ホーム > インタビュー&レポート > 水上えみりと岡田安未、真逆のふたりは 「なきごとという枠組みがあるからこそ共存できる」 ふたつの才能が混ざり合う2ピースバンド・なきごとインタビュー
今のなきごとはお互いに肩を預けて
一緒に進んでいくスタイル
――今日(取材日)はEPリリース直前かつメジャーデビュー直前ですが、今の心境から聞かせてください。
水上「1週間ほど前にEPの現物が届いたんです。手にしたら『EPIC』っていう文字があって、あぁメジャーデビューするんだと強く思いました」
――ふたりで「いよいよメジャーだね!」みたいな会話は?
水上「特にはなく(笑)。インディーズ時代から目の前にあることを広げるためにいろいろとやってきたところがあるので、そのスタンスも含めて変わらないからかもしれません」
――目の前にあることを広げるために、というと?
水上「たくさんの人に音楽を届けたいと思う気持ちというか。そのためにどういうライブをしたらいいかをずっと考えてきたので、そういう点でもあまり変わらないと思います」
――ただやはりメジャーデビューとなると、初めてなきごとに出会う人もたくさん現れていくと思います。今回ぴあ関西版WEBでは初のインタビューなので、なきごとがどんなバンドなのかについても伺っていけたらうれしいです。そもそもバンドはどのように始まったのでしょうか。
岡田「あるライブハウスの店長に紹介してもらったのが出会いです。私が学校の友達とコピーバンドでライブに出た時、打ち上げで店長に「コピーバンド以外のバンドはやらないの?」と言われて。やりたいけどメンバーとの出会いがないと答えたら、当時えみりがやっていたバンドを紹介されて私が途中で加入して。それがなきごとにつながっていきました」
――なきごとがふたりで始まったのは?
岡田「バンドは4人でやっていたけど、終わることが決まったんです。当時のバンドで最後の自主企画ライブをやるのに、今はなきごとの曲としてリリースしている「メトロポリタン」と「ドリー」という曲をえみりが持ってきてくれました。それを聴いたら"これは一緒に音楽をやらなくちゃ"と思って」
――あまりにもいい曲で。
岡田「はい」
水上「バンドが解散することは決まっていたけどラストライブが残っている状況だったから、それまでの間に楽曲制作を手伝ってもらって曲を作ろうと思ったんです。私の気持ちとしては次のステップへ活かす曲のつもりで、最後に作っておこうくらいの気持ちでした。当時はDTMも楽器もできなかったから、メンバーにはちょっと手伝ってよという感覚で。その曲を元にひとりでアルバムを出そうと考えていて、そのタイトルが『なきごと』だったんです」
――あ、それがバンド名の由来ですか?
水上「それもありますね。本当にそれは自分の中でだけの構想だったんですけど。とにかく一度バンドは綺麗に幕を閉じたうえで、改めてふたりで始めたのがなきごとです」
――でもそこでまたバンドを始めるならば、ふたりでという概念も斬新というか...。メンバーを足して3人、4人でという選択肢もあったのでは? と思います。
水上「なきごとが始動した7年ほど前は、2ピースバンドは存在しれいるけれど元々3ピースや4ピースだったバンドが2ピースになったという形が多かった気がしていて。最初から2ピースというのも珍かったのかなと思います。」
――ふたりでバンドとなると、ガッチリ向き合って音楽活動を進めていく感じになりますよね。
岡田「そうですね。前身バンドの時私は途中で加入したので"参加する"というイメージが強めでした。だからこそなきごとでは、ふたりでしっかり向き合っているかなと思います」
――なるほど。そもそもなきごとを始めるにあたって、こういう音楽をやろうとか言葉で共有したりはされたのでしょうか。
水上「楽曲を作っていく中で認識を合わせていったというのが近いですね。こういうコンセプトで...みたいなものはありましたけど、あくまでもそれは枠組としての言葉だからあまり具体的ではないというか。だからこそどんどんスタジオに入って楽曲を作っていく中で認識をすり合わせています。だからこそ最初の方はぶつかり合うことも多かったですね」
――そのなきごとというバンド名や"疲れ切った日常にほんの少しのなきごとを。"というバンドのテーマは事前のすり合わせありきなのかなと思っていました。
水上「私の中のイメージでは、その辺は一任してもらっていた感じでした。曲を作るのが私だからこそ任せてくれていたというか」
岡田「一任というか任せっきりでした(笑)」
――それくらい岡田さんは水上さんの曲に信頼を寄せているんですね。
岡田「それもあるし、言葉を紡ぐことやコンセプトを導き出すことは私には持ち合わせていない才能なので、もう全身全霊で預けて信頼を寄せている部分でもあります」
――だとすると、水上さんがなきごととバンド名に掲げた理由というと...。
水上「私が曲を書くエネルギーになるのは、悲しみや怒りのような負の感情であることが多いんです。自分が書いた歌詞を並べた時に何かしら主人公が幸せになりきれない感じがあって、これは私自身の泣き言でもあるなと気づきました。なので前身のバンドが解散することが決まった時に私が今まで作ってきた泣き言たちをフルアルバムにしようと考えて、そこにつけようと思っていたタイトルの『なきごと』からバンド名をつけました。そういう楽曲が誰かに寄り添うものになったらいいなという気持ちがコンセプトになったのかもしれません」
――ちなみにご自身は泣き言を外に吐き出せないタイプですか?
