ホーム > インタビュー&レポート > 2026年4月10日リリース『恋文学(れんもんがく)』が描く “惹かれてしまうことの危うさと美しさ”
『るなしい』という物語に触れて生まれたもの
――4月10日にリリースされたシングル『恋文学』はドラマ『るなしい』のエンディングテーマとして書き下ろされた楽曲とのことですが、オファーを受けたときはどんな印象でしたか?
「去年の年末ぐらいに、ふわっと楽曲提供のお話を伺っていて。その時点ではまだ自分が担当するかどうか決まっていたわけではなかったのですが、原作の漫画を読み始めました。何かに魅せられながら生きていくこと・信念を持って生きていくことの危うさや美しさが描かれていて、良くも悪くもすごくリアルで、ある種グロテスクでもある作品だなと感じました。こういうタイプの作品は今まであまり読んだことがなかったので、この話ってどう終わるんだろうというドキドキ感が強かったです。」
――ドラマタイアップは初とのことですが、どんなことを意識して曲作りを始めましたか?
「ドラマタイアップとはいえ、今まで自分が表現してきたものから大きく外れないように、まずは『るなしい』のテーマと自分の音楽の共通点を探っていきました。」
――楽曲のコンセプトや方向性はどのように定めていったのでしょうか?
「作品の中には、一つのものに執着して生きる姿や宗教的な要素も出てくるのですが、そこから恋愛と宗教って近いところがあるなと感じたんですよね。好きな人に対しての好意って、「その人という宗教に入信する」みたいな感覚もあるのかなと。そういう発想から、歌詞や楽曲の構造を組み立てていきました。」
「惹かれてしまう」という感情の正体
――この楽曲で描かれている「惹かれてしまう感情」は、seizaさん自身のどんな実感とつながっていますか?
「この曲では「誰かに惹かれてしまう感情」をモチーフにしていますけど、自分の中では、それは必ずしも人に対してだけじゃなくて、物事全般に通じる感覚だと思っています。僕はもともとバンドをやっていて、それが人生の大きな部分を占めていたんですが、それがなくなってもまた音楽をやって、今もこうして歌っている。つまり僕は音楽に強烈に惹かれていて、ある意味すごく執着して生きているんですよね。その中で手放してきたものや、犠牲にしてきたもの、あきらめざるを得なかったものもたくさんある。でも、それでも自分のやりたいことに向かって進んでいる。そういう姿を、自分では醜いとも感じるし、同時に美しいとも感じているんです。だからそういった"惹かれてしまうこと"の持つ危うさと美しさの両方を、この曲の中で表現できていたらいいなと思いました。」
――歌詞の中で使われている言葉やモチーフは、作品からのインスピレーションで出てきたものなのですか?
「やっぱり、このドラマのタイアップだからこそ使える言葉を使いたいというのはありました。たとえば「私を私たらしめる血」というフレーズは、その象徴ですね。原作の中でも"血"というモチーフがすごく大事に扱われていて、受け継がれていくものとして描かれています。その設定を踏まえて、「その人をその人たらしめているものって何なんだろう」と考えたときに、血のように受け継がれていくものだけではなくて、それが失われたとしてもなお残るものもあるんじゃないかなと。その両方のニュアンスを重ねられたらいいなと思って、このフレーズを作りました。」
――歌い出しの「カラスの羽 拾い上げるように 差し伸べてくれた手のひらに」という歌詞も印象的ですが、どんな意味が込められているのですか?
「原作では、主人公の女の子がいじめられていて、自分のパンツを黒板に掲げられてしまうんですけど、それを男の子が取り返してくれるところからラブストーリーが始まります。そういう些細なきっかけから関係が動き出す、というところを表現したいなと思ってこの歌詞を書きました。カラスって、日本では忌み嫌われる存在でもありつつ、神の使いとして神聖なものとして扱われる側面もあるので、その二面性が今回のテーマとすごく合うなと思って。そういう存在が落とした羽を、ふと拾い上げてくれるような行為に惹かれてしまう、というイメージから発想を広げていきました。」
――サウンド面についてはいかがでしょうか。この曲だからこそ取り入れたアプローチはありましたか?
「そうですね、このドラマのタイアップだからこそできるような、今までやってこなかったようなアプローチをしてみたいと思っていました。たとえば、原作の宗教的な要素を汲んで、仏教的なニュアンスがある中国楽器を使ったり、キリスト教の賛美歌のようなゴスペルサウンドを取り入れたり。seizaの楽曲として伝えたいこと・表現したいこと自体は変わらないですが、「パッケージを少し変える」という感覚で作っていきました。」
――楽曲の終わり方や構成もおもしろいですよね。これもドラマの内容や楽曲のコンセプトに沿って設計されたのでしょうか?
「そうですね。ドラマの中に「引き継がれていく力」というテーマがあるので、それを楽曲でも表現したいと思っていたんです。だから最後をAメロで終わらせて、輪廻転生しているような感覚を表現しました。ただ、完全に同じ繰り返しではなくて少しずつ変化していく......ゴスペル的に皆で歌うAメロを経て、最後はロウソクの火が消えるように終わる。煩悩の炎が消えて涅槃に至るような、そういうドラマ性を持たせています。」
音楽を続けてきた先にある現在地
――これまでの活動についても聞かせてください。元々はバンドをしていたとのことですが、そこからボカロPに移行したのはどういった経緯があったのですか?
