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ホーム > インタビュー&レポート > 2月20日(月)から3日間、開かれる『AIRミーティング』 『アーティスト・イン・レジンデンス』とは何なのか その概要と目的についてはもちろん、作品を上演する 注目のアーティスト5組についてインタビュー!

2月20日(月)から3日間、開かれる『AIRミーティング』
『アーティスト・イン・レジンデンス』とは何なのか
その概要と目的についてはもちろん、作品を上演する
注目のアーティスト5組についてインタビュー!

昨年度から『国際舞台芸術ミーティング in 横浜』として生まれ変わった"TPAM in 横浜"。TPAMとは舞台芸術見本市のことで、その始まりは1995年。舞台芸術作品の流通促進を目的としたそれは、2005年に『東京芸術見本市』と改称、同時代の舞台芸術に携わるプロフェッショナルのネットワーク構築に重きを置くようになった。そして2011年からはさらに『国際舞台芸術ミーティング in 横浜』と改称し、元々は“MARKET”の意味を持っていた「M」を“MEETING”に意味づけ、情報交換やネットワーキング、議論、交流などのための国際的プラットフォームとしての機能を果たすようになった。そして2012年には、その併設事業として開催される『AIR(アーティスト・イン・レジデンス)ミーティング』(以下、AIRミーティング)が京都で開かれることとなった。そこで、全体コーディネートを務める橋本裕介氏に、この『AIRミーティング』の概要や目的を聞いた。

 

橋本裕介(以下、橋本)「横浜で開かれているTPAMで関西のアーティストを紹介することはありましたが、遠方で費用もかかるという問題がありました。そこで、『AIRミーティング』では、逆に関東から京都にアーティストを観に来てもらうのも一つの策ではないかということで、今年から始まりました。アーティストがどういう環境で作品を作っているのか、街の雰囲気も同時に知ることができるので、いい機会だと。そして、『アーティスト・イン・レジンデンス』(以下、AIR)という言葉はまだまだ聞き慣れないと思いますので、実際にそれを行っている人や運営者の話を聞いたりする。そして『AIR』という活動で出来あがった作品を観てもらおうという企画です」
 
今回、“SHOW CASE”で舞台を上演するのが、地点、男肉 du Soleil (オニクドソレイユ)、京極朋彦 、杉原邦生/木ノ下歌舞伎 、川崎歩の5組だ。
 
橋本「この5組は僕が選んだのですが、関西で『AIR』を経て出来た作品を持ってきてもらう方や、そういったことを経験している方たちです。また、せっかくなのでこの機会に海外の人にも観てもらいたいと思う若手もピックアップしています」
 
そして順に、5組それぞれの特徴や見どころを語ってもらった。まずは男肉 du Soleilから。
 
橋本「彼らは近畿大学で舞台芸術を専攻する団長、池浦さだ夢を中心に結成されたグループで、年のころは大体20代後半ですね。基本的には男だけで構成されていて、舞台ではほぼ半裸です。彼らは一般的な、いわゆるイケメンではないんです。趣味もゲームとかで、しかもギャルゲーとか、そういうものが好きで、非常に屈折した思いを抱えている。ただ、オタク的な文化の中だけで留まっているのではなく、自分たちの抱える思いを何か別の形で出せないかということで、演劇という形に昇華させています。近大の舞台芸術専攻ということで、真面目に演劇やダンスの勉強もしてきているので、半分戦略的にハチャメチャなサブカルチャーみたいなものをぶつけています。主流と言われている演劇の流れに対してカウンターパンチを与えられるのではないかという思いをどこかしら、戦略として持っている気がしますね。日本の若者は弱いというようなことがよく新聞や何かで言われたりするけれども、いやいやそんなことない、こんな人たちもいますよという意味でも、彼らは日本の若者を一括りにできない、いい例だなと思います」
 
そして、その作風はというと。
 
橋本「物語の展開は何となくロールプレイングゲームのようなイメージがあって。『はい』にするのか、『いいえ』にするのかというようなことをお客さんと一緒に考えながら進めていくので、物語の展開のし方という意味でも、今を切り取っている感じがしますね。海外のアート関係者は、日本のポップカルチャーをちゃんと作品に取り入れているアーティストに割合、注目しているんです。そういう方たちが男肉の舞台を観たら、もうびっくりすると思いますね」
 
