ホーム > インタビュー&レポート > 佐藤アツヒロ主演舞台『デスティニー』が間もなく上演 正義とは何か、生きるとは何かを問うた熱い物語をぜひ!
―― まず最初に、改めて30-DELUXという劇団について教えてください。
清水順二(以下、清水)「劇団☆新感線のタイソン大屋、演劇集団キャラメルボックスの佐藤仁志、そしてMOTHERの清水と、この3人が昭和47年生まれの同い年で気が合いまして、自分たちのパフォーマンスを中心にできるカンパニーを作ろうと、お世話になっている大きい劇団を超えるようなユニットを作ろうということで、普段、演劇を見ない方にもわかりやすく、おもしろく、笑って泣けて、そしてちょっと考えさせられてカッコイイ、そんな自分たちのオリジナルエンタテインメントを作ろうということで、'02年に始まった劇団です」
―― 今はどういった形態ですか?
清水「今は、私とタイソン大屋のふたりが中心となってやらせていただいております。大阪は'04年に行ったHEP HALLでの公演が最初で、今までは小劇場が中心だったんですけど、今回、『デスティニー』で憧れの梅田芸術劇場 シアタードラマシティに初進出するということで…。旗揚げから9年目なんですけど、9年目にしてシアタードラマシティでできることに非常に嬉しく感じています。作品も、我々がお世話になった劇団のよいところを全部混ぜこぜにした、ドラマ性の高い完全なるアクション活劇ものを上演します」
―― では、最新作の『デスティニー』のストーリーを教えてください。
タイソン大屋(以下、タイソン)「いつの時代だかわからない昔にライカという小国がありまして、そこを侵略しようとする盗賊団によって国は滅亡の寸前なんです。その国と盗賊団との闘争の最中、一人の男が悪魔と契約を結んですごい力を手に入れ、ライカを復活させ国王になるというお話です。そういう大まかなストーリーがあって、その国と盗賊団が実は互いに密偵を送り込んでいたりとか――それが風間俊介くんなんですけど、そういうサイドストーリーもあったりします」
清水「キャラクターそれぞれが人間ドラマを背負っていて」
タイソン「ファンタジーなんですが、戦いのお話でもありますね」
清水「裏切りとか、葛藤とか、そういうシリアスな展開がある中で突然、コメディシーンやダンスシーンもあったりとか、いろんな要素が混ざっています」
―― 佐藤さんは、この舞台をどうご覧になりますか?
佐藤アツヒロ(以下、佐藤)「立ち回りの激しい、アクションエンタテインメントなんですが、その立ち回りにおいていろいろな人間模様を描いた要素があるので、まずはその部分をどう表現するか。そして、アクションの方は、劇団☆新感線とかつかさんの劇団で覚えてきた中で、また新たな自分の引き出しを引っ張り出して、頑張っていきたいなと思います」
―― アツヒロさんの役は一遍死んでよみがえる?
佐藤「そうですね。一遍死んで、よみがえって。悪魔という存在が出てくるんですけど、僕は悪魔に魂を売るんですよね。で、生き延びるという。で、その悪魔の力を使って壊れかけた国を救う存在です。悪魔と契約をして再び命を得るんですが、契約の条件は“何日以内に何人殺す”こと。そうしないとまた死んでしまう。だから悪役でもあるんですよね」
―― そこでテーマの「正義とは何か」ということにつながっていくんですか?
佐藤「つながりますね。国対盗賊、どっちも生きるために殺し合っているので。何が正義なのかというテーマを常に持ってますね」
清水「アツヒロさん演じるテムジンの『本当に生きたい、どんなことがあっても俺は生き延びるんだ』という、その熱い思いがお客さんに伝わればいいなと思います」
タイソン「生きるためには進むしかないという状況の中で悪魔が刃を突きつけてくるんですよね。人間だからいろんな欲があったりもするんですけど、そういう中でいいも悪いも乗り越えていく。それを全部背負っていくというお話なんです。その重さに最後は、潰されるのか、立ち上がるのか。困難に向かい合ったときに人ってどう在るのだろうという根源的な問いかけにもつながるんですけど、それがテーマとしてずっと流れています。だから、稽古していてもちょっと辛くなりますね。僕は悪魔の役なので、『人を殺せ』と言わなきゃいけないし。でも、とても重くても乗り越えなきゃいけない何かなのかもしれないなって。この時期に、このタイミングで演じなくちゃいけないのは、何かひとつ、背負った作品なのかなって思いますね」
佐藤「まあ、僕の役どころがちょっと難しかったりするんですけど、簡単に見出し風にすると、『悪魔に魂を売った男。姫と出会い、その国の結末は…』という感じですかね(笑)」
―― なるほど。わかりやすいですね。そして出演者ですが、幅広い顔ぶれですね。
清水「佐藤アツヒロさん、風間俊介さんというジャニーズ事務所のおふたりが主演で、あと、元宝塚トップスターの城咲あいさん、戦隊ヒーローものの『シンケンジャー』で変身前のシンケンゴールドを演じていらした相馬圭祐さん、ミュージカル『テニスの王子様』でブレイクした大山真志さん、人気声優の楠田敏之さん、元劇団四季のトップスターで今は東宝ミュージカルの『レ・ミゼラブル』でも主役をされている坂元健児さんという、錚々たるゲストをお迎えしています」
―― キャスティングはどなたがされたんですか?
