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作品『最後の炎』についてはもちろん、
“大阪と仙台の関係”についてもインタビュー!

関西を拠点に活動するエイチエムピー・シアターカンパニー(以下、HMP)が、「同時代の海外戯曲」シリーズを開催する。このシリーズはその名の通り、現代に生きる海外の劇作家の作品を上演するというプロジェクト。10月20日(木)から伊丹・アイホールで第一弾を上演、作品はドイツ人劇作家デーア・ローアが2008年に書いた『最後の炎』だ。
ある交通事故から係わりを持つことになった人間関係を描いた本作は、人間の持つ弱さと強さが色濃く映し出されているという。そしてそれは、現代の社会を反映しているとも。傷つけ合いながらも修復を試み、やがて再生の火を灯したい。そんな思いも込めて作られた本公演。俳優陣の中には仙台からの客演の姿もある。作品内容と併せて、大阪と仙台の交流や演劇事情についても聞いた。

―― ぴあ関西版WEBです。今日はHMPから女優の高安美帆さんと、仙台から参加されます澤野正樹さんにお話をお伺いします。どうぞよろしくお願いします。まず、HMPと仙台とのつながりを教えていただけますか。

高安美帆(以下、高安)「仙台は演出の笠井の故郷なんです。そして、仙台からは三角フラスコさんという劇団がよく大阪に公演で来られていて、劇団間の交流がありました。そこでHMPもふるさとで上演しようと、去年の秋に初めて仙台公演をしました。それがとてもよかったのでまた来ようとすぐに決めたんですが、その後すぐに震災があって」

―― そうなんですね。3月11日、澤野さんは大丈夫でしたか?

澤野正樹(以下、澤野)「大丈夫でした」

―― 今回、『最後の炎』は仙台公演も行われますね。

高安「公演するかどうか考えたんですが、『仙台でぜひやってほしい。演劇ができる環境をもう一度、取り戻したい』というお話をいただいて…。そして、仙台では俳優さんの活動もなかなか難しいと聞いたので、大阪に来てもらって活動を一緒にするということで仙台の援助ができたらいいなと思って澤野くんをお呼びしました」

―― 澤野さんとはどのようなご縁なんですか?

高安「去年の仙台公演で出ていただいて、知り合いました」

―― なるほど。では、作品についてお伺いします。今回から『同時代の海外戯曲』というシリーズを始められました。

高安「HMPは1999年、近畿大学の舞台芸術学科で立ち上げて、ドイツの戯曲を上演するところからスタートしました。それから10年ぐらい経ちまして、いろんな作品を上演していたんですが、やはり『ハムレット』とか古典作品を改作したものを上演することが多かったので、これからは最新の現代作品を紹介するコーナーを作ろうということになりました。今回の『最後の炎』は2008年に日本語訳されて出版されたのですが、本公演が日本初上演になります。翻訳出版されてすぐに読んだとき、とても面白かったのでぜひ紹介すべきだと考えていたんですね。そこで、この作品ありきで『同時代の海外戯曲』シリーズを始めることになりました」

―― 『最後の炎』の物語は、いわば人間ドラマでしょうか。

高安「そうですね。ある交通事故をきっかけに、8人の人が出会って、8人8様の心の変化を描いている作品です。特段、ドラマチックな人生の人は出てきませんが、その分、今を生きている人たちとなんら変わりのない8人だと思います」

―― ドイツの作品から見る日本との共通点、相違点を教えてください。

高安「共通点は、ドイツも日本も不況で、世界的に経済の状態は変わらないんだなということと、人種は違うけれども人の心の機微は一緒だなと思いました。その心の動きの描き方がこの戯曲はとても鋭いので、ぜひ日本でやれたらいいなと思いました」

―― 日本人にも受け入れやすそうな感じがしますね。

高安「描き方がメロドラマみたいだとちょっと重たかったりしますよね。それを軽く現代的に、ポップにも描いているので、その両面を行ったり来たりしています。なので、若い方から大人の方まで十分、楽しめる作品だと思います。あと、相違点ですが、作品の内容自体には、そんなに感じられないですね。あると言えば言葉の問題ぐらいです」

―― 翻訳の際の表現でちょっとしたニュアンスが違ってくるのでしょうか。

高安「そうですね。出来る限り日本に引き寄せるようにして作りました」

―― 実際、稽古などでも演じてみて、どうですか?

澤野「僕はオーラフという役なんですが、事故の原因を作った若者です。彼の台詞ですごく長いものがあるんですが、その雰囲気がすごく合うと思いますね。そのあたりに共通項を感じて、自分の気持ちと重ねやすいと思いました」

高安「澤野くんは引きこもりの若者役なんですが、オーラフ以外の登場人物は人間関係が成り立っていて、会話があるんですね。彼だけちょっと特殊な存在という感じなんです。そこが関西人と東北人みたいなところもあるかなと(笑)。そういう意味での人間関係のリアルさも、投影していると思いますね」

澤野「そうですね。なんかちょっと東北の陰湿な感じ…(笑)。これはわかるな~っていう部分が多いですね」

―― オーラフが事故を起こすきっかけで、それだけで胸が詰まるような思いですね。

高安「そうですね。でも、私たちは閉ざさないように、できるだけ前を向くように描きたいと思っています。副題に『それは再生の光』と私たちはつけているんですが、物語が進むにつれて8人8様の進み方、再生の姿を描いています。なので、事故を起こしたということだけを見れば心理的にかなり重たいですが、その先は明るく、ポップに描こうと。重さと明るさの両面を描いていければなと思いますね」

―― なるほど。高安さんは認知症の祖母の役ですね。

高安「そうなんです。私だけ実年齢と違う役で(笑)」

―― おばあちゃんの役は初めてですか?