水上「そうですねぇ...曲にはできるけど言葉にはあまりしないですね。ただ、最近はあえて言うように心がけていますね」
――お、それはどうして?
水上「チーフマネージャーにあなたの泣き言もみんなは聞きたいと思っているんじゃない? と指摘されて。なんかその時に自分の心がスッと楽になった節があって。なきごとというバンド名を掲げているからこそ、私は泣き言を言ってはいけないなぁとこらえていたことに気づいた、といいますか」
――自分の弱いところは楽曲以外では出さないぞという自制心がある?
水上「そうですね、自分が泣き言や弱音を吐くことで言葉を受け取った誰かがしんどくなってしまったら嫌だなと思っていたんです。そういう部分を秘めていたからこそ楽曲でアウトプットしてきたというか。でも指摘を受けて、そういう感情も少しずつ出していったほうが相手は楽になることもあると気づき始めたところです」
――新たな発見ですね。
水上「人がどういうことで嫌だと思うかもそれぞれだし、そこがわからないからこそ嫌にさせない言い方をしようと努力をするのも大切じゃないですか。今まで努力不足もあったなと思ったりして」
――ただそういう新たなる気づきによって、歌詞の書き方にも変化があるのでは? とも思います。一番近くにいる岡田さんは何か感じていますか。
岡田「えみりの変化はすごく感じています。彼女らしい言葉を使って、より等身大の感情が現れるようになったというか。たまにちょっと伝わったらうれしいなくらいの謙虚さも感じますけど(笑)。大きく変化していると思いますね」
EP『マジックアワー』を聴けば
自分たちをより理解してもらえる
――今回リリースとなるEP『マジックアワー』でメジャーデビューを果たすわけですが、この作品がなきごとの名刺的な一枚になっていくのだと思います。制作前にどんな作品にしたいかなど、イメージはありましたか?
水上「これから私たちに出会ってくれる人がたくさんいるはずだと思えるからこそ、なきごとがどんなバンドなのかを改めて提示できるような1枚にしたいなという思いは制作している過程で生まれました」
――通して何度も聴かせていただいて、それぞれ角度は違うけれど全て愛の歌、つまりラブソングEPなのだなと私は捉えたのですが...この解釈、正しいですか?
水上「好きに解釈していただいて大丈夫です! ただ、意図としては恋愛していない時に聴いても成立する楽曲を書きたいと思っていました。聴くタイミングによってはラブソングに聴こえるし、夢に挫けそうになった時に聴くと優しく寄り添ってくれる存在にもなってくれるだろうし。自分が幸せかどうかを考えている時には姿勢を正そうとしてくれたり、迷っている時にはこんな道もあるよと別の道を提示してくれる曲もあったりします。聴く人の状況や立っている位置でも聴こえ方が変わるEPであってほしいなという思いです」
――歌詞にはストレートに「愛」という言葉がたくさん使われていたので私は完全にラブソングEPだと捉えていました。そういう捉え方がいろいろとある想定の作品に『マジックアワー』というタイトルを付けたのは?
