ホーム > インタビュー&レポート > シンガーソングライター・汐れいらの中 「自分を掘り起こせたことで進むべき方向が見えた」 2nd EPの制作で自分の中に起こった大革命
"誰かのことを歌っていた自分"よりも
"自分のことを歌っている自分"が好き
――今日は2nd EP『HB2U』についてインタビューをさせていただくのですが、発売1ヶ月ほど前にリリースに対する思いを直筆で書いた文章をXにアップされていました。すごく想いが直接伝わる文章だと感じたのですが、これを書いた理由を伺えますか。

「これまでリリースした楽曲は、誰かのお話や想像の物語を書いたものでした。自分の話を書くとなると、簡単な言葉でしか表現できないと思ってきたんです。例えば楽しかったことも、単に"楽しい"としか書けなくなりそうで。でも深く考えてみたら、理由は違って...自分のことを書くことで傷つきたくなかったからだったんです。歌詞を書くために自分の心と対峙するのは、相当辛い体験になる。本当に自分の気持ちに潜れば書けるのに、傷つきたくないし自分が作品になっちゃうのも怖かったし、曲を否定されたら自分も否定された気持ちになってしまうと思っていたんです」
――向き合うことから逃げていた。
「そうですね。今までは他人にどう言われても、いや私の話じゃないんで! ってバリアを張れたけど、自分のことを書いた曲で私を理解された気になるのも嫌だったというか。でも去年嫌なことが続いた時があって、それをきっかけに自分の曲を書いてみようと思ったらなんとか書くことができて。それがこのEPにつながりました」
――EPにつなげられた理由は...。
「寂しいとか負の感情っていろいろあると思うんですけど、それもそのまま愛せたらということに気がついて自分と向き合えたからこそ、人とも向き合えると思えたんです。これまでの曲は誰かの物語だったこともあって、自分自身が無感情気味なところがありました。でも最近、めちゃくちゃ心が動くんですよ。一度心を開いたら、動きやすくなったみたいです。それもEPを作ろうと思えたきっかけになったのかもしれません」
――リリースを前に直筆で書いた気持ちをアップして、これがどう受け止められるのかドキドキしませんでした? 実際のEPのリリースまでは少し時間もある時期でしたし。
「いや、それ以上に自分の中ではダントツに好きな曲ができた自信があるんです。以前の"誰かのことを歌っていた自分"よりも、"自分のことを歌っている自分"が好きだし、自分の歌だから歌っていても気持ちが乗るんです。こうしてインタビューしていただくと、答えることがたくさんありますし。自分のことを歌えるようになってオープンになりましたね」
――今日のインタビューでは、この直筆文をもう少し紐解きながらお話を伺わせてください。"初めてのEPは『No one』どこにいる誰かの曲たち、色味のないパケでした。"と書かれました。『No one』のインタビューでもこの作品は架空の物語だと言及されていたし、レビューなどでも短編小説のようなEPだとも評されていました。そもそも誰かの物語を書いてきたのはなぜだったのでしょうか。
「自分の話が書きたくなかったのと、お話を書くのが好きだったというのが理由ですね。どこかの一場面を書く曲より、1番から始まって最後まで変化を持たせて、どんでん返しが入り込むような展開も好きで。だからこそ、私の曲では同じ言葉を繰り返すような歌詞もあまりないんです。ただ、この頃は自己満足で書いていた部分が大きかったかな。自分がわかっていればいい、何より私が全てわかっているものが欲しかったんです」
――自分が全てわかっているものが欲しいというのは、音楽の世界に限ったことですか?
「いや、綺麗な空の色とか綺麗なドレスとか、自分が手に入らないからノートに書いて、全く同じ色を作って持ち歩いたり...手に入らないものは、書いたりどうにか再現したりして手元に取っておくクセはあります。だからこそ歌も自分のものにしておきたかったのかな」
――曲も自分のものにしたかったのであれば、リスナーに何を言われようが気にも留めない感じですか?
「強気というか...リリースしたことでどこか他人事になって、私のものじゃないとも感じていたんですよ。書き終わったら、曲は私のものでもあるんだけど"私の持ち物を否定されても..."って。自分にとっては好きなものだけど、他の人から見たら賛否両論あるよね、って」
――直筆文では『No one』について、色味のないパッケージであり、自分自身も真っ白で、どんな色にもなりたくて、でもなりたくなくて、自分じゃなく作品に没頭したかったとも書いています。この文章からやりたいことはあるのに、方向性に迷っているような気持ちが見えたのですが...。
「その頃は、本当に理想がなくて。どんなアーティストになりたいかわからない、でも音楽は楽しいんです。だからこそ曲のジャンルもいろいろあったし、服もいろいろなものを着て。自分としては"いろんなものが好きなんです!"って言ったけど、裏を返せばただの無個性で。自分の中に何か統一感がないと、周りにも何も伝えられないなとも思っていました。それに悩みつつコレだ! っていうものを見つけようとして、でも簡単に見つかるものでもなくて」
――偶然出会うものでもありますしね。
「そう。それが今、見つかってきた感があるんです。自分が自分のことを歌えば個性になるのに、ちゃんと自分と向き合えていない時は自分のことを書くと簡単な言葉になっちゃうなら、私が書かなくてもいいと思っていました。簡単な言葉を使わないことにしか価値を見出せなかったんです」
――"私にしか書けないものを書きたい欲"が一番強かったイメージですか。
「そうですね。私じゃなくてもいいなら、やる必要もないと思って。だから自分自身は真っ白だったし、黒い部分も見せていなかったから綺麗な歌詞が多かったですね。それはそもそも昔から本が好きだったこともあって、歌詞も聞こえ方より字面を大事にしていたんです」
――字面? 文字としてどう見えるかってことですか?
