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あるがままを貫くバンドの魂
TENDOUJIとベランダの現在地を語る

TENDOUJIとHOLIDAY! RECORDSが2025年9月6日(土)・7日(日)にライブイベント『Salad Days TENDOUJI & HOLIDAY! RECORDS presents』を南堀江・SOCORE FACTORYで開催する。過去2回、座談会、ナードマグネット・須田亮太との対談をすることで、TENDOUJIの現在地を浮き彫りにしてきた。今回はTENDOUJI・モリタナオヒコとベランダ・髙島颯心の対談をお送りする。お互いの音楽性にリスペクトを抱きながらも、それぞれのペースで歩みを重ねてきた二人。音楽と生活の間で揺れるリアルな心情や、創作への飽くなき欲求、そして未来へのささやかな野心を語り合ってくれた。

憧れと現実の間で続けるTENDOUJIとベランダ



――HOLIDAY! RECORDSの植野秀章さんから「モリタさんはベランダのことがすごく好き」という話を聞いたのが今回の対談のきっかけでした。それに座談会のときにも、モリタさんが「エニウェア」を聴いたら毎回同じところで涙が出る、という話をされていたのも印象に残っていて。そもそも初対面はいつごろだったか覚えていますか?

髙島颯心(以下、髙島):多分ですけど、大阪のNOON + CAFEでやったMONO NO AWAREのレコ発です。TENDOUJIとベランダ、バレーボウイズ、MONO NO AWARE、あとCrispy Camera Clubが出演していたイベントで、それが最初だったと思います。

モリタナオヒコ(以下、モリタ):あのときって、俺らも出ていたっけ?バレーボウイズとベランダの印象しかないんだよね。

髙島:あの日、ひどかったっすからね。ベロンベロンで(笑)。TENDOUJIとか関係なく、全員が酔っぱらっていた。

モリタ:そうそう。ライブを見た記憶はあるけど、自分の出番のことは全然覚えてない(笑)。俺の中でバレーボウイズやベランダはめちゃくちゃ聴いてて、「普通に好きなバンドを見に行く」って感覚でしたね。

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ーーモリタさん、京都のバンドが好きだったんですね。

モリタ:めちゃくちゃ好きでしたし、憧れではありました。明らかに才能が爆発しているっていうか、「うわ、すごいシーン起きているな!」って東京側から見て思っていました。なんか言葉で説明しづらいんだけど、ちょっと「夏っぽい」っていうか、独特な空気感があって。東京や大阪とも違うし、神戸ともまた違う。ギターの音とか聴いてても「あ、これ京都っぽいな」ってわかるんですよね。

ーーTENDOUJIのポップ・パンク的な音楽性と、ベランダのインディ・ポップ的な音楽性はかなりスタイルが違うと思います。森田さんがベランダに惹かれる理由って、どこにあったんでしょうか?

モリタ:たぶん、ホントは俺らもああいう音楽をやりたかったんだと思うんです。メロディだけで勝負できちゃうし、声もめちゃくちゃいいし、演奏のアンサンブルもめちゃいい。最終的に、俺は「メロディ一本でいけちゃうバンド」がめちゃくちゃ好きなんですよ。言い訳できないし、聴くたびに「うわー、なんで自分にはこれができなかったんだろう」って思うんです。

髙島:僕もTENDOUJIに対しては同じように思っていて。メロディーの良さだけ聴いても、もう頭一つ抜けているっていうか。本当にセンスやばいなって思いながら聴いていますし、「自分にはできないことをやっているな」って毎回思います。

ーーちなみに髙島さんから見て、「TENDOUJIにあって自分たちにないもの」ってなんですか?

髙島:イノセンスですね。TENDOUJIの音楽やライブには「光」があるというか、まっすぐさというか、眩しいんですよ。僕なんかはひねくれたことをやっちゃったり、ちょっとシニカルになったりしがちなんですけど、TENDOUJIはちゃんと軸があって、それを貫いている感じがする。

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ーーTENDOUJIとしては、ライブでそういう「眩しさ」みたいなものを意識しているんですか?

モリタ:うーん......どうだろうなあ。俺らが始めたころって、東京でチル系のバンドがちょうどブレイクしていた時期で。そういう雰囲気のバンドが一気に増えたんです。俺もあのシーン好きだったけど、ライブの盛り上がり方がちょっと物足りなくて。「もっとパンキッシュな方が面白いじゃん」「自由に盛り上がれる空間を作りたい」っていうのはメンバー全員の共通意識としてありました。でも、途中でちょっと飛躍しすぎた部分もあって......。一時期、「モッシュしなきゃいけないバンド」みたいな感じになっちゃったのは、ちょっとしんどかったかな。自分たちが本来やりたかったことと、求められるもののギャップに悩んでた時期だったと思います。

ーー今は、気持ち的に吹っ切れたんですか?

