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あたらよが『私雨に夏の灯を知る』で照らす、
“悲しみをたべた先”にあるもの

「悲しみをたべて育つバンド。」を掲げ、切なさや喪失、言葉にならない感情を音楽にしてきたあたらよ。2026年8月19日にリリースされたニューアルバム『私雨に夏の灯を知る』には、花火や夕立、蝉、夏風といった季節の情景とともに、過ぎ去っていく時間への寂しさや、失ってから気づく思い、言葉にできなかった後悔が描かれている。一方、制作面では友成空をゲストボーカルに迎えた「涼風 feat. 友成空」や、ひとみが外部で歌唱・楽曲提供に携わった楽曲の“Atarayo Cover”、メンバー3人で沖縄へ赴いた制作合宿など、これまでにない試みも数多く盛り込まれた。2024年以降はアジアへと活動の場を広げ、海外での経験がバンドの音楽やライブに対する考え方にも変化をもたらしているという。新作に描いた「夏」とその先に残る感情、現在の3人だからこそ生まれた音楽、そしてアルバムを携えて巡るASIA TOUR 2026『夕立が去ったその後で』について、Vo/Gtひとみに話を聞いた。

夏の向こう側にある「あたらよの日常」



――ニューアルバム『私雨に夏の灯を知る』は、どんな作品にしたいというところから制作が始まったのでしょうか?

「直球に言うと、夏曲がいっぱい詰まったアルバムをひとつ作りたいな、というところから制作を始めました。新曲は「夏」をテーマに書いています。あとは、あたらよとして初めての挑戦が詰まった一枚にもなっています。初めてゲストボーカルを迎えた「涼風 feat. 友成空」だったり、私が歌唱や楽曲提供をさせていただいた楽曲を、あたらよとしてカバーしたり。私があたらよの外で経験してきたことがバンドに還元されていくというのも今回が初めてだったので、その二軸で皆さんに楽しんでもらえる一枚を作りたいと思って制作しました。」

――『私雨に夏の灯を知る』というタイトルはどのように生まれたのでしょう?

「楽曲がすべて仕上がったあとに、みんなで話し合って決めました。「私雨」というのは、ある特定の限られた地域にだけ降るにわか雨のことなんです。山があったら、麓は晴れているけど山頂にだけ雨が降っている、みたいな。今回はそれを「私だけに降る雨」という解釈にしています。自分だけが知っている感情を、あたらよの楽曲を聴くことで、思い出の夏の日とともに呼び起こして、噛みしめてもらえたらという思いが込められています。」

――今作には花火や夕立、蝉、夏風など、夏を感じさせる情景がたくさん登場します。なぜ今回、夏を大きなモチーフにしたのでしょうか?

「あたらよは毎年夏曲をたくさん出していて、国内外問わずたくさん聴いてもらっている感覚があったんです。あとは、夏真っ盛りの時期にアルバムを出すのがかなり久しぶりで。最近は秋に出すことが多かったので、せっかくの機会だし挑戦してみたいなと。リリース時期と季節性というのも意識していました。」

――夏という季節だけではなく、「何かが終わっていくこと」や「過ぎ去ったあとに残る感情」も描かれているように感じました。

「アルバム全体で言うと、あたらよの大きなテーマのひとつである「悲しみをたべて育つ」ということ、その悲しみをたべた先に何が残るのか、というのはすごく意識して書きました。今回、新曲で私が書いた歌詞には「花火」という言葉がひとつ大きなキーワードとして出てくるんですけど、これは意図的に揃えています。それと、夏という大きなテーマの裏側に「日常」というキーワードもありました。前作が「夢」をテーマに描いたアルバムだったので、夢から覚めて日常に戻るという意味もありますし、今のあたらよが描く「日常」というものも、全体を通して意識しています。」



それぞれの楽曲に映る、現在のあたらよ



――「魚」はどのように生まれた曲なのでしょう?

「今回アルバムを作るにあたって、メンバーだけで沖縄に行って、一緒に曲を作る制作合宿をしたんです。そのときに、みんなで「せーの」で録音ボタンを押して演奏した中から、割と素直に出てきた楽曲です。
だから、考えてひねり出したというより、そのときの自分の心境だったり、思っていたこと、感じていたことがすごく素直に出た一曲だと思います。」

――「√」は今作の中でも前向きで、少し違った方向を向いている印象があります。

「この曲はまーしーが先にトラックを作ってくれたんです。「何を思ってこれを作ったの?」と聞いたら、みんなで沖縄に行ったときの景色や、夜に見たすごくきれいな星空を音にしたと言っていて。だから私も歌詞をそこに寄り添わせました。ほかの楽曲が私の抱えている不安や悲しみを描いているとしたら、「√」はまさに等身大の今、メンバーと一緒に見た景色。過去というより「今」を書いている曲になっていると思います。」

――「涼風 feat. 友成空」では、初めてゲストボーカルとして友成空さんを迎えています。一緒に制作することになったきっかけは?