「はい。視覚的にどういう言葉がいいか、ですね。今回のEPは言葉の選び方が変わったなと思います」
――でも自分のことを書くようになったきっかけが、嫌なことが続いたタイミングだったとおっしゃっていましたが、よくそのタイミングで書こうと思われましたねぇ。
「いろいろ病んでいた時に、目標が必要なのかなあと思いつつ、考え詰めた果てに何かを見つけることが目標にならなくてもいいというところには辿り着いて。今まで散々自分の曲を書いてみたら? って言われてきて、書いたこともなかったし一度この負の感情を曲にしてみようかとは思えました。発想の転換、というか。今までも負の感情がガソリンではありましたけど、そのガソリンで誰かの曲を作り上げていたので、自分の曲を作るガソリンにしてみたら、やっぱり頭の使う部分も違って。自分のことを書く時はダウナーで...ダウンすぎて、まじつら...って思ったけど、振り返ればよかったです。それが」
――自分のことを書くのが辛かったのは、思い出したエピソードそのものが辛いものだったのか、思い出すことがしんどいのか、その時の感情に向き合ったり掘り起こしたりすることがつらかったのか...。
「嫌なことだから掘り起こすと、ずーっと心をじわじわグリグリやられているような感覚でした。でももっと深く刺さないと、って。セルフ手術しているイメージですよね。逆に幸せなことなんて目を瞑っていても書けるんですけど。今は、音楽を作るには不幸になっていた方が作れるなぁって感じていますね(笑)」
自分の気持ちを歌った曲には、
いろんなアプローチがしたくなった
――自分のことを歌った初めての曲ができた時は、いかがでしたか。
「泣きました。ハラハラハラって」
――それは、なんの涙だったのでしょう?
「いや〜、わかるわ〜と思って」
――自分のことですし!
「歌詞を読んでいると、やっぱりお話を読んでいる感覚にはなっちゃって、この話悲しいなぁとかよくここにこの言葉使えたなとか思うけど...ハッとして後悔はない! と」
――でもその1曲をいいと思えたことで、こんなEPにもなったわけで。この方向でいいと思えたポイントはどこだったのでしょうか。
「自分とトコトン向き合ったから、肯定できたんです。自分の中にある負のものたちをそのまま丸ごとネガティブなまま愛せたことで、自分を愛せたことと一緒に思えたというか。やっぱり自分を愛した分だけ他人のことも愛せると気づいたし。あと、自分が好きな曲ができたっていうのは大きいです。元々はR&Bとかリズムに乗れる曲が好きだったんですけど、作る曲のテイストがJ-POPのノリをしていたんです。でも今回は歌詞に合わせてR&Bを入れ込めたし、曲そのものがすごく好きなものになったのでこれを歌っている自分も好きだし、うん、こっちの方向で! ってなりますよね」
――すごい好循環ですよね。自分の物語を紡ぐことによって使う言葉も変わる気がします。
「今回は耳から入る言葉も意識したというか、言葉を目で見なくなりました。字面に価値があるわけじゃない、私の気持ちに意味があると気づいたからです」
――一番気持ちをストレートに表現できた曲を、ぜひ知りたいです。
「「déjà vu」ですかね。「泣きっ面に8」もそうかもしれない」
――あ、「リバースデイ」かと思っていました。タイトルの強さと意味合いという面で。
「あの曲は初期に作っていたので、まだどこか自分に向かい切れていなくて。それと比べると、「déjà vu」は一番生々しいものが出ているというか。「泣きっ面に8」はあきらめ的幸せの考え方だなぁと思います。人に期待しないと幸せじゃないですか、それを書けたっていうのがあって。タイトルの蜂が数字なのは、幸って漢字の画数が8画なんです。ちなみに辛が7画なんですけど、その文字に一本足すと幸っていう漢字になって8画になる。私、ラッキーセブンが好きなので辛いことがあったら次に幸せが来る、辛いことがあったらラッキーだ、だってラッキセブンなんだしって思うようにしているんです。だから泣きっ面に蜂って嫌なことが続くんじゃなくて、次は幸せが来る"幸せの8なんだ"ということを表現したくて」
――そういうふうに歌詞の世界観に大改革が起こりましたけど、それはサウンド面にも影響があるはずですよね。
「誰かの物語を書いている時は、こういう色の曲だからこういう音ってサウンドも決まりきっていたし、こうしなきゃっていう概念が強くて。自分の気持ちを歌った曲は、どんな音でもいいといろんなアプローチがしたくなりました。こういうのがやりたい、ああいうのがやりたいってどんどんできて、すごく自由度が高まった気がします」
――音源を聴いた時のひらけた感の理由はそれですね...!
