ホーム > インタビュー&レポート > 「この作品で劇団鹿殺しデビューをしてほしいです!」 2年ぶりの関西本公演は劇団史上最高の自信作に!
物語は柔道場で生まれ育った岸家三姉妹のお話。九州のとある郊外で柔道場と整骨院をして生計を立てている岸家は、妻を早くに乳がんで亡くし、父は男手一つで三姉妹を育て上げた。現実的で慎重な長女・夕子(千葉雅子)、明るく活発な次女・陽子(峯村リエ)は学生結婚をした末に都会で生活中、そして唯一父の意思を継いで柔道ををしている三女・朝子(菜月チョビ)は、選手として芽が出ないまま、地元のセキュリティ会社の柔道部に所属している。
ある日、長女・夕子が三つ指をつき「本日をもって、婚活を終了いたしました」と宣言。時を同じくして出戻ってきた次女・陽子。そして三女・朝子も付き合っていた柔道部コーチに実は妻子がいることを告げられた。三姉妹は父の60歳の誕生日に、初めて父と酒を飲んだ。それは、家族の再出発を祝う楽しい夜だった。が、翌日、父は母の遺影とともに姿を消した…。
―― ぴあ関西版WEBです。どうぞよろしくお願いします。今日は最新作『岸家の夏』についてお伺いします。
菜月チョビ(以下、菜月)「関西公演は、去年、岸田戯曲賞にノミネートされた『スーパースター』という作品を伊丹AI・HALLで上演して以来で。ライブでは帰ってきていたんですが、劇団の本公演としては2年ぶりですね」
丸尾丸一郎(以下、丸尾)「東京は青山円形劇場で終わったばかりで」
菜月「今まで割と、男性のゲストを呼ぶことが多かったんですけど、今回は初めて、ナイロン100℃の峯村さんと猫のホテルの千葉さんという、女優さんに来ていただくという試みをしています」
―― この『岸家の夏』の物語は、モチーフになったものはあるんですか?
菜月「私の地元が福岡なんですけど、そこに親友がいて、彼女は三姉妹なんです。全員30代で、39か38歳、あと37歳と32歳みたいな姉妹で、一番上のお姉ちゃんが、このお芝居の台詞どおり『本日をもって婚活を終了しました』って言ったらしくて。『今日で婚活のことを考えるのをやめる。もうあきらめた』って言ったっていう話を聞いて、面白いなと思ってそれを書こうということで丸尾にも話をして。私の周りの女の人はいわゆるマスコミ関係の人が多いんですが、強くて、しっかりし過ぎてて、選ぶ相手がいないみたいな話を聞きますし、地方にいて結婚していない友達も、どんどん仕事ができるようになって、男の人の方が頼りなくて選べないっていう話を聞くので、そういう子たちの話をたくさん集めて作った作品ですね」
丸尾「『女優祭り』というのは、もともとその話を聞いたっていうのもあるし、劇団のオーディションをしても7:3ぐらい割合で女の子が多くて。そのうちの3割の男も、7割がもう、鼻水が垂れてるような、ボーっとしている男ばっかりで。ほんと男はダメだなってところから派生しています」
菜月「ほんと、如実にひどくなってますね。ゆとり世代はもちろん、27、28歳くらいまで、おかしいですね」
丸尾「ほんで、業界も女性ばっかりになってきているし、男にドラマがないですね。かっこいい男像もないし」
菜月「ゆとり世代とか、草食系とか、クリーミー男子という人たちがいる中で、逆に女性の方が損をしているというか、仕事ができるから開き直った弱い男の人たちの分までついつい、やってしまって、どんどんできるようになって、やがて話が合わなくなって。元気があり余って損しちゃうみたいなところもすごくあるので、そういう女の人たちが報われるような作品を作りたかったんです。この夏、何を観たいかなって考えたとき、とにかく元気のいいもの、スカッと元気になるものをそろそろ観たいって思ったんです。3月に地震がありましたけど、地震の後も女の人の方が立ち直りが早くて。あの地震を機に結婚する人が増えているように、実際はダメージを食らっているんだけど、さらに乗り越えてがんばっていくみたいな。男の人の方がちょっと弱っていて、そのくせ立ち直りも遅い。そういう、頑張っている女の人たちが思わず“ありがとう!!”って言うような、元気が出るものをやりたいなって思って作りました。柔道場で生まれ育った三姉妹が、男たちと戦って1本取って、会場の女の人たちも“1本!”って言うような、思わず“よっしゃ!!”ってなるような元気のあるものをやりたいと」
丸尾「東京公演も大好評でした。“確かにスカッとした”って。お母さんとの関係とかも描いているんですけど、そこは共感して泣けるような感じで。それ以外はほとんど、バカなことばっかりやっている三姉妹ですね」
菜月「あと、ザ・演劇という劇団も東京は減ってきているんですけど、劇団の力というか、人が集まって、みんなで工夫して、ほとんどものを置かない舞台で、演劇の力だけでバカな世界をどんどん繰り広げていくという感じで…。長女はパチンコで稼いで、次女は海女でトラフグと戦って、三女は柔道で戦うんですけど、想像力だけで舞台というのは楽しめるということも伝わるんじゃないかと思います」
―― 本公演はどんな方に観てもらいたいですか?