モリタ:今はもう「なんでもいいや!」って感じですね(笑)。盛り上がり方って、本当に場所とか国とか、人によって全然違うんですよ。だから、もう自分たちは変わらずやるだけだなって。ちょっと図太くなった気はします。



音楽一本にしたとき、変な感じになっちゃって(モリタ)




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ーーTENDOUJもそうですが、ベランダも活動11年目です。この10年で、髙島さん自身の音楽との向き合い方って変わりましたか?

髙島:劇的に変わったわけではないんですけど、強いて言うなら、生活とより地続きになった感じです。切っても切り離せないものというか。今は僕も含めて、みんな平日は普通に働いて、土日にバンド活動しているんですけど、逆に音楽一本に絞ったら多分うまくいかないかもしれない。ダメ人間になっちゃいそう(笑)。

モリタ:わかる(笑)。

髙島:だから、「音楽に向き合う」っていうのとはちょっと違うかもしれないけど、今の方がより身近になったというか、自分の一部になった感覚はありますね。昔は小手先で何も分からずやっていたけど、今はもうちょっと実感があるというか。

ーーモリタさん、先ほど「わかる」って言っていましたが。

モリタ:僕も同じですね。働きながらバンドやっていたんですけど、音楽一本にしたとき、変な感じになっちゃって。気負いすぎちゃったんですよ。プレッシャーもすごくて、「いろんな人が盛り上がれる曲を作らなきゃ」みたいな思考にハマっていって。その時期に、向き合い方がガラッと変わりましたね。たぶん、一番変わったのは仕事を辞めてSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に出たとき。あれが大きな転機でした。

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ーーモリタさんって、もともとメジャーレーベルのA&Rをされていましたよね。そこから音楽一本になると、やっぱり変化があるんですね。

モリタ:そうですね。でも自分のこと、アーティストだとは全然思ってなくて。いまだに「バンドマン」って感覚の方が強い。目指してはいるけど、「アーティスト」と胸を張って言えるレベルじゃまだないなって。お客さんやまわりからはそう見てもらえてても、自分が「すごい」と思っているアーティストたちと比べたら、まだまだだなって思っちゃうんです。

ーーその「アーティスト」というのは、やっぱり意識している部分ではあるんですか?

モリタ:どうなんだろう...あんまり深くは考えてないんですけどね。ただ、元スタッフだったからこそ、求めるものには厳しかったと思います。特に数年前までは、結構きつくメンバーに言っていたと思います。

ーーそこは、どこかのタイミングで「もうちょっと緩くいこう」って変わったんですか?

モリタ:ある時メンバーから直接言われたんですよ。「とにかくお前は変わってくれ」って(笑)。独立して、外部スタッフも最小限でやっていこうとしたとき、4人でミーティングしたんです。「今のうちに言いたいことある?」って聞いたら、それが返ってきて。そのとき「言わなきゃよくならない」とも思っていたし、「言いすぎたら誰か辞めちゃうかも」って不安もあって。どっちを取るか迷ったけど、やっぱりこの4人でやりたいと思って、怒らないを選びました。

ーーそこから関係性も変わったんですか?

モリタ:そうですね。最近はみんな今の体制に慣れてきたんで、ちょっとずつ以前の雰囲気に戻ってきてはいるんですけど。でもここ数年は、やっぱり自分でも変わったなって思います。めっちゃ気を使っていましたね、いろいろ。



技術がセンスに追いついてない感覚がある(髙島)



ーー髙島さんは、メンバーとの関係性って、この10年で変わってきたと感じますか?

髙島:変わっていると思いますね。家族ってほどではないけど、「常にそこにいる人」「当たり前にいる人」っていう存在になっている。だから、僕もそうなんですけど、つい雑な接し方をしてしまうことがあって。言葉遣いとか、スタジオで「そこ違うやろ」って言うときの口調が強くなっちゃったりとか......。「どう扱っても離れていかない人たち」って、どこかで思っちゃっているんですよ。そういう意味では、雑になってしまっていたけど、今はそれが一周回って、逆に気を遣うようになってきましたね。

ーー僕の中でベランダって「これからもずっと続けていくんだろうな」って印象があって。メンバーの脱退とかいろいろあったけど、昨年アルバムも出して、11年目の今も音楽を続けていますよね。

