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「今、面白いと思っているのは“移ろう”ことと“距離感”」
4年ぶりのニューアルバム『Somewhere Between』で
The fin.・Yuto Uchinoが示した、感情を揺さぶる音の手触り

The fin.が4枚目となるニューアルバム『Somewhere Between』を11月にリリースした。本作は前作『Outer Ego』以来4年ぶりとなるフルアルバム。全曲の作詞・作曲・レコーディング・ミックスまでをYuto Uchinoが手がけていることに加え、彼が今心を惹かれている記憶や感情の「移ろい」をテーマに、 かつての自分と今の自分、そして”これからの自分の間を行き来するように展開していく不思議な音と曲の数々を収録している。どこかに根を張ることとは対極にあるような、どこか所在がない、けれどその分解き放たれた自由さを感じる全11曲は、サウンドインスタレーションのようでもある。この作品の全てを手がけたYuto Uchinoは、前作からの4年で何を考えこのような作品へと辿り着いたのか。ぜひその思いを受け取ってもらいたい。

とにかく"シンプルに"!
自身の中で巻き起こった大改革


――(取材日は)まさに年末なので、今年がどういう年だったかというところからお聞かせください。

「今年はとにかくアルバムを完成させたいという思いから始まりました。イギリスやアメリカのツアーで得たインスピレーションを詰め込んで1枚を完成させられたので、すごく達成感がある1年でした。ただ前作からは4年ほどあいていて、最初の1〜2年は自分の思うものが音楽として出てこない時期があって辛かったですね。それでもなんとか進み続けて、少しずつ表現のカラーパレットを増やしていくような作業を積み重ねました。それが実を結んで2025年に入った頃は表現方法もすごく見えるようになっていて、悩みを抜けた先にいたのでアルバム制作に対してポジティブな気持ちでした」

――前作のリリース後、迷いの中にいたというのは...?

「前作の『Outer Ego』を作ったのはバンドも10年くらい経った頃で、自分が作る音楽のイメージも完成してきたところでした。その作品の曲をツアー先で何度も演奏するうちに、自分の中でこういう感じの曲を作るのはもういいかなと思えたんです」

――やりきったような。

「これ以上同じやりで曲を作らなくてもいいかなというか。もっと違う音楽の表現をしたいと思えたのが、前作のツアー中でした。そこからもう少し柔軟に音楽を作ることができそうだと思い始めて、ピアノを買ったんです」

――ピアノ! 

「『Outer Ego』まではパソコンで作曲することが多かったけど、今作はピアノの前に座ってポロポロと弾いているうちに曲ができていくような、オーガニックな作り方に変わっっていきました。ピアノは鍵盤を弾くとハンマーが弦を叩いて音が鳴って...超オーガニックな音の鳴りの中で、いろんなものがメイクセンスしていくのはソングライターとして新しい体験でしたね」

――いろいろな楽器がある中で、ピアノを選んだ理由は?

「ジャズも聴くようになっていた頃だったし、将来的に小さなジャズバーでジャズピアノを弾いていたいなぁと考えたことですね。それで出会ったのが1960年代頃のドイツのピアノです。おじいちゃんみたいなピアノですけど、新しい楽器との出会いで自分自身の音楽体験や制作の内容にも変化があったことを、アルバム制作を通して強く感じました」

――"おじいちゃんピアノ"のよさを挙げられますか?

「パソコンで音楽を作るのとは違って、真っ白のキャンバスに絵の具で色を塗っていく感覚があることかなぁ。自分の頭の中で鳴っている音だけを単純にレコーディングしていくというか。まぁそもそも音楽はそういうものだし、バンドも当初はギターをポロポロと弾いて曲ができていくような感じでした。パソコンでの曲作りも経験したことで、今は自分の頭の中で湧き上がった感情とつながった音をシンプルに録っていこうと思えるようになりました。今回はミックスも僕が手がけたんですが、とにかく"シンプルに"ということを心がけました」

――シンプルにするってすごく大きな変化だったのではないですか。

「"シンプルにする分、音はズレてもよくない?"って言っちゃうくらいの大革命でした(笑)。歌がズレていてもそのまま重ねたり、むしろズレてる方が綺麗なハーモニーになったりして。音をバチッと揃えると、周波数的に同じものが重なっていくだけなので音が分厚くならないんです。それがあえてズレていることで音の厚みになることもあると気が付きました。昔なら怖くてできなかったけど、今はわかった上でそれがやれるというか」

――これまでパソコンで曲を作ることで狙っていたことというと、音がズレることなく綺麗に聴こえるということですか?

