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両A面シングル「走り出す」と「はしりだす」
同一楽曲が全く異なる印象で耳に届く不思議体験
グソクムズが2曲で示した鮮やかな独創性

両A面シングル――CDがよく聴かれた時代に、2曲もどちらもメインであることを示していたリリース方法だ。東京・吉祥寺を中心に活動する4人組バンド、グソクムズが9月16日に配信をスタートさせた「走り出す/はしりだす」は、同一楽曲に異なるアレンジを施し、驚くほど別楽曲として耳と心に届く両A面シングル。漢字表記の「走り出す」は、フリッパーズ・ギターやthe pillows、羊文学らの楽曲に携わってきた吉田仁(SALON MUSIC)が初めてプロデュースを担当し、爽快感と疾走感あるサウンドにアレンジされている。一方ひらがな表記の「はしりだす」は、フジテレビ系・FODのドラマ『ペンション・恋は桃色 season4』の挿入歌としてオンエアされており、ゆるやかな打ち込みのビートに伸びやかな歌声が溶け合う心地のよい仕上がりとなっている。両A面/同一楽曲で2曲を制作/かたやバンドサウンド、かたやうちこみなど、質問したいことだらけのこの楽曲制作について、来阪中のたなかえいぞを(Vo&Gt)に訊いた。

10年後20年後にも聴かれる
普遍的な楽曲を作っていきたい



――今日は9月16日に配信がスタートしたニューシングル「走り出す/はしりだす」について伺いたいのですが、この曲が2026年のファーストリリースということで、少し時間を巻き戻して昨年11月にアルバム『SCRATCH』をリリースした後、次に取り組む楽曲に対するアイデアの種は見えていたかということから質問させてください。

「『SCRATCH』でバンドとしてもかなりやりたいことができた感覚があったので、次はもう少し間口を広げるようなポピュラーなものも作りたいし、対極にあるようなニッチなリスナーに刺さる楽曲も作りたい気持ち...つまり幅を広げたいと考えるようになりました」

――幅を広げたいという想いが生まれたのは?

「単純に音楽が好きで、自分たちが今の時代で音楽をやっているからには曲を残していきたいという気持ちからですかね。10年後20年後にも聴かれる普遍的なものを作っていきたいからこそ、ポップな楽曲とバンドとしての奥行きも出せるような刺せる楽曲の両方を作りたいなと。いろんな顔を見せたいなという気持ちも生まれました」

――そう思うようになって何か変化はありましたか。

「自然と音楽について考えることが多くなって、曲を作る頻度も上がっています。割と日記のように日々出てくるアイデアを曲にしていて。僕にとっては"今この時代で感じ取っているものをどう表現するか"が大事なので、それをモチベーションに常に曲を作っているイメージですね」

――なるほど。アルバムのリリース後、今年1月から4月までワンマンツアー『SCRATCH TOUR 2026』も行われました。ツアーの手応えはいかがでしたか。

「お客さんの反応もよかったですけど、何よりライブに向き合うバンドの姿勢に変化があった気がします。このライブではこのアレンジ、このライブではこういうアレンジというような、今までやってこなかった手のかかる作業をやり出すようになったんです。アレンジの変化を受け止めているお客さんの反応を見るのが楽しいし、応えてくれたらすごくうれしい。それこそその場でしか体験できない空間にするのがライブだという想いが高まってきていると思いますね」

――ツアーファイナルの東京キネマ倶楽部公演は音源化もされましたし、それによって見えてくることもありそうです。

「そうそう。自分的にはミスした! と思っていたけどたいしたことがなかったとか、意外とこういう聴こえ方をするんだなとか、ライブを客観的に捉えられました。ただそれも公演が終わってすぐではなく、時間をあけて再度体験できたのも大きかったと思います。そういうタイミングで、今回のリリースの曲の『ペンション・恋は桃色 season4』の挿入歌のお話をいただいて」

――「走り出す/はしりだす」は、同一楽曲にそれぞれ全く異なるアレンジを施した両A面シングルという、サブスク時代において斬新な試みです。そもそもなぜこのような手法を思いついたのだろう? というところから疑問に満ちています...!

