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「オルタナティブと表現できる演奏をしたい」
ポストロックや実験的な要素を現代的に昇華
ポップかつエッジが効いた台北出身のアーティスト
Easy Shen インタビュー

10月に開催された「FM802 MINAMI WHEEL 2025」では今年で3年目となるプロジェクト『ASIAN WAVES』でアジアの8つのエリアから9組が来日。多種多様なパフォーマンスで魅了した。その中のひとりが、台湾ではプロデューサー/エンジニアなど多才に活躍しているEasy Shen。今回、ミナホ2日目のCONPASSに登場し、自身が奏でるベースと歌だけで独創的なステージを繰り広げた。ぴあ関西版WEBではそのライブ直後にインタビューを敢行。中性的で美しい高音ボイスとポストロック的なサウンドが合わさるアジアン・オルタナティブな楽曲はどのように生み出されているのか。ライブで表現したいこと、気になる創作活動の背景について、自身の体験を交えてリアルに語ってくれた。

楽器の音には強いメッセージが、
トラックには感情があるから、
ボーカルはあえて人間離れした声で歌う


――CONPASSでのライブ、お疲れ様でした。音源とはまた異なるソロパフォーマンスにとても惹きつけられました。イージー・シェンさんがベースで弾き語りをしようと思ったきっかけは?

「元々はギターで弾き語りをやってたんですけど、他の人とセッションする時にギターを弾いてる人が多いので、僕はベースを弾いて、誰かギターの人を迎えてセッションしようと思ったんです。その結果、ずっとベースを弾くようになって、こういうパフォーマンスにたどり着きました」

――演奏で工夫しているのはどういった点ですか。

「1人で演奏しているので、ステージにギターとベースのアンプを置いて、最初に弾くリフはルーパーからギターアンプで出して、その後にベースで弾く音はベースアンプから出しています。ギターの弾き語りだと、ギターに自分の声が乗る形になるんですけど、それでは音域が近くてぶつかってしまうんです。その点、ベースだと自分が歌ってる声とベースの音がしっかり分かれて聞こえるので、こういうスタイルがいいかなと思ってやっています」

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――そのベースの低音とイージー・シェンさんのファルセットのような高い声のコントラストがすごく美しくて。ベースが奏でる音像は水墨画のようだと感じました。

「とても美しい表現をしていただいてありがとうございます」

――ボーカルで意識していることはありますか。

「僕が歌うときは、どちらかというと人間離れしたような、人間のように聞こえない声で歌いたくて、今の形になりました」

――なぜ人間離れした声にしようと?

「そもそも今演奏してる楽器の音にはとても強いメッセージがあると思っていて。それとぶつからないようにしたくて。トラックには感情があるので、そこに僕のボーカルが乗ることで、"このボーカルちょっと歌いすぎだな"って思われたくないから。あんまり感情を出しすぎないようにしようと思って歌っているうちに今のような歌い方になりました」

――ちょっとエクスペリメンタルな要素も感じましたが、どんなジャンルを意識していますか。

「自分の音楽はオルタナティブと表現できるような演奏方法をしたいと思っています」

――ポストロックのTortoiseとか、Mogwaiといったアーティストを思い出しました。

「もちろん大好きでよく聴いていました。僕が学生時代に日本の軽音楽部のようなところでバンドを組んでる時はそういった音楽をカバーしてました」

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もう少し長く日本で過ごして、
作曲したりしてみたいなと思っている。

――1曲目の『蓮』という曲は、MCでお母様の話と言っていましたが、どんなことを歌われているのですか。

「タイトルの『蓮』というのは母のニックネームなんです。僕はシングルの家庭で育ちました。父は家を出ていったのですが、母に対してちょっと暴力的なところがありました。そういうこと(家庭の事情)を自分が直接的に表現するのではなくタイトルを母の名前にして、母の目線で歌っています。人は誰かに傷つけられて成長する部分はありますけど、過度に傷つけられて壊れてしまってはいけません。傷つけることなく、シンプルに私を愛してほしいのに、なぜそうしないんだというようなことを歌っています。それと、タイトルの"蓮"には"蘇る"という意味もあるので、それも重ねています。あの曲が入っているアルバム『惡人』には僕が母から受けた体験を書いた曲もあります。母は言葉がキツかった時期があって、当時言われたことを今でも思い出すことがあります。今は良好な関係なんですけどね」

――そんなご自身の辛い体験があの曲に昇華されているのですね。

「僕だけが特別辛い体験をしているとは思ってないんですけどね。台湾のコミュニケーションはストレートなので、日本人より言葉も強かったりするところはあるかもしれません。それに、街中で男の子と女の子がデートしてる時に、女の子が一生懸命喋ってるのに、男の子はスマホをいじったりしてるし、女の子に失礼なことを言ったりする場面も見たりします。たとえ悪意を持っていなくても、誰かを傷つけてしまったりすることは、ある意味一般的で、きっと誰もがなんらかの体験をしているのかなって思うようになってきました」

――『顔色』の時に、「みなさん一緒に曲を完成させましょう」と声をかけて、スマホでいろんな音を再生してもらっていましたね。ああいったパフォーマンスは普段からやっているのですか。

