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「自分がちっぽけな存在であることに
唸りながら作る音楽にこそ意味がある」
大橋ちっぽけが『aritei』に込めた、“ありのままの僕”

2021年にリリースした、“純度100%”とも言えるラブソング「常緑」のストリーミング再生数が1億回を超える大ヒットとなり、2026年で活動9年目に突入したシンガーソングライターの大橋ちっぽけ。ぴあ関西版WEBでインタビューするのは、ミニアルバム『you』以来なんと約4年半ぶり。今やCMソングをはじめとしたタイアップソングを多数手掛けたり数々のアーティストや作品に楽曲提供するなど作家としても才能を発揮している大橋が、5月に3枚目のフルアルバム『aritei』をリリースした。一瞬何語? と不思議になるこのタイトルは、“ありてい(有り体/有体)=ありのまま/嘘偽りや隠し事がないこと”という日本語から付けられたものだ。着々と音楽活動を重ねた今、「アーティストとして音楽を作り、表現する上での飾らない自分、ありのままの自分の感情」をテーマに届ける作品にしようと思った理由が知りたくて、大橋ちっぽけにインタビューを敢行。このアルバム制作前〜完成・リリースを通して、自分自身が着ていた鎧をよっこいせと脱ぐような、いろいろな出来事と想いがあった。

誰もが同じように悩んでいることを
僕はこう思うと歌詞にしたい



――前回のインタビューからなんと今回4年半ぶりでして...超ざっくりですが、あれからの日々をどんなふうに過ごされてきましたか?

「変化の期間でした。レーベルの移籍もあったし、取材してもらったミニアルバムに収録していた「常緑」がとにかくSNSで使ってもらえるようになった後だったので、どんどん環境も変わって。自分の心がポップミュージックに向かって動くのを感じる一方で、ポップなイメージとは対極にある自分の内面を映す曲もでき始めていました。そんな経緯もあって今回のアルバムはそのふたつの自分が両方入ったものになりました」

――ポップミュージックに向かって心が動いたというのは、「常緑」がたくさんの人に受け入れられたからなのでしょうか。

「それもすごく大きいんですけど、大橋ちっぽけらしい音楽とはキャッチーで幸せになるようなハッピーな音楽だと捉えた時に、僕の音楽の方向性はポップミュージックなんだと純粋に思うようになりました。それは「常緑」があったからこそだというのは間違いないです。その一方でふつふつと本当の自分は果たしてそこにあるのかなと疑問が湧いて。当時のインタビューでも"僕はそんなに明るい人間じゃない"なんて言ったり...本当の自分はポップミュージックとは違うところにいると思い出してから、方向性が違う曲が生まれ始めました」

――ポップミュージック一辺倒ではなく。

「違う自分を見せたかったのかもしれないし、ポップなイメージの自分だけが広がっていく状況への焦りも感じていました。それもあって、いつか本当の自分を表現したいという思いは多分ずっとあったんです」

――それはこの4年半の間にアーティストへの楽曲提供のオファーも増えて、表現することの幅が広がったことも関係しているのでは?

「人が歌ってくれるからこそ表現できることは広がったし、純粋に曲を提供するのは楽しいです。でもそれをやらせてもらっていることで、自分で曲を書いてわざわざ自分で歌うことの意味を考えるようになりました。まだ答えは出ていないけど...自分の嘘偽りない本心を音楽に乗せて表現する、それを芸術として届けられることがシンガーソングライターとしての喜びなのかなという気づきはありました」

――大橋さんは疑問や思い浮かんだ考えに対して突き詰めるというか、すごく丹念に自分内会議をされて思いを表現されている方だと思います。

「あぁ、1人でぐるぐる考えちゃうのはあると思いますね。誰にも話せなくて、なんとか自分の中で答えを出そうとするタイプです。でも全ての自分を表現できてはいなかったかな」

――ただ今回のアルバムに関してXですごく丁寧に書かれたライナーノーツをアップされています。これを読むと1曲1曲ちゃんと何かしらの答えに辿り着いているし、辿り着くまで考えているのがすごいなと思いました。

「それでもまだ迷いの中にいる感覚もあるんです。ただそれぞれの曲に対して"こういう思いで書いた"というのは、明確に見えているかも。自分が不安になりがちなタイプだからこそ、みんながなんとなく言語化できない不安やモヤモヤを言葉にして"こういうことだよね"と導くような歌詞を書きたいと思っているんですよ。それが歌詞を書く上でのテーマでもあります。...中学の頃から使っている"ちっぽけ"というアーティストネームなのに、一時本当に嫌いになって」

――どうしてですか?