高安「はい。どんな感じになるのか…。これまでは少年から大人、自分の年齢ぐらいまでだったんで、ちょっと幅が広がりましたね(笑)」

―― 今の時代、海外の演劇関係者がどういう活動をされているのか、全く意識していなかったので、そういう面でも興味深いですね。

高安「これからも今を、もっとつないでいきたいなと思っていますね」

―― 作品を取り扱う際に、国へのこだわりはありますか?

高安「そこはこだわらずにやろうと思います。今回はもともと、ドイツに縁があったのでこの作品になったんですが、できればアジア、ヨーロッパの作品をやりたいなと思っています。まずいい作品に出合えれば。今も次の作品を探しているところです」

―― では、ここでお話を、大阪と仙台の交流や仙台の演劇についてお伺いします。仙台との交流はどのくらいからあるんですか?

高安「顕著になったのは最近かな。今までもつながってはいたんですが、震災を機により絆が深まったように思います。震災の後、状況がわからないことが続いたので、連絡が取れるようになって『ぜひ、こっちに来てください』と迎え入れるようになりました」

澤野「仙台で被災した後、演劇人の集まりが何回かあったんですが、そのときに阪神淡路大震災のときに関西の演劇人がどんなことをしたかということをまとめたレポートを送っていただいて。それがすごく参考になって。そういうことを地震の後にすぐしていただいて、ありがたかったですね」

―― 実際、仙台の演劇人の方々は、演劇活動に対してどういうお話をされているんですか?

澤野「仙台の演劇人口は、おそらく300人ぐらいで。うち、実働できている劇団は10くらいだと思うんですけど、その中でも意見が分かれていて。『今は作品を作れない、あるいは作るべきではない』という立場もあれば、『今だからこそ作品を作るべきだ』という立場もあって。あとは、『演劇はできないけれども、演劇のメソッドを生かしたワークショップなどをすることで、仙台を含めた被災地、沿岸部の人たちにできることがあるのでは』という活動をしているところもあります。本当にそれぞれですね。そういう、いろんな考え方の人がいる状態で『ARC>T(アルクト)』という団体ができました。『Art Revival Connection TOHOKU』が正式名称で、ここにいろんな人が集まって、全国からもいろんな方々の援助があって、人も来ていただいています」

高安「『ARC>T』で中心となって取り組まれている方が、HMPの仙台公演受け入れの制作をしていただいています」

―― 今回、澤野さんは仙台から大阪のカンパニーに出演されるわけですが、大阪はどうですか?

澤野「いろんなお芝居を見せていただいているんですけど、すごく刺激があって面白いです。滞在は大体1ヶ月半くらいなんですが、今のうちに観ておかないとと思って、たくさん観ています(笑)」

―― 大阪の劇団はどんなふうに映りますか?

澤野「元気がいいなと思いますね。東北にも東北人らしい、物静かな感動やリアクションがあって。客席の反応があんまりなくても、アンケートはたくさん書いてくれたりとかあるんですけど、そういう気質の違いがすごくあると感じます。大阪の方は逆にいろいろ聞いて来られますね。受付のお手伝いをさせていただくこともあったんですが、お客さんも僕たちとコミュニケーションをとろうとしてくださりますし、そういうこともすごくありがたいです」

―― 今回、『最後の炎』では、関西のいろんな役者さんが出ていらっしゃいますが、澤野さんが抱かれる関西の役者さんの印象を聞かせてください。

高安「いいこと言っとかんと(笑)」

澤野「皆さんすごくやさしくて、気さくな方ばっかりで。そういうふうな印象で…(笑)。毎晩、飲みに連れていってもらって、そこでの話とかもすごく面白くて。僕はよそ者で入ってきたのに、温かく受け入れてくれているのがすごくありがたくて。ホームシックになるかなって思ってたんですけど、全然ですね」

―― では、高安さんからご覧になった澤野さんの俳優としての魅力を教えてください。

高安「予想のつかないところだと思います。多分、普段は違う土地でやっているからということもあると思うんですが、『あ、こう来るのか』とびっくりさせられるところがありますね。大阪に来てほしいと思ったのも、彼自身のそういう魅力があるからだと思います」

