ホーム > インタビュー&レポート > ソロ活動25周年記念作『繋 -TSUNAGU-』で構築された 伝統と現代が響き合う新たな音世界。 世界を舞台に活躍し続ける三味線プレイヤー
新しい感覚の下の世代と共演
いろんな刺激的なやり取りができた
――ソロ活動25周年おめでとうございます。これまでを振り返って、どんなことを実感されていますか。
「そうですね、よく言われるように過ぎればあっという間なんですけど、僕の中では三味線の活動としてやりたいことは割とエンジンフルでやってきたつもりではあるので。やっぱ濃い25年ではあったと思いますね。2000年ぐらいの頃は、いわゆる三味線の新しい形として、バンド編成とか打ち込みとか、そういうもので和楽器が洋楽(の方と)とタイで音楽を奏でることができるというところまで持っていきたいという思いが10代の頃からあったんです。それから、洋楽の方とバンド編成共演することも多くなってきて洋楽のコード進行でやることになり、西洋の音楽理論が主体となってきました。そういうことが続くと、自分としては音楽的にベーシックのものを「日本」にしたいなと思うようになりました。実際、そういうアプローチをいくつかのアルバムではやってきたんですけどね。それをより進化させて、日本をちゃんと主軸にしながら最小編成で、かつ世界で公演したとしても、モノマネじゃない、オリジナリティがある楽曲を作りたいなという思いが高まってきました」
――そういう思いが今回のニューアルバム『繋 -TSUNAGU-』にも反映されているように感じましたが、今作はどのようなコンセプトで制作されましたか。
「アルバムのコンセプト自体は、"日本と世界を繋ぐ"、"ジャンルを繋ぐ"、"世代を繋ぐ"というものをテーマにしています。それを踏まえて、ゲストの方の人選をさせてもらいました。"ジャンルを繋ぐ"ということでは、三味線とチェロの組み合わせで、クラシックの(チェロ奏者)宮田(大)くんと最小限の編成でどれだけできるかと、そういうものを提示できたらいいなと考えて作曲しました。"世代を繋ぐ"ということでは、(今作で)デュオでやってる和楽器の方は全員20代30代の方なんです。お箏のLEOくんもそうですし、三味線の浅野祥くんも約20歳ぐらい下なんですよね」
――それくらい下の世代の方とレコーディングされたことは、今まで無かったのですか。
「そうですね、今回初めて浅野くんのような世代の人と録音したんです。ソロで活動をしていると、同じ楽器でステージに上がるとか、作品を作ることはなかなかないので。自分も50歳を超えましたので、ある程度は浅野くんぐらいの世代の人たちとの交流を持った方がいいだろうなと思いましたし、そういう新しい感覚の人と共演することで、いろんな刺激を与えたり、いただいたりっていうやり取りもあるので」
――演奏面で意識したことは?
「三味線同士がやるとなると、従来のようなアタッキーでロックに近いような形が一般的には受ける可能性はあるんでしょうけども、そうじゃなくて、音楽として譜面にちゃんと音符を書いて、その書き符で音楽を作っていきました。ちゃんと譜面に起こすことができれば、50年、100年後でも演奏できる、再現できるので。そういう作品が、僕はまだ少なかったので、それもこれからどんどん増やしていきたいなと。民謡では譜面を起こすようになったんですけども、新しく革新的なことをやる場合は、なかなかそういうものがないので、自分がそれを作っていきたいなと。なので、津軽三味線の従来の即興的で勢いがある派手な感じのアプローチというより、ちゃんと音楽で昂揚していくというものを作っていきたいなと思いました」
産みの苦しみを経て『繋 -TSUNAGU-』が完成
――制作自体は順調でしたか。
「実はすごいギリギリでレコーディングして、マスタリングして、ギリギリで完成しました(苦笑)。なかなか曲が書けなくて...」
――そうだったんですね。