水上「マジックアワーというのは日の出前の空の色に魔法がかかったように綺麗に見える時間のことで、夕方と夜、夜と朝が混じり合う時間でもあります。そういう感じで楽曲の中でも例えば愛について歌っている曲も、その愛が例えば家族や夫婦の愛について、恋愛についての愛についてという側面もあれば、ものづくりというところに対しての愛の側面もあったり、「愛」というキーワードの中にいろんなものが共存しているところもあるんです。それを表現したくてつけたタイトルですね。あと、私と岡田が真逆であることも大きかったかなと」
――真逆。
水上「はい。私はポップな曲を作ってその中に毒を仕込むのがスタイルなんですけど、岡田は真っ直ぐにえげつないギターを弾くロックをやるのがスタイルで。一見ポップさとロックって真逆にも感じるんですけど、なきごとという枠があるからこそ共存していると思っていて。それもいろいろなものが混じり合う時間帯であるマジックアワーという言葉で表現できるのではと思いました」
――この作品をどストレートにラブソングEPだ! と捉えた私は、恋愛脳なんですかねぇ。
水上「いや、でも選曲していく中でもちょっとずつラブソングって届きやすいよねっていう気持ちもありました。それも正しいと思います」
――今回のインタビューでは収録された5曲を簡単に解説していただけたらと思っています。まず1曲目の「短夜」はカップルの一夜の始まりのシーンを描いた1曲です。
水上「お気に入りは〈一夜を、夢に見ているよ あなたとがいいよ〉というところなのですが、これはカップルがひとつになりたいことをうたっているんですね。なのでひとつになりたいと夢に見ている可愛らしい女の子のことを歌っている面もありつつ、私たちが今までずっと活動してきてその中で出会ってくれた人たちがメジャーデビューを一緒に祝ってくれたことで、これは私たちだけの夢じゃなかったと感じたことも歌詞になっているんです。同じ"夢"という言葉でもちょっと尺度が違うものを込めているのはお気に入りのポイントです」
――この曲に関しては、刺しにいく感じのガッツリ男前なギターの音がとても印象的でした。
岡田「特にサビではぶつかりにいく感覚でギターを弾いています。その代わり1番のBメロなんかは、ふわりふわりと。最初はギターの音の粒が見えるようにしているんですけど、サビに向かってその音が溶けて1つになっていくイメージで、リバーブで音を溶かして弾いてからのギターでガツっとストレートになる感じでいきました」
――本格的に刺しにいってますねぇ!
岡田「(笑)。ただ、攻撃的にではなく、ストレートな感情でぶつかりに行くイメージです!」
――そして2曲目の「0.2」は1曲目からのサウンドのコントラストをすごく感じました。
水上「この曲のテーマは"一目惚れアンチテーゼ"なんです。直感を大切にしつつも、その直感が本当に正しかったのか答え合わせしていった方が、直感は確かなものにならないですか? ただその一方で、楽曲には"一聴き惚れ"してほしいというテーマもあって」
――両極端なものを一曲に込めた。
水上「はい。だからこそ頭からすごくキャッチーに仕上げて、曲が進むにつれていろんな展開があるけど、終わったらもう1回聴きたいと思わせたくて。何度も聴いて百聴き惚れしてほしいと。これってこういう意味だったのかな? とか、すごくたくさんの音がわーっと鳴っているからこそ何回も聴いていろんな解釈をしてもらえたら、音楽としてもすごく楽しんでもらえると思います」
――そして夫婦のセックスレスを描いたドラマ『それでも俺は、妻としたい』の主題歌になった「愛才」が3曲目に収録されました。重めのテーマを扱いつつサウンドがかなりポップに仕上がっていて、重さを感じさせない巧みさがありました。
水上「初めてドラマのために書き下ろした楽曲で、どこまでなきごとらしさを出すかをかなり差し引きして考えました。ドラマがコメディでありたいということだったので、とにかくポップに仕上げようというのはありましたね」
岡田「ギターに関していうと...割と最初から最後までずっとロックしていく方向性でした」
――その意図としては?
岡田「曲を聴いた時に、直感的にそれがいいと感じたので貫いた形です(笑)」
――なるほど。4曲目は紙をくしゃっとするパフォーマンスのMVも印象的だった「たぶん、愛」です。楽曲にも紙くしゃの音が効果的に使われていますね。
水上「そうですね。この曲に関しても恋愛の愛とものづくりへの愛、両方で取ることができる愛情を描きたいと思いました。この曲に関してはサウンドに平成感をすごく出したいというのもあって」
――平成感のあるサウンドというと?