澤野「今、ちょっと思ったんですけど、関西の俳優さんは、俳優としての意識がしっかりあるなと思いました。今回、そういう役者さんばかりが集まっているということもあるかもしれないですが。いろんな団体に客演で出ることはよくあることなんですが、仙台ではいつも同じ役者さん、『実質、ここの劇団員じゃないか』という印象もあったりするんですね。そういう点でも、客演でいろいろ出していただいて、自分のいいところを見せていってという意識が、仙台の演劇人とはちょっと違うかもしれないです」

―― 今回もいろんな劇団の方が出演されますね。

高安「この戯曲に合う方にお声かけしたんですが、個性豊かな8人が集まったと思います。8人8様の人生を描くとき、本当にその役に合う人たちに出ていただき、良質なものを描こうと思いました。スタッフの方もかなりいらっしゃるんですが、舞台美術は現代美術家の児島三郎さんで、御年は70歳ぐらいじゃないかと思うんですが、いろんな美術を作って来られて、今回、『一緒にしよう』と声をかけていただきました。舞台設計の畠山博明さんは一級建築士で、畠山さんが児島さんの考えられたことを図面に上げて作ってくださいました。部屋のシーンでの家具もすべて住友翔次郎さんにお願いして…」

―― お話を聞くと、とてもいい出会いをされている感じがします。

高安「おかげさまですね。出会いが一番大事だと思います」

―― アフタートークも面白そうですね。

高安「アフタートークでも、いろんな方をお呼びしています。ドイツ演劇専門の方や、翻訳者、現代思想家、演出家といらっしゃいます。『最後の炎』をいろんな楽しみ方をしていただければいいなと思って、お芝居とセットで聞いてもらうと面白いかなと思います。作品もノーカットで上演しますので、ぜひ観に来てください」

―― では最後に澤野さん、今回、大阪でのご経験を仙台でどのように還元されようとお考えですか?

澤野「僕が一番大事にしたいことは人とのつながりです。仙台は劇団の数も少ないし、活動休止も多かったりします。僕は、震災後に立ち上がった『SPIC』、『せんだい舞台芸術復興支援センター』の事務局にいて、そこで劇団の受け入れやワークショップの企画などもしています。今回、大阪でいろんな方と出会って、いろんな作品を見て、おもしろいと思った方や劇団がたくさんいるので、そういった方たちや劇団を仙台で受け入れるようなことができたらいいなと思っています。俳優としては、本当にいろんなメソッドなどを吸収していって、仙台に少しでも刺激を……、仙台の先輩たちへ刺激を(笑)、と思ってます」

―― 僕はこんなに成長しましたよと…

澤野「と、言えたらいいですね(笑)」

高安「そして、大阪、仙台間の交流ももっと深まればいいなと思います」

―― なるほど。今日はありがとうございました。




(2011年10月20日更新)


Check

エイチエムピー・シアターカンパニー
<同時代の海外戯曲1>
第3回むりやり堺筋線演劇祭参加作品
平成23年度文化庁芸術祭参加公演
『最後の炎』

あらすじ

海外派兵から帰国した男(ラーベ)が目撃したひとつの交通事故。その事故をきっかけに、事故に係わるいくつもの物語は起こり、やがて絡み合います。子供の事故死から立ち直れない母(スザンネ)。死を直視せず、ロトくじを趣味にする父(ルートヴィッヒ)。8人の登場人物がお互いに作用し合い、物語はより危うく、そして緊迫していきます。家を出たスザンネは、事故を目撃したラーベと一緒になろうとするが…。


登場人物

澤田 誠(Amusement Theater 劇鱗)… ラーベ/事故の目撃者、退役した兵士

武田暁(魚灯) … スザンネ/事故死した子どもの母、元教師

西田政彦(遊気舎) … ルートヴィヒ/事故死した子どもの父

高安美帆 … ローズマリー/事故死した子どもの祖母、認知症

森田祐利栄 … カロリーネ/スゼンネの元同僚、オーラフに車を貸した

堀部由加里(劇団五期会) … エトゥナ/事故を起こした女刑事

澤野正樹 … オーラフ/事故のきっかけを作ったヤク中

山川勇気 … ペーター/オーラフの同居人

上演スケジュール

【伊丹公演】アイホール
10月20日(木)19:30~①
21日(金)19:30~②
22日(土)15:30~③、19:30~④
23日(日)15:30~⑤
各回、終演後にアフタートークあり

前売2,800円 当日3,300円
学生・障がい者・シニア(65歳以上)2,000円(当日受付にて証明書を提示)

【川崎公演】川崎市アートセンター アルテリオ小劇場
11月3日(木/祝)19:30~①
4日(金)19:30~②
5日(土)15:30~③、19:30~④ 
6日(日)15:30~⑤
各回、終演後にアフタートークあり

前売3,000円 当日3,500円
学生・障がい者・シニア(65歳以上)2,000円(当日受付にて証明書を提示)

【仙台公演】
10月28日(金)~30日(日)
前売2,500円 当日3,000円
学生・障がい者・シニア(65歳以上)2,000円(当日受付にて証明書を提示)

日時指定自由席
※整理番号の発行は開演40分前、開場は開演の30分前。

エイチエムピー・シアターカンパニー
http://www.hmp-theater.com/index03.html