ホーム > インタビュー&レポート > 最新EP『希望の匂い』が映し出す バンドの現在地 水平線インタビュー
緩やかだけど消えない希望のようなものを鳴らし続けたい
――最新EP『希望の匂い』は、「これからどこへ向かいたいか」というテーマの中で制作されたとお伺いしています。このテーマは制作の最初から決めていたのですか?
田嶋「作品の内容そのものに最初からガチガチのコンセプトを立てたわけではないんです。ただ、「今このタイミングでEPを出すことに対してどう向き合っていくか」については、曲作りを始める前から皆で何度も話し合っていました。」
――具体的にはどんな方向性を目指していたのですか?
田嶋「水平線には僕と安東という二人のソングライターがいるので、それぞれの個性がいい意味でばらけつつも、最終的には「水平線」という一つの大きな景色、まとまりを見せたいという思いがありました。」
――そのコンセプトは、前回のフルアルバム『NEW HORIZON』からの地続き感もありますね。
安東「そうですね。2年前に出したフルアルバム『NEW HORIZON』は自分たちでも手応えがありましたし、そこからさらにブラッシュアップされたものをこのタイミングで提示したかった。『NEW HORIZON』以降シングルをいくつかリリースしてきましたが、一度ここでしっかりとまとまった作品を出して、自分たちの良さを再確認したかったというのが大きいですね。」
――今作のタイトル『希望の匂い』という言葉も非常に印象的です。このタイトルに込められた思いを教えてください。
安東「このタイトルは、最初からあったわけじゃなくて、曲が全部出揃った後につけたんです。」
田嶋「「この5曲でいこう」と決まって実際にレコーディングしていく中で、曲から受ける印象がすごく温かみのあるものだと感じたんですよね。その中で、以前から僕の頭の中にあった「希望の匂い」というワードがいいんじゃないかと提案して。」
安東「今回のEPにピッタリだと思ってそれに決めました。」
田嶋「これは和田アキ子さんの名曲『あの鐘を鳴らすのはあなた』の歌詞の一節から拝借した言葉なんです。「あなたには希望の匂いがする」というフレーズがずっと心に残っていたんですよね。」
――今回の収録曲の雰囲気と重なる部分があったと。
田嶋「そうですね。今回収録された曲たちからは、示し合わせたわけではないのに、どこか「生活の匂い」が漂ってきた。物理的な嗅覚で感じる匂いというよりも、何か良いことが起こる「予感」のようなもの。EPの英題を『Sense of Hope』としたのも、その「予感」というニュアンスを大切にしたかったからです。」
――「大袈裟な魔法というよりは、緩やかな希望を燃やし続けたい」というキャッチコピーも、バンドのスタンスをよく表していますね。
田嶋「今の音楽シーンって、派手だったり展開が早かったりする曲が目立ちやすい時代だなと感じていて。でも、僕らが目指しているのはもっと普遍的な良さ。エバーグリーンであり続けること。時代に消費されない、緩やかだけど消えない希望のようなものを鳴らし続けたいという僕らのテーマが、今回のタイトルやコピーには集約されていると思います。」
景色が見える音楽を。二人のソングライターが描く日常の手触り
――水平線の楽曲には、身近な出来事や日常の感情をすくい取るような、特有の手触りがあります。こうしたテーマに惹かれる理由は?ご自身の中でどう分析されていますか?
安東「「日常の中にある感情を歌おう」と意識的にスローガンを掲げているわけではないんです。ただ、僕と田嶋が共通して持っている感覚として、「曲を聴いた時に景色が浮かぶ音楽を作りたい」という思いが根本にあります。」
――「景色」というのは、例えばどんな?
安東「自分が実際に見てきた風景だったり、そこで感じた些細な心の揺れだったり。等身大の自分がそこにいる景色ですね。曲を聴いた時に、その人の目の前に新しい景色が広がるような、そんな音楽でありたい。その結果として、日常の中にある些細な出来事を拾い上げるような作風に繋がっているのかもしれません。」
――そういう感覚って、お二人の間では言わずとも共有されているのでしょうか?