水上「肩の力を抜きながら聴ける音というか。現代の楽曲はみんなカッコよく作ってるじゃないですか。ずっとアドレナリンが出続けるようなアレンジも多いし」
――やっぱりSNS時代でもあるから、捉えようとするアグレッシブな音にどこもかしこも満ちているのかもしれないですね。
水上「フルコースなのにステーキだけを食べ続ける感覚のあるショートチューンだから、こりゃみんな好きだろう! というフレーズがずっと詰め込まれ続けている気がするんです。でも平成の曲はフルコースの流れとして全部食べてからしっかりと満足できるような味わい深さを感じるんです。その感じを出したいと思っていました。それこそイントロもギターが真ん中にいない構成になっているんです。誰が主役なんですか? と思うような感じで。ボーカルは基本ずっと真ん中にいて、ボーカルがいないところではギターが真ん中にいることが多いんですけど、この曲ではイントロだけギターもちょっとずらしていて。それは聴いている人が主役でいてほしいという意図でした。ギターの音が真ん中に音がある時より肩がグッと下がって力が抜ける感じとポカンと空を見ている景色が私の中に見えてきて、これだと思えました」
――そういう肩の力が抜けるイメージは、ラストソングの「明け方の海夜風」にもすごく感じました。気持ちいいサウンドスケープでした。
水上「太宰治の『人間失格』を読んだ時に幸せとは...? ということばかり考えていて。本の中で幸せを「仕合せ」という表記していて、仕合せと書くか幸せと書くかで意味が違うと気付かされた時に、幸せってなんだろうと考え始めて。その答えを探していろいろと曲を書いていたのですが、この頃曲を作る時にたどり着いた結論としては"絶望の副産物が幸せである"ということでした」
――その結論を聴くと、サウンド次第で悲壮感ある曲にも未来が見える曲にもなるような気がします。
水上「そうですね。山口県に周南市という海辺の街があるのですが、ライブ終わりでこの街で海を見ていたことがあったんです。その時に幸せとは? と考え続けていたんですけど、ここで見た風景をそのままサウンドとしてパッケージしたいと思っていました。海の夜の風を浴びながら考えていたこと、その空気感も含めて。広い海ではなく、割とコンパクトな、対岸があって船がいて人気がない小さな海。それがそのまま曲になりました」
――いろいろな思いを込めたEPでメジャーデビューとなるわけですが、このEPでなきごとがどんなバンドであると伝えたいかを聞かせてください。
水上「バンドという枠組みがある中で、正反対の私と岡田が共存しているのがなきごとだと伝えたいですね。何気ない顔で毒を仕込むタイプの私と、堂々と刺しにいくタイプの岡田がいるバンド。EPを聴いていただくとより私たちなきごとのことをわかっていただけるのかなと思っています!」
取材・文=桃井麻依子
(2025年7月25日更新)
発売中
【初回限定生産盤】
4840円(税込)
ESCL-6100
EPIC
販売リンクはこちら
【通常盤】
2420円(税込)
ESCL-6102
EPIC
販売リンクはこちら
《CD収録曲》
01. 短夜
02. 0.2
03. 愛才
04. たぶん、愛
05. 明け方の海夜風
《DVD収録内容》 ※初回生産限定盤のみ
超超超超大切なお知らせワンマン×水上生誕祭!2025.04.08 @Shibuya WWW X
01. sniper
02. 連れ去って、サラブレッド
03. グッナイダーリン・イマジナリーベイブ
04. 私は私なりの言葉でしか愛してると伝えることができない
05. D.I.D.
06. マリッジブルー
07. ユーモラル討論会
08. Summer麺
09. 忘却炉
10. 合鍵
11. さよならシャンプー
12. 退屈日和
13. 不幸維持法改定案
14. 愛才
15. メトロポリタン
16. 憧れとレモンサワー
en 1. たぶん、愛
en 2. 終電
配信リンクはこちら
なきごと…2018年10月に始動。“疲れ切った日常にほんの少しのなきごとを。”というコンセプトを掲げ、言葉にできない感情や生きづらさを巧みな言葉をチョイスしながらポップなサウンドにのせ、数々のパフォーマンスを重ねているライブバンド。2024年4月に自身初となるZepp公演を成功させると、『VIVALA ROCK 2024』や『SWEET LOVE SHOWER 2024』など数々の夏フェスやイベントに出演。勢いそのままに年末の 『MERRY ROCK PARADE 2024』、『COUNTDOWN JAPAN 24/25 』へとつなげた。さらに、バンド初となる書き下ろし楽曲「愛才」が 2025年1月期のテレビ大阪・BSテレ東の新土曜真夜中ドラマ『それでも俺は、妻としたい』オープニング主題歌に抜擢。2025 年7月9日に発売した1stEP『マジックアワー』で、ソニー・ ミュージックレーベルズ EPIC レコードジャパンよりメジャーデビューを果たした。
【愛知公演】
▼7月31日(木) ハートランド
【広島公演】
▼8月2日(土) 広島Cave-Be
【福岡公演】
▼8月3日(日) 福岡Queblick
【香川公演】
▼8月11日(月・祝) 高松TOONICE
【愛知公演】
▼8月31日(日) 名古屋クラブクアトロ
【大阪公演】
▼9月6日(土) 梅田クラブクアトロ
【東京公演】
▼10月12日(日) LIQUIDROOM
なきごとOfficial Site
https://nakigoto.com/
Instagram
https://www.instagram.com/nakigoto_official/
YouTube
https://www.youtube.com/@nakigoto_official