「それもありますけど、今の若いミュージシャンにとってはクリックがあってそれに合わせるのが正解だと思っている節もあると思うんです。僕も含めて、気がついた時には携帯があってiPodがあってiPhoneがあって...Mac大好きで。ずっと音楽制作ソフトを使って作ってきたので、そういうマインドになるんですよ。ライブも同期してクリックを聞きながらやってきましたけど、今年からやめて」

――やめた?

「せーの! で音を出してみたらめちゃくちゃ楽しくて。固定概念から解き放たれた感はすごくあります」

――でもクリックを無視してレコーディングすることで、ミックスの作業が大変になるのでは? と思うのですが...。

「大変になりましたねぇ! でも今回のアルバムでは、ここはこういう理由でかっちりしたいからクリックを使おうとか、ここはこういう感じにしたいからテンポは無視しようとか使い分けました。次のアルバム制作では、もっとその辺を追求したいと思っています」



音が耳に届いた時にこそ
情景が浮かぶ音楽であって欲しい


――ニューアルバム『Somewhere Between』に対して、今どんな反応が届いていますか?

「バンドとしてのフェーズの変化をアルバムから感じ取ってもらえているなと思います。嬉しいですね」

――その反応をどう受け止めていますか?

「俺、自分自身の状況が音にそのまま出ちゃうタイプなんです。それを感じ取って、聴いてくれる人たちの人生の中で何か思うことがあるとしたらいいなと思っています」

――なるほど。今回の作品を通して浮遊感がずっと漂っているのはもちろんですが、そのほかにも「移ろい」「何かと何か」「間」「混ざり合う」というような、どこか立ち位置が定まっていないイメージが心に残りました、アルバムがこういう方向性になったのは、どんな心境の自分が音に現れているのでしょう。

「30歳を超えてだんだん自分のことがわかってきて、自分を知るほどに表現にもつながっていったというか。必要なものと不要なものが見えてきて、裸になっていく感覚もありました。これまで生きていくためにいろんな鎧のパーツを獲得していって自分を固めるほど身動きが取れなくなる感じがあったけど、鎧をひとつずつ外してそこから社会とのつながりを探しても大丈夫なくらい自分に芯ができてきたと思っているんです。それもあって、メンタル面が前作と今作で全然違いますね」

――そういうことを考え出したきっかけはありました?

「20代でインプットしたものや経験をコロナ禍で整理できたことですかね。一度立ち止まって噛み砕いて、消化して、自分と対話する時間もすごくあったので。そこから自分の音楽や表現が深まったし、それを経てまた好奇心が大きくなってきていると思います」

――タイミングもよかったんですね。

「はい。あと20代は音楽を作ることで自分の居場所を作っている感覚がありましたけど、今はもう少し社会に対して音楽で何か返せないかという気持ちになっているんです」

――社会にコミットしながら音楽で広げていくというか。

「大きなことはできないんでしょうけど、僕が音楽活動をすることで誰かが少しでも幸せになってほしいとか、何かを考えるきっかけになったらいいなと思ったりしています」

――お話を聞いていると、今作に入るまでのYutoさんの変化は『Somewhere Between』を聴く上でも欠かせないものに感じます。大きな気持ちの変化を経て、最初に完成したのが1曲目に収録されている「Swans」だと伺いました。

「この曲で何かをぶち破りたかったんです。前作から数年はずっと壁打ちしているような状態で、自分がイメージする音がなかなか形にならない日々だったので。そういう停滞感をブレイクスルーできた曲だし、アルバムのきっかけをくれた曲でもありました」

――「Swans」は他の曲と比べて何が違ったのでしょうか。

「ずっと煮詰まっていたものが「Swans」を作るエネルギーになった気がするんです。この曲ができたのはある種の開き直りというか。すごく気持ちがいいソングライティング体験でした」

――ちなみに「Swans」ができた前後...アルバムを制作するにあたってYutoさんの中で最初に頭に浮かんだのは、情景なのか言葉なのか、音なのか、何が心に浮かんでこういったアルバムになったのかすごく知りたいと思いました。

「情景はもちろん、景色や感情の"色"のイメージは常にあるんです。さらに音楽的なことでいうと音と音の距離や音の形、響きも頭の中にはあります。それに加えて音を受け取った時にどんな気持ちになるか、手触りも大事にしていますね」

――手触り?

