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沖縄の風景も、戦争の記憶も、仲間との日々も。
佐久間龍星がEP『Roots』に刻んだ自身の原点

沖縄県嘉手納町出身のシンガーソングライター・佐久間龍星が、8月19日に初のEP『Roots』をリリースした。沖縄独自の空気感とR&Bを融合させた“Island R&B”を掲げ、メジャーデビューから1年。本作には、幼馴染のOZworldを迎えた「Those days -童神~天の子守唄~- feat. OZworld」をはじめ、祖母から受け継いだ沖縄戦の記憶、故郷で仲間たちと過ごした日々、そしてシンガーソングライターとして生きていく覚悟が刻まれている。自身のルーツを見つめ直した全6曲について、制作の背景や楽曲に込めた思いを聞いた。

「Roots」は"今の自分"を語るために欠かせない作品



――メジャーデビューから1年というタイミングで、初のEP『Roots』をリリースします。どんな作品にしたいと思って制作を始めたのでしょうか?

「楽曲制作をしていく上で自分の力を試したいという気持ちがあったんです。それで「何をしようかな」と考えたときに、一番自分を表現できるものといったら、やっぱり自分のルーツである沖縄のことなんじゃないかなと思って。「なぜ自分は沖縄で生まれたんだろう?」みたいなことも考えながら、それを作品に落とし込んでいきました。最初のEPでもあるので、「佐久間龍星とは?」みたいなことをやりたかったし、今の自分がどういう人間なのかをちゃんと見せたかった。それで『Roots』というタイトルになりました。」

――以前から、いつか自分のルーツをテーマにした作品を作りたいと考えていたんですか?

「いや、実はそういうわけでもなくて。急に思ったんですよ(笑)特にきっかけがあったわけでもないです。チームの中で「EPを作りましょう」という話が出たときに、パッと「自分のことを語りたい」と思って。そこからみんなでタイトルを考えていって、「だったら『Roots』がいいんじゃないか」と。そうやって自然に決まっていきました。」

――収録された6曲には、それぞれ異なるテーマがありますね。一枚を通したストーリーも意識しているのでしょうか?

「そうですね。1曲目の「Roots」では、まず沖縄の歴史について書いています。今の沖縄はすごく豊かになって、盛り上がってきていると思うんです。人もすごく温かくて優しい。でも、その背景には沖縄戦を経験した方々がいて、この島が歩んできた歴史がある。「沖縄の人の温かさって、どこから来るんだろう?」と考えたときに、悲しいことを経験してきた歴史があるからこそ、人のことを思うようになるとか、そういうところもあるんじゃないかなと思って。だから1曲目では、「こういう歴史から始まったんだ」というところを書きたかったんです。」

――そしてそこから2曲目の「和多志」へと続いていく、と。

「そうですね。「Roots」では沖縄戦について書いて、次の世代へ語り継ごうという思いを込めたんですけど、「和多志」では自分自身にフォーカスしています。「なんで自分は沖縄で生まれたんだろう?」って、たまに不思議に思うんですよ。こんなに世界が広くて、たくさんの場所がある中で、僕は日本で、しかも沖縄という小さな島で生まれた。それって何なんだろうって。そこから、「自分とは何だろう」「自分のやるべきことって何だろう」と考えて。まず沖縄の歴史があって、次に、その場所に生まれた自分の使命を探していくような感覚でした。」



沖縄戦を歌う――「Roots」に込めた使命



――さっきも少し話に出ましたが、タイトル曲「Roots」は沖縄戦をテーマにしていますよね。このテーマで曲を書こうと思った理由を改めて教えてください。

「自分のルーツを語る上で、沖縄戦というのは避けては通れないテーマだと思ったからです。僕は嘉手納町出身で、子どもの頃から学校でも沖縄戦について学ぶ授業がありましたし、おばあちゃんの家に行ったら戦争の話を聞くこともありました。だから、沖縄戦は何か特別に調べないと出会わないものではなくて、子どもの頃から身近にあったものだったんです。でも、僕たちって実際に戦争を経験したおじいちゃん、おばあちゃんからリアルな話を聞けた最後の世代だと思うんですよ。だから、それを僕たちがまた次の世代につないでいかないといけない、そんな思いで完成させました。」

――歌詞には「張り深く世界(しけ)ぬ風乗せ願う世果報」という印象的な一節があります。「世果報(ゆがふ)」にはどんな意味があるのでしょう?

