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焼け野原の大阪で猥雑ながらもたくましく生きた
アパッチ族を描いたエネルギッシュな舞台は必見!
内外それぞれの角度から、本作への思いを聞いた

関西演劇界の活性化を目指して始まったピッコロシアタープロデュース。3回目となる今年は、1959年に開高健が発表した、戦後の大阪に存在したという“アパッチ族”を描いた小説『日本三文オペラ』を舞台化する。演出を手がけるのは、自身の劇団でも本作の上演経験がある南河内万歳一座座長、内藤裕敬だ。ピッコロ劇団の団員はもちろん、関西一円の小演劇界から多くのキャストが集結し、エネルギッシュな舞台を繰り広げるこの舞台。作品の魅力や、内藤裕敬の演出についてなど、ピッコロ劇団の孫高宏、今井佐知子、そして3年連続でプロデュース公演に出演している尼崎ロマンポルノ・掘江勇気に聞いた。

時は戦後間もない大阪。壊滅した日本最大の兵器工場・陸軍砲兵工廠跡地(現在の大阪城ホール周辺)には、鉄クズを漁って売りさばく泥棒集団「アパッチ族」が存在した。孫はアパッチ族の組の一つ、金組組長を、今井はその女房を、そして掘江は、時空を超えて彼らの中に迷い込んだサラリーマン・福助を演じる。

--間もなく本番ですが、現時点での舞台版『日本三文オペラ』の印象を教えてください。

掘江「福助は、原作ではホームレスですが、舞台では“無名”のサラリーマンです。稽古をしていても、日に日にあの世界に迷い込んでしまった気になっていますね。舞台上が本当に集落みたいに見えて。ホルモンを焼く匂いも立ち込めてますし」

孫「原作はホルモンばっかり食べているんですよね。焼きあがりが待てない人は生焼けで食べたりとか。そういう原作での食事シーンが印象に残っている人も多いと思うんですが、今回も舞台上でじゅうじゅう焼きます」

今井「私は食事のシーンに出ていないので、“みんな楽しそうでいいなぁ”って思いながら、袖から見ています(笑)。私も実際に食べるシーンを体験したいなと思いますね。今、福助役の掘江くんが“匂いとかしている”と言っているのを聞いて、私もあっちの世界の人間なのにな~って(笑)」

--孫さんと今井さんが演じる金夫妻は金組の組長ですが、アパッチ族全体のまとめ役にもなるんですか?

孫「内藤さんが抱く今回のテーマは“無名の人、名もない人”だと思うんです。なので、アンチヒーローの世界というか。ヒーローがいると、その人を軸にしてエピソードを展開していくと思うんですけど、今回はあえてそれをしていないんです。それをやってしまうと“無名の人たち”を描くことから反することになるので」

--全体がうごめいている感じですか。

孫「そうですね。一人一人の内情を細かく説明しないというか。もちろん芝居ですから、背景などの説明はありますが、人物の生い立ちなんかは放ったらかしですね。そういう人が40数名、ずらーっといる感じです」

掘江「現代での福助は最初、無名を装うんです。それがきっかけで“無名の人たち”のところに引き込まれてしまう。これは個人的な事ですが、アパッチ族の人たちは無名だけど、一人一人の個性や生命力が強いんです。なので、見ていて憧れが出てくるんです。福助は名前をなくしてあの世界に無理やり連れて来られたけど、“そのままいてもいいかな”という葛藤が自分の中にも出てきましたね」

--そうなんですね。では、内藤さんの演出を受けてみてのご感想を聞かせてください。

今井「楽しいです。時折、感動さえしています。それぞれの人に言うてはることが全員に当てはまることがすごく多くて」

孫「内藤さんがおっしゃることは、相手役とか、状況とか、そういうものに対して自分がどう受け止めているか。その結果、自分のセリフがこぼれるやろうということなんです。セリフ劇というのは、論旨を立てるために理解が必要です。でも論旨は論旨。“何が何して何とやら”というセリフがずらっと並ぶと、自分が言ったことに対して自分で受けるということも出てくるんですね。それができるか、できないかで大きく違ってくるんです。内藤さんはその大元のことを何回も、何回もおっしゃってくれますね。そして、今、このシーンがどうなっているかというガイドを丁寧に伝えてくれます。あんな丁寧に伝えてくれる演出家も、なかなかいないですよ」

掘江「たまに語気を荒げはるんですけど、それを受けた役者は乗ってくるんです。“ああ、そうそう!”って火が着く感じですね」

--稽古中、内藤さんからはどんな影響を受けていますか?

