ホーム > インタビュー&レポート > 「自分が一緒に歩いてきた音楽を、 あらためて表現できる素敵な場所をもらった」 松任谷正隆との共同演出プロデュースによるロングラン公演 『平原綾香 Concert Tour 2024 - 2025~ The Swinging Classics! ~』に賭ける思い 平原綾香 インタビュー
今年から大阪・関西万博パビリオン
『PASONA NATUREVERSE』のテーマソング
『いのち、ありがとう/80億の未来へ』を歌う
――2024年からロングランコンサート『平原綾香 Concert Tour 2024 - 2025 ~ The Swinging Classics! ~』が開催されています。これまでを振り返ってみて、特に思い出に残っている公演があれば教えてください。
「2024年のファイナルとなった大阪のフェスティバルホール公演は、(2024年の全日程が)"終わったぞ"っていう嬉しさでホッとしました。実はツアー中にちょっと体調が良くなかったので、毎公演命がけで歌っているような状態だったんです。フェスティバルホールで無事に2024年のファイナルを迎えることができてスタッフとホッとした記憶があります」
――そうだったんですね。同ツアーは2025年も引き続き行われています。昨年の公演からさらにパワーアップされている点があれば教えてください。
「今年から大阪・関西万博パビリオン『PASONA NATUREVERSE』のテーマソング『いのち、ありがとう』を歌っております。そこが2024年とは大きく変わった点です」
――大阪・関西万博パビリオン『PASONA NATUREVERSE』のプロジェクトに参加されて、どのような思いがありますか。
「はじめてオファーいただいた時、世界中のいろんな知見や文化が集まる万博に音楽で参加できる喜びを感じておりました。今回『いのち、ありがとう/80億の未来へ』で千住明さんが作曲されたメロディーを歌わせていただくのも初めてだったので、すごく嬉しかったです。この曲のデモを初めて聴いた時に、もうすでに歌が録音されていまして。その仮歌がすごく素晴らしかったので、もうこのままでもいいんじゃないですか? って冗談で言ったくらいなんですが(笑)、なんとそれはAIが歌っていて、すごく驚きました。『PASONA NATUREVERSE』というパビリオンでは、"からだ・こころ・きずな"をテーマに、IPS細胞やIPS心臓など最先端の再生医療に関するさまざまな展示が行われています。そんな人工の新しい技術を、まさか音楽の仮歌さん(AI)にまで感じるとは思わなかったのでとても驚きました」
――『いのち、ありがとう/80億の未来へ』は温かく壮大に包み込まれるようなバラードですね。この曲はどのような気持ちで歌われましたか。
「実は最初にその歌詞を読んだ時、自分はこの楽曲を本当に心の底から歌えるんだろうか? という不安がありました。というのも、"いのち ありがとう" "生まれてきてくれてありがとう" "たった1度の人生を精一杯生きよう"という力強いメッセージが込められた曲なんですけど、(自分は)3年前に父を亡くしたばかりなので、最初はすごく胸が痛かったんですね。でもしっかりとその歌詞を読んでみると、生まれてくる命に"ありがとう"っていうのと同じように、もう亡くなってしまった命に対しても"生まれてきてくれてありがとう"って言いたいなって...、そう納得できたので。それから心の底から歌えるようになりました」
――そうだったんですね。歌に込められた平原さんの深い思いが伝わってきます。いろんな科学技術が進歩して便利になったようで、世界の中では今でも戦争や紛争が起きていますし、単純に明るい未来が描けなくなってるように感じますが、平原さんご自身はどんなことを感じていますか。
「今回のコンサートツアーの打ち合わせをしていたのが、世界的にも大丈夫かなって感じるような、戦争の足音を感じるような時期だったんです。だからというわけではないかもしれないんですけれども、松任谷正隆さんとお話している中で、自然と私たちが口にしていたのが"平和"という言葉なんです。(公演の中の)トークでも、ちょうど1920年代のスウィングジャズが生まれたあたりを紐解いていまして。その当時の日本の状態や世界情勢なども話しながら、歌をどんどん繋いでいきます。そして最後は少し映画を見終わったような感覚になるコンサートなんです」
――いろんな歌を繋げていくことで、ひとつのストーリーが描かれる?
「はい。世界には白があれば黒がある。幸せがあれば悲しみがある、平和があれば戦争がある。それはなぜなんだろう? って幼い頃からずっと思ってきました。そんな自分の心の迷いみたいなものを、2時間に満たないストーリーにして皆さんにお届けします、と私がナビゲートして始めるコンサートなんです。衣装に関しても、ああ、この格好でこの歌を歌うんだっていうシーンもあるので。私も最初はびっくりして、"本当にこれで大丈夫かな?"って思いました。それを(松任谷)正隆さんにも正直に話して、"なぜそういう衣装なんですか?"と観た人から聞かれた時に、なんて答えればいいですか? とたずねたら、正隆さんが一言、"私はジャンヌ・ダルクなんです"って言えばいいよって。なるほどと思って」
――実際、そういうことを誰かに聞かれたりしましたか?
