ホーム > インタビュー&レポート > それぞれの景色が重なった夜 ジャニスの○○と○○シリーズ 『Helsinki Lambda Clubとゆうらん船』ライブレポート

【セソマット】
DJ DAWA(FLAKE RECORDS)の選曲に身を委ねながら、ドリンク片手に開演を待つ観客たち。心地よく温まったフロアに最初に姿を現したのはセソマットだ。中川完(Vo&Gt)、竹村涼介(Gt)、大木塔司(Ba)、藤井進之介(Dr)の4人が静かに位置につき、「こんばんは。はじめまして。セソマットです」と中川が挨拶。シーケンサーのカウントダウンから始まった「regard」は、ポストパンクやディスコパンクを思わせるビートでじわじわと熱量を上げていく。現代を生きる若者の不安や欲望を、韻を効かせたユニークなリリックに乗せ、終盤には轟音のギターソロへ。一曲目から初見の観客を惹き込むには十分すぎるインパクトだった。

続く「DANCHI」では空気が一変。柔らかなアルペジオから少しずつ音を重ね、夕暮れの街並みを思わせるノスタルジックな景色を描き出す。エモーショナルなボーカルとギターサウンドが熱を帯びるにつれ、どうしようもない焦燥感や切なさが胸に迫ってきた。
「素敵なツーマンに呼んでいただき、大変光栄です。短い時間ですが、顔と名前だけでも覚えて帰ってもらえたらうれしいです」少し緊張した様子で語る中川に、客席から温かな拍手が送られる。

ギターポップ色の濃い「魔法」では、一音一音を丁寧に紡ぎ、その余韻を残したまま「逃避行」へ。オリエンタルなギターフレーズが響いた瞬間、それまでとはまったく違う景色が広がる。さらにラストの「貴様に!」では、気だるくうねるベースラインとシニカルな歌詞で独自の世界観を提示。20分という短い時間ながら、楽曲ごとに表情を変えるセットリストで、バンドの振り幅と高いソングライティングを鮮やかに印象づけた。

UKロック、ポストパンク、サイケデリック、ギターポップ──。さまざまな音楽を吸収しながらも、どの曲も決して同じ表情にはならない。オープニングアクトという枠を超え、「このバンドを知ることができた」という収穫を観客に残したステージだった。転換中にはDJ DAWAがBlur「Girls & Boys」をプレイ。セソマットのルーツを思わせる選曲に、思わず胸が躍った。
【ゆうらん船】
続いて登場したのは、内村イタル(Vo&Gt)を中心とする5人組・ゆうらん船。フォークやカントリー、ブルースを出発点にしながら、サイケデリックやオルタナティブ、ポップスまでを柔軟に取り込み、最新作『MY CHEMICAL ROMANCE』ではその音楽性をさらに広げた。ライブでも、その自由な発想と豊かなアンサンブルが存分に発揮される。

SEなしで静かにステージへ上がったメンバーは、アイコンタクトを交わすと「サブマリン」を鳴らし始めた。フォーキーで温もりのあるサウンドがゆっくりとフロアを包み込み、バンドの音が重なると照明も明るさを増す。自然と身体を揺らす観客、ビールを頭上に掲げる人たち。その光景だけで、このバンドが生み出すグルーヴの心地よさが伝わってきた。

永井秀和(Pf)と伊藤里文(Key)、左右に配された二人の鍵盤が色彩豊かなサウンドを描き、本村拓磨(Ba)と砂井慧(Dr)がしなやかなリズムで支える。「たぶん悪魔が」ではサイケデリックな鍵盤が妖しく誘い、本村は音に身を委ねるように自由に身体を揺らす。その姿から目が離せず、不思議とこちらまで楽しくなってしまう。

イントロで歓声があがった「青い鳥」では、美しいコーラスワークと繊細な鍵盤が内村の歌声を引き立て、優しさと狂気が共存するゆうらん船ならではの世界を描き出す。そして「Blue Line」でピアノと歌だけの静寂へ観客を引き込むと、その余韻を受け継ぐように轟音が押し寄せ、「Carry me to heaven」へ。静と動をシームレスにつなぐライブアレンジは見事で、フロアの没入感は一気に高まっていった。

大きな拍手に迎えられた後半は、7月22日に配信リリースされた新曲「永遠」へ。内村が高校時代に書き、活動初期にはライブで披露されていたものの、その後長く演奏されることのなかった一曲が、約15年の時を経て音源化された。

