ホーム > インタビュー&レポート > 鹿殺しの新作は「青春モノに真っ向勝負!」 劇団☆新感線から高田聖子を迎えて贈る、痛くて熱い大人の青春物語
――まず、「モトコー5」の設定を思いついたきっかけを教えてください。
チョビ「今までは同世代の兄弟とか、同級生の仲間たちを登場させることが多かったんですが、今回は客演の方の年齢がバラバラで。案を出し合ったときに、昔チャイドルグループで活躍していたメンバーが大人になってどうなっているかというところから広げていこうという話になって。で、年齢バラバラの人が集まっていてもおかしくない場所ということで、商店街がいいかなと。モトコー(元町高架下商店街)にしたのは、ちょっとくすんだイメージがドラマになりそうだなと思ったんです」
丸尾「いちばんイメージにピッタリだったんですよね。それで「モトコー5」っていう、チャイドルグループの人たちが大人になったときの話にしようって」
――では、今回はどんなことを描きたいと思われたのですか?
チョビ「みんな何歳になっても夢を見たいというか、どこかで青春時代みたいに燃え上がりたいっていう気持ちがあるなと思って。そこをもう一度感じられるような作品を作りたいなと思ったんです。劇団自体、20代後半~30代前半くらいの劇団員が多くて、お客さんも最近は30代~50代の方も増えてきているんですよ。きちっと社会に出て働いている人でも、演劇をやっているような人でも、いつでも変わらず夢を見たい気持ちはあるんだろうなと思って。「モトコー5」のアイドルたちの再チャレンジの物語でもあるんですが、彼らをきっかけにして、周りの人たちも実はそれぞれに燃え上がりたい気持ちがあるんだぞっていう」
――大人になって諦めてしまった人たちが。
チョビ「諦めてもいるんですけど、表に出さないだけで心のどこかでやりたいって思っているはずで。たとえば、柄に合わないような冒険をしたいとか。なかなか吐き出す機会もないと思うんですが、本当に諦めている人はいないと思うから、そんな方たちにもスカッとしてもらえる場面を用意しています。きっと元気になると思いますよ」
――今回、高田聖子さんを迎えられたのは?
チョビ「自分たちの成長のためにも、毎回年上の方を呼びたいということはあって。聖子さんは私たちが客席からいちばん観ていた先輩で、好きだったということもありますし、東京の紀伊國屋ホールは、つか(こうへい)さんがやっていた劇場で、熱い歌とかダンスとかが合うなって思って。そういうこともできて、お芝居の熱量が熱い人がいいなと思うと、聖子さんがいちばんだなと」
――そんな先輩にどんな役を作られたのですか?
チョビ「「モトコー5」のリーダー役で。ダンスも歌もたくさんやっていただいていますし、ラストあたりに大活躍するシーンがあって。ほかでは絶対観られない姿を見せていただいています。ほかのゲストの方々もそうなんですが、確実にこの作品でしか観られません。聖子さんも「これどうなん?」って言いながら(笑)。それぞれのファンの方にはぜひ観ていただきたいですね。この方々を観るだけでもかなりのお得感がありますよ。廣川さんは、元歌手で「モトコー5」のプロデューサー役なので、美声で歌う場面もあったり。いろんな役をやってもらってて、劇団員ばりに何回も着替えて活躍してくださっています」
――演出面でやりたかったことはありますか?
チョビ「前回の『岸家の夏』が円形ホールでしたので、立体的な、全方面に向ける形だったんです。もともと、つかさんや唐(十郎)さんが好きで、今回はとにかく原点に帰って、正面に向かって、お芝居の熱が熱い演出というか、役者ひとりひとりの熱がガッと前にくるような。舞台美術もすごくシンプルで、転換もほとんどないような、ひとつの形の中で、役者で見せていくものにしていて、すごく演劇らしい作品になっていますね。役者さんそれぞれのパワーが感じやすく、きっと元気が出ると思います」
丸尾「実験的な要素というよりは、もう、真っ向勝負。青春モノを真っ向勝負しているということが今回の舞台のポイントかなと思います」
チョビ「映画の『アンヴィル!』とか『レスラー』みたいな、若干弱った人たちの奮闘する様が好きな方にはぜひ観ていただきたいですね(笑)。役者としても体力的にギリギリの人たちなので、実際に闘っているところにも感じてもらえる部分はあると思います。劇団としても12年目で、その奮闘ぶりがすごく出ていると思うんですが、今回は自分たちをモデルにすることはあまり考えずに作っています。ギリギリまで稽古場で試しながら、みんなで作っていったら、自然と自分たちの今の状態が投影されたみたいで。鹿殺しそのものの漂流感というか。自力で漂流しているし、これからも漂流するしかないですよってことが自然とにじみ出てきたんじゃないかなと(笑)。音楽やお笑いをしている人たちにも「今回特に痛かったわ!」って言われて。たぶん、実際今何かを夢見てやっている人だとちょっと心が痛くなる。でも最後は前向きに終わるので、決意して帰るような感じもありますね。昔何かに夢見ていた人たちは、それを思い出してまたやってみようかなって思えるような。本当に世代によってさまざまに感じていただけると思います」
――いつも、登場するのは不器用な人たちばかりですよね。
チョビ「今回とりわけ不器用です(笑)。不器用度ではナンバー1の不器用さですね」
――自分たちをモデルにしていないとのことですが、いつもはみなさんの経験を取り入れながら作られているんですか?
