ホーム > インタビュー&レポート > 伊坂幸太郎に「勇気がありますね」と言わしめた 注目作の舞台化。演出家として挑むはラサール石井 作品の魅力から演出の面白みまでをインタビュー!
―― まず、『オーデュボンの祈り』を舞台化することについて、その経緯などを聞いた。
ラサール石井(以下、ラサール)「演劇に関わって20年ぐらい経ち、演出ももうすぐ50本ぐらいです。これまで主に喜劇をやってきて、喜劇の評価を受けてきましたが、僕は翻訳もミュージカルもやりたいと思っていて『何で俺には回ってこないのかな』って思っていたんです。伊坂幸太郎さんの作品は2年前に、和田憲明さん演出で『7Days Judgement―死神の精度―』に出演したのですが、伊坂さんがその舞台を気に入ってくださったという経緯で、次も伊坂さんの作品で何か上演しましょうとなったんです。それで『オーデュボンの祈り』になったのですが、伊坂さんはそれをお聞きになって『勇気がありますね』とおっしゃったそうです。それくらい、なかなか演劇にはしづらい、僕も非常に難しい作品だなと思いました。でも、やりがいがありますし、伊坂さんのファンの方にはあの作品をどう舞台化するのかという思いがあるでしょうから、そこは面白いものができると思いました」
―― 実際、どういった部分を難しいと感じているのだろう。
ラサール「今まで演出してきたものは具体的なセットの中で演じるようなものが多かったんですが、今回はもう少し抽象的にして。そういう舞台も手がけたことがあるんですが、今回は特にたくさんの人間が出てきて、いろんな場面がありますので、その辺の交通整理が演劇的に難しいかなと思いました。なので、逆にシンプルに見せようと思います。小説自体は、ファンタジーで、ミステリーの要素もあって、中には残酷なシーンもありますが、読後感は非常にさわやか。未来に希望が持てる感じがしました。ただ。そのままお芝居で上演してもダメだろうなと思うので、原作のどこを使って、どこを切ったかなど、その部分も楽しみにしていただきたいですね」
―― 伊坂幸太郎に「勇気がありますね」と言わしめた今回の舞台化。その言葉の意味を痛感する瞬間はどんなときに訪れるのだろう?
ラサール「これはどうしたらいいんだろうと思いましたが、難しく考えないで、ところどころですけど学芸会みたいにやればいいのではないだろうかと考えました。伊坂さんは小説でしかできないことされている。それなら僕は、演劇でしかできない手法でやろうと。たとえば、違うシーンを同時に見せることなど、演劇ではいくらでもできるじゃないですか。そういうことだと思いますね」
―― 続いて、本公演の見どころについて聞いた。
ラサール「理不尽なシーンもあるんですが、それも全部、神様のレシピにあったことなのかなと思うんです。運命は決まっていると変に言い切ってしまうと誤解されるところもありますが、すでに定められた神様のレシピはあるけれども、実際にそれを料理をするのはこっちだという、そういうところも見どころというか、本作で好きなところです」
―― これまで数々の喜劇作品を演出してきたラサール石井。コメディアンとしての活動も華々しい。そういった経験が、本作のようなストレートプレイにはどのように生きているのだろうか。
ラサール「たとえば翻訳喜劇なんかを拝見すると、みなさんすごくコミカルに演じられているんですね。僕らとしては『本が面白いからこそ普通に芝居をすればいいのにな』と思うんです。そこは役者さんがわかっていないのか、演出家がわかっていないのかわかりませんが、笑いというものを勘違いしているんだなって、いつも思うんですよね。僕は、芝居はサッカーみたいなもので、ワンタッチでパスをするのが一番いいと思っていて。ただ、役者さんはみんなドリブルをしたがるんです。自分のところにボールが回ってきたとき、いろいろしたがるんですけど、それは要らないと。パスしてくれと。いいパスを出しているうちに、またいいパスが来て、それでシュートが決まるんですけど、皆さんは大体、自分でドリブルをしてシュートしようとするんです。ところが、喜劇をわかっている人は、みんなそのこともわかっているので、すごくきれいにパスワークをするんです。それが喜劇で学べる一番大きなところではないかと思います」
―― 本作のみならず、舞台作品を演出にするにあたっては、どんなことに配慮しているのか。
ラサール「一番は風通しのよい稽古場にすることですね。役者さんがキャリアや役柄で差別されないようにしていますし、ダメ出しするのも個別にせず、いつも全員の前で言うようにしているし、『どんな小さなことも俺に直接、言ってきてくれ』と伝えています。そして、一体感を大事にしています。『北風と太陽』でたとえるなら太陽のような感じですね」
―― では、演出の面白みとは?
ラサール「交響楽みたいにいっぺんに演奏したとき、自分が思っていた以上の効果が出ているときですね。あと、一番興奮するのは、初日の幕が開いて、閉じて、お客さんが拍手をしているとき。役者もスタッフも、その瞬間までは僕が何をしようとしているかわかっていなかったりするので、やっとみんなにわかってもらえる瞬間というか。『あ、これだったのね』って。それまではいくら説明して、いくらやっていても、みんなわかんないですからね。それも含めて、全体を把握する面白さですね」
物語の舞台は、架空とはいえ仙台沖に浮かぶ“萩島”。東日本大震災より前に舞台上演の企画はあったというが、この作品の根底には『未来は変えられないわけではないのだ。少しずつではあるけど、未来は変えることができる』という思いが流れているという。そんな作品に向き合うことで、「震災で亡くなった方への鎮魂と未来への祈りの気持ちを、俳優、スタッフたちみんなが持っている」とラサール石井。注目作の舞台化というトピックスのみならず、作品の奥底から放たれ続けている希望の光もぜひ、劇場で受け止めていただきたい。
(2011年10月13日更新)
発売中
Pコード:413-881
▼10月22日(土)17:00・23日(日)13:00
サンケイホールブリーゼ
S席6800円
A席5500円
[原案・原作]伊坂幸太郎
[劇作・脚本]和田憲明
[演出]ラサール石井
[出演]吉沢悠/河原雅彦/石井正則/小林隆/武藤晃子/小泉深雪/寺地美穂/町田マリー/春海四方/玉置玲央/陰山泰/筒井道隆
[問]ブリーゼチケットセンター[TEL]06-6341-8888
※未就学児童は入場不可。
『オーデュボンの祈り』公式サイト
http://www.ishii-mitsuzo.com/info/ishii/web/index.html
ラサールいしい/1955年10月19日生まれ、大阪市出身。 渡辺正行、小宮孝泰と共にコント赤信号を結成し、、数々のバラエティ番組に出演。その活動の場はバラエティにとどまらず、俳優、また、声優ではテレビアニメ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の両津勘吉役と多くのメディアで活躍している。舞台演出作品も数多く、志村けんのコント舞台『志村魂』など喜劇を中心に手がけている。『オーデュボンの祈り』で新たな地平を開拓。