ホーム > インタビュー&レポート > GQ ~世界で戦ってきた男たちの競演~ 日本最高峰のダンサー達がここに集結!
―― まず、『GQ ~紳士の品格』とは一体、どんな舞台なのか。
TETSUHARU「『GQ』は僕と新上裕也さんの二人で創り上げたものなんですが、『高尚なエンタテインメント』ということでオールキャスト男性ダンサーのみで構成された舞台です。キャストも、日本のみならず海外で活躍しているダンサーがジャンル問わず、集まっています。例えば、バレエダンサーの法村圭緒さんと佐々木大さんが同じ舞台で共演するなんて、通常のバレエ公演以外ではまずあり得ないことなんですが、今回、お二人を初め、プリンシパルレベルの方々が同時に舞台の上で凌ぎを削っていて……。スキルは言うまでもないのですが、素晴らしいダンスと表現力で展開するというものです。ジャンルの異なるダンサーがコラボする試みは過去にもたくさんあったと思うんですが、そういうカテゴリーにもはまらないような作品になっていまして、これはちょっと言葉では上手に言えないので舞台を観ていただければ! とにかくダンス通の方も、そうでない方も、理由なく楽しんでいただけるものだと思います」
―― 『GQ』は「紳士の品格」というテーマに基づき、様々な作品を生み出していく。そして、このたび上演される作品はグリム童話『ヘンゼルとグレーテル』をモチーフにした舞台だ。
TETSUHARU「『GQ』は、幅広いジャンルのダンサーたちによる共演なので、キャラクターを持たせるのが大前提なんですけど、キャラクターに則ったストーリーがあった方がより観やすいのではないかということで、いろいろ考えていたんですね。そこでグリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』がポンッと出て、やってみようかということで出来上がりました。ただ、ストーリーをそのまま追いかけているのではなくて、『GQ版ヘンゼルとグレーテル』となっています。なので、『GQ』ではキャストが全員男性というのもあって、オリジナルではグレーテルは妹なんですけども、今回は男の子が演じています」
―― では、それぞれに役どころはあるのだろうか?
TETSUHARU「これはどこまで言っていいのかわからないですけど、簡単に言うと仮装パーティーに行くという設定です。強烈な個性のある仮装したキャラクターたちが踊ったりしていて、後半になるに従って仮装を取り払い、品格を持って元の姿に戻っていくという流れになっています。あと、すべてに共通しているのが紳士、いわば品格のある男たちが共演していることです。『ヘンゼルとグレーテル』をモチーフにしていて、それは役として存在していますが、もう一人、仮装するわけでもなく、物語を外から見ているようなキャラクターもいますね。あれは道化でもないし…」
佐々木大(以下、佐々木)「狂言回し的な…」
TETSUHARU「そうですね。そんな彼ですら、ヘンゼルの作り出した幻影だったのかもしれないみたいな…(笑)。キャラクターもあるといえばあるし、ないといえばないし…」
佐々木「大いにあるといえばあるし(笑)」
TETSUHARU「ただ、ストーリー展開は難しくないです」
―― 先にも挙げられているように、『GQ』にはジャンルの異なるダンサーが多数登場する。その中で振付をする難しさなどはあったのだろうか。
TETSUHARU「クラシックバレエ、ストリート、ジャズ、コンテンポラリーといったジャンルの方々が一緒になって踊るんですけども、作り手側としては別に、ダンスによって語る言葉が違うからといって、その人の言葉を前面に押し出していく振付が必要かというとそういうことでもなくて。皆さん、素晴らしいダンサーなので、それぞれの中間を取るということでもなく、混ざり方という意味では違和感ありませんでしたね。逆に、これはバレエ、これはジャズということでもないので、カテゴライズしにくいものだと思うんです。それも『GQ』なのかなという捉え方をしていただければいいかなと思います」
―― では、ジャンルを越えた振付の面白さとは?
TETSUHARU「バレエをやっている人や、ジャズダンスをやっている人たちが集まって、普通にこういうものができるかというとそうではなくて。本当にレベルの高い人たちの共通言語は、ジャンルではないなという面白さですね。作っていて苦労した点とかもなく。『あ、こういうふうになるんだ』という、自分の想像をぺロッと越えていく感じが面白いですね。それぞれジャンルの違う、活動の場が違うダンサーたち、それもレベルの高い人たちが集まっていて、限られた時間の中でやるという部分では苦労したこともありましたけど、ものづくりをする中での苦労はないですね。楽しかったです。おそらくゲストの皆さんもみんな、そういう思いでいらっしゃったんじゃないかなと。雰囲気はすごくよいですね」
―― 今回、初めて『GQ』に出演することとなった佐々木と法村。それぞれ、参加するに至った馴れ初めから、『GQ』という舞台への印象を語ってもらった。
佐々木「新上裕也さんから出演依頼のお電話をいただきまして、『男だけでこんなことしたいんだけど、よかったら出てもらえませんか?』と。男だけで舞台をやる時点で面白いのは間違いないから、即『やります』と。その後、前回の『GQ』のDVDを送っていただいたんですが、あまりのクオリティの高さに尻込みするぐらい、『やばい、ここに出て僕、大丈夫か!?』って思いましたね。そして、メンバーをざっと見て『わ、すごい!』って。中には、初めて知る人もいたんですけど、ここでの出会いは、この先踊っていく上で何かが変わったくらい、僕にとって衝撃的でした」
―― そして、そんなダンサーたちとも出会いがもたらしたものとは。
佐々木「バレエをバカにするわけじゃないけど、『バレエってもしかしたら、浅いかも知れない』と思うくらい、ストリートやHIPHOPのダンサーたちが持ってる力や表現力、言葉の多さとかがすごかったです。彼らが持っている力があり、そこに負けたくないから僕も頑張る。『こんなんできるんやったら、これもあるよ』って、みんなが引き出しの中身を出し合っている時間が刺激的でしたね」
―― では、佐々木の言う『男性だけでやる面白さ』とは?
