ホーム > インタビュー&レポート > “予測不能な自分たちのクリエイティブを楽しみたい“ アルバム『Hakko』で発露した、Khakiの最新の音楽表現
初恋の嵐との対バンライブを振り返って
ーーぴあ関西版でもライブレポートが掲載されましたが、4月に行われた初恋の嵐とのツーマンライブを改めて振り返るといかがでしたか?
中塩「楽しかったですね。初恋の嵐がめっちゃ好きだったので、対バンできるだけで嬉しかったんですけど、僕はゲストボーカルで1曲歌わせてもらったり、最後のアンコールでは皆で一緒にセッションをして、すごく充実してました」
ーーあのセッションはすごかったですね。途中でいつの間にかパートが初恋の嵐のメンバーからKhakiのメンバーに変わるというマジカルな時間がありました。
平川「もう必死でした。"ガンガン来てね"と言っていただいたので袖で待ち構えて、呼んでくださって変わった感じでした」
ーー音を止めずに交代するのが本当にすごかったです。
平川「いやあ楽しかったですね」
ーーその後初恋の嵐と何か繋がりそうな気配はありますか?
中塩「どうなんだろう。でもその日の打ち上げでお話して。会場のBGMを隅倉(弘至/ba)さんに作っていただいたんですけど、僕がジャズが好きだみたいな話をした時に、"ライブのBGM全部ジャズにするわ"と言ってくださって、実際にそうしてCDもいただいたりして、"兄貴"って感じでした」
平川「ドラムの鈴木(正敏)さんも面白い方で、超楽しかったです」
ーーこれもお聞きしたかったのですが、5月21日に東京で行われた自主企画2マンライブ『前期定例』。Khakiの共演がKhakiという不思議なライブで、前作のアルバム『Janome』(2021年)と今作『Hakko』の全曲を演奏されたそうで。
平川「去年から年に2回、ツーマンライブの自主企画をやってて。ちょうどアルバムを出したタイミングだったので、"Khakiと対バンでアルバム2枚ともやったら面白いかもね"みたいな感じでそうなりました」
ーー反響はどうでした?
中塩「来てくださった方から"うええ?何言ってんの?"みたいな声が聞こえました(笑)」
平川「当日告知したんですけど、思った以上に見に来ていただいて。前半に『Janome』やって、みんなが"2回目のKhakiは『Hakko』をやるのかな?"と気付いてくださる反応があって面白かったです。皆さん本当に鋭いですね」
ーー今回はたまたまKhakiとKhakiだったけど、次は違う方を呼ばれるんですか。
平川「そうですね。去年は前期がゆうらん船で、後期は崎山蒼志くんとやりました。せっかく自分たちで企画しているので、今後もこの企画で意外なことができればいいなと思ってます」
現体制で臨んだ初のフルアルバム制作
ーー今作は『Janome』以来2作目のアルバムです。前作は下河辺さんが加入する前に作られていて。
平川「『Janome』では、今キーボードの黒羽くんがベースを弾いてましたね」
中塩「4人でやってました」
平川「2022年に出したEP『頭痛』ではもう下河辺くんに入ってもらってましたけど、アルバムとしては初ですね」
ーー全12曲55分の大ボリュームで、全曲未発表曲だということですね。
平川「ライブでは披露してたんですけど」
ーーなるほど。2024年は一般流通でのリリースはありませんでしたが、12月に会場限定シングルを出されていますよね。制作はその頃から進んでいたのでしょうか?
平川「そういうことになりますね。"アルバムを作ろう"という気持ちは2024年の最初ぐらいからあったんですけど、なかなか実行に移せず。ライブはいっぱいしてるけど、誰も"音源作ってます感"を出していなかったし、制作自体は結構時間がかかったので、その期間はサボりだと思われないか、若干の不安と寂しさがありました。"こんなに頑張ってるけど、マジ出なかったらどうなるんだろう"みたいな(笑)」
中塩「最初に"アルバムの曲作ろうよ"となってから出るまでに1年ぐらいかかったので。去年の12月にワンマンもやったけど、"音源ないな"みたいな感じでしたね」
ーーKhakiは"作品を作るぞ"となってから制作が始まる感じなんですか?
中塩「普通に曲を作っていって、それをシングルやEPで出す時もありつつ。今回に関して言えば、『文明児』や『天使』みたいな曲はアルバムを作る前から普通に作っていた曲で、他の曲は"アルバムやるぞ"となってから皆でアレンジを詰めていった感じですね」
ーー1曲作るのに大体どのぐらいかかりますか。
平川「決まらないやつは本当に決まらないし、パッとできるやつはパッとできるイメージです。メンバー全員が作曲者なので、割と人によるし、曲によりますね」
ーー今回は他にも候補の曲があって、その中から選んでいった12曲ですか?