田嶋「そうですね。結成から8年なんですけど、やっぱり8年も一緒にやっていると、わざわざ言葉にして確認しなくてもお互いの出してきた曲に対して「あ、これやんな」という納得感が自然と生まれますね。無理に合わせているわけではなく、お互いの個性が自然と水平線の音へとチューニングされてきている感覚があります。」
――制作スタイルは、今作でもそれぞれがDTMでデモを作り、スタジオで合わせる形でしたか?
田嶋「基本的にはそうです。それぞれが家でドラムからベース、歌、ギターまで入った完成形に近いデモを作って、それをバンドに持っていきます。ただ今回は、デモの段階からサウンドプロデューサーの岩本さんとやり取りをしながら進めていました。」
――歌詞はどのタイミングで乗せていくのですか?
安東「僕は本当に最後の最後ですね。歌詞なしの状態で曲を完成に近いところまで作り込んだ上で、曲が見せてくれる景色や曲から受けるイメージに引っ張られるようにして言葉を選んでいきます。だから、レコーディングのギリギリまで言葉を探していることも多いです。」
田嶋「僕も同じく最後の方に乗せることが多いです。今回は、岩本さんとのラリーの中でサウンドの方向性が見えてきてから、元々入れていた仮の歌詞を書き直したり、より研ぎ澄ませたりする作業を丁寧に行いました。サウンドが言葉を呼び込んでくれるような感覚でした。」
制作で見えた互いへのリスペクトと新たな気づき
――お互いの書いた楽曲に対して、「ここはすごいな」と感じた部分はありますか?
田嶋「今回のEPで安東が作曲した『三日月』と『マジックアワー』の2曲についてなんですけど、「とにかくサビのメロディーが際立っていいな」というのを、デモを聴いた段階から強く感じていました。今までの曲ももちろんメロディーは良かったんですけど、今回は聴いた後に気づいたら口ずさんでしまっているような、自然とメロディーを覚えてしまうような2曲やなと感じましたね。」
安東「あざっす(笑)。」
田嶋「内容的なところでも大きな発見があって。『三日月』という曲は、安東の「中身」を歌っているというか、すごく内省的な要素が出ているんです。これまでの安東の歌詞って、ファンタジーのような世界観が強かったし、本人もあまり現実からインスパイアされて作るタイプじゃないと以前から話していたんです。でも今回、リリース前後の時期に一度弾き語りで共演したことがあって。その時に安東が『三日月』を演奏していたんですけど、それを聴いて「あ、こんな歌詞やったんや」「こういうこと思ってたんや」って、改めてわかって、すごくいいなと思った。自分の中にある泥臭いものを出しているんやなというのは、僕にとって大きな発見でした。」
安東「僕が田嶋の曲ですごいなと思ったのは、3曲目の『忘年』ですね。あの長さのイントロは僕には作れないです(笑)。でもあのイントロの長さがあるからこそ、一言目の歌詞が入ってきた時にグッと引き込まれる。だからあれは必要な長さやけど、自分一人で作っている段階ではまず出てこない発想なので、すごいなと思いました。」
田嶋「僕はイントロを長くしたがりなんですよね(笑)。今まさに進めている別のデモがあるんですけど、安東君にアレンジに入ってもらったら、やっぱりイントロが長すぎて「半分にしたほうがいい」って言われて気づいたりして(笑)。」
安東「(笑)でも『忘年』に関しては、あれは必要な長さやなと思いました。あと、田嶋はコード進行の面白さがすごい。癖が強いというか、「その音使う?」っていう驚きがあるんです。」
田嶋「どの曲のこと(笑)?」
安東「さっきの『忘年』とか、どう思ったらその音から始めようと思うんやろっていう音から始まって、イントロがずっとその感じで進んでいく。なのにサビとかはすごく聴きやすくて、耳馴染みのいいメロディーが乗る。僕からすると、その少し乖離しているような二つの要素が一つになって、水平線にしか出せない景色を作っているのが上手いな、すごいなと思いますね。」
田嶋「あざっす!」
――じゃあ、リスナーの皆さんに「ここを特に聴いてほしい!」というマニアックな推しポイントを教えてください。
安東「『三日月』の1番のBメロですね。歌いながら弾くのが絶妙に難しいリズムでギターを弾いているので、楽器をやっている人はぜひ挑戦してみてほしいです。それと『マジックアワー』のギターソロ。これはぜひ友達と一緒に弾いてほしい!」
田嶋「僕は『フライトレスマン』の2番のBメロ。ギター2本とベースと歌が複雑に絡み合うセクションがあるんです。パズルのピースがはまっていくような面白さがあるので、注目して聴いてほしいですね。」
岩本氏がもたらした新しいサウンドデザイン
――今回、岩本岳士さんをサウンドプロデューサーに迎えていますが、どういった経緯があったのですか?
