ホーム > インタビュー&レポート > 1ステージ12人限定、築80年の家屋でお待ちしています! 京都の劇団・悪い芝居の“団欒”を至近距離で体感!!
―― 今回は築80年の日本家屋で上演されるとのことですが……。
「はい。僕たちの事務所で、築80年くらい経ってるって聞いています。いつも僕らは劇場で目の前にお客さんがいてやってることがいちばん面白いと思って考えて作っているんですけど、それが“劇場”であることにちょっと違和感を感じて、じゃあ劇場じゃないところでやってみようかと。あと、『KEBAB』(※1)でドイツの方と話をしたときに、日本で生まれて京都でやってる自分だから作れるものって何なのかということをあまり考えられてないなって思ったんです。もともとは道端にフラッと行って始まった劇団だし、目が見合えて手の届くような人に向けてやっていたんですが、最近では作品より先にどんどん公演が決まっていくとか、東京で公演させていただいたり、2週間の公演をやらせていただいたり、個人的な活動も増えてきて。だからちょっと大きくなってきてたところでこれからに向けて一度立ち返ろうというか、地元の京都の狭くて小さいところでやりたいなと思ったんです。でも、稽古場もミーティングもご飯もすべて同じ場所なんで、たるみますよね。落ち着く空間だから……」
―― わかります。自分の家ってゆるみますよね。
「でも、家の中でお芝居をやるとなったら、そのゆるみとか、無防備な感じも見せたいんですよね。なので今回は自由に、好きにやろうと思って。お客さんも最大12人しか入れませんし、何も着飾るところがない場所でじっくりと濃いものを作っています。いろんなお芝居を観られている方も、いつも僕らのことを観てくれている方も、また違うお芝居が観られると思います。毎ステージ絶対違ってくると思いますし、1ヵ月やってるのでどんどん進化させていきたいです」
―― ストーリーはどんなものを考えられていますか?
「タイトルにもつけている“守破離”をひとつのテーマにしています。守破離は武芸の教えのひとつにある言葉で、なぜか知ってたんですよね。最初に型を忠実に守って、次に応用して、最後はそこから離れるっていうもので、この作品では崩壊している状態の家族が、団欒を取り戻していく話を作っています。終わりきった家族が団欒を取り戻そうとするんだけど、やっぱりありきたりな団欒にしかならない。お父さんが野球中継でも観ながら『学校どうなってんねん』みたいな話をするっていうくらいの。そこから、登場人物の彼らなりの団欒を探していくっていう話ですね」
―― 実際の家でやることで劇場とはまた違う雰囲気になりそうですね。
「家の中っていうこともあるかもしれませんが、家族ってそんなにテンションが高くないというか。湿った、ジトッとした空気を感じるんです。でも言ってる内容とかやってることは別に普通の家族で。なんか……、体臭とかではなく、人の臭いがするんですよね。家の中にいっぱい人がいると。それで例えば、パッと窓を開けたりしたらすっごい幸せな気分になったりして。単純に目と耳と脳みそで理解していくというよりも、その空気を肌で感じるっていう方がふさわしいかな。家でお父さんが何も喋らずにずっと野球中継を観てる姿とかって、物語がそこになくても何か感じる。お母さんがご飯作ってる姿もそうだし。そういうのを観て、それぞれに何かを感じてほしいなって思いますね。当たり前のことを目の前に置いて、どれくらい観る価値のあるものにできるかっていうところを意識して作っています」
―― 例えば、雨の日ではまた感じ方が変わってくるかもしれませんね。
「それはあると思います。一応、雨の日のパターンも作っているんです。あとは客席座って観てたら、前の通りで小学生が学校から帰ってきたりとか、車が通る音とか、窓からの太陽の光が変わっていくことで見え方も変わってくる。全部含めて面白いと思います。お客さんそれぞれの家族が思い浮かんだらいいなって思いますね」
―― 観る人は“観客”というよりも、“家に来たお客さん”っていう感じですよね。
「ほんとにそうだと思います。人の家に行くっていう。そこでちょっとした演劇っぽい物語があるくらいで。演劇を観るとなると、かしこまってしまうところがどうしてもあるから、ちょっと変わったことをやるとかお芝居を観に行くというより“その場に一緒に居て、観る”くらいの気持ちで来ていただけたらより楽しめると思いますね。お客さんは少ない人数しか入れませんが、普段劇場で観ているようなものではなく、団欒の中のひとりになっていくような体験ができるんじゃないですかね。ただ、早く家から出たくなるような芝居にはなると思います。人の家ってちょっと緊張するし早く出たいでしょ(笑)。それも込みで楽しんでいただきたいです」
―― もう芝居か何かわからなくなるくらいの距離で。
「今回は『こういう話がしたい』って始めたというより、まず家の中でやるっていうところから始まったんですよね。僕は常にその“場所”とか“時間”っていうのが面白いなと思って気にしながら作る方で。いつもはどっちかというと劇場でワッと前に出るようなお芝居をやってる劇団なので、今回はすごく近い距離で、着飾らない姿も観てもらえたらなと思っています。たぶん12人だとお客さん全員の顔も覚えられると思うんです」
―― 人数が限られているので、完売で観られない人も出てくるのでは……?
「事務所なのでいつでもやろうと思ったらできるんですよ(笑)。なので、完売したら追加公演も考えたいと思っています。場所は少しわかりにくいですが、京都や大阪以外の方たちにも観光ついでに来ていただきたいですね。1ヵ月あるので公演スケジュールも一応考えて作ってて、11日(水)だったら13時の回を観てからドラマシティの『千年女優』を観にいけるようにしてるし、14日(土)と15日(日)は僕が脚本を書いたNMS(※2)があるから僕たちは上演しません! ほかの作品と重ならないように組んでるので一緒に楽しんでほしいです。僕たちが東京へ行ったら渋谷とか原宿とか回って下北沢で演劇観ようかなって思うように、お寺やお城観てっていう中に、演劇が入ればいいですよね。そんな感じで遠くからも観に来ていただけたら嬉しいです」
Text by 黒石悦子
※1…'09年7月、大阪・精華小劇場で上演された、ドイツ人演出家・エンリコ演出による日本の俳優出演の3人芝居。今年2月に再演版がドイツで上演された。
※2…石原正一の二人芝居企画、中崎町ミュージアムスクエア。
出演:石原正一/サリngROCK(突劇金魚)
http://sites.google.com/site/hala01nms/
(2011年5月 2日更新)
わるいしばい●’04年12月24日、京都の路上で旗揚げし、現在も京都を拠点に活動する関西の注目劇団。劇団名は「悪いけど、芝居させてください」を略して「悪い芝居」。’09年、京都・ART COMPLEX1928が一押しするパワープッシュカンパニーの第一弾として選出。昨年の第17回OMS戯曲賞にて、作家・山崎彬が『嘘ツキ、号泣』で佳作を受賞した。
▼5月1日(日)~29日(日)
築80年の家屋 (京都市上京区仁和寺街道七本松東入ル二番町204)
1(日)・6(金)・16(月)・29(日)17:00
2(月)・4(水)・5(木)・7(土)・8(日)・21(土)・22(日)13:00/17:00
11(水)13:00
2000円(各ステージ限定12名・要予約)
※この公演は終了しました。