清水「製作総指揮という形で私がやらせていただいておりまして、キャスティングもほぼやらせていただいてます」
―― 作・演出の毛利亘宏さんは、どんな方なんですか?
清水「東京の小劇団の中でも人気の高い、少年社中という劇団がいまして、早稲田の演劇研究会から派生した劇団です。毛利さんは少年社中の主宰をされてます。私が元々、スタントマンをやっていたり、日本刀や剣を使ったアクションが得意でその振り付けとかもやらせていただていまして、毛利さんとは、少年社中のアクションのコーディネートをするようになってからのお付き合いですね」
―― 毛利さんとはどうですか?
清水「やりたいことがすごく近いですね。30-DULEXを立ち上げたときは当然、劇団☆新感線なんかも意識していたんですけども、劇団☆新感線やMOTEHR、キャラメルボックスのいいところを混ぜこぜにしつつ、それらとはまた違うジャンルのエンタテインメントを作れている感じがして。今回の『デスティニー』も、僕の理想に非常に近いものを毛利さんに作っていただいてますね」
―― 毛利さんの演出と、劇団☆新感線のいのうえひでのりさんの演出との違いは、どう感じますか?
清水「それは僕よりもアツヒロさんやタイソンに言っていただいた方がいいと思うんで、アツヒロさんはいかがでしょうか?」
佐藤「同じアクションでも、毛利さんはより純粋な人間の切なさや哀しさを立ち回りでうまく表現するシーンが多いので、より泣ける芝居を作っているという感じがしますね」
タイソン「いのうえさんはストレートな表現を恥ずかしがるというか、すごく婉曲にしていって、最後にドーンと見せるという感じなんですが、毛利さんの場合はそういうシーンを純粋にポンっと入れちゃうっていう、その潔さはありますね。」
―― 皆さん、ほぼ、同世代なんですよね?
佐藤「清水さんとタイソンさんは僕の1個上。毛利さんも2つ下くらいで」
清水「そうですね。30代が中心ですね」
タイソン「坂元さんもものすごい重鎮みたいな雰囲気ですけど1つ上で」
清水「今、39歳なんですよね」
佐藤「同世代が多いので、稽古でも作品を作っているという一体感がすごくいいですね」
清水「みんな『ガンダム』とか『ドラゴンボール』とか、同じアニメが好きで、演出のたとえを毛利さんがアニメで言うと、みんな『わかる!!』っていう反応で、部活みたいな感じの稽古場になってます」
―― 下の世代の役者さんはどうですか?
清水「30代の我々が熱く、元気よく、やってる姿を見て、元気よくついてきてくださっている感じがありますね。どこの世界もそうだと思うんですけど、演劇界もまだまだ、三谷幸喜さん、いのうえさん、野田秀樹さんなど、40代後半の世代の方々が引っ張っていらっしゃるので、我々30代の世代がもっと引っ張っていきたいなっていう気持ちを持ちながらやってますね」
―― 佐藤さんから見た30-DULEXの面白さは?