「そうですね、案の定、いつも私のコンサートを観てくださっているレストランの店長さんに、"あの曲で、あの衣装はないのでは?"と聞かれたんです。それで、"私はジャンヌ・ダルクなんです"って答えました。そしたら、"深い! それ聞いてからもう一度観たくなりました"って急に意見が変わって。それから自信を持って歌えるようになりました。正隆さんは、本当に深く深く練りに練って作られた演出を私に授けてくださってるんだなっていうのがコンサートをすればするほどわかっていきました」
ロングランツアーを紐解く
初のコンセプトアルバム『THE SWINGING CLASSICS!』
松任谷由実が歌詞を書き下ろした『夢のあとに』も収録
――5月20日には初のコンセプトアルバム『THE SWINGING CLASSICS!』が発売をされましたね。
「はい。私自身もちょっとドキッとしたので、そういったコンサートを紐解くアルバムとして、コンセプトアルバム『THE SWINGING CLASSICS!』を作ったんです。このコンサートに込めた思いも全てインタビュー形式でそのCDに掲載されています。この演出はこういう意味だったんだって、観終わった時にそれを読むとスッキリするような内容になっておりますので、ぜひともそのCDと共にコンサートも楽しんでいただけたらと思います」
――そのコンセプトアルバムの中で特に思い入れのある楽曲があれば教えてください。
「『THE SWINGING CLASSICS!』は新曲とコンサート音源両方入っている豪華版としてリリースさせていただきました。特に思い入れがある曲は、コンサートの注目曲でもあり、コンサートアルバムの注目曲でもある『夢のあとに』という曲です。松任谷由実さんがこのコンサートのために歌詞を書き下ろしてくださった楽曲です。共同演出の松任谷正隆さんが、"由実さんが1曲書きたいって言ってるんだよ、いいかな?"っておっしゃった時に、私もびっくりして、"ぜひよろしくお願いします!"と即答したんですけれども、出来上がって来た曲を聞いた時に、(ガブリエル・)フォーレというクラシックの作曲家の原曲のメロディーに由実さんが新しく歌詞(訳詞)をつけくださいました。1回聴いて衝撃を受けて、2回目、3回目と...本当に聴けば聴くほど涙が出るような歌詞なんです。その曲がこのコンセプトアルバムで初収録となっております。レコーディングしたものではなくて、コンサートで歌っている音源を収録していて、とても臨場感があるので、ぜひとも注目していただければと思います」
――同ツアーに関して、昨年インタビューをさせていただいた際に、平原さんがご自身の"根源的なルーツをたどるコンサートにしたい"というようなお話をされてました。その点でなにか再確認されたことはありますか?
「そのツアータイトルを正隆さんと2人で話し合った時に、正隆さんが『The Swinging Classics』ってどう?って提案されたんですが、私は最初それは嫌だなと伝えました。なぜかというと、祖父がジャズトランペッターで、父がサックスプレーヤーというのもあって、実はジャズ家系なんですね。でも私のデビュー曲はクラシックをカバーした曲だったので、平原さんといえばクラシックですよねって言われるのが、なんとなく落ち着かなくて。今は全然大丈夫ですけど、そういう思いがあったから、『The Swinging Classics!』というタイトルにしたら、クラシックのコンサートだと思って来られる方がいるかもしれないし、混乱を招くんじゃないかと心配してたんですが、"クラシックというのは根源とか自分のルーツとなるものという意味もあるんだよ"と教えてくださったので納得しました。自分のルーツってなんだろうって思った時に、ジャズの血もあれば、クラシックをカバーして歌っている自分もいるし、自分の音楽のふるさとっていろいろあっていいんだなって。そういった意味ではデビュー20年超えて、自分はこんな音楽と一緒に歩いてきましたっていうことをあらためて表現できる素敵な場所をもらったなと思いました」
――では最後に、本公演を楽しみにされている方々にあらためてメッセージをお願いいたします。
「自分のコンサートツアーはデビュー以来、22年間毎年お届けしてきたけれども、この『The Swinging Classics!』はもう二度と再現しないので、今の時代にこういうコンセプトでコンサートを制作したんだっていうことをできるだけ多くの人に体験してほしいと思います。今までも、今年でしか見られないコンサートは確かにやってきたけれども、今回のすごくストーリー性がある『The Swinging Classics!』が観れるのは2025年の今年が最後です! と、胸を張って言える初めてのコンサートなので、ぜひ来ていただけたらと思います」
Text by エイミー野中
(2025年8月15日更新)
《兵庫公演》
▼9月13日(土) 17:00
神戸国際会館こくさいホール
全席指定 8000円
※未就学児は入場不可。
[問]神戸国際会館こくさいホール■078-231-8162
▼9月21日(日) 17:00
フェスティバルホール
全席指定 8000円
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888
2025/05/20 Release
Album
4200円
オフィシャルウェブサイト&コンサートツアー会場にて限定販売。話題の新曲+ライブ音源、コンサートのセットリストが入った2025年版のツアーパンフレット付き初の豪華コンセプトアルバム。
《収録曲》
01. 虹の向こうへ
02. light
03. Time record
04. ふるさと/ジャスミン
05. Don’t give it up
06. 夢のあとに
07. Jupiter
2003年12月17日にホルストの組曲『惑星』から『木星』に日本語詞をつけた『Jupiter』でデビュー。2004年日本レコード大賞新人賞、2005年日本ゴールドディスク大賞特別賞など、様々な賞を受賞して高い評価を受ける。
2015年12月、音楽を通じて社会貢献、様々な支援のために『平原綾香 Jupiter 基金』を設立。2019年9月20日に開催されたラグビーW杯2019開幕戦において、国歌斉唱を務めた。 ミュージカルでは『ラブ・ネバー・ダイ』『ビューティフル』『メリー・ポピンズ』『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳』『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』に出演。2024年からロングラン公演中の『平原綾香 Concert Tour 2024 – 2025 ~ The Swinging Classics! ~』は松任谷正隆氏との共同演出プロデュースにて開催。
2025年3月26日、大阪・関西万博パビリオン『PASONA NATUREVERSE』テーマソング『いのち、ありがとう/80億の未来へ』を配信発売。4月2日、パッケージ発売。5月20日にコンセプトアルバム『THE SWINGING CLASSICS!』リリース。
オフィシャルウェブサイト
https://www.camp-a-ya.com/