「もともと友成君の曲は私たちも聴いていて。あるサーキットイベントで同じ日に出演したとき、会場が違うのに、友成君が真っさらなタオルを持って「サインください」って挨拶に来てくださったんです。お互い曲は聴いていたけど、そこで初めましてだった。ちょうどその頃、アルバムでいろいろ挑戦したいという話もしていたので、「フィーチャリングで友成君に入ってもらうのはどうか」と。タイミングも含めて、強烈なご縁を感じたんです。」

――実際に友成さんの声が入ったときはいかがでした?

「この曲は最初から友成君に歌ってもらうことを前提に作ったので、彼の楽曲を改めてたくさん聴いて、一番輝く音域を考えながら作っていったんです。デモでは私が両方のパートを歌っていたんですけど、レコーディングで初めて友成君の声が乗った瞬間、鳥肌が立ちました。ボーカリストとして悔しくなるくらい、曲を持っていかれた感じがして(笑)。彼の声って、世界をパッと変えて引き込む力、吸引力みたいなものがものすごくある。想像していた以上に、この曲の世界が広がったと感じました。」

――今作には、ひとみさんが楽曲提供した「ふたり」と、歌唱に参加した「バディ」を、あたらよとして再構築した"Atarayo Cover"も収録されています。今回、あえてバンドの楽曲としてカバーしようと思った理由は?

「いろいろ理由はありますけど、あたらよとしても近年アニメタイアップをやらせてもらう機会があったり、私自身もバンドの外で歌唱や楽曲提供をさせていただいたりしていて。ここ数年はアレンジャーさんと一緒に作品を作ることも増えて、いろいろ経験してきた中で、チャレンジしてみたいことが多くなってきたんです。「今の自分たちだったら、この曲をどういうふうにできるんだろう」という単純な好奇心もすごくありました。あとは、そういった作品をきっかけにあたらよを知ってくださった方もきっといると思うので、そこからより深くあたらよの楽曲を届けられたらいいなと。いっぱいある入り口の中から、さらに深く入ってもらうきっかけになればいいなという思いもありました。」

――実際にあたらよとしてアレンジするうえで、意識したことはありますか?

「「ふたり」は完全にまーしーがアレンジをやってくれています。ただ、もともと私がデモを作ったときに「こういうイメージだったよ」ということはあらかじめ伝えました。あたらよのサウンドは基本的にまーしーが担ってくれているので、そこは彼を信頼して。レコーディングでは「ここはこっちのほうがいいかな」みたいな相談もしながら作っていきました。「ふたり」に関しては、最初に私が作った原曲のイメージにも割と忠実に再構築していったと思います。」

――ラストの「伝えたかったこと」をアルバムの最後に置いた理由は?

「曲順はすごく悩んだんですけど、「蝉とトリトマ」という曲が、一本の映画を観終わったような、喪失感も充実感もあるものすごいパワーを持った曲だと思っていて。その次に来るものとして「伝えたかったこと」が一番しっくりきたんです。エンドロールみたいな感じですね。この曲で言っているのは、感情だけじゃなくて言葉が大事だよね、ということ。あたらよは歌詞や言葉を大切にしているバンドなので、このアルバムを締めくくるのはこの曲がぴったりだと思いました。」

――「悲しみをたべて育つバンド。」として活動してきた中で、ひとみさん自身の「悲しみ」の捉え方にも変化はありますか?

「初期の曲は無我夢中で書いていました。当時、どこにも吐け口のない感情を、曲になら出せるという思いで書いていたんです。でも最近は、そこを少し俯瞰して見られるようになりました。「自分はこう悲しかった。でも、このとき相手はどう思っていたのかな」と、相手の視点まで踏まえて書けるようになった。悲しみは自分の中だけじゃなく、相手の中にもきっとあったんだろうなと思えるようになったんです。「魚」や「涼風」は、二人の視点が同時に描かれているという意味でも、その変化が出ていると思います。昔の自分の曲を聴くと、「すごく自分本位だな」と思う瞬間もあります。当時は相手の悪いところや、言いたいけど言えないことを書いていた。でも最近は、自分のほうにも矢印を向けられるようになった。それは歌詞にも出ていると思いますね。」




3人で同じ景色を見ることで生まれた、"素直な"アルバム



――今回、メンバー3人で沖縄へ制作合宿にも行ったそうですね。どうして沖縄だったんですか?