佐藤「30-DULEXは毎回毎回、清水さんとタイソンさんのもとにいろんな役者が集まって公演をするんですよね。だから毎回、新しい劇団みたいな形でされていて。今回もこうして集まって、ひとつの劇団のように頑張るっていう、このシステムが面白いなって思います。劇団で括るとふたりしかいないもんね」
清水「そうなんですよね。劇団は常に同じメンバーで作品を作るので、その方向性をみんながわかってるから楽なんです。でもその反面、次第になあなあな関係性になって人間関係とかで揉め事が起こったりするんですよね。で、プロデュース公演とか、商業演劇の場合だと、スターの役者さんが出演されてて、それもすごくいいんですけど、稽古は1週間、1ヶ月くらいでなかなかコミュニケーションが取れないまま舞台が終わってしまうこともあるんです。だったら劇団のよさとプロデュース公演のよさを一緒にできないかなと。劇団と商業演劇のおいしいところをくっつけたような新しい形態の団体がもっとあってもいいんじゃないかなって思ってますね」
佐藤「あと、舞台の見せ方として歌とか踊りとかある中で、立ち回りも見せるためのひとつの武器だと思うんです。なので今後、立ち回りをする舞台がもっと増えてもいいと思ってて。もちろん劇団☆新感線という存在がありますが、立ち回りをどっしりと据えている舞台があっていいと。そういう中で、30-DULEXというユニットのアクションエンタテインメントに参加できることにすごく嬉しく思いますね」
清水「アクションものっていろんな劇団が憧れるんですけど、劇団☆新感線という大きい存在があって、どうしても二番煎じになりがちで。だからみんな、それを避けて通る傾向もあって。なぜなら、あそこまでのクオリティのあるものを作れない。お金もないし。指導者もいないし、天才的な演出家もいないし…という。そういう状況の中で、僕らはその演出家のもとで勉強してきたので、その天才がやってきたこととは違う何かを確立できるんじゃないかなと思っているところで。我々がこういった舞台をもう少し確立して、手法として流行ってくれるといいなって思いますね。ストレートプレイだけじゃなく、アクションものとか踊りものとかも若い人たちに影響を与えると思うので、もっと若い世代に伝えていきたいなって思ってます」
―― なるほど。今回、佐藤さんを主演に招かれましたが、佐藤さんの魅力をそれぞれ、教えてください。
清水「……暑苦しいですね(笑)。アツヒロさんに『演出的な意見があれば、どんどん稽古場で言ってください』って話したんですよ。そしたら、遠慮なく言うんですよ(笑)。『俺はこう思うんだ、こう思うんだ、この方がカッコイイと思うんだよ』って。それは、僕たちが気づいてないこともあったり、『いや、それはこっちの方がいいと思うんだけどな』っていうこともあって。そういう場合は毛利さんにジャッジしてもらったりして。熱い意見の交換が稽古場で起こってますね。それって、野田秀樹さんとか三谷幸喜さんとか、いのうえひでのりさんとか天才的な演出家がいるところでは、そういうことはないと思うんです。でもここでは、熱い意見の交換があって稽古が止まることもありますし、ぶつかり合うときもあるんですけど、毛利さんが最適な方をチョイスしてくれたりして、いい稽古場の雰囲気もできてます。その、意見を出しているアツヒロさんの姿を見ると、『うわ、この人は本当に生きるってことが似合う人だな』って思って、まさに今回の役はぴったりだなって思いましたね。立ち回りの量もすっごい多い、台詞量も膨大で。いろんな運命を背負っていく役なんですけど、この役を演じるにふさわしい、パワーあふれる人で、僕は尊敬してます」
タイソン「僕も同じく、アツヒロさんは暑苦しい人だと思うんですけど……(笑)」
佐藤「『熱い人』じゃないの?(笑)」
タイソン「ワハハ、あつ…苦しい方です(笑)。まっすぐに役に向き合って、裸でぶつかってくるような真摯さがあって。そこに雑念とかもなくて。アツヒロさんって『俺はこっから一歩も引かない、俺は俺だ!』みたいな、そんなパワーみたいなものがあって。例えば立ち回りにしても一歩踏み出すだけでムワン!!って立ちこめる迫力、台詞を言うときも、うまい下手とかじゃなくて、目をつぶって160キロぐらいの剛速球を投げるような。バッターはストライクとかボールとか関係なく、勢いに押されてバットを振ってしまうような、そういう迫力があるんですよね。それって純粋さがそうさせるのかなって思ったりして。あと、『七芒星 』で初めてアツヒロさんと共演したときに、アツヒロさんは主役、僕は若手で一番下で。稽古でいのうえさんにワーって言われたときに、『わかんねぇ!!』ってなったんですけど、そしたら主役のアツヒロさんが『タイソン、ここはこうで、こうで、ここは哀しい、ここは嬉しいみたいな感じでやるとわかりやすいんだよ』って、僕の出ているシーンのところで自分の台本を破っていろいろ書き込んでくれて教えてくれたんですよ。もう……嬉しくて…。そんなことをしてくれる人っていないですよ。何でそこまでしてくれるのかなって思ったときに、ちゃんと役と向き合ってるからなんですよね。そのまっすぐさがとても印象的で、いいなって思います」
―― 佐藤さんは今、お二人のコメントをお聞きしてどうですか?