田嶋「EPを作るにあたって「自分たちの個性を出しつつ、まとまりを作る」という課題に向き合う中で、自分たちだけの目線だとどうしても俯瞰しきれない部分があると感じたんです。第三者の耳が必要やなと。」
――それでプロデューサーを入れることに?
田嶋「はい、岩本さんがプロデュースされているLaura day romanceやNo Busesとかの、インディー感がありつつも現代のポップスとしての目線を持っているバランス感が素晴らしいなと感じていました。」
――実際に会ってお話しされてみて、いかがでしたか?
田嶋「岩本さんは、メロディーを大きく変えたりアレンジを細かく作り込んだりするよりも、サウンドプロデュースで「聴いても分からへんけど感じることはできる」みたいな変化を大事にする方だとわかりました。そのバックアップの姿勢が、僕らが求めていたものにぴったりはまったんです。」
――具体的にはどんなディレクションがありましたか?
田嶋「いろいろありますが、例えばドラムのリズムパターンの微細な調整とかはおもしろかったですね。スネアのタイミングを少し変えたり抜いたりするだけで、歌が入るための「隙間」が生まれる。聴いている分には特に何も感じないかもしれないですけど、その些細な調整によって歌がより良く響くようになったりしました。」
安東「あとはサウンドエフェクトですね。表には出てこないけれど、後ろで支えている音。それがあるかないかで、曲の見えてくる情景・奥行きが全く変わる。「空間デザイン」のようなアプローチはすごく勉強になりました。」
――新しい発見が多かったんですね。
安東「 『三日月』という曲で、僕は最初とにかく力強い曲にしたいと思って、ギターを全編でズンズン鳴らしていたんです。僕らはこれを「プロレス」って呼んでいるんですけど(笑)。でも岩本さんとの作業の中で、あえてAメロやBメロでプロレスをなくして力を抜くセクションを作った。そうすることで、サビで全開になった時の解放感が何倍にも膨れ上がったんです。」
――逆に岩本さんとバンドで意見がぶつかったりしたことはなかったんですか?
田嶋「僕は『忘年』のサビのコード進行とハモリの音程でかなり議論しました。岩本さんはメジャー調の明るい響きでいったほうがいいんじゃないかと言っていたんですが、僕はあえてメロウな雰囲気を出したくてマイナーの音でいきたかった。最終的には僕のこだわりを尊重してもらって今の形になったんですが、そのおかげで、自分でも納得のいく深い色合いの曲に仕上がったと思っています。」
完璧さよりもバンドの「体温」が伝わる作品を作りたかった
――制作全体を振り返って今、今作のEPについて改めてどう感じていますか?
安東「これまで、作品を作る時はどこか「完璧なもの、綺麗に整えられたもの」を目指してしまっていた部分があったんです。でも、デジタルでいくらでも綺麗にできてしまうからこそ、今回はあえて「人間味」を大切にしました。人間だから出る粗さ、その瞬間の温度みたいな。」
――「ライブ感」をレコーディングに持ち込んだと。
安東「そうです。テイクを10回、20回と重ねれば演奏は上手くなるかもしれない。でも、最初の方のテイクが持っていた熱量やテンションは、回数を重ねるごとに薄れていってしまう。だから今回は、完璧を目指すことよりも「今、この瞬間の呼吸」を録ることを優先しました。その結果、自分たちの音楽に一番しっくりくる質感が得られた気がします。」
田嶋「レコーディング期間中、メンバー4人で東京で共同生活をしたのも大きかったですね。ずっと一緒にいて同じものを食べて音楽の話をしてる。その時間の中で生まれた空気感が、いい意味で作品の端々に反映されていると思います。」
――サウンド面やバンドとしての姿勢に多くの変化をもたらしたレコーディングだったんですね。
田嶋「そうですね。この作品を経て、水平線というバンドのチューニングがさらに高い次元で合った気がしています。ここから先もっと大きなものが作れるという確信が持てました。」
より「外」に向けたライブがしたい。水平線が見せる新たな景色
――2025年はサマソニやSWEET LOVE SHOWERといった大型フェスにも出演されました。大きなステージを経験したことで、バンドとしての姿勢やライブに変化はありましたか?