チョビ「『岸家の夏』だったら自分や同世代の女の人たち、その前の『僕を愛ちて。』でしたら劇団そのものの愛されたい願望、さらに前の『電車は血で走る』という作品だと劇団の歴史だったり、いつもは身近にモデルがあったんです。今回は自分にとっての青春って何だったのか、いろんな人にインタビューしながら、割と多くの人に通じることを書いたつもりなんです。それが自然と役者そのものの身体の疲れや自分たちの姿に繋がっているという感じですね」
丸尾「どうしても不器用になってしまうんですよね。器用な人に興味がないから」
チョビ「人間そのものの方が興味があって、ストーリーがうまくいってるなっていうものよりは、そこに生身の人間のかわいらしさのようなものを感じたときに、観ていて面白かったり愛おしいなと思いますね。だから、どうしても不器用で人間味が出るストーリーになってしまう(笑)。寂れたモトコーの落ちぶれたアイドルのお話で、切ないテーマではあるんですが、バカなシーンもふんだんにあります。東京では年明け一発目に観て頂く方も多く、「すごく元気が出た!」という言葉をたくさんいただきましたので、関西の方にもぜひ観て頂きたいですね。
丸尾「モトコーっていう場所を少しデフォルメして作っているところがあるから、馴染みのある関西ではちょっと誤解を生むかもしれませんが……」
チョビ「これ何屋?っていうようなものが割と出てくるんですが、決してバカにしてるわけじゃなくて、そういうことも含めて愛おしく感じるっていう。愛をこめてやってますよって(笑)」
丸尾「今はモトコーって古着屋とかの印象になっているかもしれませんが、昔ながらの元町高架下商店街に焦点を当てているので、オシャレな古着屋が入っている雰囲気にはしていないですね」
チョビ「神戸が舞台ですが、話し方も自然とその人から出るものを大事にしたいので、あえて関西弁は追求していません。そこは「なんか違う」って思わずに観てください(笑)。役者から滲み出てくるものを感じていただければと思います」
――鹿殺しRJPとしてライブハウスでの活動も活発にされていて、新たなお客さんも増えてきているんじゃないですか?
チョビ「ライブで知って劇場デビューをしてくれる人がすごく多くて、逆に、劇場に観にきてくれていた人もライブハウスデビューしたり。それは劇団としていちばん望ましいし嬉しいことだなと思っています。生のエンタテインメントを観ることに目覚めるというのは、やってる方としてはとても意義があることで。良い作品を生むとか、賞をいただくとか、1万人呼びたいということよりも、シーンにきちんとお客さんを呼ぶことにいちばん責任を感じているというか。自分の作品だけに向かっている劇団ではないので、新しいお客さんが来てくださることがとても嬉しいです。初めて観る方にも演劇を好きになってもらえるような作品を意識して作っているので、演劇慣れしてなさそうな方が客席にたくさんいると、よしよし!って思っちゃう(笑)」
丸尾「もともと関西の小劇場から始めた劇団ですが、東京に出て、関西に帰ってくるようになってからは、いかに小劇場というカテゴリーの外からお客さんに足を運んでもらうかということを考えていて。お芝居に足を運んだことのない人たちにも観てもらえるように、活動していきたいですね」
2/10(金)より大阪公演がスタートする劇団鹿殺し『青春漂流記』。2/10(金)19時、12(日)13時公演のチケットは前売り完売とのこと。狙い目は11日(土)・12日(日)の17時公演。不器用すぎる人間たちの熱い闘いを全身で受け止めてみて。
(取材・文/黒石悦子)
(2012年2月 8日更新)
〈プレビュー公演〉
▼2月10日(金) 19:00
指定席-4000円
〈本公演〉
▼2月11日(土・祝)・12日(日) 13:00/17:00
指定席-5000円
ABCホール
[出演][劇作・脚本] 丸尾丸一郎
[出演][演出] 菜月チョビ
[音楽] 入交星士
[出演][音楽] オレノグラフィティ
[出演] 山岸門人/橘輝/傳田うに/円山チカ/
坂本けこ美/山口加菜/水野伽奈子/鷺沼恵美子/
浅野康之/峰ゆとり/近藤茶/富山恵理子/
高田聖子/廣川三憲/村木仁/谷山知宏
※学生は取り扱いなし。未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション■06-7732-8888
げきだんしかごろし/'00年、座長・菜月チョビが関西学院大学在学中に代表・丸尾丸一郎と旗揚げ。「老若男女の心をガツンと殴ってギュッと抱きしめる」を合言葉に、土臭さと激しさが同居する人間の愛おしさを表現する物語と、役者の身体、パフォーマンスに重点をおいた演出で観客を魅了。'05年に活動拠点を東京へ移して着実に経験を積み、'10年1月『岸家の夏』では東京・本多劇場に初進出。今作『青春漂流記』では、第三舞台、つかこうへい事務所など、名だたる劇団がホームとしてきた紀伊國屋ホールへ進出と、その勢いは止まることを知らない。
劇団鹿殺しオフィシャルサイト
http://shika564.com/wordpress/