髙島:僕は少なくとも、音楽は一生やめないと思っています。残りの2人もきっと同じで。皆、バンドがどうこうじゃなくて、音楽そのものをやり続ける人たちなんですよ。だったら「別にベランダでいいじゃん」っていう。それくらい自然なことなんです。辞めるという選択肢がそもそもないから、続けている。たぶん、それが一番大きい理由ですね。

ーーその感じって、めちゃくちゃ「京都のバンド」っぽいですよね。たとえばスーパーノアとか。

髙島:あー、たしかに。スーパーノアは京都時代からずっと尊敬してきた先輩バンドなので、無意識にロールモデルにしているところはあるかもしれないです。

モリタ:なんか「辞める」ってイメージ、湧かないんだよなあ。ベランダって、音楽と身体の距離がすごく近いというか。人間と音楽の距離が近すぎて、そこに一切の嘘がない感じがする。大抵、ちょっとくらい"嘘"というか、演出が入るものなんですけど、そういう純度の高い人って、どんどん少なくなっていくから。やめないでほしいって思いますね。

ーー先ほど髙島さんが言った「音楽と生活が地続きになっている」って、本当に言い得て妙だなと思います。そういう意味では、髙島さんって、曲を作るときに自分たちの生活がにじんでる実感ってありますか?

髙島:どうだろうな...。別に「自分の生活を等身大で曲に落とし込もう」とか意識して作っているわけじゃないんですが、自然と生活がにじみ出ることはあると思います。特に歌詞なんかは。去年出したアルバムに入っている曲は、メンタルがやられていたり体調が悪かった時に書いたものが多くて、陰気くさい歌詞の曲ばっかりなんですよ(笑)。だから意識はしてないけど、どうしても出ちゃうんですよね。

ーー先ほど「ひねくれたことをやっちゃったり、ちょっとシニカルになったりしがち」という話もありましたけど、それが曲に出ることってありますか?

髙島:今でもありますね。でもそこは、自分の甘さだなって思ってて。さっきTENDOUJIの話で「イノセンス」って言葉を使ったと思うんですけど、僕も曲そのものはイノセンスであるべきだと思っているんですよ。だけど、まだどこかに照れくささとか、「ちょっとカッコよく見られたい」みたいな気持ちが残っている。たとえば、歌詞で難しい言葉を使った方が"頭よく見えるんじゃないか"とか。そういうのを、いまだにちょっとやっちゃうところがあるんですよね。

ーーモリタさんも、曲作りの中で「甘さ」を感じることってありますか?

モリタ:甘さしかないですね(笑)。もう、完成した瞬間に毎回反省しています。アルバムができた瞬間に、「なんでもっとこうできなかったんだろう」とか、納得できたことがないです。でも、それって"まだ成長できる"ってことで、ポジティブに捉えるようにはしていますけど。でもほんと、毎回「うわ、まだまだだな」って思っている気がします。

髙島:わかりますね。僕はいつも「技術がセンスに追いついてない」って感覚があるんですよ。センスって、いろんなものをインプットしているうちに自然と醸成されていくものだと思うんですけど、それに対して自分のアウトプット能力、つまり演奏力や曲作りの技術は、一生追いつかないんじゃないかなって。だからずっと納得できないままだなと。

モリタ:めっちゃわかる。それでも「これは最強すぎる、早く出したい!」って思えるアルバムを作りたいんですよ。限界突破したいというか。結局、ずーっと悩んでるもんなあ...。たまに思うんですよ、「俺、多分幸せにはなれないんだろうな」って(笑)。80歳になっても、ヒット曲を聴いて「くそっ、いい曲だけどムカつくな!」「なんでこれ売れてんだよ...」って思ってそう。(笑)。

髙島:やばいジジイになっちゃう(笑)。

モリタ:それまでには到達していたいけどね、さすがに。



TENDOUJIとベランダ、それぞれのルーツとこれから



ーー今回のテーマは「青春」なんですけど、おふたりにとっての"ルーツ"とも言えるような音楽やカルチャーがあれば教えてください。

モリタ:俺はゴイステ(GOING STEADY)です。峯田(和伸)さん自身の音楽も好きなんですけど、紹介してくれる音楽がまた最高で。たとえばTeenage Fanclubとか、峯田さんが紹介しているのを知って。とにかく、ゴイステを聴いたのがきっかけで、いろんな音楽を聴くようになっていった感じです。

ーーTeenage Fanclubのオープニングアクトをやったときは、本当にすごかったですよね。

モリタ:今まで泣いたのって、あの時と飼っていた猫が死んだときだけです(笑)。信じられないくらい好きなバンドだったんで。RPGのキャラ名もボーカルの名前にしていたし、レコードも全部持っていたし。リハで俺が一番好きな曲をやっているのを見て、「神様っているのかも」って本気で思いました。

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ーー髙島さんはどうですか? 青春時代に聴いていた音楽というと。

髙島:僕、音楽にのめり込むのはちょっと遅かったんですけど、ちゃんとバンドにハマったのは高校時代でした。エルレ(ELLEGARDEN)とか、アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、バンプ(BUMP OF CHICKEN)とか、いわゆる2000年代初頭の邦ロックですね。

モリタ:意外! その当時、エルレって流行っていた?