「夏の曲を作るといっても、リリース時期から逆算すると全然夏じゃない時期に制作することになるので、少しでも夏を感じられる場所に行こうと。それで沖縄になりました。私はもともと、いろいろなものを実際に見て、感じて曲を書くタイプなので、それをメンバーにも一度やってみてほしかったんです。」

――合宿を沖縄でしてみて、制作にどんな影響がありましたか?

「合宿では、完成品をレコーディングするというより、曲のカケラやデモをたくさん作りました。今はドラムがいないこともあって、普段は個々のデータのやり取りになりがちなんです。そうすると、ある程度完成したものが送られてきて、それをブラッシュアップしていく形になる。でもみんなで集まれば、ゼロイチから全員が関われる。それぞれの意見を吸い上げることで、誰も思っていなかった方向に進んでいく。その中でみんなにとっての最適解を一緒に探せるのが面白かったですね。合宿でみんなと同じ景色を共有できたのもすごくよかったです。同じ景色を見ているのに、「あなたにはこう映っていたんだ」と知ることができた。それぞれの思いでひとつの楽曲に関わる経験は、すごく印象に残っています。」

――3人で作ることを、改めて大切にした作品でもあったということでしょうか?

「バンドのメンバーって、数あるコミュニティの中でも最小単位だと思うんです。その最小単位だからこそ出てくる意見もある。3人ともわりと人の顔色をうかがいがちなメンバーなので(笑)、3人だけだったから素直に作れたという部分もあったと思います。まーしーも今回、「このアルバム、素直に作れたわ」ってよく言っていて。それは私もすごくわかります。これまでいろいろな方といろいろな経験をさせてもらったからこそ、今の自分たちがやりたいことを形にできるようになってきたんだと思います。」



海外で知った、「悲しみ」は誰かと共有できるということ



――2024年の初アジアツアー以降、海外でライブをする機会が一気に増えました。自分たちの音楽が海外で受け取られていることへの実感は変わりましたか?

「そうですね、それはかなり変わりました。以前からSNSでは、いろいろな国の方から「私のところでもライブをしてよ」と言ってもらっていたんです。でも、実際に行ったときにどれくらいの人が待っていてくれるのかはわからないので、すごくふわっとした、抽象的な感覚だった。それが実際に会いに行くようになって、その熱量も含めて、自分たちが想像していた以上のものだったんだなということを肌で実感しています。」

――日本語で繊細な感情を描くあたらよの音楽が、言葉や文化を超えて届いている理由をどう考えていますか?

「これは我々の長年の謎でもあるんですけど(笑)、最近ちょっとわかってきた気もしていて。あたらよの楽曲って、四季を大切にしている曲が多いんですよ。「ザッツ春だよね」「ザッツ夏だよね」みたいな曲は海外の方にも人気で。日本が持つ季節の美しさや、繊細さ、儚さは、歌詞だけじゃなくてサウンドからも伝わっているんじゃないかなと、ライブをしていて感じます。あとはアニメのタイアップから知ってくれた方も多いので、その二つが入り口として大きいのかなと思います。ただ、実際ライブに行くと、アニメタイアップでもない初期のバラードがすごく人気だったりもするので、そこはまだ解読中です(笑)。」

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――海外でのライブ経験は、楽曲やライブへの向き合い方にも影響していますか?

「はい、それはもう。日本ではバラードをしっかり聴き入ってくれることが多いんですけど、海外ではバラードも大合唱なんですよ。ファンの皆さんが一緒に曲の一部になるような感覚で聴いてくれる。それを見て、私はずっと悲しみって一人で消化していくものだと思っていたけど、曲を通して人と人の悲しみをつなぐこともできるんだ、と気づきました。ライブでの大合唱って、まさにそれの集合体だと思うんです。ライブの作り方も変わりましたね。以前は最後に盛り上がって終わるようなセットリストを組むことが多かったんですけど、最近は「盛り上がって楽しかったね」だけじゃない何かを最後に置いて帰りたいと思うようになって。盛り上がるところはありつつ、最後に名刺代わりになる一曲を置くような、メリハリを意識しています。」



夕立ちのような一瞬を浴びたあと、何を持って帰るのか



――アルバムを携えたASIA TOUR 2026のタイトルは『夕立が去ったその後で』。どんな意味が込められていますか?