「いつまで中学生の名前でやってんのかな、と思って。でもそれを相談した人に、"なぜちっぽけという名前で音楽をやるかが大橋くんのテーマなんじゃないの?"って言われて。この名前を背負って、自分がちっぽけな存在であることに唸りながらその中で作る音楽に意味があるんじゃないかと思えました。自分をちっぽけな人間だと思うからこそ、誰もが同じように悩んでいることに対して僕はこう思うと歌詞にしたいんです。それで自分の中でも答えを出そうと考え続けているのかもしれないです」

――先ほどポップな自分とそうではない自分の両方を入れ込めたとおっしゃっていたニューアルバムは、『aritei』というタイトルになりました。「有り体」という言葉から取られたそうですが、この言葉は制作前には浮かんでいたものですか?

「いや、制作途中で思い浮かんだものです。自分で曲を書いて自分が歌う意味について考えたり、僕は実はこういう人間なんだということを表現するアルバムにしたいと考えた時に、"あ、有り体に言えば(包み隠さず正直に言うとの意)っていう言葉があるな"と」

――有り体って、なかなか普段の会話の中では出てこない言葉ですよね。

「そうですね。会議とか文章の中で使う言葉かなと思うんですけど、自分の頭の中にはあった言葉です。「常緑」の中でも《端的に言うと》という言葉を使いましたけど、それと意味は違うけどもリンクするようなフレーズでもあるし言葉のキャッチーさにも惹かれていたんです。それに自分らしさも込められるなとも感じました」

――有り体という言葉を掲げて、アルバムで「表現する上での飾らない自分、ありのままの自分の感情」をテーマにしようと考えたその道筋が知りたいです。

「前作の『character』の完成後、実はもっと自分のことを歌えばよかったなと思ったんです。それもあって、次はより僕自身を知ってもらえるアルバムを作ろうと思っていました。前作から今作までに育ったその意識が手掛かりになって、テーマやタイトルに辿り着いたんだと思います」

――ただ個人的には大橋さんは曲の中で元々すごく自己表現をされていると受け止めていたので、より自分自身を知ってもらいたいという思いは意外というか...。

「実は活動初期の方がシンガーソングライターとして自己表現ができていたし、思いを歌えていたと思うんです。その後「常緑」のヒットがあって、ポップソングを書くことへの意識が強まりました。ポップなラブソングも好きだけど僕にはその一面だけが求められているのかなとか考えて、表現するのが難しい気持ち...寂しい、悲しいというようなネガティブな感情が心の奥に溜まっていきました。でもそれをそっと横に置いて、ポップソングを作っていたんです。そういうことを取っ払って今作では前半7曲目までは僕らしいポップソングを、後半に収録している7曲は、ここ数年で表現できていなかった自分を出しました。ずっとポップソングに向き合ってきたからこそ、そのフォーマットを用いることで暗い気持ちも"聴いてもらえる音楽"として届けられるのでは? と考えて」

――そういう挑戦ができるのもアルバムという容量の大きなパッケージがあってこそですね。

「そうだと思います。今回14曲のフルボリュームで、今の自分を余すことなく詰め込みたいと思いました。そのおかげで今の自分を1枚に収めることができたのは、僕としても救われるものになったなと思います」



「マイナスなことも音楽にすること」
今はこれをテーマに進むべきだと思った



――飾らない自分を表現するというテーマが見えてきて、どんなことに取り組まれたのでしょうか。

「何か行動を起こしたわけではなかったけど、今まで言葉にしてこなかった本音を語ろうという思いがあったのでテーマが決まってからは内省的な曲が増えました。深夜に曲を書くことが多かったかな。とにかく歌詞先行での制作が目立ったと思います」

――言いたいことを重視した曲が増えた?

「そうですね。これまでは曲の中で本音を隠しがちだったんです。大橋ちっぽけというアーティストネームの自分と本名の自分の間にギャップも生まれてしまって。でも今回は、本名の僕が抱える"アーティストとして表現するのは違うかな"という痛みでも、一度落とし込んでみようと。信頼しているファンのみなさんに対しては本音を届けてもいいのかもしれないと、活動を重ねてきたからこそ思えたのだと思います」

――そもそも自己表現の苦手意識は、どこに原因があったと思います?