続いては、京極朋彦。
 
橋本「京極さんは京都造形大の卒業生で、後にご紹介する杉原邦生さんの『三番叟』にも出ています。彼は学生の頃から先生のつてを生かして、プロの公演にダンサーとして出ていて、めちゃくちゃ身体能力が高いですね。京極さんが今まであんまり目立っていなかったのは、いろんな人の公演にいちダンサーとして出ていたので、なかなか彼自身の名前が表に出ることがなかったんです。でもその分、いろんな経験を積んで、2、3年前からは自分の作品の舞台をやっています。2010年の国際舞台芸術フェスティバル『KYOTO EXPERIMENT』の若手企画でも出てくれて、この時に一度、『カイロー』を上演しています。その若手企画には、杉原さんも男肉も出ていましたね」
 
そして川崎歩について。
 
橋本「川崎さんもダンサーで、地道な活動をずっと続けていてます。いろんな人の舞台に出演していたんですが、4、5年ぐらい前から自分で作品を作るようになり、神戸の新長田にある劇場、DANCE BOXのレジデント・アーティストとして活動されてきました。レジデント・アーティストとは、劇場を一定期間、ホームとして使用することのできる舞台制作者のことです。約2年間の契約でそこに滞在して、機材を使って、いろんなことを試しながら作品を作っていけるんですね。また、創作活動にある一定期間を保障してくれているので、いきなり結果を出せということもありません。満期になったときにちゃんといい作品が出来あがればいいというような付き合いを劇場としている人なんです。川崎さんには今回、DANCE BOXで去年の7月までにある一定のところまで仕上げた作品を完成させて持って来てもらいます。それだけに『AIR』という事業において非常に重要な役割を担っています。劇場がアーティストを住まわせて、丁寧に作った作品をお見せできるという、いい例になると思います」
 
お次は京都芸術センターの和室でチェーホフの『かもめ』を上演する劇団、地点について。
 
橋本「DANCE BOXほど強力にレジデントという括りはありませんが、地点も普段から『AIRミーティング』の会場である京都芸術センターで稽古をしていて、芸術センターの和室で作品を作ったりしています。それは、その場所を知っているからこそできた作品ということでもあるので、そういう意味では、今回の理念としてもつながるものがあると思います。『AIR』にはアーティストと場所が一緒に育っていきましょうという目的もありますし、活動する場や土地からインスパイアされるきっかけになるプログラムだと思うんです。川崎さんの『ぶらウン之助』も映像を使いますが、それはDANCE BOXが位置する新長田の町を川崎さんが撮影して編集したものです。そこに滞在する意味を作品に取り入れることも、活動の一つです」
 
地点による『かもめ』は昨年の『KYOTO EXPERIMENT』でも和室とART COMPLEX 1928で上演された。その時の反応はどんなものがあったのだろう。
 
橋本「海外の方も観てくださったんですが、和室という“ジャパニーズ・タタミ・ルーム”のイメージからもまた離れたものを見せてくれたということに驚きを持たれたりとか、あるいはロシアの有名な作家の作品を、日本人が日本人の身体感覚で上演していることに、“こんな『かもめ』があったのか”という思いがあったようです。100年近く前にチェーホフの『かもめ』を翻訳して、鼻をつけたりとか、金髪のかつらをして、いかにもロシア人になるように頑張って上演していた時代があったことを考えれば、ようやく日本人の身体にフィットするやり方で『かもめ』を解釈して、上演できるようになったので、そういう意味でも評価は高いと思います」
 
今回、劇場となる“和室”とは定員24人のお茶室。昨秋の『KYOTO EXPERIMENT』と同様、舞台も客席も同じ明るさで、手を伸ばせば俳優たちに届きそうな距離での上演となる。では昨秋上演した際の手ごたえを地点の主宰者・三浦基はどのように感じていたのだろうか。
 
橋本「地点は、チェーホフの作品では『かもめ』のほかに『ワーニャ伯父さん』『桜の園』、そして『三人姉妹』と、そのあたりを一度、すべて上演しています。その中で特に『三人姉妹』が非常に評判よく、三浦さんにとっても代表作だったそうです。『KYOTO EXPERIMENT』での『かもめ』は、それに匹敵する作品になったとおっしゃっていましたね。地点のチェーホフ・シリーズの中では、『かもめ』も代表作になったと」
 
そして最後は、『三番叟』を演じる杉原邦生/木ノ下歌舞伎。
 
橋本「『三番叟』は世に送り出されて何百年も経っている作品で。伝統芸能の家に生まれて、ずっと受け継いでいる方がそのまま上演されるのならいいけど、そうじゃない人間がただまねごとだけをしても意味がないということで、杉原さんは現代のスタイルを探しながら取り組んでいます。この写真は学ランとポンポンを用いて応援団っぽいスタイルで上演しました。杉原さんは2008年に『三番叟』を初演しましたが、その時よりかなり変わると言っていましたね」
 
