ホーム > インタビュー&レポート > 映画『パレード』の行定勲監督が、自身の手で舞台化! 演出家としてどう向き合うか、その意気込みを聞いた。 そして主演の山本裕典にも本作についてインタビュー。 それぞれの言葉をぜひ!
まずは行定勲のインタビューからご紹介。はじめに自らの手で舞台化するにあたっての意気込みを聞いた。
行定勲(以下、行定)「普段は映画監督ですが、今回は舞台の演出をします。舞台は3度目になりますが、演出をするたびに映画にフィードバックされていて、映画に対して違う見方ができています。だからまた演出したいと思っていました。小説の『パレード』には約9年前に出合っていて。作者の吉田修一さんも同じ九州出身で、同じ時期に上京して、当時のことにシンクロした部分がありました。地方出身者が都会に侵食されてゆく感じが小説『パレード』にはあって、恐怖を感じたんです。東京って知らないところで自分たちが違う顔で、別の仮面をかぶっている場所なのかもしれないって。だから青春群像に恐怖もプラスして、映画では東京という場所をすごく意識して撮りました。今回は舞台なので、設定は部屋の中だけになります。なので、演劇では密室劇をやろうと。どうやってそれぞれの化けの皮がはがれるのか、そういうところを舞台では見せていきたいです」
そして、さきに行われた制作発表で出た『パレード』舞台化を「他の人の手に任せたくない」という発言について、その真意を問うた。
行定「吉田さんに『次は行定さん、どういうふうに表現するんだろう』って言われたから、やるしかないなと(笑)。まあ、映画を撮ったことで、自分の中でひとつの成果があって。『パレード』には、1つの家で共同生活する人の事情、すれ違い、食い違い、無関心さが描かれています。部屋の空気感や内外にいる人の距離感、空虚な会話が流れていく時間に独特な面白みがある。映画でも楽曲は1曲しかなくて、同じ曲でも最初は明るく聴こえたのに最後には気持ち悪く感じたりと、そういうアプローチをやれて面白かった。それを演劇化するには、映画とは異なるキャスト4人が別の部屋をルームシェアしていると考えて、別のサンプルを見るという感覚でやりたいなと。そうやって『パレード』は延々と作っていけるのではないかと思ったんです。集まった人たちにどういう摩擦があって、どういう空気感があるのか。同じ劇場でどう感じるのか。僕は映画で一度、経験したので、舞台もやろうかなと思いました」
続いて、脚本を担当する蓬莱竜太について聞いた。
行定「僕からオファーしました。蓬莱くんの舞台を何作か観て、若いけど幅を持った仕事をされている方だなと思ったんです。僕と吉田さんが同い年で、蓬莱くんは僕たちより8歳くらい下。蓬莱くんの方が『パレード』に出てくる人物たちに感覚が近いんですよね。40歳を過ぎると、直結した若者像じゃなくなるし、蓬莱くんだったら、僕とは違う切り口で描き出してくれるのではないかと思って。蓬莱くんはダークな部分も持ち合わせているし、彼の(他作品)密室劇もすばらしかった。自分の知らない外の世界を想像させる力が欲しくてお願いしました」
今回のキャスティングの狙いは、どこにあるのだろう。
行定「キャストは“これをやりたい”という意思の強い人がよかった。先に映画版があるので舞台版のキャスティングは苦労すると思っていました。しかも、映画版には藤原竜也など演劇界でも活躍する俳優が出ているわけだから。その二番煎じになってしまうのも嫌がられるんじゃないかと…。だからこそ、驚くような作品にしなければと思っていました。そして、この新しい5人の俳優たちが集まったことも嬉しく思います。皆、これまで一緒に仕事したことのない俳優たちですが、(制作発表で)5人並んでいる姿を見たら、このまま映画もできるんじゃないかとも思いました。そういう意味でも新鮮ですね。演劇人と舞台をするのも面白いけど、映画やドラマを主にやっている人たちと格闘することで、(生の舞台で)『何を直接、見られるのか』ということを追求したいと思います。そして、設定は映画と一緒だけど、ことごとく違うものにしたいと思っています。映画は映画、舞台は舞台。あの子達は、ベストキャストだと思いますね」