「話すと長くなりますが、子供の時に夢としてやりたかったことは、もうほとんど実現してきたんです。三味線弾きとしては、自分の思うように動いてきました。例えば海外で公演をするとか、CDを出すとか、いろんな日本国内のジャンルの人と共演するっていうことも実現してきました。そうやって夢が叶っていくと、次は何をやるんだ...?ってずっと彷徨ってる感じなんですよね。別に今まで通りのことは作れるけども、そうじゃない新しい曲がなかなか作れなかったんです。もう一歩ステップが上がった作品を作ろうと思った時には、やっぱり産みの苦しみというのがあるんですよね。僕の年齢的にも、三味線業界的にも次の世代にどう繋げていけばいいのか、そういうことを考慮して作業をしていかなければいけない立場なんだろうなって...」
――三味線の可能性を追求してここまで歩んでこられた上妻さんだからこそですね。
「僕の場合は前例が無い中でやってきたので、どういう作品を作っていくか、本当に暗中模索でした。そうやって自分で道なき道を開拓してきて、どうすべきか自分の判断によっては評価が分かれるという瀬戸際をずっと歩いてるんで。そのへんの難しさがあって、ようやくその苦しみから出てきた自分のメロディーっていうのが、今回の『繋 -TSUNAGU-』の曲になってるのかなと思いますね」
――今回のアルバムが生まれるまでには想像を絶する苦しみがあったのですね。
「もう鬱になるぐらいでした(苦笑)。だから、なかなかできなかったんですけど、ようやく光が見えてきて、完成することができました」
――収録曲についてお聞きします。『越天楽弦奏曲』(M-1)はどのようなアイデアから生まれた曲ですか。
「『越天楽弦奏曲』は昔の雅楽の曲なんですけど、やっぱりいいメロディーってのはどうアレンジしたとしてもパワーがあるので、日本で今も受け継がれてきている音楽の良いメロディーをもっと皆さんにも知ってもらいたいなっていう思いもあって。お箏と三味線で『越天楽』をやるとしたらイメージしやすい優美な形に収まると思うんですけど、あえてそうじゃないロック的な激しい感じの変拍子でやってるという面白さがこの『越天楽弦奏曲』にもあると思うので、そういう原曲とは違うところを楽しんでいただけたらなと思います」
――『NIPPON』(M-3)は和太鼓との共演ですね。
「『NIPPON』に参加していただいている林英哲さんは今の和太鼓のセットとか、太鼓に向かって打つスタイルを確立した第一人者です。『NIPPON』もぜんぶ書き譜で太鼓のフレーズは僕が9割程度指定したので、僕のような太鼓打ちじゃない人間が作ったことによって、また違う太鼓の面白さがあるかなと思いますね」
――韓国の作曲家のチョン・ジェイルさんと共作されている『YUGEN』(M-4)はすごく間を大切にした曲ですよね。勢いよく弦を鳴らさずに、ゆったりと演奏していて、その音の中に幽玄を感じました。
「美しい曲ですよね。(チョン・)ジェイルさんは日本にも何回も来ていて、日本の文化がものすごく好きなんですよ。この曲は凄くシンプルで、日本的で、かつアンサンブルにはハーモニーが欲しいなと伝えました。僕からもいくつかメロディーを書いていて、共作になっていますが、そのほとんどはジェイルさんの世界観です。彼が三味線の専門家ではないからこその面白さっていうのがあるし、ジェイルさんは本当に素晴らしいですね」
――『NIKATA』(M-6)は上妻さんの三味線と宮田大さんのチェロの二重奏がすごく斬新です。
「この曲は秋田県の民謡を主題にしていて、そこにバロック調の旋律っていうものが欲しいなと思ったので、中間部分はそれを組み合わせた構成になっています。民謡からクラシックのほうに行って、また最後に一緒になって盛り上がっていくというイメージの構成です」
――タイトルの『NIKATA』の意味は?
「これは諸説あるんですけど、秋田のほうで荷を運ぶ方の歌だったという『荷方節』というのがあって、そこから『NIKATA』にしました」
――『三味男-SHAANME-』(M-7)の読み方は、"しゃみお"ではなく、"しゃんめ"?