「実は少し前から「走り出す」という曲自体は存在していたんです。ただ、いい曲ではあるけれどリリースには至っていなかった。それがドラマ挿入歌のお話をいただいて、この曲に光が当たってレコーディングしてみようとなったんです。元々は漢字表記の「走り出す」の方に近いアレンジのものができていたのですが、ドラマの雰囲気を考えた時にもう少しゆったりしていた方がいいなとなって、ひらがなの「はしりだす」というチルバージョンができあがったという流れがありました」

――あ、じゃあ最初にできたのは「はしりだす」だったんですね。

「それがちょっと複雑で、実はパターンが異なるものが5つくらい存在しているんですよ。この曲」

――5つも!

「その中からひとつを選んで改良を重ねてドラマ用の「はしりだす」をレコーディングしたという。でもこの楽曲は、爽快感や疾走感があった方が映える曲なのかなという想いもあったので、じゃあそれもシングルで出そうとレコーディングをしたというのが真相です」

――ひらがなの「はしりだす」が完成した段階でシングルリリースはこの1曲のみにして、漢字の「走り出す」は次回まとまった作品のリリース時...例えばEPやアルバムの中に入れましょうとなるのが一般的なのかな? と思ったりもします。

「確かに。両A面になったのは...なんでだったっけなぁ?」

――しかも両A面という形でリリースして、CDやレコードではなく配信だとどういう聴かれ方をするのだろう? とか、どういう聴かれ方を狙っているのだろう? とか、気になることがたくさんありました。

「やっぱり今はサブスクのプレイリストで聴く人がほとんどかなとは思うんですけど...そういう中でも僕たちは全アルバムをアナログでもリリースしているので、そういう立ち位置とアナログ的アプローチをし続けることが大事なスタンスだと思っているんです。なので、あえて意味がわからないことをやりました(笑)」

――かつてマスコミに視聴用として配られていたサンプル版CD-Rにそっくりのジャケットも含めて、懐かしい香りがしました。ちなみに「走り出す/はしりだす」は1曲ずつ強いシングルを、それぞれ楽しんでもらおうというイメージですか?

「そうですね。B面やカップリングという扱いにすると、推し曲と捉えてもらえないかなというか。両方推し曲だよ! と。そもそもタイトルの表記も漢字で同じにして、サブタイトル的にチルバージョンとかアコースティックバージョンと添える案もあったんですけど、サブタイトルがついたものが挿入歌になるのも意味がわからないかなと思って...それならばタイトルの表記を変えちゃおうと」

――こういう曲の出し方というか、こんな展開方法があるんだ...! なんかこれは発明だと思いました。

「とはいえ同じ曲なので、共同体みたいなものではあるんですけどね(笑)」




遊び心が爆発した「はしりだす」と
疾走感とビート感を重視した「走り出す」



――グソクムズはメンバー4人とも曲を作られますが、この「走り出す/はしりだす」はベースの堀部さんが制作されました。最初に曲を受け取った時の印象は覚えていますか?

「印象はちょっとうろ覚えですけど、堀部の曲は本当にシンプルに歌とギターだけが送られてくるんです。他のメンバーだとある程度こういう曲でとかこういうテンポでとかまで決まっているんですけど。だからこそ5パターンも作れるほど、いい意味でいじりがいがあるんです。最初に仕上がったのはJ-ROCKみのあるものだったんですけど、聴いてみます?」

――え、聴きたいです! (PCから楽曲が流れ出す)...J-ROCKっぽさもすごくありますけど、存在として「走り出す」と「はしりだす」のいい感じの中間地点にいるような楽曲じゃないですか。

「ね? 懐かしのジャパニーズロックっぽい感じがするというか。これもいいなとは思うけど、僕としてはちょっと若すぎるというか青春すぎる感じがして」

――でもこの段階では、シングルになるとかどこかの作品の中に収録されるかも決まっていなかったわけですよね。

「そうです。だからこそ転がりがいのある曲で、「走り出す」にも「はしりだす」にも変わっていったという」

――ここまでJ-ROCKの空気感を纏った楽曲が、「はしりだす」へ変化したというのは...随分印象の違う服に着替えたな...と思わずにはいられません。

「ドラマの雰囲気や内容に合わせて、遊び心がある感じもいいんじゃないかなという始まりでした。ドラムは打ち込みですしね」

――そう、何よりもサウンドに驚きがありました。グソクムズから新しい音をスッと提示された感じで。打ち込みというのも新鮮でした。

「実は打ち込みで作った曲がアマチュア時代にもあったんです。あの曲の空気感が欲しいねという話から、打ち込みでゆったりしたものを作ろうと」

――そもそもJ-ROCKの雰囲気ですでにふんわりとできているものを、打ち込みでゆったりする方向へ持っていくうえでの工夫点や難しかったことはありましたか?

