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「出会い」が紡ぐ珠玉のシャンソン13曲
クミコが神戸で魅せる25年の歩み

70歳のアニバーサリーを迎えるクミコの記念ベストアルバム『シャンソンティックな歌たち~「出逢い」が歌を運んだ~』。本作は、阿川佐和子とのデュエット曲や、代表曲『INORI~祈り~』の新録音を含む13曲を収録、長年の出会いと経験を歌に昇華している。10月12日(日)に神戸朝日ホールで行われる秋恒例のコンサートを前に、作詞家・松本隆氏との出会いやシャンソンへの思い、平和への強い願いなど、クミコが歩んできた再デビューから25年の軌跡と、歌手としての哲学を聞いた。

――70歳のアニバーサリー、そして"クミコ"として再デビューしてから25周年を記念して6月にリリースされたベストアルバム『シャンソンティックな歌たち~「出逢い」が歌を運んだ~ 』。アルバムのテーマは「出会い」だそうですね。

作詞家の松本隆さんと出会ってちょうど25年でもありますが、私は本当に多くのひとに出会って、助けられ、今日があるなといつも思っています。今回はそんな「出会い」をテーマに、そこから生まれてきた曲たちを集めてこのアルバムを作りました。出会いへの思いをすべてこめて。

――松本隆さんとの出会いで、印象的なエピソードはありますか?

松本さんのおかげで、しっかり歌を歌っていく、ということを決意できました。それまでは、どこまでもアマチュアだった気がします。松本さんという常に一線で活躍されている方と出会い、お話をすることで、自分のアマチュア度を改めて認識させられました。例えばそれまで私は「売れる、売れない」というようなことをあまり考えたことがなかったんです。でもある時、松本さんが「クミコさん、人は売れようと思わないと売れないんだよ」と一言おっしゃって。そうか、それはそうかも、と思いつつ、正直なところ今まで「売れる、売れない」なんてこと自体、考えたことがなかった。自分の身に降りかかるような問題として思ってもみなかったんです。でもそれは、自分に関わってくださっている皆さんに申し訳ないことなんじゃないかと、その時初めて本気で思ったんです。松本さんにそう気づかせてもらったことで、これまで関わって下さった人たちに失礼なことをしていた、と反省もしました。

――それ以来、歌への向き合い方や姿勢に変化があったのでしょうか?

一番意識するようになったのは、歌を届ける相手について考えるようになったことでしょうか。それまでは、「自分が歌いたいものを歌う、そうすることが自分らしい」って、届け先のことまで考えることはあまりなかったのですが、歌の届け先、届ける相手が重要、ということを意識するようになりました。それがこの25年の間で一番学んだことかもしれません。

――それまでは歌いたいから歌うと。

若かったこともありますし、自分の気持ちが一番、じゃないですけど、自分のやりたいこと、歌いたいものが優先、みたいなところがあったと思います。でも、そうじゃないよねって。

――届ける人を意識することで、お客様とのコミュニケーションにも変化はありましたか?

はい。ちょっと抽象的な言い方になりますが、昔は「皆さんを愛していますよ」みたいな気持ちを、オープンにしたり表現できないタイプだったんです。でも、今は、「とにかくみんなで一緒に生きていきましょう」という気持ちで歌っています。私には歌という手段しかないけれど、その手段のおかげで皆さんとつながることができる。共に生き、この時代の波を一緒に越えていきましょう、と。本来はこういうところに表現者としての原点があると思いますが、私はちょっと遠回りをして今やっとその原点に立っている、という感じでしょうか。我ながら遅いなぁと思ったりしますが。

――差し支えなければ、「愛していますよ」という気持ちをオープンにしたり表現しにくかった理由を教えていただけますか?

若い頃は、みんなと一緒に...という気持ちにはすんなりなれなくて。自分のやりたいこと、やっていることはどうして理解されないのか、とか、自分は他の人とは違っていたいし、きっと違うはず、という期待や希望、特別感を持ちたかったのかもしれません。なので、みんなと共に、とは当時思いにくかったんでしょうね。でもそんな風に特別だと思いたかった自分は、さほどの者ではなく何者でもなかった。そのことを分かっていくための25年だったような気がします。

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――何者でもないと思うことで、逆に何かプラスの効果はありましたか?

