇場が変わって、それに伴って美術が変わったとしても、自然と新しい『テキサス』になるとは思っています。とってもありがたいことに、キャストもリクエストしたら快く引き受けてくれた方ばっかりで。初めての方は木南晴夏ちゃんぐらいかな。他の方は何度もお仕事させてもらって、よく知ってる人たちです」

--また、再演でのキャストは、「みんなキャラクターに合致し、一つのチームとして演じると面白いものになりそう」と満足のいく顔ぶれだとか。そんなキャストについてさらに聞いてみると…。

河原「政岡泰志くんは初演と同じ役ですね。新しい人で、とも考えたんですが、結局、浮かばなかったんですよね。伊達暁くんは、役は違いますが初演から引き続き出演してもらうことができて、初演のメンバーがいるっていうのはやっぱり安心感があります。高橋和也さんは、台本を読んでも何が面白いのかさっぱりわからないまま、引き受けてくれました(笑)。あと、主演は星野源ちゃんですが、“ああ、これは源ちゃんだ”と思ってお願いしました。それがちゃんとはまったのがすごく嬉しいですね」

--星野源はミュージシャンとしても知られるが、河原から見た役者としての星野の面白さとは何だろう。

河原「まず、普通の俳優さんと感覚が違いますよね。源ちゃんは、音楽は音楽で好き、俳優は俳優で好きという感じで、うまく言えないですけど、そういう考えの人特有のアプローチというか、味があって。純粋な俳優さんとは違う形で俳優を楽しんでいる、音楽を楽しんでいるというノリがとっても魅力的だなと僕は思って。また、源ちゃんはとてもニュートラルで、どこにいても自分というものをちゃんと持っていて。器を変えても液体のようにすーっと入っていく、そういうふうに楽しむ感じの人だと思いますね」

--では、脚本は当時のものをそのまま用いるのだろうか。

河原「時代を感じるようなところだけ修正してもらうくらいで、後はそのまま。やっぱりもう、完成されているものなんですよね。最初に申しましたけど、好きな仲間と集まって四六時中、面白いことをやろうと考えていて。金には一銭もならなかったけど、若さと暇とエネルギーがあった時代に生まれた作品だから。それを今、こういう形でまた上演できるのは僕にとっても長塚くんにとってもすごく嬉しいことだし、当時からそれだけのクオリティがあったということだと思います。自分たちが面白いと思っていたことが詰まった、純度が高い作品だと思いますね」

--続いて、『テキサス』というタイトルについての見解を聞いた。

河原「舞台はある田舎の日本家屋で。その場所だけを見たらテキサスという要素は全くない。ただ、物語の構造が西部劇というか。流れ者が町に帰ってきたら、町は様変わりしていて、見知らぬ奴が君臨していて、血なまぐさいことがあってという西部劇の定番ですよね。知らない間にギャング団が町を支配していて、町が変わるというパターン。『テキサス』は、実家に帰ってきたらみんなが整形して変わっていたというお話なんですが、そこがウェスタンだなぁと思うんです」

--河原自身も、ウェスタンが大好きだと言う。その魅力が本作に反映されているそうだ。

河原「ウェスタンって、非常にざらついた感じの世界観があるんですよ。日本だと一騎打ちとなるとチャンバラになるけど、向こうはピストルでしょう。それで、日本は大立ち回りですけど、ウェスタンだと一瞬で勝負がつく。散々、主人公と敵を引っ張っておいて、勝負は一瞬で決まる。その空しさというか…。それは、一瞬で勝負がつくという空しさじゃないんですけど…。そこに日本にはないざらつき感があるんです。『テキサス』というお芝居の中には、そういうウェスタンの世界観が漂っていて。それを日本家屋でやるという面白さ。劇中には全然、テキサスの要素はないけど、僕の中ではテキサス以外何物でもないですね。ウェットさがないのが、この作品の好きなところです」

--そんな世界観を「アメリカン・ニューシネマみたいな感覚」と喩える河原。それゆえ日本では珍しいエンターテインメントに見えるかもしれないが、ウェスタンが好きならその世界観を分かってもらえるはずと自信も覗かせる。もちろん、ウェスタンを知らなくても大丈夫とのこと。河原の言う“ざらつき感”を肌で感じて、ぜひ、その世界観を楽しんでほしい。「面白いことをしたい」という欲求と情熱で『テキサス』と出会った20代を経て、今に至る河原。最後に、そんな一時代を振り返りつつ、演劇への思いを聞いた。