「難しかったところはそんなになくて。この曲の制作時は、ちょっと息抜きをしたいなというか、たまには違うことをやってみたい空気というか。それこそ堀部がギターを弾いていますしね」

――遊び心爆発ですねぇ。

「煮詰まっていたんですかねぇ? 遊びたくなっちゃいました」

――2曲続けて聴くと、たなかさんの歌い方にもすごく違いを感じられますね。

「そうですね。それぞれテンポが違うというのもあるのですが、実はそもそもキーが違うんです。高さが違うのもあるので「はしりだす」は鼻歌のように力を抜く感じを意識して、「走り出す」はやっぱり疾走感を大事にしたかったのでなるべく軽やかな、滑るような感じを出す歌い方になっていますね」

――ちなみに先に「はしりだす」が完成した後、「走り出す」の方はどのような制作の過程を経たのでしょうか。

「リファレンスになるような曲を元に目指すテンション感を探しつつ、どこかブラック感が欲しいよねとか、パーカッション系が欲しいよねと話しながら進めていきました。そうやって下地を作ったうえでギターの重ね方やイントロの長さを考えつつ、あと細かいフレーズはプロデュースをお願いした吉田仁さんに委ねたりして。とにかくいろいろと試しながらトライ&エラーを重ねて作っていきました」

――「はしりだす」が完成していたことで、「走り出す」をどういう曲にしたいのか明確になりやすかったのではないですか?

「制作中に「はしりだす」の方は、なんとなく「あるきだす」みたいなイメージの曲になったねって話していたんです」

――おぉ、あるきだす! スローですし。

「だからこそ「走り出す」の方はやっぱりある程度の疾走感がないと歌詞の説得力がないのでは? というのはありました。それがあったので疾走感とビート感を大事にしようというベクトルは最初から決まっていましたね」

――そして「走り出す」にはプロデューサーに吉田仁さんを迎えられましたが、その意図というのは?

「そもそも以前からプロデューサーにお願いしてみようというアイデアはありました。新しい風を吹き込んでくれる人が必要なのでは、というか。やろうと思えばメンバー4人でも完結させられるけどそれだと風通しがよくない気がするし、これまでにも第三者の意見が欲しいなと思うことがあったりして。だからこそ今回のタイミングで吉田さんを迎えられたらすごくいいねと」

――いろんなプロデューサーを迎える可能性がある中で、吉田さんに依頼した理由というと?

「SALON MUSICが好きだったからです! あと2021年のインディーズデビューの時に、スタッフに吉田仁さんにプロデュースをお願いするのがいいと思うよと言われたことがあって。当時お願いすることはなかったんですけど、今改めてお願いしたらどうなるか自分たち自身が知りたい気持ちもありました」

――実際にプロデュースをお願いしてみていかがでしたか。

「吉田さんは、僕たちがやりたいことを活かすというスタイルなんです。僕らの希望を丁寧にヒアリングしてくれて、じゃあこういう音にしてみたら? とご自身が持っているいろんな引き出しを開けてくれるという。今までメンバーだけで作っていたら却下されていたような僕のアイデアでも、吉田さんはこれで行こうと言ってくれたり。自分に自信がつくような作業でもありました。それと吉田さん、すごく今後の制作のキーワードになることをポソっと言ってくれるんですよ」

――学びありまくりですね。

「本当に先生ですね」

――そして気になるのが、同じ曲だけどまるで別曲のような聴こえ方をする「走り出す」と「はしりだす」がライブではどのような存在になっていくのだろうか、ということです。