佐々木「僕たちの(バレエの)世界は女性ありきなんですよね。女性ばっかりの中に、ゲストでちょっと男性が出るとか。そういう少ない存在の中でも、男性だけで作った作品のパワーって、女性には申し訳ないのですが、女性には出せない色があると思うんです。昨年大阪で、関西の男性ダンサーだけで会を開いたんです。その意味合いとしては、皆で繋がりを持とう、今まで先輩に教えてもらったことを後輩たちに教え合っていこうということでやったんですが、それにはまって。『男同士のいい戦い』じゃないですけど、普段言い合えないことが言えたり、女性がいないことでうまく回ったりして。そういう舞台で踊った直後だったので『また面白いことができる』という確信が持てたんですよね。ただ、その会は仲良しの集まりだったんですが、『GQ』はとりあえず、とんでもない化け物がいっぱい集まっているので…。自分も、よくこんな人を知らずにおったなと。それも一人、二人とかではないので…」
TETSUHARU「日本人、すごいですよね。日本人ってこんなにすごいんだって」
佐々木「そう…。ビックリした」
法村圭緒(以下、法村)「僕の出会いは、出演者の吉本真悟さんからお電話をいただきまして、『こんなのあるけど、圭緒さん、行ける?』と。『どういう舞台なの?』と聞いたら、『説明するのは難しいけど、とにかく面白いから』と言われて。で、大さんと同じように、過去の舞台映像を見て、『これはあかん! この中に入ったら俺は殺される!』と思いました(笑)。
―― かくして世界で活躍するダンサーたちですら震え上がらせる(!?)パワーを放つ『GQ』だが、法村は東京公演を終えてやっと『GQ』とは何か、わかったと言う。
法村「舞台が終わったそのときに、あ、こういうことだったんだっていうのがようやくわかって。やっぱりジャンルというものがあるからこそ、こういう舞台ができたと思うんですよね。だから、ジャンルの壁があることに困るよりは、ぶつかり合っていこうと。僕は、ジャンルの壁を取り払うことをしようと思わなくて、バレエしかできないんだったらバレエで自信を持って行こうと思ってました。そして、舞台が終わった瞬間、ジャンルの壁があるからこそ、それぞれの力が一つになって『GQ』というジャンルが確立したんだなと思いましたね」
―― では、公演を通じて見えてきたことは?
佐々木「超一流と言われている方は人間的にも素晴らしいんです。今回、ダンサー皆からその匂いを感じて。素晴らしいダンサーは人間的にも大らかな人が多くて、そういう人たちと過ごせたことがすごく楽しかったですね。当初、ジャンルも違うし、それぞれの世界でスターなので、我が強くて、その我がぶつかるとまとめるのは大丈夫だろうか心配していたんですが、初日のリハーサルで大丈夫と、いい意味での『こんなはずじゃなかった』ということはありましたね。『GQ』は、あの空気だからこそできた作品だと思います」
法村「一人一人、キャラクターは濃いんですけども、全員が自分の時間を大切にしているんですよね。群れるわけでもなく、誰かを忌み嫌うわけでもなく(笑)。『はい、休憩』ってなった瞬間に皆、一人一人が自分の時間を持っているんです」
TETSUHARU「ただ…まとめるのは大変だったんじゃないかなって思うよ(笑)。それぞれの時間を持ってるし、時間軸も違うし、やってきていることも違うから。知らず知らずのうちに日常って出るじゃない。バレエダンサーは朝早くからストレッチとかして。ストリートダンサーは夜中に練習する。彼らは夜中が本番だったりするから。そういうふうにライフスタイルが全く違うわけで、その人たちの休憩の過ごし方も絶対に違うし、自分が5分と思っていたものが、人にとってはすごい長い感覚になるかもしれないし。そういう物理的な意味での大変さは、あったんじゃないかな(笑)」
法村「それでも、『はい、じゃ、再開しますよ』ってなったら、ちゃんと始まるんですよね」
TETSUHARU「ライフスタイルも違うし、それぞれプライドもあるだろうし、キャリアもある。そんな中にいるにもかかわらず、皆すごく素直で、柔らかい感性を持っていて、お互いがお互いを認め合っているんですよね。『自分がやってきたことが一番だ』という人は、誰一人いないんです。違うからこそ惹き合うものもあって、違うからこそ共通点を見い出せたりとか。そこには僕らだけにしかわからないものもあるかもしれないけど、それを『GQ』という舞台として形になったときに、踊り手の独特な感覚をお客さんにも感じてもらえるんじゃないかなと思います」