「人は何かを受け入れたり何かと触れ合ったりした時にいろいろな感情が生まれると思うんです。だから音が耳に届いた時にこそ、情景が浮かんで欲しいという思いがあって。その答えになる音を作れるかどうかは、本当に実験を重ねていくしかないという思いは常にありました」

――実験という言葉は、このアルバムの音を体験した後だとすごく腑に落ちます。今作は、まるでマインドジャーニーのようだと感じました。あと、サウンドインスタレーションの中に身を置いているような不思議な感覚にもなって。

「そういう感覚的なものをどう音でトランスレートするか、それを表現したのがこのアルバムですね。アートやポップカルチャーを見た時に、なぜか惹かれる作品がありません? それと同じことを自分の作品でも伝えられたらいいなと思っていて。このアルバムから何かを感じてもらった時点で、作品としての役割を果たせたのかなと思います」

――ちなみに最初にできた「Swans」以降は、どのようにアルバムを組み立てていったのでしょうか。

「あまりコンセプチュアルなアルバムにはせず、自由な曲作りで実験を重ねていきたい気持ちが強かったです。ただ新しいことをしたいという思いのもといろんなアプローチで曲を作ってみたけど、自分が作った曲にはどこかつながりがあってアルバムになった時にうまくまとまっていました」

――自ずと作る曲に一貫性が生まれていた?

「そうですね。自分が作った曲にからまた広がっていくような感じで。作ることでまた新たなものが生まれていく。前作からの混沌とした1〜2年で迷いつつも次のアルバムのイメージを作り上げていたので、作品の芯の部分は出来上がっていたんだと思います」

――芯の部分...アルバム制作を通して頭の中心に置いていたことは何か伺えますか。

「 "移ろい"というワードですね。それを芯に持って曲を書いていて、今俺が気持ちよさや面白みを感じているのは"移ろう"ことと"距離感"だと気づきました。音と音の距離感...ミックスでも意識したのは、風が通るような音の配置にしたいということでした」

――風が通るような音の配置。

「音をギュッと詰め込むのではなく、音と音にちゃんと間があって音が自由になれるようなイメージでした。音を立体的に配置してひとつひとつの楽器がちゃんと息をしているような距離感を作るっていうとわかります? そして歌詞も移ろう様やAがBになっていく瞬間や心の動き、状態変化みたいなことがテーマにありました」

――移ろう様が興味深いと気がついたのも30歳を超えてからですか?

「そうですね。ただ浮遊感というのは、元々The fin.が掲げている大きなテーマでもあります」

――移ろいを音で表現しようとすると、バランス次第でBGM的な楽曲になってしまうというか、ながらミュージックと捉えられることもあるのでは? と思うんです。

「はいはいはい。そうですね」

――でもこのアルバムにBGMの印象がないのは、このボーカルの入り方の絶妙なバランスなのだろうなと。

「ただ、BGMへの憧れもあるんです。ある種の押し付けない音楽というか、それも大好きなんですけどThe fin.に限って言うと、俺が歌うことでメッセージ性が生まれます。それをうるさいなと思うことも必要と思うこともあって、それもバランスなんです。だから聴いていてうるさくない絶妙なところを、今は探っている感じですね」

――それで言うと今作のサウンド面での工夫点や実験してみたことが知りたくなります。

「とにかくシンプルに無駄なことをしない! ですかね。とにかく処理を重ねないこと!」

――今までデジタルで作ってきたことを考えると、それは怖くなかったですか?

「そうですね、それもあるけどデジタルを使わないと時間がかかって面倒ではありました。機材もアナログなものでそれが高価だし、使うのにも時間がかかる。今の商業音楽はもうそのスピードで動いていないんです。デジタルでパパパパって作って、納品、リリース! でもThe fin.はそういうプロジェクトにしたくなくて、アナログで丁寧に処理して仕上げることにこだわりました。それとさっきもお話しした距離感ですね。楽器と、音像と、サウンド。この楽器がどういうふうにどんな距離で鳴っていて、どれだけ音と音の間があくか。そういうことはすごく注力したところです」

――聞けば聞くほどチャレンジの多いアルバムだったのだなと思うのですが、この作品の完成で見えてきた次の景色はありますか。

「もっとやりたいな、と思いました。もっとできるな、とも思いました。本当に新しい始まりになるようなアルバムができたなと思っています。このアルバム、めちゃくちゃ今も聴くんですよ。今まで自分のアルバムは聴いてこなかったのに」

――聴かずにいたのはどうしてですか?

