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ブラックユーモアあふれるステージを
関西発のクロムモリブデン、震災がモチーフの新作を上演!!

痴漢、振り込め詐欺、毒殺、電車事故、ドラッグ……。時事的なモチーフを取り入れながら笑いを散りばめ、ポップかつブラックユーモアあふれる舞台を見せる劇団、クロムモリブデン(以下クロム)。個性的な役者たちが展開するステージは、スピーディーで痛快。観客は笑って観ていながらも最後にはカタルシスを覚える。そんなクロムが上演する新作『節電ボーダートルネード』は、震災をモチーフに作られたストーリー。本作について、劇団員の森下亮に訊いた。

――まずは、簡単に最近のクロムの展開から教えてください。

「最近は社会的なことをモチーフにしながら、いかにエンタテインメントにできるかということをやっています。社会派劇団というような重いものではなく、『みんなこんなことも思うよね』ということとか、観てスカッとできるとか、重苦しいことやってるのに気付いたら泣いていたっていうような。そういう浄化作用があるものだと思います。音楽のライブに行ったらいつの間にか泣いてることってありますよね。そんなふうに、泣かせるようなことはしていないのに最後には泣いている方が割と多いんです。前回は『裸の女を持つ男』という、薬物中毒をモチーフにした話を東京だけで上演したんです。不謹慎ですが、みんなちょっと興味がわくというか……。確かにそんなことあったら面白いかもね、という感じの話を。ドラッグは最初のモチーフでしかなくて、そこからいろんな幻覚の役が出てきて、誰が幻覚で誰が現実? 本当のこと言ってるのは誰やねんっていう展開。そんなふうに、僕たちの舞台は“何が本当で何が嘘か”というような世界が多いですね」

――そして今回は3月に起きた震災がモチーフとのことですが。

「僕たちは元々関西の劇団で、阪神淡路大震災のときに一度公演が中止になってて。公演の1ヵ月前に震災が起きて、公演を予定していた伊丹のAI・HALLが使えなくなったんです。そのときも震災のことをテーマにしているお芝居は結構あったんですが、クロムは主宰の青木の意向で震災には関係のない、震災前にやりたかったものをやったんです。でも今回は震災に対して湧きあがるものがたくさん出てきたようで、すぐにでもやりたいと。簡単には扱えないテーマですが、いかにそれをクロムらしくエンタテインメントにできるかっていうことを考えています」

――ストーリーはどのように展開していきますか?

「竜巻が起きた隣の町、言わば被災地の隣の街が舞台です。竜巻によって刑務所が倒壊してしまい、刑務所から凶悪犯たちが街に逃げてくるという噂でもちきり。凶悪犯の対処に追われている警察、そんな警察に相手にしてもらえない街の人、精神病の患者、凶悪犯というように、いろんな人たちが絡み合っていて、大混乱です(笑)。それぞれが正しいと思っていることが違う。深刻なところからちょっとズラして笑いにしながら、誰にとって何が大事とか、物事に対しての対処の仕方、正義感のズレというものが見えてくるような作品になっています」

――価値観の違いのようなものが露呈していくわけですね。

「いつものことですが、最終的に答えを出すことはしないと思います。歌って踊って終わる感じで(笑)」

――モチーフだけ聞くと一見重い印象を受けがちですが、実際に観るといつも笑いがたっぷりで。皮肉を潜ませながら全て笑いに変えていきますよね。

「お客さんに笑ってほしいということはいつも考えてやっています。今回も、タイトルにあるように節電のことも取り入れていますが、全て笑っていただけるような仕組みにしていますね。今回は“震災について”というよりも、震災によって沈んでいる人たちをスカッとさせたい。この芝居を観ている時間を楽しんでほしい、ということだと思うんです」

――さらに今回は、関西でも注目を集めている劇団、柿喰う客から七味まゆ味さんが客演とのことで。クロムの作品世界にはピッタリはまりそうです。

「そうですね。青木の中で七味さんのイメージが整ったようで(笑)。精神病患者で躁病の役をやっていただきます。クロムにはとても合っていると思いますよ」

――毎回、終盤にかけて収束していく演出を楽しく拝見しているのですが、今回も何か面白い演出が見られそうですか?

「現段階では、セリフまわしで特徴のある演出がされています。本番でもこのまま取り入れることになれば、かなりスピーディーな展開になるんじゃないかなと。ただ、台本自体が変わることはないんですが、稽古の途中で一回進めていた演出を壊してしまうことが多々ある。役者から面白いものが出てきたらそれを伸ばそうとするんですよ。なので、どんな演出になるかは僕たちにも読めないんですよね」

――役者さんを信頼しているということですよね。

「台本と役者は並列で考えていると思います。この台本でどのように見せるか考えるから、自分たちもこれでどうできるかやってみるっていうような感じですね」

――先ほどお話にあった『裸の女を持つ男』の上映会とトークショーもありますね。

「そうですね。これは前述のドラッグをモチーフにした作品です。クロムの上映会はただ単に録画映像を流すだけではなく、本番と同様に音響家が生オペをしながら見せるので、舞台上演時と同じように客席がズンズンと揺れます。トークショーではビデオで出てきたキャラクターをそのまま出したりと、いろいろ楽しんでいただけるようにしていますので、こちらにもぜひお越しいただければと思います」

社会的な話題を、ピリリと毒を潜ませながら笑いに変えるクロムの新作。震災をどのようにエンタテインメントに昇華させるのか、ぜひ劇場でご覧あれ!

(取材・文/黒石悦子)




(2011年11月11日更新)


公演情報

クロムモリブデン
「節電 ボーダー トルネード」

発売中
Pコード:415-642

●12月1日(木)~4日(日)

12月1日(木)19:30

12月2日(金)19:30

12月3日(土)14:00

12月4日(日)13:00/17:00

HEP HALL

一般前売-3500円

[劇作・脚本][演出]青木秀樹

[出演]森下亮/金沢涼恵/板倉チヒロ/奥田ワレタ/久保貫太郎/渡邉とかげ/幸田尚子/小林義典/武子太郎/花戸祐介/七味まゆ味

[問]クロムモリブデン[TEL]03-5310-1738

※未就学児童は入場不可。

ただいま絶賛発売中!
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プロフィール

‘89年、脚本・演出の青木秀樹を中心に結成。90年代後半~00年代初期にかけては「トランス・ナンセンス・バイオレンス」をテーマに、ノイジーな音響・照明、鉄やジャンクを駆使した美術、過激な衣装などを多用。アート性があり、パフォーマンス色豊かでパワフルな舞台を展開。近年は、その独自のスタイルを基盤としながら、ポップさを前面に押し出したコメディ色の強い作品に移行。毒を秘めつつもあくまで娯楽作品に仕上げている。音響を代表する質の高いスタッフワークも魅力。