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紫 今を突き動か原動力とは?
壁が現れても発想の転換で前進
「自分のなかにある妄想は無限大」

「変幻自在・千変万化するカメレオンボイス」と謳われる幅広さと可能性を秘めた歌唱でリスナーを惹きつける、紫 今。2023年には「ゴールデンタイム」がSNSで話題になり、2025年「ウワサのあの子」はTikTokの再生回数が3億回を超えるなど快進撃を見せている。そんななか、4月8日には「New Walk」が配信リリース。クリエイターの世界を舞台に、才能の限界に苦しむ凡人・光一と圧倒的な才能ゆえに苦悩する孤高の天才・エレンの姿を描くテレビアニメ『左ききのエレン』(テレビ東京系)のエンディングテーマに抜てきされた同曲。そこで今回は紫 今に、「New Walk」を通して“クリエイトすること”について話を訊いた。

「エレンを見て『一人じゃないんだ』って」



――「New Walk」が投げかける"常に新しい一歩を踏み出す気持ち"は、すごく素敵なメッセージですよね。

「そういう気持ちは自分の美学でもあるんです。人生には常に波があり、今まで築き上げてきたものや「こうやったらうまくいったのに」という考えの前に壁が現れることが多い、それを乗り越えていくのに必要なのが、"New Walk"という言葉な気がします。壁が現れるとどうしても立ち止まってしまいますから。停滞って、"もっとすごい自分"になるための......覚醒するためのトリガーというか。壁が現れたときこそ、少年漫画の主人公のように「ワクワクするぞ」と自分に言い聞かせています。」

――「左ききのエレン」の世界観も、楽曲が内包するマインドに強い影響を与えていますか。

「「New Walk」はエレンに共鳴しながら作った曲で、彼が報われていく姿に救いが感じられ、「この曲もそういう形で完結したい」と思いました。私が伝えたいメッセージに、エレンの一生涯を通して救われた瞬間を重ねて曲を書いたことが、この曲の作風に繋がっている気がします。あと、エレンの性格が自分に似ているところもあるんです。何度も葛藤や苦しみが描かれ、それは「私がずっと思っていたけど、誰にも言えなかった」「誰にも共感されないな」ということに近かったんです。エレンを見て「一人じゃないんだ」って。」

――どういうところに近さがあったんですか。

「これはあくまで私の解釈なのですが、エレンは異常性を持っていると思いました。平凡な幸せに自分が当てはまれないことへの苦しみがすごくあるんじゃないかって。岸あかりというキャラクターが登場するのですが、エレンと一瞬共鳴するんです。なぜならあかりは自分と同じ、いわゆる"化け物"側だから。自分と同じような、平凡になれない側特有の孤独を背負った人だと思って、共鳴します。でも、そんなあかりとの関係性も変化するんです。果たしてエレンは分かり合える存在を見つけることができるのか、どうか。そうした感情に私自身が重なるところがあったんです。」

――「左ききのエレン」には天才と凡人の対比も強く描かれています。今さんも、「凡人様」など天才や平凡をテーマにした楽曲をいくつか発表されていますね。

「高校生くらいからそういうことに興味を持つようになったんです。小さいときから「自分は特別だ」と自意識の強さやナルシズムがあって。私はそれがずっと続いていて、まだ魔法が使えると信じています。信じちゃっているから、音楽でもなんでも「まだまだ潜在能力があるはずだ。自分のこれからが楽しみだ」と考えながら生きています。たとえば母の影響でゴスペルやブラックミュージックを小さいときから聴いてきましたが、どうしたって超えられない海外の歌手の生物学的な歌の上手さを感じ、絶望したことがあったんです。でも、「日本の音楽の良さも絶対にあるはず。上手すぎないものの良さや歪さが必ずある」と発想を転換できたんです。自分のなかにある妄想は無限大。私はそれをストップさせずにここまで来ちゃって。」

――なるほど。

「諦めた先にあるものというか。それこそ「New Walk」の歌詞に<探すのをやめたら見つかったの>とありますが、まさにそうなんです。人ってそれぞれに能力があるけど、自分はどういうことができるか、探せば探すほど分からなくなることも多いはず。でも探すのをやめたら、見えてくるものもあるんじゃないかって。」




「自分探し」は「見つからない。やばい」と思わせる罠でもある



――「探すのをやめる」は「メンタルレンタル」でも出てきた考え方ですよね。でも「自分探しをしましょう」ってよく言われるじゃないですか?

「私、それが大っ嫌いなんです(笑)! 自分探しを強いるのは今の世の中の良くないところ。会社の面接でも「あなたはどういう人間ですか」「あなたらしさはどこですか」と必ず聞かれるでしょうし、確かにそれを聞かないと相手の情報がつかめないことがあるのは理解できます。でも個々の"本当の幸せ"という面で言えば、探せば探すほどないように感じてしまう気がします。本当はあるのに、探すという行為によってないことになっちゃっているというか。社会も学校でも、出る杭は打たれる風潮がすごく強いのに、自分を探せっていうのは矛盾している気もするし。一方で、MBTI診断や血液型占いが人気なのは、そういうコンテンツ自体の楽しさはもちろんあるけど、「自分はどういう人間か」を当てはめることで安心したいからだとも思えます。自分のなかのモヤモヤや不安に理由付けしたいのかなって。自分のいいところを探す、というのは一見素敵なように見えるけど、「探しても、探しても見つからない。やばい」と思わせる罠でもあることも意識しておきたいですよね。」