「やっぱり...自分は大した人間じゃないということが怖かったからかな。それはまさに"ちっぽけである"ことがかっこ悪いというか。性格的にも積極的なタイプではないから、スタイルを貫いている信念を持ったアーティストに対するコンプレックスも間違いなくあるし。でも、そもそも僕はちっぽけって名前じゃんっていう、ある種の自分がやっていることへの答えは、このアーティストネームで活動を始めた時からあったものなんです。ちっぽけという名前で音楽を始めた自分が、マイナスなことも音楽にすることをテーマに進むべきだと今は思えます」

――そのお話を象徴していると思うのが、Xで公開された今回のアルバム収録曲の全曲セルフライナーノーツです。気持ちも制作のエピソードもさらけ出して綴られています。読ませていただくと、今回のアルバムでは自分の考えも願いも含めてひたすら頭の中で突き詰めながらそのひとつひとつを曲にされている印象があります。「せめて音楽の中ではありのままの自分でいることで、心を少し軽くできるのではないか」とも書かれていましたが、実際その通りになりましたか?

「うん、なりました。さらに自分の中での納得感が強いというか、アルバムで表現したことでどんな印象を持たれても関係ないと思えるくらいに、自分の中で表現したかったことが曲として出し切れました。そんなアルバムを世に放てたことで自信が持てたし、自分の音楽活動の中でこのアルバムをひとつの区切りとしてさらに自分の音楽を突き詰めていこうという前向きな気持ちになれています」

――今回ポップ感溢れる楽曲と内省的な楽曲の両方を入れ込んだことで、今後のスタンダードになる新しいやり方も見えたのではないですか?

「メロディーを考えるのが好きなので、どんなアレンジになってもキャッチーで人懐っこいメロディーを作れる自信があるからこそ、サウンドの選び方に関して自由でいられたなと思います。弾き語りっぽい感じの歌とギターだけの曲もあるし、ボーカルに全編オートチューンをかけた実験的な音もあったりします。そんなふうにいろんなことをやっても"ちっぽけさんらしいですね"と言ってもらえたのは、メロディーラインの作り方のどこかに統一感があるからかなと。おかげでサウンド面での新しい挑戦に対する恐れはなくなりました」

――ちなみに自分の中で革命が起こった曲を知りたいです。

「11曲目の「ぼくのせかいは」ですね。この曲では自分の一番カッコ悪いところを歌っているというか、自分的な反省の弁を述べているというか...。本来隠したい気持ちをありありと表現できたことで自分が救われた気持ちになった曲です。かなり個人的でダサい反省や告白を受け取ってもらう曲が書けたんだなと、シンガーソングライターとしての自信もちょっとついたかな」

――そしてもうひとつライナーノーツから気づいたことは音楽の力、ポップスの力を自分なりに最大限に引き出そう、魅力を持って表現しようとする足跡が見えたことです。誰かを頼るのがとても苦手とおっしゃっていますが、編曲・アレンジにたくさんの方が関わったりWATWINGの八村倫太郎さんとコラボしたり、周りの支えが可視化できる作品になりましたね。

「八村くんとのコラボでは、アーティストとして一緒に作る楽しみと喜びを感じさせてもらったのは大きかったです。ちっぽけと名乗りながら、意外とメロディーや歌詞に関してこだわりも強くて(笑)。でもその波長が合う人と一緒に作ることの気持ちよさを知ったし、その人から出てくる自分では思いつかなかった表現が反映されて作品がアップデートされていくのは面白かったです。本当に人に頼るのが苦手と言いつついろんな人に支えてもらいました。それによって今まで不安に思っていたことが解消されていく感覚はあったと思います」

――ここまでお話をうかがってきた印象としては、このアルバムで鎧を脱ぐことができたというか...。

「そうですね。これまではアルバムをリリースしてもなお不安だったんです。自信はあるし、納得して作り上げてもこれでいいのかなと思ったり。でも今作では不安がない。やり切ったという爽快な気持ちでリリースできました。「常緑」のヒットは喜ばしいことであり、究極の悩みの種でもあったので、それを経て音楽的にも内面的にも今の自分が作れるポップスはこういうものですと示せるものになったと思うし、現時点でのベストアルバムといってもいいほど嘘偽りなく自分を表現できた作品になりました」

――ちょっと難しいかもしれないんですけど、今大橋さんが辿り着いたポップスについて「〇〇なポップス」と言語化するのは可能ですか...?