「僕はもともとバンドでギターボーカルをしていたんですが、そのバンドがなくなったとき、残った曲をどうするか考えました。それで思いついたのが、自分が古くから慣れ親しんできたボーカロイド、初音ミクに歌ってもらう方法でした。「初音ミクだから聞く」という人もたくさんいるので、まずはできるだけ間口を広げて多くの人に聞いてもらいたい・知ってもらいたいと思ったんです。」
――その後セルフカバーでご自身の歌唱へと移行していったきっかけは何だったのですか?
「ボカロPとして活動を続けていく中で、「seizaさんの声でも聴きたい」という声をいただいたり、バンド時代のファンの方が再び僕を見つけてくれたりして。少しずつ背中を押されていったという感じでした。」
――現在、楽曲制作はどのようなやり方で進めているのでしょうか?
「最近は、作詞作曲を僕が行い、編曲を別の方にお願いすることが増えています。バンド時代は全て僕が作詞作曲からアレンジまでしていたので、他の人と一緒に制作するのは新鮮でとても楽しいです。自分の知らない引き出しを増やしてもらっている感覚、それも引き出しの数だけじゃなくて「こういう開け方もあるんだよ」という開け方を増やしてもらっているような感じですね。自分の音楽の深度が深まっていくのを実感しています。」
――3月4日にリリースした前作シングル『エウレカブルー』がラジオ・オンエア・チャートで1位、全国53局でパワープレイに選ばれたとのことですが、ご自身の音楽の広がりについてはどう感じていますか?
「インターネット中心の活動でライブも多くない中で、自分が直接行っていない場所に音楽が届いているというのは、すごく不思議な感覚です。本当に音楽の力を感じますし、もっともっと多くの人に愛される曲になってくれたらなと思っています。」
リスナーに「会いに行く」ためのライブ
――2026年2月27日には初の有観客ライブを開催したとのことですが、どんな体験になりましたか?
「本当に今までにない感情になりましたね。普段はインターネット上でしか活動していないので、「いつもコメントくれる人ってどんな顔してるんだろう」とか、「どんなふうに笑うんだろう」とか、そういうことをずっと考えていて。そしたら自然とみんなに会ってみたい気持ちがどんどん強くなっていったんですよね。だからライブは、自分が会いに行く、待ち合わせしに行くような感覚でした。SEが鳴ってステージに上がってお客さんの顔が見えた瞬間に、「ああ、やっと会えたね」「みんなこんな顔してたんだね」という気持ちが一気に込み上げてきて。本当に、今思い出してもグッとくるくらい印象的な光景でした。」
――実際にライブをしてみて、ライブならではの魅力はどんなところにあると感じましたか?
「やっぱり、みんなの顔を見て歌えることですね。お客さんからも僕の歌っている顔や一挙手一投足が見える。今この瞬間に、自分がどんな温度感で歌っているのか、どんな顔して歌っているのかというのがリアルタイムで伝わる。それはライブだからこそできることだなと、改めて感じました。それに、自分の音楽を受け取ってくれている瞬間を感じられたことで、「ちゃんと届いていたんだな」という実感もすごく強くて。自分がやってきた活動を肯定してもらえたような気持ちもありました。」
――このライブはチケット販売開始1分で即完だったそうですが、今後もライブ活動は続けていく予定ですか?
「はい、秋くらいにまたできたら、という話をしています。今回は即完してしまって来られなかった方もいるので、「もうやらない」というのは不親切かなと思っていますし。それにすごくハートフルな空間で純粋に楽しかった。自分の精神的にもすごく良かったんですよね。なのでこれからも定期的にやれたらいいですね。」
『恋文学』が連れていく"これから"
――それは楽しみですね。では最後に、『恋文学』は今のseizaさんにとってどんな作品になりましたか?
「初めてのドラマタイアップということもあって、ドラマのファンの方からコメントをいただくこともありましたし、自分の名前を広めてくれる楽曲になっていると感じています。やっていること自体はこれまでと大きく変わらないと思うんですけど、より多くの人に届くきっかけになるような楽曲になってくれていたら嬉しいですし、自分の中でも大きなマイルストーンのひとつだと思っています。この曲をきっかけとして、よりたくさんの方に僕の音楽を聞いてもらえたら嬉しいです。」
Text by フジサワメグリ
(2026年5月 1日更新)
seiza(セイザ)…“あの日、ひとりぼっちでよかったと思えるように”2022年1月にボカロPとしてデビュー。コンスタントに楽曲を発表していく中、楽曲「プラネテス」は100万STを突破。ニコニコ動画での殿堂入りも果たし、YouTube登録者数100万人を超えるアーティストからもカバーされるなど彼の代表曲となっている。そんな中、2023年からはセルフカバーにて自身の歌唱も開始し、2024年にはメジャーデビューを果たす。切なさをはらみながらもメロディセンス溢れる楽曲、日々への焦燥、未来への希望など様々な感情を情景描写力に優れた表現で発信する歌詞は、“誰かの孤独に寄り添い、肯定する”力に溢れ、ネットミュージックとPOPSを横断していく可能性に満ちている。
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