「「世果報(ゆがふ)」というのは、"豊穣"や"争いのない世界"といった意味の沖縄の言葉です。この言葉自体は、今の沖縄の人が普段の会話でみんな使っているかというとそうではないし、わからない人も結構いると思います。でも、民謡の歌詞にはよく出てくる言葉なんです。だからこの曲ではこの言葉を使いたいと思いました。」

――この「世果報(ゆがふ)」という言葉に託したものは?

「まさに、争いのない世界ですね。ただ「争いがなくなればいい」というだけじゃなくて、"豊穣"という意味があるように、人の心も豊かになってほしいと思っています。おばあちゃんたちからは「絶対に戦争はやっちゃいかんよ」と言われてきました。もちろん戦争には政治も絡んでいるし、いろいろな事情があるのも理解はしています。でも一回そういうものを全部置いておいて、人として考えたら、「なんで争いを繰り返すんだろう」って思うんですよね。そこはすごくシンプルな思いです。」



幼馴染・OZworldと歌った「あの頃」の記憶



――「Those days -童神~天の子守唄~- feat. OZworld」では、幼馴染のOZworldさんをフィーチャリングに迎えていますね。以前から一緒に曲を作りたいという思いはあったのでしょうか?

「ありましたね。何か一緒にやりたいとはずっと思っていました。オズとは幼稚園からの幼馴染なんですが、彼は高校生の頃からラッパーとしてどんどん前に出て、作品も出していて。当時の僕はまだギターを弾き始めたくらいだったので、全然追いつけなかったんです。それが10年くらい経った今、やっと一緒に曲を作ることができました。お互いがそれぞれの音楽活動をしていく中で、「今なら一緒にやれる!」というタイミングがあったんですよ。それで僕が彼に電話して、彼も「やろう!」となって。最初は全くの白紙の状態から始めました。」

――子どもの頃はどんな関係だったんですか?

「本当に普通の幼馴染です。お互いにいつも競い合っていましたね。二人とも絵を描くのが好きだったので、「どっちがうまく描けるか」みたいなことをずっとやって、描いたものを見せ合ったり。一緒にゲームをしたりもしていました。」

――歌詞にも二人の実際の思い出がたくさん入っていますよね。

「そうなんです。僕、中学1年生の1学期に事情があって転校したんですけど、その少し前に彼と揉めて、しばらく喋っていなかったんです。でも転校する直前、たまたま学校で会って。僕が彼のカバンを持って玄関まで送って、「じゃあ」って別れた。それが最後になって、そのまま僕は転校したんです。そのときのことを彼が歌詞に書いてくれています。お互いが好きだった場所も入れようと話していて、彼は「八茶坊」というラーメン屋さんの名前を入れています。今もあって、この間も行ってきました(笑)僕が入れたのは「きちじょうじ」という駄菓子屋さん。嘉手納の子だったら、学校が終わったらみんなお菓子やぜんざいを買いに行くようなお店なんです。ただ、今は僕が東京にいるので、「なんで急に歌詞に吉祥寺が出てくるの?」って、いろんな人に聞かれました(笑)」

――二人が通っていた小学校の校歌も隠されているとか。

「僕の歌詞に「赤橋を渡って」という言葉があるんです。転校先へ行くには、その赤橋を渡るんですよ。その次に「森の緑の奥深く」という歌詞があるんですけど、これは僕たちが通っていた嘉手納小学校の校歌の最初のフレーズなんです。嘉手納の人が聴いたときに、「あれ入れたんだ」って、ちょっとクスッと笑ったり、懐かしく思ったりするような仕掛けを入れたくて。」

――こうした二人の記憶を、今になって一曲に残せたことには、どんな意味がありましたか?