「サウンドだけじゃなく歌い方も変化して、でもどれも私って言える感じでした」
――前のEPから今回のEPまでの約1年半でその変化って...スピード早くないですか。
「私、最近長所に気づいたんですけど、人生において後悔したことが一度もないんですよ」
――えぇ!?
「あれをやっておけばよかったなとかが一切なくて、今がベストって毎日思えているんです。これってすごくないですか? なんか過去も全部愛してる、大好きっていうのを日記に毎日書いていたり、落ち込むことがあっても泣きながらお風呂に入って「なんなの!」とか怒るんです。鏡を見ながら泣いて文句言って。でも最後に「だから人生最高!」って呪文みたいに言うと、最高になっていく自己暗示法というか。最終的にそんな自分に笑えてきて寝ます。だから後悔しないんですよ」
――そのマインドがあれば、自分のことをどこまでも掘り起こせそうです。
「いや、それは怖いですけど...。でも掘り起こせたことで進むべき方向が見えたのは大きくて、直筆の文章に書いた通り"2月生まれの少し生まれ変わった自分、お誕生日おめでとう。"っていうその一言に尽きますね」
――文章にも書かれていましたが、今辛い人に届けたいという意識もすごく強いと思うのですそれはなぜですか。
「そういう人を救えるとは思っていないですけど、仲間がいると思うだけで少しは楽になるというか。仲間がいるということを伝えたかったのと、今辛い思いをしている人...死にたいと思っている人に「誕生日おめでとう」って言いたかったんです。生まれてきてくれてありがとうって。それは、私自身にも。死にたいと思った数より生きたいと思った数というか質量が多いから私は今生きているんだと思うんです。年、重ねようって言いたくて」
――すごく素敵な思いです。救われる人も必ずいると思います。こういう思いがこもったアルバムなら、またライブでの表現も新しくなりそうですね。
「今まではMCも含めて大筋を決めていないと! という感じだったんですけど、今はもっと生っぽさを強調してできるなと思っています。これまでよりライブ感が増すと思うし、ファンのみなさんとの距離感も近くなると思います。ぜひ、会いにきてください」
取材・文/桃井麻依子
(2026年4月 2日更新)
配信中&発売中
[初回生産限定盤] (CD+Blu-ray+書き下ろしエッセイ付きカード)
ESCL-6210~6211
6500円(税込)
[通常盤](CD+歌詞ブックレット)
ESCL-6212
3000円(税込)
《収録曲》
01. リバースデイ
02. pink
03. バンドエイド・マイ・ティーン
04. déjà vu
05. ハレの日に
06. 火の用心
07. About you for me
08. 恋をひそめて
09. Earring
10. 泣きっ面に8
Profile
うしおれいら=2002年2月9日生まれ、東京都江戸川区出身のシンガーソングライター。あがり症を克服するため高校の軽音部に所属するも、コピーするより自分で作った方が楽しいと気づき、16歳の頃から作詞・作曲を始める。芸術大学の文芸学科への進学経験から、自身の言葉選びは音楽に乗せる方が余白を活かせると感じ、音楽1本で生きていくことを決意。澄んでいて強く響く声、何度も聞きたくなる中毒性のあるメロディー、そして生々しくもドラマチックな歌詞によって紡がれるストーリーは、耳にする人それぞれの感動を生み、衝動を残していく。
【愛知公演】
▼5月8日(金) ell.FITS ALL
▼5月9日(土) 17:00
Yogibo HOLY MOUNTAIN
スタンディング-5000円(ドリンク代別途要)
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション ■0570-200-888
OSAKA GIGANTIC MUSIC FESTIVAL 2026 SPIN-OFF 「THE BONDS 2026」
【大阪公演】
▼4月12日(日) 梅田BananaHall/梅田Zeela/梅田BANGBOO
リストバンド引換券-5500円(ドリンク代別途要)
[出演]ACE COLLECTION/EMNW/OddRe:/おもかげ/カネヨリマサル/ガラクタ/KI_EN/クレイジーウォウウォ!! /Conton Candy/sanetii/ジ・エンプティ/至福ぽんちょ/すいそうぐらし/すりぃ/セブンス・ベガ/TiDE/Czecho No Republic/Chimothy→/月追う彼方/TRACK15/なきごと/NEK! /背のネイビーセゾン/PURPLE BUBBLE/harha/Baby Canta/ミーマイナー/moon drop/MAYSON’s PARTY/らそんぶる/Laughing Hick/リュベンス/Luov/LEGO BIG MORL/レトロマイガール!!
[問]キョードーインフォメーション ■0570-200-888
『nambar forest'26』
【大阪公演】
▼4月25日(土) なんばパークス
入場無料
[出演]DENIMS/Homecomings/hozzy&田中ユウイチ(藍坊主)/ZILCONIA/伊東歌詞太郎/内田 直孝 (Rhythmic Toy World)/折坂悠太/大東まみ/ラックライフ
汐れいら オフィシャルホームページ
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