髙島:世代的にはラッド(RADWIMPS)が流行っていたんですけど、僕の親友がエルレ好きで。そいつに教えてもらって、そいつの家でライブDVD見まくって、そこからハマりましたね。

モリタ:ベランダのエルレ、聴いてみたい。「風の日」とか、ダイブ起きているの見たいわ(笑)。

髙島:カバー候補にも入れていたんですけど、難しすぎて断念しました(笑)。

ーーエルレの影響って、ベランダの音楽に出ていたりするんですか?

髙島:いや、出てないと思います。僕の青春の音楽を挙げると、だいたい「意外」って言われるんですけど(笑)。好きだけど、自分にはできないってわかっているので、影響を出さないようにしているというか、あえて出さないようにしていますね。

ーーじゃあ、ベランダを始めたときに「こういうバンドを目指そう」と思っていたロールモデルは?

髙島:今のベランダのアウトプットの仕方に影響を与えているのは、間違いなくくるりですね。大学時代にくるりを聴いてから、一気に洋楽とかにも興味が広がって。

ーーでは最後に、これからやってみたいことや目標をお聞かせください。まずは森田さんからお願いします。

モリタ:ちょっと大きい話をすると、「どこでもできるバンド」になりたいっていうのは、最初からのテーマとしてあって。日本に限定せず、世界中でライブができるようになりたいと思っています。実際にバンドを続けていく中で、「フジロック出たいな」とか国内での目標もできて、それもある程度叶ってきたんですけど、改めて「海外でも本格的にやっていこう」って気持ちが強くなってきています。そのためにも最強の作品を作りたいと、常に思っています。まあ、できてもまた悩むんですけど(笑)。

https://www.youtube.com/shorts/v7tWR0Dtslw

ーー今年、韓国でライブをやったのも大きかったですよね?

モリタ:韓国の盛り上がりがすごすぎて、パワーになったんですよね。それにあれをきっかけに、他の国からも声がかかるようになって。秋には台湾とかアジア各国を回る予定です。コロナ禍の2〜3年はそういうチャンスがなかったので、ようやく自分が思い描いていたことに近づけるようになってきたなと。ゆくゆくは、コーチェラとかグラストンベリーといったフェスにも出たいですね。

ーー髙島さんはどうですか?

髙島:僕はもうちょっと現実的な目標なんですけど、LIQUIDROOMでワンマンがしたいですね。900人キャパなので、今のベランダの状況ではまだ難しいかもしれないけど、そこは一つの登竜門として。フジロックや大きいフェスにももちろん出たいですけど、まずは一段階上に上がるためにも、1000人規模のワンマンを成功させたいっていう話は、最近メンバーともしています。

ーー大きな場所でライブをしたい感覚って、昔からあったんですか?

髙島:僕はずっとありました。メンバーも漠然とは思っていたんじゃないかな。やっぱり大きい会場でやると気持ちいいんですよ。TENDOUJIに呼ばれてGORILLA HALL OSAKAに出たときも、「見られている人数が多ければ多いほど気持ちいい」って思いました。緊張とかじゃなくて、単純にその場が気持ちいい。だから今は、もっとでかいところでやりたいっていう気持ちが強いです。

Text by マーガレット安井




(2025年8月18日更新)


Check

「Salad Days TENDOUJI&HOLIDAY! RECORDS presents」

【大阪公演】

▼9月6日(土)・7日(日) 16:30
SOCORE FACTORY

1日券-3500円(整理番号付、ドリンク代別途要)
2日通し券-5000円(整理番号付、ドリンク代別途要)

[6日(土)出演]TENDOUJI/ベランダ
[DJ]星原喜一郎/片山翔太

[7日(日)出演]TENDOUJI/ナードマグネット/Monomi twins(closing Act)
[DJ]星原喜一郎/片山翔太/小村幸男

[問]holiday_records_distro@hotmail.com

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TENDOUJI Official HP
https://thetendouji.com/

ベランダ Official X
https://x.com/verandah_

HOLIDAY! RECORDS オンラインショップ
https://holiday2014.thebase.in/

HOLIDAY! RECORDS X
https://x.com/holiday_distro


HOLIDAY! RECORDS10周年記念連載「そっちはどうだい、うまくやってるかい」