―― ではここで、それぞれが抱く『紳士の品格』について聞いてみた。
佐々木「どんな状況でも流されずに自分らしく生きる覚悟だと思います。覚悟、その思いですね」
TETSUHARU「僕が思うのは、やっぱり自分がある。自分が自分でしっかりといられることが品格かなと。それは意固地とか、頑固とかではなくて、例えば、5分前に言ったことと5分後に言ったことが全く違うことだったとしても、そこを『それはなぜなら、今の自分だから』と素直に言える。そういう意味での、ぶれない感じ。『あれを言っちゃったから引っ込みつかないな』とか、何か計算値があるのではなく、自分が自分でいられることが僕の中では品格かなと思います。『GQ』をやるようになって何度も同じような質問をいただくんですけど、やっぱりそこかなって思いますね。かっこつけるとか、何かになるとか、自分で取り繕うものではない。自分が自分でいること。そういう意味では、(佐々木)大さんの考えとも似ちゃいますね」
法村「僕も、突き詰めれば同じことだと思うんですけど、品格というものがその人そのもの。今回だったら、『GQ』に集まったダンサー一人一人がそういう思いを持って演じている。でも、一人一人が答えることは当然、違っていて、似ているんだけど自分の思うところもある。で、東京でこの舞台をご覧になった皆さんも同じようなことを感じていただけたのかなと思うんですね。大阪公演でも、僕らが演じた後、お客さんに『品格って何なんやろう』って考えていただければいいかなと思っています」
―― 最後に、大阪公演に向けて関西の皆さんにメッセージを。
TETSUHARU「やっぱり舞台はお客様と一緒に作るものだと思っています。そういう中で、東京でやった『GQ』と、大阪でやる『GQ』はやっぱり違った空気感もあるでしょうし、僕らもまた新たな刺激が味わえるんじゃないかなと思っています。東京で先に上演していますが、東京と同じものを大阪でやりますよということではなくて、既に数ヶ月というスパンがあって、それぞれの演者はさらに進化しているので、パワーアップした『GQ』を表現できたらいいかなと思っています。そういう新たなものを大阪公演で味わっていただけたらなと。東京まで観に来てくれたお客さんがいらっしゃったら、また一味も二味も違うものになっているんじゃないかと思います」
佐々木「『観ないと損や』と思うくらい、自信を持ってこの作品を絶対観てほしいと言えるので、踊りが好きであろうが、嫌いであろうが、劇場に足を運ぶのが面倒くさかろうが、とりあえず一回、観てください! 観ないと損ですが、観ていただければ損はさせません!
(2011年6月 1日更新)
(写真左)佐々木大●'91年国立ロシアバレエ団にプリンシパルとして入団。'94年、ジャクソン国際バレエコンクール金賞受賞。01年第51回芸術選奨文部科学大臣新人賞、中川鋭之助賞受賞。04年服部智恵子賞受賞。テクニック、表現力ともに日本が誇るダンサーである。
(写真中)TETSUHARU●安室奈美恵、SMAP、AKB48など数多くのアーティストからオフブロードウェイ・ミュージカル『ALTAR BOYZ』等、幅広いジャンルの振付をする。コンサート、舞台、PVなど多数の作品のダンサーとしても活躍。'10年舞台『タンブリング』では演出、振付を手がける。都会的な感性とパワーで、エンタテイメントシーンに欠かせない存在となっている。
(写真右)法村圭緒●ワガノワ記念ロシアバレエアカデミーに留学。ゲンナジー・セリュツキーに師事。'92年全国舞踊コンクールジュニア第1位。'97年村松賞・舞踊批評家協会賞新人賞受賞。'07年服部智恵子賞受賞。
▼6月7日(火)・8日(水)19:00
森ノ宮ピロティホール
[一般発売]全席指定9500円
[出演][演出][振付]新上裕也
[出演][演出][振付]増田哲治
[振付]青木尚哉 [出演][振付]吉本真悟
[出演]佐々木大/法村圭緒/中島周/横関雄一郎/福原大介/風間無限/長澤風海/蔡暁強/Joey Beni/鈴木陽平/背戸田勝敏/永野亮比己/廻修平/大野幸人/大貫勇輔/加賀谷一肇/宮垣祐也/村田永路/SHINICHI
※音楽監督、増田俊郎。
※この公演は終了しました。