「それ、僕も気になります。そもそも「はしりだす」は打ち込みで、いつものライブの形態とは違うというのもあってどうするかなぁと。これからじっくり考える予定です」

――なるほど。その辺りも楽しみになるライブですが10月には大阪で、そして11月には東京でホールライブ『楽園』が開催されます。これ、タイトルがどこから来ているのか気になっていたのですが『SCRATCH』のリリースツアーファイナルで「楽園」という新曲を披露していたんですよね。まだリリースはされていませんけれども。

「そうなんですよ。「走り出す/はしりだす」が先にリリースになりまして」

――ツアータイトルになるくらいだから大きなカギになる曲だと思うのですが、どんな曲なのかヒントをいただけますか。

「言葉のイメージから、楽園は山ですか? 海ですか? とよく聞かれるんですけど、そういうことではなくて、楽園とは自分が心を休められる場所だと思っているんです。それは自分の部屋なのかもしれないし、安息の地とはそれぞれの中にあると思うんです。とにかく心の中の特別な場所が大事ということで、ツアーのビジュアルもそういう精神世界的な楽園を表現しています。「楽園」という楽曲でも伝えたいのは、誰しも心の中に楽園はあるよねということ。そしてこのホールライブではグソクムズのライブが、来てくれる人にとって安息の地と思えるような空間であって欲しいという願いも込めています」

――このツアータイトルが新曲のタイトルであるとなると...ホールで、どんなセットリストでライブが展開されるのかも気になります。

「そうですね、新旧織り交ぜたセットリストになるかなと思っています。それこそホールだから座って聴けるもの...我々の最近の楽曲だとライブハウスで踊りながら聴ける曲が多かった気がしますけど、今回は箸休め的な曲やゆったりした曲も含めて楽しみ方がそれぞれある楽曲で構成していこうかなと思っているので、ぜひ楽しみにしていてください」

取材・文/桃井麻依子




(2026年9月28日更新)


Release

両A面 Digital Single「走り出す/はしりだす」

配信中

配信リンクはこちら

Profile

グソクムズ=東京・吉祥寺を中心に活動する4人組バンド。メンバーはたなかえいぞを(Vo&Gt)、加藤祐樹(Gt)、堀部祐介(Ba)、中島雄士(Dr)の4人。2021年7月に配信リリースした「すべからく通り雨」が話題を呼び、12月に1stアルバム『グソクムズ』を発表。2022年12月に2ndアルバム『陽気な休日』を、2023年5月より4カ月連続で“旅”を題材にした新曲を配信リリース。7月には東京・渋谷WWW Xにてワンマン公演を成功させ、同月FUJI ROCK FESTIVAL 2023のROOKIE A GO-GOに初出演。11月から全国5都市を回るツアー「道の途中」を開催し、ファイナルはホームタウンである東京・吉祥寺の武蔵野公会堂にて開催し、ソールドアウトを記録した。2024年4月にメジャーデビューアルバム『ハロー!グッドモーニング!』をリリースし、レコ発となる東京・大阪でのワンマン公演を開催。また11月からは全国7都市で開催するワンマンツアーを敢行。ファイナルは自身最大規模となる東京 LIQUIDROOMで開催。2025年11月には4thアルバム『SCRATCH』をリリースし、2026年1月からは全国主要7都市を巡るワンマンツアー「SCRATCH TOUR 2026」を開催。2026年秋には東京・大阪でのホールワンマン公演「楽園」を開催する。

Live

グソクムズ HALL LIVE 2026“楽園”

PICK UP!!

【大阪公演】

▼10月12日(月・祝) 17:30
東京建物 Brillia HALL 箕面 小ホール
全席指定-5500円
※未就学児童入場可。ただし4歳以上チケット必要。
[問] キョードーインフォメーション ■0570-200-888

【東京公演】
▼11月3日(火・祝) 大手町三井ホール


「ボロフェスタ2026 ~25th anniversary~」

【京都公演】

▼10月31日(土)~11月3日(火・祝)
京都メトロ/KBSホール

※グソクムズは11月1日(日) 昼の部に出演予定。

チケット情報はこちら


Link

グソクムズ 公式サイト
https://www.gusokumuzu.com/

グソクムズ 公式X
https://x.com/gusokumuzu

グソクムズ 公式Instagram
https://www.instagram.com/gusokumuzu/

グソクムズ YouTube
https://www.youtube.com/@Gusokumuzu_Official