「僕が転校したのが1学期だったので、止まっていた"2学期の続き"を、二人であの頃に戻って描けたんじゃないかなと思うんです。二人であのときの続きをして、前に進めた。やっと止まっていたものが、少し進んだような感覚があります。」

――この曲では沖縄の子守唄のサンプリングもしていますよね。

「そうなんです。古謝美佐子さんという沖縄のレジェンドシンガーがいらっしゃって、その方の「童神」という曲をサンプリングしています。実は古謝美佐子さんも僕たちと同じ嘉手納出身なんですよ。「童神」は古謝さんが初孫に向けて書いた曲で、そのお孫さんも僕たちの幼馴染なんです。しかも、この曲が生まれたのが僕たちと同じ1997年で。そういうつながりやリスペクトも含めて、サンプリングさせてもらいました。「童神」は沖縄で子守唄として親しまれてきた曲です。それを聴いて育った僕たちが大人になって、形を変えてまた次の世代に伝えていくこともできた。それって、とても意味があることなんじゃないかと思っています。」




沖縄が育てた"Island R&B"



――佐久間さんは自身の音楽を"Island R&B"と表現しています。どんな音楽を指しているのでしょう?

「これは僕が勝手に言っているだけなんですけどね(笑)自分の中では、自然に出てくる沖縄民謡っぽい喉の震え方みたいなものがあるんですよ。それを、自分の大好きなR&Bに落とし込んでいる感じです。別に「この音階を使ったらIsland R&B」とかではなくて、民謡っぽいものが勝手に出てくる。それをR&Bの中で遊びながらやっているというか。自分では沖縄を意識して書いていない曲でも、レコーディングしていると「これ、沖縄を意識して書いた?」って言われることがあるんですよ。「いや、全然そんなことないです」って(笑)だから、たぶんもう自然に出てくるものなんですよね。」

――じゃあ、"Island R&B"はジャンルというよりも、"自分自身を表す概念"という感じなんですね。

「そうですね。最近は僕自身も「自分って何のジャンルをやっているんだろう?」ってちょっとわからないんですよ(笑)だから最近はもう「俺がジャンルだ」と思い始めています。特に決めなくても、己がジャンルでいいんじゃないかなって。」

――沖縄という土地で育ったからこそ、自然と身についたものなんですね。

「そうですね。民謡だったり、エイサーだったり。沖縄で育った人には、そういうものがもう染み付いているというか、刻まれていると思うので。自分でも知らないうちにめちゃくちゃ影響を受けているんだと思います。」

――現在は東京を拠点に活動していますよね。沖縄を離れたことで、あらためて気づいた故郷の魅力や東京との違いはありますか?

「まず、沖縄は空が広いなって(笑)あと、一番大きいのはやっぱり時間の流れですね。沖縄に行くと、時間がすごくゆっくりになるんですよ。でも東京に戻ってくると、もうめちゃくちゃ速く進んでいく。僕は、その二つをうまく使い分けられたらいいなと思っているんです。精神的にきついことがあったら沖縄に行って、ゆっくりして癒やされる。でも、ずっとゆっくりしているだけではシンガーとして進んでいけない。だから東京に来たら「スピード上げるぞ」ってワーッとやって、沖縄に帰って休んで、また東京でワーッとやる(笑)今は、そのスピード感がすごく楽しいですね。僕は「置かれた場所で咲きなさい」という言葉が好きで、いつも頭に入れているんです。環境の違いに対して「ああ、やばい」と思うんじゃなくて、「ここで楽しむにはどうしたらいいんだろう?」って考える。そうすると、「これ楽しいじゃん」「沖縄ではできないけど、これも楽しいじゃん」っていうものをどんどん見つけられる。だからホームシックにも全然ならなかったですね。沖縄と東京にはもちろんギャップがあるけど、その違いを悪いものとして捉えるんじゃなくて、逆にいいように使ってやろう、という感覚です。」



誰かの心の中で"残り続ける音楽"を



――「In Bloom」では、シンガーソングライターとして生きていく覚悟も歌われています。今、アーティストとして大切にしていることはなんですか?