「恥ずかしいじゃないですか、自分の曲(笑)。あと、こうできたなぁとか思いたくなくて。でもこのアルバムは初めて自分でも聴いて楽しめています。大声で歌ったりして」

――どの曲がお気に入りですか。

「全部好きだけど、大事な曲と言われたら「HOME」ですね」

――「HOME」ラストの一つ前の曲ですけど、この曲が最後でもすごくいいなぁと思って聴いています。

「あ、実は「HOME」が最後になるはずだったんです。でも "次に行きたい"思いが強くなって、「Wonder Why」っていう好奇心が弾けていくようなイメージの曲を最後に持っていきました。ピュアな好奇心やここに立ち戻るみたいな意味を込めてこの曲で終わりたいなって」

――終わりの曲であり、The fin.のネクストステージを示唆するイメージが広がる曲ですよね。そして冬の終わりにはツアーが予定されていますね。

「今年から同期をせずみんなで好き勝手に音を鳴らすライブにシフトしているんですが、長くやってきたメンバーたちなのでお互い信頼して音を出せています。だからこそ今、自由なライブをお見せできるかなと思っています。この音をいろんな国のいろんなファンのところへ持っていくことが楽しみです。いろんなことにワクワクしながら感度を高く、次の1年も進んでいきたいですね」

取材・文:桃井麻依子




(2026年1月 8日更新)


Check

Release

4th Album『Somewhere Between』
配信中
HIP LAND MUSIC

《収録曲》
01. Swans
02. Midair
03. Nebula
04. Somewhere Between
05. Towards the Sun
06. Echoes
07. Thirst of Life
08. Spiral
09. Alone in the Sky
10. Home
11. Wonder Why

Profile

ザ・フィン…2012 年兵庫県神戸市にて結成。現在は Yuto Uchino(Vo&Gt&Syn)、Kaoru Nakazawa(Ba)の2名に、サポートメンバーを迎えて国内外で活動している。Yuto Uchino がバンドの音楽を作り上げ、ソングライティングからレコーディング、ミックス、プロデュースまでを手がける。シルキーで滑らかな記名性のある美声に、独特の浮遊感とメロウなサウンドが溶け合う幻想的で夢見心地なムードが魅力だ。これまでにイギリスやアメリカ、 ヨーロッパ、 アジアでもライブを行い、 国内外の大型音楽フェスティバルにも出演。 特に 2023年に行った中国ツアーでは25都市以上をまわり、ワンマンショーで合計 2 万人以上のオーディエンスを魅了した。これまでに Yuto Uchino がレコーディング・ミックス、 プロデュースを行った1st アルバム『Days With Uncertainty』(2014)や、共同プロデューサーに Bradley Spence(Jamiroquai, Radiohead, alt-J)を迎えた2ndアルバム『There』(2018)、Bradley Spenceに加えて Jake Miller(Bjork, Arca)を共同プロデューサーに迎えた EP『Wash Away』(2019)、全編 Yuto Uchino がレコーディング・ミックス、プロデュースを手がけた3rdアルバム『Outer Ego』(2021)をリリースしている。

The fin. オフィシャルサイト
https://www.thefin.jp/top.html

オフィシャルX
https://x.com/_thefin

オフィシャルInstagram
https://www.instagram.com/the_fin/


Live

“Somewhere Between” Japan Tour

【東京公演】
▼3月19日(木) 恵比寿LIQUIDROOM

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード:314-339
▼3月22日(日) 18:00
梅田Shangri-La
一般5000円 学割2500円(ドリンク代別途要)
※未就学児童のご入場はできません
※小学生は保護者同伴にて入場無料。当日、保険証など年齢確認ができる身分証明書を入場時にご提示ください
※学割チケットをご購入のお客様はご入場の際に学生証をご提示ください。ご提示いただけない場合は一般チケットとの差額を頂戴する可能性もございます
[問] GREENS ■06-6882-1224

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