――「New Walk」はそうしたメッセージ性だけではなく、曲構成、歌、声質、サウンドも4分のなかに様々なバリエーションがあり、まるで大勢が歌い、大勢で曲を鳴らしているように聴こえます。多重性や雑多性が感じられます。

「100種類の私というか、この曲にはたくさんの私が存在しているんです。」

――クレジットには「作詞・作曲・編曲:すべて私」とありますが、「すべてを私がやりました」という意味だけではなく、「すべての私」という意味じゃないかなって。

「あえて多重にしようとは考えていませんでしたが、たしかに曲のなかに"すべての私"がそこにいます。そもそも私が曲を作り始めたきっかけが、いろんな音楽を雑食的に耳にした上で、自分が聴きたい曲に、世間にある曲のレパートリーが追いつかなくなった瞬間があったんです。「エーミール」「ゴールデンタイム」はK-POP、ジャズ、洋楽、邦楽、ボカロなどが全部合わさったような曲になっていますが、「そういう曲が世の中にないし、だったら作った方が早いかも」と思って作りました。そこで自分のなかにある100個くらいの引き出しから、それぞれの距離が遠いものを取ってきて組み合わせ、曲を作る感じなんです。「New Walk」ではそれがより多重っぽくなっているのかも。私の特徴はそういう引き出しの多さで、曲作り、メロディ、コード進行、ビート、編曲、構成、そしてそこにプラスして歌声も何千種類と出せるので、その組み合わせで多重性のある曲が成立しているのだと思います。」

――「New Walk」では歌詞に<創る>と<造る>の2パターンの言葉が出てくるように、創造=クリエイティブについて歌っていることがあらためて分かります。今さんはなんのためにクリエイティブをされていますか。

「歌いたいもの、伝えたいもの、聴きたいものの3つです。曲作りの最初の原動力は、自分がこういうものを「聴きたい」でした。「伝えたい」は、最近はライブにいつも来てくださるファンのみんなもいて、それぞれと心が通じ合う瞬間が増えてきて、純粋に「伝えたい」という感覚が強くなっています。「歌いたい」という気持ちについては、SNSなどでいろいろ言われる世の中だからこそ、怒りや訴えみたいなもの発信したい衝動があります。作る曲には三つすべて揃っているものもあれば、二つだけ、一つだけという曲もあります。この3つがすべてない曲は一つもないですね。」

――秋には『Mulasaki Ima ONE MAN TOUR 2026』も開催されます。大阪公演は9月26日に行われます。今さんがおっしゃる三つの要素を生で体感できる機会になりそうですね。

「ワンマンライブをやるたびに、今民(ファンの愛称)との絆が深まっています。私も前回より成長して、化け物になってみんなの前に現れようという覚悟でやっています。そういう私の音楽にみんなが応えてくれたとき、野生の本能のような熱が生まれるんです。「人間ってここまでなれるんだ」みたいな瞬間が毎回更新されるので、本当に楽しみです。お互いにリミッターが外れた熱量のライブになると思います。」

Text by 田辺ユウキ




(2026年5月14日更新)


Release

「New Walk」

配信中

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Profile

親しみ、5オクターブの声域を持つハスキーボイスで、シャウト、フェイク、ホイッスルボイスを自在に操る。2023年、「ゴールデンタイム」で配信リリースを開始。同年リリースのEP『Gallery』収録曲「凡人様」が大きな反響を呼び、多岐にわたってバイラルヒット。12月には「Not Queen」がFM802ヘビーローテーションに選出された。2024年4月リリースの「魔性の女A」は日本国内のみならず、海外でも注目を集めバイラルヒット。SNSでの総再生回数は5億回を突破。2025年3月、待望のファーストフルアルバム「eMulsion」をリリース。続く最新曲「ウワサのあの子」もMUSIC VIDEOを含め、独特な世界観の映像と楽曲の融合が高く評価され、国内外でバイラルヒット中。自身初のワンマンライブ「Mulasaki Ima LIVE 2024 "Episode 0"」は東阪ともにソールドアウトを記録。年末には「FM802 RADIO CRAZY 2024」「COUNTDOWN JAPAN 24/25」に出演。2025年3~4月には東名阪でのワンマンツアー「Mulasaki Ima LIVE 2025 eMulsion」を開催。ライブでは、楽曲に“憑依”するかのような圧倒的な表現力で聴衆を引き込み、その衝撃的な歌声を体感した人々の声から一気に火がつき、今もその勢いを加速し続けている。紫 今の音楽は、ジャンルに縛られず、ポップなキラーチューンから、文学的な叙情詩まで──すべての楽曲が、彼女の人生観に根ざしている。言葉と音を手繰りながら、自らの「今」を音楽に刻み続ける、新時代のオルタナティブ・アーティスト。

Live

「Mulasaki Ima ONE MAN TOUR 2026」

【大阪公演】
▼9月26日(土) Yogibo META VALLEY
【愛知公演】
▼9月27日(日) NAGOYA JAMMIN'
【東京公演】
▼10月3日(土) SHIBUYA CLUB QUATTRO


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