今井「改めてありますが、体験と現象と内藤さんがおっしゃるんですけど、言われていることはわかるけど…できないんですよね(笑)」

孫「そうやねん。内藤さん、7,8年くらい前からずっと同じことを言ってはんねやんか。当時は俺もわからへんかった」

今井「ああ、そうですか。孫さんでも?」

--孫さんの“わかった”という部分をもう少し詳しく教えてください。

孫「そうですね。どの芝居でも一緒だと思うんです。基本を大事にして、ちゃんとやれば。そして、今まさに、その場で起こっていることをどうするかというだと。先を見せてしまったら体験にはならないんです。この座談会でも、この先、話すことはわからないですよね。何が起こるかわからへん。だから人間って耳ダンボにして、状況を分析しています。舞台上でも、そういう状態でいられるかということですよね」

--でもセリフはあるんですよね?

孫「あります(笑)。もちろん、ルールはあります。そこが日常と違うところです。ただ、舞台に出たとき、相手の何を見て、どう聞くのか、ですよね」

--なるほど~。では、掘江さん、プロデュース公演に出られることのご感想を聞かせてください。

掘江「このプロデュース公演は3年連続で出させてもらうんですが、1年目は“皆さん、本当にうまいなぁ”と思いながら見ていて。自分は芝居の基礎とか習わなかったというか、発声とか、そういうことを全然やらなかったんです。でもそういうことをちゃんとやるのは大事だと思ったり。芝居は好きなように、やりたいようにするものだと思っていたんですが、技術面での基礎がしっかりしている方が自分の幅も広がるなと思って。すごく刺激になっていますね。3年前の自分を思い返すと、考え方とか大分、変わりました」

--では、3年前の自分に何と声をかけますか?

掘江「……このままじゃあかんぞと(笑)」

--ご自身の経験値としては、どうですか?

掘江「いや、すごいです。本当に。大きな劇場に出させてもらうことも勉強になります。大人数なので、そこここに刺激がありますね。みなさん面白い人ばかりで、大変勉強になってます」

--孫さんと今井さんはそんな掘江さんをご覧になって、この3年で変わったなと思うことはありますか?

孫「そうですね。逆に、変に変わらないからいいなと思いますね。変にうまくやろうと思わないところがいいなと思うし、このシリーズに関しては役に恵まれていると思うんです。前回の『天保12年のシェークスピア』のときも、役そのものじゃないの?と思うぐらはまっていて。まあ、そのものでもなかったんですけど(笑)。今回も福助の役ですが、アパッチ族に巻き込まれていくことが辛そうに見える人だったら、先が見えて面白くないんですよね。でも、このややふまじめそうな人が(笑)、もみくちゃになっているのがいい。役に合ってるなと思いますね」

今井「人のことはすごくよく見えるから、掘江くんは楽しそうやなって思いながら見ています(笑)」

掘江「恵まれてますね、確かに。ええ役をやらせてもらっています」

--演出家を招いて、関西一円の役者さんも終結して行うプロデュース公演。ピッコロ劇団に所属するお二人はどんな刺激を受けられますか?

孫「めっちゃ楽しいしです。今回の『三文オペラ』は特にプロデュース公演に合っていると思います。わかりやすい群集劇で、全員でガーッと出ることが多いので、楽しいですね。これだけ大勢の人がいると、一緒に立っているだけで大きなエネルギーをもらっている気がします。舞台に出ただけでエネルギーをもらって、安心するという感じがあります」

--なるほど。では最後に、見どころを教えてください。

掘江「福助というキャラクターは、アパッチ族の世界に迷い込む前は個性のようなものが何もない、現代に飽きている現代人というイメージがあるんですけど、その現代人が、何にも足りてないけど強く生きている人たちの中でどう変わっていくのかというところを見てほしいです。現代人はそこで何を発見できるのかと自分もずっと、試しながら稽古をしているので、本番はお客さんも何かを発見していただけたらいいなと思います」