何者でもないと分かると、変な気負いもなくなるし、じゃあ皆さんに分かってもらえるような歌、共感を得られる歌は何だろうと、そんなふうに考え方が変わっていきました。人に学ぶことが増えて、ものすごく謙虚になった気がしますね。犬でも猫でもお腹を見せて転がっちゃうとか、一番、無抵抗な姿勢だけど、そこで開けることもありますよね。人もそういうところがあると思って。大した者じゃないんだから、お腹を見せてひっくり返っちゃう気持ちを持つと、開けるものがある。世の中、そんなに悪いもんじゃないという気はしています。

――そういう気持ちの変化があると、いい出会いが連鎖的に起こることもあるのでは?

例えば今回のアルバムでも『無口なお月さま』という曲で阿川佐和子さんとデュエットさせていただいたのですが、お互いすごくフラットにお話できるのも、阿川さんご自身がそういう人、ということもありますし、私がそうなりたい、そうありたいと思ったからでもあって。お互いに腹を見せ合う、じゃないですけど、そうすることで関係も作品も広がる感じはありましたね。

――また12月には東京で平野レミさんとコンサートをなさいます。

レミさんは「銀巴里」時代の先輩なのですが、時を経てもう一度改めてお付き合いさせていただいている、という感じですね。

――昔のご縁がまたここに来て、というのもひとつの出会いですね。

レミさんは和田誠さんという大切な方を亡くされて。何か一緒にすることで少しでもレミさんの心を埋めることが出来るのでは...と考えたのですが、それにはやはり歌しかないと思い、お声がけさせていただきました。昔の自分だったら、そういうことは絶対できなかったはずですが、今は、どれだけ辛いだろう、と考える余裕を自然と持てるようにもなりました。長く生きているといろいろありますよね。辛い、悲しいという思いや、逆に嬉しい、という気持ちなんかも分かち合い、一緒に生きていていくことは、すごく大切なことだと今は強く思います。

――自分が心を開いていれば、手を差し伸べてくれる人も現れるし、自分自身も手を差し伸べられるということですよね。アルバムに収録された楽曲は、平和を歌った曲も多くて、歌い継ぐという意味もあると思いますが、クミコさんご自身が平和を願う気持ちを強く表していらっしゃいますよね。

もともと関心はありましたが、15年前に『INORI~祈り~』を歌ったことが大きかったですね。それから被爆者の方々にお会いする機会や関わりを持つことも増えました。でも、15年経った今の方がその時よりもっと危険な世の中になっていて、世界がますます混沌としているということのショックが大きくて。平和への思いを伝えてきたつもりでいましたが、意味がないことをしていたような、そんな気持ちになってしまって。平和や愛を第一義に心に持ってやるべき職業で、そしてそれをやってきたつもりだったのに、世界は全然良くならないし、日本も全く良くならない。そう思って絶望に襲われることがすごく増えました。だからこそ「希望を持たなきゃいけないよ」と自分に言い聞かせている毎日、みたいなところもあって。特にウクライナの開戦あたりから、本当に叩きのめされたというくらい、がっくりきちゃったんですよね。こういうことは起き続けるんだ、歴史はこうやって繰り返していくのか... と思って。絶望ですよね。だからといって、手をこまねいているだけでいいのかというと、そんなわけはない。でも自分にやれることは歌しかない、となると、愛の歌をできるだけたくさん歌うしかない。その中で、一人でも多くの人に愛や平和への思いを共感していただければ。そうして切れ切れになりそうな希望を歌でつなぎ合わせていく、そんな気持ちはありますね。

――希望は捨てられない。

本当に。世界レベルではなく身近なところで起こることでも、一方的に相手を拒否せずちゃんと向き合って話したい、本当にそう思います。全く考え方の違う人たちの話も聞きたい。怒鳴り合ったりするのではなく、対話をする。そういう根本的なことをしっかりやっていかないと、また同じ間違いが起きてしまう気がします。

――意見が違っていても、お互いが分かりあうというのはすごく大事ですよね。それが平和への一歩と思います。では、10月12日(日)に神戸朝日ホールで開催される『コンサート2025 わが麗しき歌物語VOL.8 ~人生は美しい、シャンソンティックな歌たち~』についてお聞きしたいのですが、どのようなプログラムをお考えでしょうか?

具体的なことはこれからですが、東京のコンサートで歌わなかった曲も少し歌えれば、と思っています。新しいアルバムの収録曲はほとんど歌う予定です。

――コンサートで歌われる際、こういう表現がクミコさんらしいと思える部分はどこでしょうか?