「夏のツアー、夏のアルバムなので、「夕立ち」という夏の季語を入れたかったというのがひとつ。あとは、私が歌詞にするものって、大きな物語の中のほんの一瞬というか、瞬間最大風速のような数分の出来事を掘り下げて書くことが多いんです。それ自体が夕立ちのようだなと思って。そういうあたらよの楽曲を浴びたあとに、「あなたは何を思いますか?」という問いかけまで含めて持って帰ってほしい。そんな思いでこのツアータイトルにしました。」

――ライブでは『私雨に夏の灯を知る』の世界をどのように表現したいですか?

「ライブだからこそ、楽曲を飛び越えた表現ができると思っています。曲間のSEだったり、最近のライブでは朗読を入れたりもしていて。楽曲に収まりきらなかった部分、ライブだからこそその先を知れる、見られるということはすごく意識しています。」

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――国内4都市に加え、香港、台北へと続くツアーになります。意気込みを聞かせてください。

「ここ数年、海外にたくさん行かせてもらう中で、ライブのやり方もいろいろ試行錯誤してきました。その集大成みたいなものを、やっと日本の皆さんにもツアーという形でお披露目できる場だと思っています。福岡や名古屋など、国内でも久しぶりに行く場所があるので、「最近あたらよは海外にいろいろ行っているけど、帰ってきてこういうふうになったんだ」って、強くなった自分たちをちゃんと見てもらいたい。それを見たファンの皆さんが何を思うのかも楽しみです。」

――リリースツアーが始まる今、このアルバムがリスナーの中でどんなふうに育っていったら嬉しいですか?

「楽曲って、ある種タイムカプセルみたいなものだと思うんです。学生時代に聴いていた曲を今聴いたら、その瞬間に戻れる、みたいなことってあるじゃないですか。このあたらよの夏曲たちも、皆さんの記憶の中に住み着いてくれたら嬉しいです。何十年経った先に思い出したとき、「この曲と紐づいている、あの夏の思い出があるよね」って思えるような楽曲になってくれたら。」

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――最後に、これからこのアルバムとともにどんな未来を描いていきたいですか?

「今は、あたらよの音楽をいろいろな方に届けることにすごく貪欲になっています。国内ではもっとライブのキャパを大きくしていきたいし、大きくなれば演出で表現できる幅も広がってくるので、そこまで行ったときのあたらよも見てもらいたい。海外も、ここ数年初めての土地に行かせてもらって、そこでソールドアウトも経験して。本当に恵まれた環境にいると思っています。なのでそこに甘えず、もっともっとその輪を広げていきたいですね。」

Text by フジサワメグリ




(2026年9月 7日更新)


Release

Album『私雨に夏の灯を知る』

映像盤(CD+Blu-ray)
RZCB-87217/B/8514円

DISC 1 [Blu-ray] あたらよ「夢語り Yume-gatari」TOUR 2025 at Zepp New Taipei
01. 溺れている
02. outcry
03. 雫
04. 忘愛
05. 夏霞
06. 10月無口な君を忘れる
07. 夢現、夏風薫る
08. しないで
09. 夜空を蝕んで
10. 差異
11. 朝凪
12. クリスマスのよる
13. 青を掬う
14. 空蒼いまま
15. ツキノフネ
16. 「僕は...」
17. 雪冴ゆる

通常盤(CD)
RZCB-87218/3190円

[CD] ※全形態共通
01. 涼風 feat. 友成空
02. 魚
03. 春となり
04. ふたり -Atarayo Cover-
05. バディ-Atarayo Cover-
06. ハク
07. √
08. 蝉とトリトマ
09. 伝えたかったこと

Live

あたらよ ASIA TOUR 2026『夕立が去ったその後で』

【大阪公演】
▼8月22日(土) 心斎橋JANUS

【愛知公演】
▼9月12日(土) 池下CLUB UPSET
【福岡公演】
▼9月13日(日) DRUM Be-1
【東京公演】
▼9月18日(金) Spotify O-EAST
【香港公演】※SOLD OUT
▼10月19日(月)・20(火)・21(水) PORTAL
※20(火)追加公演/21(水)再追加公演
【台北公演】
▼12月19日(土) 台北流行音楽中心

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