孫「小学生の頃、休館になった映画館に忍び込んだことがあるんです。真っ暗なんですけど、よく見たら昔の映画のポスターが貼ってあって、座席もそのまま残されていて。でも、すっごい朽ち果ていて、スクリーンも裂けてるんですよ。その中にめっちゃくちゃ怖いオッサンがおって、箒で思いっきりどついてくるんです。追い掛け回されて。必死で逃げた思い出があるんですけど、『三文オペラ』に出てくるアパッチ族は、そんなことを大人になってもやっている人たちです。そこに行ったらお金に換る金属があると言って毎日、冒険みたいなことをしている。そして、いろんな人が適材適所で働いているんです。かつ、報酬は全員一緒。それは、現代の資本主義社会にはない、ある種の理想郷だと思うんです。そういう世界を覗き込める芝居ですので、ぜひ観に来てください!」
 




(2012年2月21日更新)


Check
写真左より、孫高宏(ピッコロ劇団)、今井佐知子(ピッコロ劇団)、掘江勇気(尼崎ロマンポルノ)
      
      

●公演情報

兵庫県立ピッコロ劇団
『日本三文オペラ』

発売中

Pコード:416-020

▼2月23日(木)19:00

▼2月24日(金)・25日(土)14:00/19:00

▼2月26日(日)14:00

兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

一般4500円(指定)

大学・専門学生3000円(指定)

高校生以下2500円(指定)

[原作]開高健

[劇作・脚本][演出]内藤裕敬

[出演]荒谷清水(南河内万歳一座)/石本伎市朗/今井佐知子(ピッコロ劇団)/今仲ひろし(ピッコロ劇団)/榎本祐希(劇団ひまわり)/太田清伸/大塚雄也(劇団演陣)/岡田力(ピッコロ劇団)/樫村千晶(ピッコロ劇団)/金久寛章/亀井妙子(ピッコロ劇団)/加門功/北裏剛士(南河内万歳一座)/木全晶子(ピッコロ劇団)/こんどうけいいち(演劇集団ザ・ブロードキャストショウ)/阪上洋光(劇団いちびり一家)/篠浦ことえ(空間悠々劇的)/鈴木英之(劇団ひまわり)/鈴村貴彦(南河内万歳一座)/角朝子(ピッコロ劇団)/孫高宏(ピッコロ劇団)/竹内宏樹(空間悠々劇的)/橘義(ピッコロ劇団)/田中よし子(ピッコロ劇団)/谷奧弘貢(南河内万歳一座)/道幸千紗(ピッコロ劇団)/野秋裕香(ピッコロ劇団)/濱﨑大介(ピッコロ劇団)/原竹志(ピッコロ劇団)/平井久美子(ピッコロ劇団)/福重友(南河内万歳一座)/穗積恭平(ピッコロ劇団)/掘江勇気(尼崎ロマンポルノ)/増井友紀子(悲願華)/峯素子(遊気舎)/森田真和(尼崎ロマンポルノ)/森万紀(ピッコロ劇団)/森好文(ピッコロ劇団)/山口満由(空間悠々劇的)/吉江麻樹(ピッコロ劇団)/よしひろ/吉村祐樹(ピッコロ劇団)/しましまんず 池山 心(よしもとクリエイティブ・エージェンシー)

[問]兵庫県立ピッコロ劇団[TEL]06-6426-8088

※未就学児童は入場不可。

『日本三文オペラ』特設サイト
http://hyogo-arts.or.jp/piccolo/gekidan/sanmon/index.html

●あらすじ

現在の大阪城ホール周辺に、かつて日本最大の兵器工場・陸軍砲兵工廠があった。
しかし、昭和20年8月14日、終戦の前日、白昼のすさまじい空襲により壊滅。広大な敷地には大砲、戦車、鉄骨などの膨大な量の鉄が残された。
やがて朝鮮戦争が始まると、鉄の値段は急騰。鉄クズという名の宝物を捜しまわる連中がこの地に集まって来る。夜な夜なこの国有地に忍び込み、綿密な作戦と組織力を駆使して警察を尻目に国有財産である鉄を運び出しては、売りさばくドロボー集団。彼らは「アパッチ族」と呼ばれた。
腹をすかせて新世界界隈をうろついていたフクスケは、見知らぬ女に呼びとめられ、モツ丼をおごってもらったのと引き換えに、キム親分率いるアパッチ族の手伝いをすることになる。
そこは、名前も素性も知れない底辺に生きる人間たちが、肉体と異能を結集し、ただ「食べる」ためにがむしゃらに鉄クズにへばりつく、醜悪なエネルギーに満ちた世界だった。
やがて、大きな獲物をめぐって情報が錯綜し始め、それぞれの欲望と不信感が渦巻く中、組織の統制は崩壊していく。
(公式サイトより)