ホーム > インタビュー&レポート > TSURUMIこどもホスピス開設10周年記念事業 チャリティコンサート2026 『井上芳雄 STAGE of HARMONY ~あなたと生きる しあわせのひみつ~』
――まずは今回のチャリティコンサートについて、芳雄さんが発起人となって開催するに至った経緯をお話いただけますか?
僕が「TSURUMIこどもホスピス」と出会ったのは、2019年に出演した舞台『十二番目の天使』の兵庫公演の時でした。僕が演じたのは幼くして重病で亡くなってしまう男の子に寄り添い、彼を通して生きる意味や希望を見出していく役で、その物語自体にも深い思い入れがありました。そんななか、やはり同じくらいの年齢で難病と闘い、亡くなった秋人(しゅうと)君というお子さんの記事を新聞で読んだんです。最後まで諦めずに勉強していた、といった内容に強く胸を打たれて、できたら秋人君のご家族に舞台を観ていただきたいなと思ったんですね。それで連絡を取らせていただき、ご家族の皆さんが観に来てくださったんです。その時にご両親が「お花をお贈りすべきところですが、そのぶんを秋人がお世話になったTSURUMIこどもホスピスに寄付させていただいていいですか?」とおっしゃって。もちろんお花なんてとんでもない、来てくださっただけで十分という気持ちとともに、こどもホスピスに寄付とは? TSURUMIとは何だろう?と気になったんですね。ご両親がそうなさるなら自分も何かしたい、するべきだなと思いました。それでTSURUMIの方とやりとりするうちに「一度いらっしゃいませんか」とお誘いいただき、ご縁ができたというわけです。
人が亡くなるのはどんな時も悲しいですけど、幼くして亡くなるということ、一生が短いということについて、僕は昔から気にかけていたところがあって。本人も、親御さんにしてもあまりにも悲しいことだなと。でもTSURUMIを訪れてみたら、とても明るい雰囲気のユートピアみたいなところでした。僕は以前から、自分が今持っている力があるなら、それを使って仕事ではないところでも社会と繋がりたいと思っていました。でもなかなか余裕も機会もなく......本当は自ら探していかなければいけなかったのですが。ただ、こうして縁あって繋がることができたので、何か自分にできることをやろうと、いつもコンサートなどでご一緒しているピアニストの大貫祐一郎さんや、妻(知念里奈さん)も一緒にTSURUMIに行って、一回クリスマスコンサートをやったんです。子どもたちがすごく喜んでくれて、自分としても、ああ~こんなふうにして音楽の力を使えたら、それは一番望ましい形だなと思ったんですよね。
そうしてご縁を重ねるなかで、今回TSURUMIのほうから10周年を記念するイベントができたら......とお声がけいただきまして、僕自身これまで大きなチャリティコンサートをやったことがなかったので、じゃあやりましょう!と。基本的に寄付だけで運営している施設なので、まずはTSURUMIのことを知っていただき、少しでも寄付などで関わってくださる方が増えるといいなと。それで、どうせやるなら大きくやろう!と、これまでご一緒した仲間たちにも声をかけさせていただきました。

――お仕事で大阪に行かれた際には、何度も施設のほうに足を運んでいらしたと伺っています。
そうですね、舞台の大阪公演で空いた時間があれば寄らせていただいて。そこで出会ったまた別のお子さんで、残念ながら亡くなられた方もいらっしゃいます。でもそのお子さんのご家族が今もTSURUMIに来てくださったりして、繋がりは続いています。命の短さについてずっと気にかけていたけれど、TSURUMIと出会ったことで、命の輝きは長さではなく中身だと強く思うようになりました。
――「TSURUMIこどもホスピス」のホームページにある、"「やりたい」を「できた!」に"というキャッチコピーがとても素敵だなと思いました。やりたいことをどんどん実践していく場なんですね。
小児がんなどの"生命を脅かす病気"と闘っている子どもたちは、その一生を病院のベッドの上で過ごすことがほとんどだと思います。でもそれだけじゃなく、TSURUMIに行って自分のやりたいことをやったり、僕が行って一緒に歌ったり、そうした経験が生きている喜びになる。それは子どもたちの話から学んだことで、少しでも自分がその一要素になれたら嬉しいなと思いますね。
クリスマスコンサートをやったことで大貫さんも妻も言っているのは、これは自分たちにとっても必要なことだな、と。こちらが何かをやって差し上げているのではなく、生きていくうえで当たり前のことをやっている、そんな体験でした。今回のコンサートもその流れで、出演してくれる仲間たちも「そういうことをやりたかった」と言っているし、運営に関わる方々も仕事ではないところで協力してくださっています。ありがたいことに皆が力を貸してくれて成立するコンサートですね。
――具体的にはどのような内容になりますか?
お子さんと家族の方々に喜んでもらうことを基本として、第一部では参加してくれるプロの音楽家たちの本業を、ミュージカルやポップスの素敵な音楽を聴いていただく予定です。第二部は、お子さんたちと一緒に好きな歌を歌ったり、ちょっと簡単な演奏を一緒にしてみたり、踊りたかったら踊ってもいいし、そんな気楽な雰囲気で楽しんでいただこうと。お子さんを支えているご家族はとても大変な思いをされていて、生活のすべてを捧げるようになってしまうと思うんですよ。そういう家族の皆さんにとっても、息抜きとなるような時間にしたいなと思っています。
――豪華な出演陣による一回のみのコンサートですが、配信でも観られるのが嬉しいです。
そうですね。参加したいと思ってくださっている方も「大阪だから行けない」という場合もあるでしょうから、配信で参加していただけたらと思います。会場に来られる方も、配信でご覧になる方も、それぞれの形で関心を寄せていただき、コンサートに参加していただけたら嬉しいです。
それから、TSURUMIにはマンスリーサポーターという毎月決まった金額を、それは小さい額でも大きい額でもその人のできる範囲で寄付する方法がありまして、僕もやっているんですけど、今回そのサポーターになってくださった方優先のチケット先行がありました。この先行をきっかけに多くの方がTSURUMIのことを知って、応援しようと思ってくださって、マンスリーサポーターになってくださったと聞いていて、本当に嬉しく思っています。
――芳雄さんとこどもホスピスとの出会いがチャリティコンサートに繋がったように、このコンサートからまた新たな繋がりが生まれることを期待したいですね。
世の中にはたくさんの問題があり、支援を必要としている場所もたくさんあると思います。全部に関わることはできないけれど、僕は秋人君とそのご家族からいただいたご縁を大事にして、自分にできることをしていこうと思います。僕はクリスチャンということもあって、そう考えるのかもしれないですけど、自分に多少の影響力があるのだとしたら、それを良いことのために使いたい。いただいたものを返す、という考え方でやっていきたいなと思っているんですね。今回こうして形にできてすごくありがたいですし、多くの人が参加してくれたら本当に感謝ですね。
子どもが騒いだらどうしよう、途中で出たくなったらどうしようとか心配される方もいるかもしれませんが、そこは気楽に、自由に楽しんでいただければ大丈夫です。途中で具合が悪くなったりする可能性もありますからね。初めての開催なので行き届かないところもあるかもしれませんが、何も決まりはないのでご心配なく。毎日の中の楽しい行事のひとつとして、ご家族やお友達など皆さんで来ていただけたら嬉しいなと思います。

取材・文:上野紀子
撮影:藤田亜弓
(2026年4月30日更新)