では、この『AIRミーティング』を、どのように楽しんだらよいだろうか。
 
橋本「地元の劇場関係や、アート関係者にはAIR MEETING』の方に来てほしいですね。そして一般のお客様には『SHOW CASE』の方を観ていただき、『AIR』とは何かなとイメージしてもらいたいですね。そして、もう少し踏み込んで知りたいと思う方は『AIR MEETING』にも来てほしいです。『AIR』について知っていることがみんなバラバラなので、『AIR MEETING』では、一度それを出し合って、確認しましょうということをします。そこからじゃないと、どういう『AIR』がいいのかという話も進んでいかないと思ったんです。なので、アーティストには事前アンケートに答えていただき、特にどういうところが問題と思っているのか、そもそも『AIR』をやりたいと思っているのかなど、アンケートを基にして話していこうと思っています」
 
『AIRミーティング』は日本で初の開催となる。これを機に、どのように発展させていきたいと考えているのだろうか。最後に今後の展望について聞いた。
 
橋本「今後に関しては特に『AIR MEETING』での『セッション3:AIR間の連携は可能なのか?」が重要になります。『連携は可能なのか?』と疑問形ですが、連携させていきたいですね。それは日本だけでなく、アジア地域でも連携できるようになればいいと思っています。日本もそうですし、アジア各国はまだまだ、ヨーロッパのほうに比べると創作環境が十分ではないと思うんです。そこで、そういうもの同士がある程度連携をして、少ない予算でもみんなを支えていけるようなチームワークを作っていくということが必要だと思っています。今後も、こういうことを定期的に開くことによって、いいアーティスにちゃんと『次はここでどうぞ』と、場所を巡っていただけるような状況にしたいと思っています」



(2012年2月14日更新)


Check
KYOTO EXPERIMENT 2011 地点『かもめ』(2011年9-10月、京都芸術センター 和室「明倫」) 撮影:阿部綾子
男肉 du Soleil『HIPHOP侍vsレゲエ侍』(2011年12月、in→dependent theatre 1st) 撮影:山口真由子
KYOTO EXPERIMENT 2010 fringe"HAPPLAY?" 京極朋彦『カイロー』(2010年11月、アトリエ劇研)
木ノ下歌舞伎『三番叟』(初演 2008年5月、アトリエ劇研) 撮影:竹崎博人
DANCE BOX レジデント・アーティスト公演『ぶらウン之助』(2011年7月30日、Art theater dB kobe)

●公演情報

『アーティスト・イン・レジデンス(AIR)
ミーティング@TPAM &ショーケース in 京都』

AIR MEETING
▼2月21日(火)16:00~18:00
セッション1:あなたがAIRについて知っていること

▼2月22日(火) 14:00~16:00
セッション2:夢のAIRを描いてみよう!

▼2月22日(火) 20:00~21:20
セッション3:AIR間の連携は可能なのか?

京都芸術センター 大広間

料金:500円(予約優先/ショーケースの入場券提示で無料)

ファシリテーター:古後奈緒子 ほか

SHOW CASE

A Program
地点『かもめ』
▼2月20日(月)19:30・21日(火)14:00/20:00・22日(水)17:30
京都芸術センター 和室「明倫」
*各ステージ限定24名
[原作]アントン・チェーホフ
[演出]三浦基
[翻訳]神西清
[出演]安部聡子/石田大/窪田史恵/河野早紀/小林洋平
上演時間:60分

B Program
▼2月21日(火)19:00
京都芸術センター 講堂

男肉 du Soleil 『男肉!~we are the world~』
[団長]池浦さだ夢
[出演]陰核/江坂一平/高阪勝之/小石直輝/城之内コゴロー/すみだ/チェン/吉田みるく
上演時間:約40分

京極朋彦『カイロー』
[振付・演出・出演]京極朋彦
上演時間:45分
★B Programは、男肉 du Soleilと京極朋彦の連続上演。

C Program

▼2月22日(水)18:30
京都芸術センター 講堂

杉原邦生/木ノ下歌舞伎『三番叟』
[演出・美術]杉原邦生
[監修]木ノ下裕一
[出演]芦谷康介/京極朋彦/竹内英明
上演時間:約30分

川崎歩『ぶらウン之助』
[演出・振付・映像・出演]川崎歩
上演時間:35分

★C Program は、杉原邦生/木ノ下歌舞伎と川崎歩の連続上演。

A・B・C Program 各2000円(当日券500円増し)

2Programセット3500円(予約のみ/A(要日時指定)・B・Cプログラムの内2つをご覧いただけます)

フリーパス券 4500円(予約のみ/期間中上演される演目をすべて1回のみご覧いただけます)

[問]AIRミーティング@TPAM&ショーケース
in 京都 事務局[TEL]075-752-4311
(平日 11:00~19:00)

詳細・ご予約は『AIRミーティング』公式サイトまで!
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