一番は、まず何より言葉を伝えたいと思っているところでしょうか。歌う時の言葉の乗せ方というのは、ある種の技術なのですが、そのおかげですごく助けられていると感じます。楽曲の持つ世界観や歌詞を、音に流さず言葉として乗せていくという技術は、シャンソンを歌う上でとても役立っていて。文章で伝えるならカッコをつける、といいますか。あとそれ以外のことで言えば、人って日々変わっていくものじゃないですか。なので自分の歌も、毎回新しい歌にしていきたいと思っています。昨日までの自分の歌をなぞるだけにならないように。常にその日の生きた歌を歌っていきたいですね。

――ずっと歌ってらっしゃる楽曲でも、今でも新たな発見や手応えはありますか?

ありますね。たとえば『愛の讃歌』は長く歌っていますが、最近になってやっと本当の意味で歌えるようになった気がしています。歌いはじめの頃はすごく難しくて。『愛の讃歌』は、言葉そのものは簡単なんですよね。物語がほとんどない。だからこそ若い頃は手に負えませんでした。歌の表現として出せるほどのものを自分の中に満たせてはいなかった。でもいろんな経験をして、様々な気持ちを知る、あるいは失うものがあったりすると、だんだんと自分の中に満ちていくものがある。満ちていくものがあると、簡単な言葉にも説得力が出る。そういう意味で言うと、シャンソンは年を重ねるにつれ、より説得力が増す歌なんですよね。なんていい音楽なんだろうと。若いことが一番いいことのように思える世界で、そうではないと。年を重ねることはなんて素晴らしい財産なんだろう、と思えるジャンルがシャンソン。そんなシャンソンに軸足を置いてきたことは、ラッキーだったなと思います。汲めども尽きぬ歌。どの歌も、年齢とともに変わっていくのが本当によくて。ピークが若い時にあると、あとは余生になっちゃいますもんね。そうじゃなくて、衰えることさえも武器にできる音楽をやっていられることは、とても幸せだなと。

――いつまでも歌っていられますね。

そうですね。心さえしっかりしていれば、ヨレヨレでも歌えそうな気がして。そう思えるのも嬉しいです。

――ちなみに、最初に歌った歌は覚えていらっしゃいますか?

私が子供の頃はちょうど、アメリカから来た歌を日本語で歌う時代だったんです。世の中希望だらけみたいな感じで、活きのいい歌が多かったように思います。それこそ中尾ミエさんの『可愛いベイビー』あたりが最初に歌った歌かもしれないですね。ただ、うちの母もそうでしたが、人前で流行歌を歌うことを嫌う時代でもあって。特に子供が流行歌を大声で歌うことをすごく嫌がりました。伊東ゆかりさんの『小指の想い出』をみんなで大声で歌いながら下校したりして。歌詞の意味なんて誰も分からず歌っていましたけど((笑))。

――歌は聞くのも楽しいですし、歌うのもいいですよね。歌うと元気が出ます。

歌は心臓に負荷をかけないし、関節も痛くならない。呼吸が深くなるし、新陳代謝も良くなる。発散もできますしね。ぜひ皆さんにももっと歌を歌っていただきたいです。

Text by 岩本




(2025年10月 8日更新)


Check

Release

Album『シャンソンティックな歌たち ~「出逢い」が歌を運んだ~』
発売中 3500円(税込)
コロムビアレコード
COCP-42504

01. 人生は美しい C'est beau la vie
02. 群衆 La foule
03. 愛の讃歌 Hymne à l'amour
04. INORI ~祈り~
05. 一本の鉛筆
06. 僕は唱歌が下手でした(故郷入り)
07. 接吻
08. しゃくり泣き
09. Woman “Wの悲劇”より
10. 無口なお月さま (クミコ 阿川佐和子)
11. 車輪 (クミコ 井上芳雄)
12. うまれてきてくれて ありがとう
13. 広い河の岸辺~The Water Is Wide~
14. 人生は美しい C'est beau la vie (Instrumental)
15. INORI ~祈り~ (Instrumental)
16. Woman “Wの悲劇”より (Instrumental)
17. 無口なお月さま (Instrumental)

Live

わが麗しき歌物語VOL.8 ~人生は美しい、シャンソンティックな歌たち~

Pick Up!!

【兵庫公演】

チケット発売中 Pコード:293-922
▼10月12日(日) 15:30
神戸朝日ホール
全席指定-8800円 見切れ席-8800円(端寄りのお席の為、一部みづらいお席となります)
※未就学児童は入場不可。公演中止等、主催者がやむを得ないと判断する場合以外の払い戻しはいたしません。
※見切れ席は端寄りのお席の為、一部みづらいお席となります。予めご了承ください。1人1枚まで。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888

【愛知公演】
▼11月1日(土) Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール


人生は美しい、シャンソンティックな歌たちand friends:竹島宏/ドリアン・ロロブリジーダ
▼11月26日(水) カナモトホール

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