「「In Bloom」の歌詞に「夢は誰かの夢の続き」という言葉を書いているんです。例えば自分がステージに立つとき、その場所に立ちたかった人もいるわけじゃないですか。その中で選んでもらって、僕が立っている。だったら、そこに立ちたかった人たちの気持ちも引き継いで、覚悟を持って歌わないといけないと思うんです。それはステージだけじゃなくて、今日こうしてインタビューしてもらっていることもそう。もしかしたら別の誰かがここにいたかもしれない。そう考えると、その人たちの夢や気持ちも受け継いで歌っていくことは、すごく大切だと思っています。」

――EP『Roots』を聴いた人には、どんなものを受け取ってほしいですか?

「今回は僕自身のルーツを語りましたけど、聴いてくれる人にも、それぞれのルーツや地元、育ってきた環境があると思うんです。だから、自分の故郷をもっと温かく、帰れる場所にしてほしい。「なんで自分はここで生まれ育ったんだろう?」と考えて、その意味を理解した上で、「だったら自分は何をすべきなんだろう」と、それぞれが感じ取ってくれたらいいなと思っています。そして自分が見ている景色や感情が少しでも変わったら、この作品を作った意味があると思うし、すごく嬉しいですね。」

――最後に、このEPを携えて、これからどんなアーティストになっていきたいですか?

「僕の曲を聴いて、「本当に人生を救われました」とか、「ここで諦めようと思っていたけど、もう一回挑戦しようと思いました」とか、そういうメッセージをくれる人がたまにいるんですよね。そういうものを受け取ったときに、「あ、僕って今、一人の人生を変えられたんだ」って思うんです。それが、ものすごくやりがいになる。だから僕が目指しているのは、売れることそのものというより、"残り続ける音楽"なんです。時代が変わっても廃れずに、誰かの心の中でずっと生き続ける。そういう音楽を作っていきたいと思っています。......もちろん、ちゃんと売れるようにも頑張ります(笑)より多くの人に届けるためにも!」

Text by フジサワメグリ




(2026年8月25日更新)


Release

Digital 1st EP『Roots』

配信中

[Track List]
01. Roots
02. 和多志
03. Beach House
04. 君を誰よりも
05. In Bloom
06. Those days -童神~天の子守唄~- feat. OZworld

配信リンクはこちら

Profile

佐久間龍星(サクマリュウセイ)…沖縄県嘉手納町出身。エモーショナルな歌声を武器に、Island R&Bと呼ぶ沖縄独自のサウンドをR&Bと融合させたシンガーソングライター。温かくも力強い歌声は聴く人の心を瞬時に捉え、独自の音楽世界を描き出す。2025年7月、UCHIWA LABELより待望のメジャーデビュー。沖縄のルーツを背景に、R&Bのグルーヴと島の空気感を融合させた新しい音楽性で、多くのリスナーにその存在を印象付けた。ライブでは、歌声とバラードからアップビートなダンスチューンと幅広く、多面的な楽曲の魅力が注目され、そのパフォーマンスで観客の心を揺さぶる。ただ何よりも佐久間龍星が発する声は聴く人々の琴線に触れ、心に染み渡り、歌声の虜にしてしまう。沖縄の風を背負いながら、新しいIsland R&Bの世界を切り拓く存在──佐久間龍星。その歌声と音楽性は、今後さらに多くの人々の心に響き渡っていく。

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