河原「今は有名人が出て、名のある作家さんが台本を書いてというプロデュース公演が演劇の主流でしょう。僕たちの世代はギリギリそうではなくて。当時は『ぴあ』でも、大きい劇場で何千人と集めている人より僕たちのような無名でも誌面で紹介してくれるといういい時代だったし、お客さんもどんなに小さい劇団でも面白いと思うものには熱を持って観に来てくれていた時代で。名もない若い人たちが作っていたものにも、ものすごくエネルギーがあって、人も観に来てくれた時代だったんです。なので今回、こういうプロデュース公演という形で『テキサス』を上演できることは、ちょっとした時流への復讐みたいな感じはありますね(笑)。当時は、有名な人たちが出ていなくても、面白いものは面白いという、いい時代でしたから。そういう小劇場でやっていた頃に上演したものを、こうやって素敵な俳優さんたちと立派な劇場でやれるのは面白いですよね。若かった頃、そういうふうに過ごしてきてたから尚更、よかったとすごく思います」

大阪公演は4月14日(土)の14時に追加公演も決定。チケットを取り逃した方はもちろんだが、悩んでいる方もこの機会をお見逃しなく! 今を代表する演劇人たちの原点ともいえる作品だけに、これは必見だ。
 




(2012年4月 3日更新)


Check

『テキサス』

〈追加公演〉
▼4月14日(土)14:00
発売中
Pコード:417-585

アフタートークショー開催決定! 
出演:河原雅彦+星野源 ほか
※14日(土)14:00の公演チケットを持ったお客様が対象です。
公演終了後、約10分の休憩をはさんだのち、アフタートークを行います。
ご観劇時と同じ座席でご覧ください。



▼4月14日(土)19:00

▼15日(日)13:00

※本公演はチケットぴあ前売り券完売。

梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

S席-7000円 A席-5000円

[作]長塚圭史

[演出]河原雅彦

[出演]
星野 源、木南晴夏、野波麻帆、岡田義徳
福田転球、政岡泰志、伊達 暁、
吉本菜穂子、山岸門人/
湯澤幸一郎、河原雅彦/高橋和也、松澤一之

※未就学児童は入場不可。

[問]キョードーインフォメーション[TEL]06-7732-8888

『テキサス』公式サイト
http://www.parco-play.com/web/page/information/texas/

追加公演は間に合います! お早めに!!
チケット情報はこちら

●あらすじと配役

東京から遥か遠く離れた田舎町。
生活臭の漂う日本風の部屋には、造りの空気とは明らかに異なるウエスタン調の置物や絵画、壁掛けなどが飾られている。
ある日の夕暮れ、都会的で洒落た装いの男女ふたりが入ってくる。
男の名は遠藤マサル(星野 源)。
訳ありげな大きな風呂敷包みを大事そうに持ち、彼女である伶菜(木南晴夏)を連れて、6年ぶりに実家に帰ってきたのだ。

家にいるはずの姉、遠藤聖子(野波麻帆)を探すも、姿が見当たらない。
隣の部屋から出てきたのはマサルの同級生、沼田(政岡泰志)と見知らぬ女。
見知らぬ女は、自分はマサルの姉、聖子だと言い張る。
次々と現れる友人・知人(長内/松澤一之、矢野/伊達 暁、牛沢/福田転球)であるはずのほとんどが見たこともない顔だった。
半年前に東京からやってきた比呂島先生(湯澤幸一郎)の影響で、村では整形が流行しているらしい。

そんなおかしな状況を訝しがるも、マサルは帰省の目的を果たすことだけに集中する。
マサルの目的は町伝統の闘鶏で勝ち、町の男になること。
しかし、「町一番の大きな形のいい卵を産む鶏を所有する」というルールから、「どちらかが死ぬまで闘う」というルールに変わっていた。
町で最も強い鶏を所有する男、川島(高橋和也)によって自慢の鶏が殺られ、身ぐるみ剥がされた上に伶菜まで連れて行かれ、落胆しているマサルのもとに、東京から借金取りの四ツ星(岡田義徳)が追い掛けてきた。

マサルの帰りを待ち続けていた千鶴子(吉本菜穂子)とマサルの幼馴染である満彦(山岸門人)、田舎町に居つく四ツ星を東京から訪ねてきた不穏な空気を持つ桂(河原雅彦)、一癖も二癖もある人々が、マサルの周囲に集まってくる。
すでに狂い始めていた静かな田舎町が、大きな音を立てて崩れていく…。

(『テキサス』公式サイトより)