安東「そうですね、 ステージに立ったこともそうですが、メインステージで多くの人を熱狂させているアーティストたちのライブを目の当たりにしたことが、大きな刺激になりました。会場にいるすべての人を巻き込んでいく力。それは、ただ演奏が上手いとかではなく、音楽そのものが「外」に向かって開かれているからなんだなと。」
田嶋「これまでの僕らは、どこか内向きというか「自分たちのカッコいいと思うものをやるので、楽しんでください」というスタンスが強かった。でも、フェスでの経験を経て、どうすればもっと外に開いていけるか、どうすれば一緒に景色を作れるかを、より考えるようになりましたね。」
――では4月から始まる全国ツアーは、その「外向き」の意識がより色濃く出そうですね。
安東「そうですね、僕らの意識が外に向いたことで、これまでやってきた曲も聴こえ方が変わると思うんです。「今まで一緒に歌ったりしてなかったけど、ここは一緒に歌いたい」って思ったら歌ってほしいし、そんな自由な空間を作りたいですね。」
――音源とは違う、ライブならではの表現で考えていることはありますか?
安東「音源の『希望の匂い』はあの曲順で聴くことに意味があると思って作りましたが、ライブはこれまでの曲も交えてやるので、必ずしも1曲目に『三日月』が来るわけではない。それだけで聴こえ方や印象って結構変わると思うので、そこを自分らでも楽しみたいし、お客さんにも楽しんでほしいです。」
田嶋「そこで鳴らしているからこその空気の振動、生でしか出せへん音の奥行きを表現できたら。水平線はライブのスケール感を大事にしているので、音源とはまた違う形で圧倒的な景色を見せられたらなと思っています。」
――今回のツアーは、初めての場所や、朋友バンドとのツーマン、京都以外での初ワンマンが含まれていますね。ツアーへの意気込みを聞かせてください。
安東「今回は持ち時間がたっぷりあるので、僕らをより深く見せられるようなセットリストを仕込んでます。水平線の幅広いジャンル感を十二分に味わってもらえるライブになると思うので、楽しみにしていてほしいです。」
田嶋「福岡や仙台など、初めて行く場所もあって、ずっと待ってくれていた人たちに出会えるのが楽しみです。対バンも元々同じシーンで一緒にやってきたハク。やえんぷていと、お互いに違うフェーズに進んだ今のタイミングでぶつかり合えるのが嬉しいですね。でも対バンは勝負やと思ってるので、火花が散るような熱いステージにしたいです。」
Text by フジサワメグリ
(2026年4月24日更新)
水平線(スイヘイセン)…京都の叙情、UKロックの衝動。"ゆるやかな希望"を歌い続ける、川島無限(Drum/Chorus)、水野龍之介(Bass/Chorus)、田嶋太一(Vocal/Guitar)、安東瑞登(Vocal/Guitar)の4人組ロックバンド、水平線。田嶋(Vo./Gt.)と安東(Vo./Gt.)のダブルボーカル兼ソングライティングにより、UKオルタナティブやフォークポップスなど、多彩な影響を感じる楽曲を生み出している。2025年7月にリリースした「たまらないね!」はドラマ「晩酌の流儀4~夏編~」のOPに起用され、同年8月にはSUMMER SONICやSWEET LOVE SHOWERに出演。2026年2月には5曲入りNew EP「希望の匂い」をリリースした。
【宮城公演】
▼4月12日(日) LIVE HOUSE enn 2nd
[ゲスト]ハク。
【愛知公演】
▼4月18日(土) 池下CLUB UPSET
[ゲスト]えんぷてい
【福岡公演】
▼4月25日(土) LIVE HOUSE OP’s
[ゲスト]ハク。
【東京公演】
▼5月8日(金) Shibuya WWW
▼5月15日(金) 19:00
Shangri-La
一般-3500円(整理番号付、ドリンク代別途要)
学割-2500円(当日要学生証、整理番号付、ドリンク代別途要)
※未就学児童の入場は不可。
※学割の方は学生証を入場時にご提示ください。ご提示いただけない場合は当日差額を頂戴する可能性がございます。
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