佐藤「もちろんすごく嬉しいし、自分のいいところって自分ではわかんなかったりして、人から言われて『ああ、俺のここがいいんだ』っていうか、そういうことを再確認できますよね。純粋さとか、生きるとか、本当に自分の中の人生におけるテーマになっているんで、やっぱり純粋な生き方をしていきたいなって思いますね。嫌な大人になりたくないっていう。…尾崎豊じゃないけど(笑)」
清水「もう大人だけどね(笑)」
佐藤「大人なんだけど(笑)、まあ、13歳からやってきて、嫌な大人になりたくないという一心で純粋さを失わず頑張ってきて…。この舞台での『何のために戦うのか』っていうことがすごく人生とかぶるので、僕の中では稽古でも『生きるか死ぬか』でやっているのも事実で。だからアツ……暑苦しくなってしまったり…(笑)」
清水「アツヒロさんは完全な演劇人だと思いますね。だから僕らと相性が合うというか。僕は今回が初共演なんですけど、アツヒロさんのそういう姿を見ることができて、すごく嬉しいなって思います」
―― 佐藤さんは、舞台はプーシリーズ以来ですよね。今回もアクションシーンが多いとのことですが、お体は大丈夫ですか?
佐藤「大丈夫ですね。日に日に、よりうまくなっている感じがします。立ち回りの種類も、アクションエンタテインメントの劇団☆新感線とか、プーシリーズの『アマツカゼ―天つ風―』とはまた違って。でも、そこで覚えたことを今回、生かすこともできていて。本当に、アクションができる作品に出会えたことが嬉しいです。立ち回りもすごくあって、しかも後半になるにつれ哀しい立ち回りがあるんですよね。お互い、殺し合いたくないのに、そういう状況になってしまう。その哀しい戦いを立ち回りで表現するシーンがあるんです。今までそういうことをしたことがないので、また新しい立ち回りが僕の中に生まれて、それもよかったなって思いますね」
―― そこは見てほしいシーンですか?
佐藤「そうですね。そこはもう、90%感情で動くみたいな。そういう部分も30-DULEXの立ち回りの特徴だと思います。でも、気をつけないと怪我しちゃうんですよね(笑)。通し稽古したときも、若手が本当に感情だけなんで危ないんですよ(笑)。ただ、気持ちはガンガン伝わってくる立ち回りですね」
―― 来年で旗揚げ10周年を迎える30-DULEX。その節目を迎える前に、是が非でも本公演を成功させたいと清水は言う。成功させて初めて10周年が見えてくるんじゃないかとも。
清水「今回、動員目標は東京、名古屋、大阪を合わせて1万人以上と、我々もいまだかつて経験したことのない規模なんですね。でも、演劇で1万人って夢の数だと思って、何とか成功させたいです。そして次なる10周年記念で2本も3本も、楽しい公演をやりたいなって思っています!」
(2011年5月 2日更新)
サーティーデラックス●'02年、元MOTHERの清水順二、劇団☆新感線のタイソン大屋、元演劇集団キャラメルボックスの佐藤仁志を中心に結成。「30歳って演劇人にとってとりあえず転機というか、若い人に向けて“30までは頑張れよ”っていうメッセージも込めて30。そしてとにかくどでかいことをやりたいので“DELUX”」(清水)ということで、このユニット名に。得意とする舞台はアクション活劇もの。清水、タイソンが大阪の劇団出身ということもあり、'04年からは毎年、大阪でも公演を行っている。そして「いつも深夜バスで移動していたんですが、今ごろようやく、新幹線で来れるようになりました」(清水)と笑う。また、「お世話になった大阪という土地に恩返しもしたいので、大阪の演劇シーンを盛り上げたいなと思っています」(清水)とのこと。
▼5月14日(土)・15日(日)
(土)13:00/18:00 (日)13:00
梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
[一般発売]指定席5800円
[作・演出]毛利亘宏
[出演]佐藤アツヒロ/風間俊介/タイソン大屋/清水順二/城咲あい/はねゆり/相馬圭祐/大山真志/楠田敏之/森大/飯田卓也/新田健太/佐藤ユウヤ/山舗和広/天野博一/茂木祐輝/上田直樹/坂元健児
※この公演は終了しました。