「あの曲を演奏する時はいつもお客さんに何らかの形で参加してもらっています。例えば台湾でライブをした時は、お客さんにオオカミみたいな遠吠えをしてもらったこともあります。そこはライブ毎に変えたりしてます」

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――今回はなぜスマホからいろんな音を出してもらおうと思ったのですか。

「MCでも話していたように、街中にはいろんな音が溢れています。みんながスマホでいろんな動画見たり、音楽を聴いたりしていて、自分の母も家の中で携帯で動画を見ているんですが、ちょっと耳が悪くて大きな音を出しています。今の世の中はスマホからいろんな情報が入ってきます。そういう状態をライブで表現してみたかったんです」

――なるほど。ちょっとコンセプチュアル・アートやインスタレーションのようで興味深いパフォーマンスでした。

「ライブでみんなに参加してもらって、家に帰った時にあの曲のことを思い出して、"そういえば世の中にはいろんな音や情報が溢れているな"って考えてくれたらいいなと思います。僕自身が言いたいことや表現したいことはいろいろありますが、今回はああいった形で表現してみました」

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――今後はどのように活動していきたいと考えていますか。

「僕は41歳ですが、今の自分が歌えることを歌って音楽活動をしていきたいと思ってます。今まで、1年に1回くらいは日本に来ているんですけども、実は、もう少し長く日本で過ごして作曲したりしてみたいなと考えています。その時はたぶん東京に住むことになると思います」

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――そうなんですね。今後もどんな楽曲を聴かせてくれるのか楽しみにしています。ありがとうございました。

Text by エイミー野中
写真提供:FM802、撮影:浜村晴奈




【LIVE REPORT】
2025.10.12. Sun. at CONPASS

CONPASSでのライブは二度目という台北出身のEASY SHEN。「聴いてるといろんな風景が目に浮かぶような素敵な音楽です」(FM 802 DJ 土井コマキ)と紹介されて登場すると、自身のベースとボーカルのみという超シンプルなセットでパフォーマンスを展開。MCは基本的に日本語で、「母の話です」と言って歌った一曲目の『蓮』からファルセットのような歌声が美しく響き渡る。その高い声とベースのコントラストが鮮烈な印象を与え、ルーパーで重ねたベースの太く力強いサウンドでエモーショナルに揺さぶっていく。
中盤、「次の曲はみんなで一緒に完成させたいです。曲の後半で私が合図したら、YouTubeや動画のアプリなんでもいいので音量をマックスにしていろんな音を出してください」と伝えて『顔色』へ。音が溢れている現代の景色を曲の中で表現するようなインスタレーション的なパフォーマンスだ。『Leap of Faith』ではベースをノイジーに反響させるセクションから、最後はアカペラに移行し儚げで幻想的な声色に。続く『類地行星練習曲』はキャッチーなベースのリフが親しみやすいポップさを感じさせる曲調。フロアの観客もゆるく体を揺らして聴いていた。
ラストは、「私の心の中の一番大切な人のことを思いながら完成させた」という『山海經』、英語では『Best thing ever』。テンポアップすると、ベース音が厚みを増してラウドな展開となり、轟音の渦が増幅していく激しいプレイに圧倒される。アウトロ前に、この日のステージを支えてくれたスタッフ一人一人の名前を呼んで感謝の気持ちを丁寧に伝え、ライブを終えるとフロアから大きな拍手が送られた。アジアの文化に通じるオルタナティブな世界観。そのベースを主体とした音像は水墨画を想起させるような芸術性があり、終演後もしばし深い余韻に包まれた。

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Text by エイミー野中
写真提供:FM802、撮影:浜村晴奈

(2025年11月20日更新)


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Profile

イージー・シェン…台湾の音楽シーンで多才に活躍するミュージシャン。自身の受賞歴を持つ4枚のアルバムに加え、プロデューサーとして淺堤 (shallow levée)、老王樂隊 (Your Woman Sleep with Others)、南方壞男孩 (South Bad Boy)、柔米 (Zoomie) などを手掛けている。また、ボーカルプロデューサーとして河豚子 (Fuguko)、非人物種 (Inhuman)、雷擎 (l8ching) と共に活動。ミキシングエンジニアとしても、逃走鮑伯 (Bob is Tired)、黃子軒 (Zixuan)、孩子王樂隊 (Kid King)、balazwolf、OHAN、滅火器 (Fire EX) のSam Youngなど、数多くのアーティストを担当。現在は1976のゲストミュージシャン (キーボード/シンセ) として活動するほか、孩子王樂隊 (Kid King) のプロデューサー、さらに鄭雙雙、康士坦的變化球、1976の作品にミキシングエンジニアとして参加している。


「FM802 MINAMI WHEEL 2025 ASIAN WAVES」

[11日(土)出演]
●DiAN from Beijing
●LOR from Yogyakarta

[12日(日)出演]
●EASY SHEN from Taipei
●고고학 GOGOHAWK from Seoul

[13日(月・祝)出演]
●Ardhito Pramono from Jakarta
●Everydaze from Taipei
●ゲシュタルト乙女 from Tainan
●Nunegashi from Busan
●Oh! Dirty Fingers from Shanghai

MINAMI WHEEL HP
https://minamiwheel.jp/


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