「難しいなぁ。手に取りやすい音楽こそポップスだと思っているところはあります。ただ自分の場合はキャッチーさ、覚えやすさが宿っていることが大事だと思っています。自分の目指したい音楽はそこにあるかな。「常緑」のヒットを経験して...生活に根ざす音楽や人の喜怒哀楽に寄り添っている音楽、生きていく中で自然と触れるような音楽を作りたいんだなという意識はあります。そういうこともライナーノーツを書いたり、こういうインタビューを受けたりすることで見えてきました。思わず手に取る、暮らしに寄り添う、自然とそこにあって自然と感情に寄り添う曲をこれからも作れたらいいなと思います」

取材・文/桃井麻依子




(2026年7月31日更新)


Release

3rd Full Album『aritei』

配信中

《収録曲》
01. I Will Go
02. Getting Over You
03. 案の定アイラブユー
04. コールドスリープ、愛 
05. 誰かのとなり
06. 気が気じゃないのさ
07. All I Want feat. 八村倫太郎 from WATWING
08. 人間ですから
09. 自己犠牲
10. 予期不安
11. ぼくのせかいは
12. 一体いつから
13. 言ってよ
14. aritei

配信リンクはこちら

Profile

おおはしちっぽけ=日本語ポップの新次元を切り拓く、1998年生まれのシンガーソングライター。古今東西のロックやポップを聞いて育ち、グローバル志向のサウンドと日本語に根ざしたメロディーを自然に融合させた楽曲世界を10代にして確立。2019年のメジャーデビュー以降は、リスナーの胸に響くフォーキーな楽曲から英米の先鋭的なインディロックに通じるバンドサウンド、さらにはK-POPの影響を感じさせるダンスチューンまで、オリジナルな音楽性を日々更新している。2021年10月にリリースしたミニアルバム『you』のリード曲「常緑」がストリーミング1億回再生を超え、ビルボードの新人チャート「Heatseekers Song」で6週連続1位を記録するなどスマッシュヒットを記録。2022年1月にユニバーサルミュージック内の邦楽レーベル・Virgin Musicに移籍、2023年には活動5周年を迎え、2nd Full Album『character』をリリースした。また自身の活動のほか、&TEAM / WEST. / M!LK / TOMORROW X TOGETHER / 岩田剛典 / 『学園アイドルマスター』など数々のアーティストや作品に楽曲提供をしており、音楽作家としての卓越した才能にも注目が集まっている。

Live

『大橋ちっぽけ弾き語りワンマンツアー2026』

【東京公演】※12日(土)SOLD OUT
▼9月12日(土)・13日(日) AOYAMA 月見ル君想フ
【愛知公演】※SOLD OUT
▼9月19日(土) パラダイスカフェ21
【北海道公演】
▼9月26日(土) musica hall cafe
【宮城公演】
▼10月4日(日) cafe Mozart Atelier
【愛媛公演】
▼10月15日(木) Monk
【岡山公演】
▼10月17日(土) 岡山・城下公会堂 in KOTYAE

PICK UP!!

【兵庫公演】
▼10月18日(日) 17:45
KOBE QUILT
全自由-5500円(ドリンク代別途必要)
※3歳以下は入場不可、4歳以上はチケット必要。再入場不可。転売や違法売買は禁止。売買されたチケットは無効チケットとしご入場をお断りする場合があります。公演中の撮影機器・録音録画機器・携帯電話・スマートフォン・携帯ゲーム機による撮影・録音行為は禁止。発見次第ご退場頂きます。整理番号順にご入場いただき、好きな場所でご観覧いただくことが可能です。客席内に席(椅子)や立見エリアを用意する場合がございます。レイアウトは当日会場にてご確認ください。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888

【大阪公演】
▼10月31日(土) 18:00
cafe Room+
全自由-5500円(ドリンク代別途必要)
※3歳以下は入場不可、4歳以上はチケット必要。再入場不可。転売や違法売買は禁止。売買されたチケットは無効チケットとしご入場をお断りする場合があります。公演中の撮影機器・録音録画機器・携帯電話・スマートフォン・携帯ゲーム機による撮影・録音行為は禁止。発見次第ご退場頂きます。整理番号順にご入場いただき、好きな場所でご観覧いただくことが可能です。客席内に席(椅子)や立見エリアを用意する場合がございます。レイアウトは当日会場にてご確認ください。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888

【広島公演】
▼11月1日(日) SIX ONE Live MOON
【福岡公演】
▼11月3日(火・祝)ROOMS


『大橋ちっぽけ Acoustic Oneman Live「kiun」#2』

【東京公演】
▼11月20日(金) キリスト品川教会 グローリア・チャペル

チケット情報はこちら


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