スポットライトを浴びながら静かにギターを爪弾き、まっすぐに歌を届ける内村。そこへ鍵盤やリズム隊が少しずつ重なり、繊細なバンドアンサンブルが楽曲に奥行きを与えていく。シンプルなメロディーだからこそ、一音一音がより深く胸に染み渡った。

ラストは「Waiting for the sun」。サイケデリックな浮遊感とシューゲイザーを思わせる轟音が心地よく交錯し、観客はその音の渦へと引き込まれていく。フォークを起点にしながらも、その枠には収まりきらない自由な発想と豊かな表現力。現在のゆうらん船の充実ぶりを存分に感じさせるライブだった。
【Helsinki Lambda Club】
続いて登場したのは、橋本薫(Vo&Gt)率いるHelsinki Lambda Club。オルタナティブロックを軸に、サーフロックやサイケデリック、ダンスミュージックまでを軽やかに横断する独自のサウンドで、多くのリスナーを惹きつけてきた3人組だ。

SEに合わせてメンバーが登場すると、フロアからは期待を込めたハンドクラップが沸き起こる。「遅くまでありがとうございます! Helsinki Lambda Clubです!」という橋本の挨拶から、「午時葵」がスタート。躍動感あふれるビートと煌びやかなサウンドが場内を一気に開放し、続く「ロックンロール・プランクスター」では歓声が上がる。橋本と稲葉航大(Ba)の掛け合いボーカルや遊び心に満ちたアレンジが心地よく、フロアには自然と笑顔が広がっていく。

その勢いのまま「IKEA」へ。ファンキーなベースラインを軸に、ラップやセッションへと発展していく自由度の高いアレンジに、観客は目も耳も奪われる。ダンサブルなグルーヴと実験性を違和感なく共存させる懐の深さは、このバンドならではだ。

MCでは、橋本が「ゆうらん船とは昔から近いところにいたけど、ようやく一緒にできてうれしいです」と、この日の共演を喜ぶ。そして大阪へ向かう途中、サービスエリアでセソマットと遭遇したエピソードも披露。「『セソマットです!』が『SMAPです!』に聞こえて(笑)。若者のノリなのかなと思った」と笑わせると、会場は和やかな空気に包まれた。

久しぶりに披露したという「ベニエ」では、繊細なメロディーに橋本の朴訥とした歌声が寄り添い、切ないラブソングの世界を丁寧に描き出す。さらに、7月8日に配信リリースされた新曲「そうかもしんない」ではギターを置き、ハンドマイクでパフォーマンス。リフレインするフレーズがダンスビートに乗って心地よく響き、楽曲ごとに異なる表情を見せる。

終盤は「収穫(りゃくだつ)のシーズン」から「キリコ」へ。サイケデリックな浮遊感をまとったサウンドが次第に熱を帯び、4つ打ちのビートが鳴り響く頃には、ライブハウスはクラブのような高揚感に包まれていた。多彩な音楽性を違和感なく一つのステージへまとめ上げるライブ構成の巧みさに、改めてバンドの実力を感じさせられる。

アンコールでは、「しっとり終わってもよかったけど、まだはしゃぎたい人もいると思うので、ブーストして帰りたいと思います!」という橋本の言葉から「Skin」を披露。疾走感あふれるサウンドに合わせて無数の手が上がり、この日一番の熱気の中でイベントは幕を閉じた。
3組はいずれも共通するルーツを感じさせながら、その解釈も鳴らし方もまったく異なる。楽曲ごとに景色が変わるセットリストは最後まで新鮮で、初めて彼らのライブに触れた人も、それぞれの個性を存分に楽しめたはずだ。現在のインディーシーンの豊かさを体感できる、実に充実した一夜だった。
Text by 岡田あさみ
Photo by 松本いづみ
(2026年8月13日更新)
01. regard
02. DANCHI
03. 魔法
04. 逃避行
05. 貴様に!
01. サブマリン
02. たぶん悪魔が
03, Hurt
04. 青い鳥
05. Blue Line
06. Carry me to heaven
07. 永遠
08. Waiting for the sun
01. 午時葵
02. ロックンロール・プランクスター
03. IKEA
04. Goden Morning
05. ベニエ
06. そうかもしんない
07. 収穫(りゃくだつ)のシーズン
08. キリコ
EN. Skin
セソマット 公式サイト
https://sessomatt.bitfan.id/
ゆうらん船 公式サイト
https://linktr.ee/yuransen_jp
Helsinki Lambda Club 公式サイト
https://www.helsinkilambdaclub.com/