菜月「演劇を初めて観る人はもちろん、日々戦うOLさんにも観てほしいですね。想像力をフル稼働させて、最後に“1本!!”って言って、それで楽しく帰るという経験をしてほしいなと思います」
―― では、どういうシーンが見どころでしょうか?
菜月「演劇らしさがぎゅっと詰まった作品なんですが、女性の生き方もありますし、お母さんという存在も大きいというか。お母さんって、いつしか女の先輩みたいになってくるじゃないですか。その母親との対話のシーンとかですね。母親と同じように幸せになれるだろうかとか、母親がやってきたことを自分もこの先、このペースでやれるんだろうかという思いを深いところまで突き詰めた作品だったりもします」
―― 東京公演では、お客さんはどんな反応でしたか?
菜月「東京の女の人たちからは“なんで全部わかるんだろうって思った”って言う話を聞いたりしました。男の人目線だと、お母さんと女の人がだんだん1つになっていくのを見ると心が痛いというか、お母さんが女として幸せだったかと考えると泣いちゃうとか(笑)。お母さんの幸せを思うと、不良をしてきた息子としては泣いちゃうみたいで、そういう点で意外と男の人の反響も大きかったですね。『岸家の夏』が劇団鹿殺しの作品の中で最も、いろんな層の人に観てもらえる話だと思います。家族の話だったり、人生の話だったりするから、若い人なら若い人なりに観てもらえるし。間口の広い作品ができたんじゃないかなと思います。あと“女優祭り”だけあって、舞台のいろんな女優さんが観にきてくれてまして、それも今までになかった感じでしたね」
丸尾「高田聖子さんが観に来てくれたんですけど、“すごい勇気が出た”って言ってくれました」
菜月「千葉さんやリエさんが、すごい頑張ってくれているので…」
丸尾「踊るわ、歌うわ、殺陣もやるわで、全部やってもらっています」
菜月「関西の方は、なかなか見る機会のない女優さんだと思うんですけど、他のプロデュース公演では絶対に観れないようなことをしてくださっているので、ぜひこの機会に、リエさんと千葉さんを観てほしいです。私たちもすごく大好きな女優さんで、“こんなことしてくれたらどんなにいいだろう”って思うことを全部やってくださってます」
丸尾「40代の女優さんにいろんなことをやってもらっている姿を見てもらいたいです。柔道の対戦シーンとかもあるので」
菜月「ABCホールでの公演は、期間は短いですけど、今回の作品でぜひ鹿殺しデビューしてほしいなと思うし、演劇をやっている人や関西の芸能関係の方たちにもぜひ一度、この作品から観てほしいなって思います」
―― 劇団鹿殺しの他の作品とは違いは何でしょう?
丸尾「やっていることは変わらないんですけど、ストーリーでは女性をテーマに据えたのは初めてで。今まで、過去にあったことを書いたりとか、僕の引き出しから出してたんですよね」
菜月「共感するゾーンも、20代後半から30代後半のサラリーマンが一番多かったりとか」
丸尾「夢を追いかける男の姿とか、ダメだけど頑張ってる男とかを書いていたんですけど、僕もそれでは劇作家として続かないから、違う切り口で書いてみようと思ってたんです。そのときにチョビの幼馴染で“婚活終了しました”の話を聞いて、それでやってみようと。でも、わからないことは正直に女の子たちにちょくちょく話を聞いてました」
菜月「鹿殺しをずっと観てもらっている人には“今回違うね”って言われることが多かったです」
丸尾「“チョビが書いたと思った”とか」
菜月「しっかり自分の足で立っている女の人だったら、うわって思うような台詞がいっぱいあって、そこは今までにない感じです。でも劇団らしい公演をするという、根本的なところはいつもどおり変わらないので。総動員で、体で見せられるものは全部体でやるというところなんかは変わらないから。鹿殺しってどんなだろうって思っている人にはぜひ観てもらって。デビューにはぴったりだと思います」
丸尾「本当に面白い作品です!」
菜月「関西から東京にライブを観に来てくれる方も多いんですけど、今回はぜひ、地元で舞台を見てもらえたらと思います。8/21(日)がチケットがもうないのですが、8/20(土)はまだ大丈夫なので、土曜日に来ていただければ(笑)。土曜日の夜が一番席が取れると思います! あと、秋はライブツアーでも大阪に行くので、そちらもぜひ観てください。 」
(2011年8月17日更新)
Pコード:412-221(8/18(木)まで販売)
▼8月19日(金)~21日(日)
金19:00
土13:00/18:00
日13:00
ABCホール
全席指定4500円
[出演][劇作・脚本]丸尾丸一郎
[出演][演出]菜月チョビ
[音楽]入交星士
[出演][音楽]オレノグラフィティ
[出演]山岸門人/橘輝/傳田うに/坂本けこ美/円山チカ/山口加菜/千葉雅子/峯村リエ/谷山知宏/他
※未就学児童は入場不可。
キョードーインフォメーション[TEL]06-7732-8888
発売中 Pコード:148-718
▼9月17日(土) 19:00
神戸 太陽と虎
前売-2500円(オールスタンディング、整理番号付、ドリンク代別途要)
[共演]ジェイムス
神戸 太陽と虎[TEL]078-231-5540