先ほど「舞台での演出経験を映画にフィードバックしたい」と語った行定。その意味について詳しく聞いてみると…。
行定「映画は奥に手を伸ばせば伸ばすほど、届かないものなんですね。どんどん過剰になる。ロケ場所1つにしてもイメージに合うものを徹底的に探したり。でも、そうやってロケハンしても、いざ撮影するときには違うものになっていたりして、僕個人では満足するものがないんです。演劇は、それを削ぎ落としていくんですよね。この空間で感じ、そこでしか出来ないものを獲得する。舞台『フールフォアラブ』(2007年)を演出したとき、そう思いました。そこにある劇空間だけで十分表現できるのだという。それで『今度は愛妻家』(2009年)を思いついた。いわば演劇の映画版を作ったんです。そこにある空間だけで覚悟してやるという発想は、演劇がなかったら出てこなかったかもしれない。舞台『パレード』もそれに近いものを考えています。東京のある一室。観ているのはこの部屋だけで、外側ではどういうことが起こっているのかわからない。そして、どこに着地するのか。そこまでやって『パレード』が完結するような気がします」
では演劇の魅力については?
行定「演劇をやると役者を好きになりますね。同じ舞台に立たされたような気持ちになるんです。上演中は毎日、違うものを見たいですね。それが理想です。映画は監督のものだとよく言われますが、舞台は俳優のものだと思いますね。舞台はどの日がベストになるかわからないですし、俳優にかかっている。あと、舞台という限られた空間でやることで、映画にも覚悟ができましたね。個人的にも暇があれば演劇を見に行ってますね。俳優が目の前で演じるという、その姿が面白いですね」
最後に舞台『パレード』への意気込みを聞いた。
行定「演劇は手探りだけど、僕自身、観劇だけで培ってきたものをどう見せられるか。もしかしたらキャストの方が経験があるかもしれない。幕が開けたら、舞台を全部見て、その日の感想を言い続けます。ダメ出しではなくね」
そして、舞台『パレード』では、原作とも映画ともまた異なる結末を用意しているとのこと。原作ファンも、映画ファンも、また新たなる『パレード』に出合えることは自明の理、舞台という限られた空間でいかにして都市に住む若者たちの群像劇を描き出すのか。その手腕に期待したい。
【あらすじ】
都内の2LDKマンションでルームシェアをしている、年齢も職業も異なる4人の若者たち。先輩の彼女に恋する大学3年生の良介、若手人気俳優と自称熱愛中で無職の琴美、イラストレーター兼雑貨屋店長の不思議女子未来、映画会社勤務の几帳面な直輝。
それぞれがそれぞれの何かを抱えながらも干渉せず、過ぎてゆく毎日。そんな4人の部屋にある朝、サトルが現れる。サトルは、公園で男娼をしているところを酔った未来に声をかけられついてきた男の子だった。
なんとなく一緒に住むことになったサトル。折りしも近所で女性を狙った連続暴行事件が起こり始める一方、4人がそれぞれに抱えていた問題も露呈し始める。
流れるように過ぎていた4人の毎日が少しずつ変わり始める…。暴行事件の真犯人とは!?そして、その結末を知った5人の選択とは!
(公式サイトより)
【配役】
杉本良介……山本裕典
大垣内琴美…本仮屋ユイカ
相馬未来……原田夏希
小窪サトル…竹内寿
伊原直輝……福士誠治
(2012年1月26日更新)
発売中
Pコード:415-882
▼2月4日(土)13:00/18:00・5日(日)13:00
梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
全席指定-8500円
[原作]吉田修一『パレード』(幻冬舎文庫)
[脚本]蓬莱竜太
[演出]行定勲
[出演]山本裕典/本仮屋ユイカ/原田夏希/竹内寿/福士誠治
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション[TEL]06-7732-8888
舞台『パレード』公式サイト
http://parade-stage.jp/