「僕は茨城県の出身なんで、"SHAANME(しゃあんめぇ)"というのは方言で、"しょうがないな"っていう意味なんです。このふたり(上妻宏光と浅野祥)だから、しょうがないよね、このぐらい弾けて(笑)、っていうような(笑)。これはもうジャズというか。もともとの津軽三味線の即興性の特徴をいかして、掛け合いのバトルでやったという単純な構成の曲なんですけど」
――そういう即興性が活かせるという点では、すごくライブ向きの1曲ですね。
「そうですね。それ以外で浅野くんとやってるのは書き譜で、ぜんぶ譜面に起こされているので。譜面通りに間違わないようにちゃんと弾くというきちっとした曲なんですけど、『三味男-SHAANME-』はもうほんとにノリというか、各々の三味線の技と技のぶつかり合いというか、そういう音の会話でどんどん、どんどん昂揚していくという。ただライブ的には毎回違うフレーズになるので盛り上がりますよね。三味線二丁でやる場合、同じ調律でキーを合わせて演奏するのが大概なんですが、今回、浅野くんとやった『螺旋』(M-2)は、あえてキーを変えて、ハーモニーになるように作っています。
ギターと違って、キーを変えるのは和楽器って難しいんですけど、そういう転調して曲の途中でキーを変えるという手法が『螺旋』には入ってるので、三味線弾きが聴いたら、あっという驚きが結構いくつもあるんじゃないかなと思いますね」
――そして、アルバムの最後は『津軽じょんから節』(M-8)で、めちゃくちゃ締まります。
「やっぱりそこも、昔から今に繋ぐということでいうと、旧節という一番古いタイプから新しい新節というものに途中から切り替えて演奏してるので、そこも今作のテーマである"繋ぐ"という意味合いも込めています」
――年を跨いで開催される今回のツアー『生一丁!』は、25周年ということで、演奏曲目も幅広く演奏されますか。
「古典の曲もこれまでとは違った感じで、旧節とか昔のものも取り入れながら、五大民謡もまた違った形で聴いてもらうように特別感を出したプログラムを組んでいます。『生一丁!』は生の音で、三味線一丁で聴いていただくことがメインなので、生の三味線の良さと今回のアルバムに収録した、たぶん皆さんが思い描いている津軽三味線とは違う新しい世界を楽しんでもらえると思うので、ぜひ会場に来ていただければと思います」
Text by エイミー野中
(2026年1月26日更新)
上妻宏光(アガツマヒロミツ)…1973年茨城県出身。幼少の頃より数々の津軽三味線大会で優勝する等、純邦楽界で高い評価を得る。 その後、ジャズやロック等ジャンルを超えたセッションで注目を集め、2000年にソロデビュー。 1stアルバムと6thアルバムで「日本ゴールドディスク大賞 純邦楽アルバム・オブ・ザ・イヤー」を受賞する。 NHK 大河ドラマ「風林火山」(作曲:千住明)紀行テーマの演奏や 舞台、映画、ドラマ他、様々なシーンへの楽曲提供も行う。 また、USA、EU、アフリカ等、世界35ヵ国以上で公演を行い、 ハービー・ハンコック、マーカス・ミラー等との共演も果たすなど今までの三味線の概念にとらわれない多方面での活動を重ねる。2013年、内閣総理大臣主催の「TOKYO2020公式夕食会」、 「第5回アフリカ開発会議 公式首脳晩餐会」において、日本を代表して演奏を披露。 翌年、歌舞伎の本公演(主演:市川海老蔵)にて津軽三味線奏者として初めて 舞台への参加と楽曲提供も行った。 2016年には唯一の愛弟子である志村けんと「キリン 氷結®」のTVCMにて共演。 近年ではカザフスタンでの「アスタナ万博」にて日本公式催事として 上妻宏光プロデュース公演を行い、中国では単独公演の実施や大型フェスへの出演、 矢野顕子とのユニット「やのとあがつま」を結成しアルバムを発表するなど、その活動は次世代への文化伝承と津軽三味線の"伝統と革新"を追求し続ける開拓の第一人者と言える存在である。2025年にはソロデビュー25周年を迎える。11月26日、ニューアルバム『繋 -TSUNAGU-』リリース。
【埼玉公演】
▼2月1日(日) 所沢市民文化センター ミューズ マーキーホール
[ゲスト]浅野祥(三味線)
【静岡公演】
▼2月7日(土) 袋井市月見の里学遊館 うさぎホール
[ゲスト]浅野祥(三味線)
【沖縄公演】
▼2月21日(土) 国立劇場おきなわ 大劇場
[ゲスト]古典企画
【富山公演】
▼2月28日(土) 黒部市芸術創造センター セレネ 大ホール
[ゲスト]浅野祥(三味線)
【東京公演】
▼3月3日(火) 東京文化会館 小ホール
[出演]浅野祥(三味線)/JUNG JAEIL
【茨城公演】
▼3月8日(日) 日立シビックセンター 音楽ホール
[ゲスト]浅野祥(三味線)
【愛知公演】
▼3月15日(日) 名古屋能楽堂
[ゲスト]浅野祥(三味線)
▼3月28日(土) 14:00
東大阪市文化創造館 ジャトーハーモニー 小ホール
全席指定-6000円
[ゲスト]浅野祥
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888