平川「候補として12曲あって、作ったやつが全部そのまま入りました。僕ら、活動は結構遅めではあるんですよね」
中塩「5人が作曲できるのに」
平川「誰かのスケジュールが合わないと、"じゃあその週はスタジオに入れないね"とか普通にあるし。自分たちで会社をやっているので、あまり急かしてくる感じの人もいなくて。なんなら今回のアルバムは、never young beachのギターを弾いてたレコーディングエンジニアの阿南(智史)さんが"もうさすがに出そう"と持ちかけてくれて。"君たちは今、傍から見たら解散するみたいに見えてる"って(笑)。それで締め切りを作ってもらって、曲が出揃っていきました」
中塩「ちょっとずつ曲が増えつつ、ドラムレコーディングする日を"ここに決めちゃおう"みたいな感じで何ヶ月か先に決めて、そこまでの間に一気に詰めていった感じはありますね。これが2024年の下半期ぐらい」
平川「その被害を被るのは、レコーディングを1番に最初するドラムなんですが、橋本くんがうまいことやってくれました(笑)」
ーー自分たちでスケジュールを管理して納期を決めるって大変ですもんね。
平川「皆パキパキしてる派ではないので。割と普通にゆっくり休むし」
ーー黒羽さんは比較的意見を出すタイプだというインタビューを拝見しましたが......。
平川「彼もやるとなってやるタイプ。やるとならないと、『ONE PIECE』のアニメ1000話を全部見たりするぐらい。プライベートを大切にしているのか、ただ怠惰なのかわからないですけど、割と活動に対してはおっとりめなんです」
多角的な捉え方ができるアルバムタイトル
ーー『Hakko』というタイトルはいつ決まったんですか?
中塩「最後ですね。曲が全部揃ってから決めました」
ーーアイデアはどこから?
中塩「ドラムの橋本くんがタイトルの候補で送ってくれていて、"なんかいいね"となって」
平川「その時は漢字だったよね。何の漢字だったっけ」
中塩「"発光"だね。俺は勝手に"発酵"するイメージが合うなと思って。同音異義語で多面的な意味があるのも、Khakiの色んな曲があるところにリンクしてふさわしいんじゃないかなとなって決まったタイトルです」
ーー例えば、曲自体にもこの曲は"発光"っぽいとか"発行"っぽいとか、当てはめたりされたんですか?
平川「いや、アルバム全体としての決め方ですね」
ーー初の全国リリースツアータイトルも面白くて。それぞれに同音異義語の『Hakko』で違う漢字が当てられているのが面白いですね。大阪は『発行』で、初日名古屋の『発向』からスタートするわけですね。
平川「そもそもアルバムをリリースする前にツアーをやる話が先に出て。全部"Hakko"にしたら、誰か"Hakkoに関する何かが出るんじゃないか"と気付いてくれるんじゃないかなと」
ーーちょっと匂わせていた。
平川「そう(笑)。ツアーを発表した時は音源をリリースすることを言ってなかったので。『Hakko』という音が色んな単語になりうるのでいいかなと思って」
ーーツアーの対バン相手はKhaki側からオファーを?
平川「そうです」
ーー純粋に対バンしたい人を呼んだんですか。
中塩「そうですね。色々候補を出してお誘いしました」
平川「メンバーによって好きな音楽が違ったりするので。例えば水中、それは苦しいは僕と中塩くんも好きだけど、特に橋本くんが好きで。中村佳穂さんは中塩くんと下河辺くんが、Texas3000は僕が直近で観に行ってたりしたので、色んな人の趣味が入っていいなと思います」
ーーファイナルはThe Novembersです。すごいライブになりそうですね。
平川「本当に出ていただいて、ありがたいです」
ーーKhakiは対バン相手との相互作用が起きやすそうなバンドですよね。対バン相手のライブを見て感じたものがライブに出やすいとかありますか?
中塩「僕はあるかも。刺激を得ていますね」
平川「確かに。対バン相手の方とどこかしら誰かしら何かしらで共鳴してるところがライブ中もあるので、それがいいなと思います」
今までの流れからの逸脱を目指した、実験的な楽曲制作
ーー今作もメンバーさん全員で曲作りをされたということで、それぞれ手掛けられた楽曲からお訊きしていきたいのですが、なんせ数回聴いたぐらいでは咀嚼しきれないほどの情報量の多さで、聴いている時のコンディションや環境によって印象が変わる気もしました。まず、中塩さんは『裸、道すがら』『君のせい』『文明児』『白鳥の湖』『害虫』の5曲を作っておられます。1曲目の『裸、道すがら』はすさまじいインパクトですが、一体どうやってできたんですか?!
中塩「今まで僕が作ってきた楽曲のコード進行は、結構メロディアスだったりドラマチックな側面があるので、今回は逆にそれが全然ない曲を作ってみたいなと思って。それでイントロからAメロまで半音ずつコードが入れ替わって出てくるみたいな、不思議な感じにして。実験じゃないけど、そういうのをやってみたいなと思って作り始めたのが最初ですね」
ーーなるほど。実験的な側面は、他のメンバーさんが作った曲にも当てはまりますか?
中塩「"今までの流れから少し逸脱していこう"、みたいな意識は多分皆ちょっとずつあると思うので、それがこのアルバムで反映されてると思いますね」
平川「メンバー全員飽き性だし、"皆がやってることはやりたくない"みたいなマインドはあるかもしれないですね」
ーー中塩さんはいつも曲先、詞先どちらですか?
中塩「僕は結構別で作ってます。歌詞というか断片みたいなのを書き留めて、それと別で作ってた曲をがっちゃんこすることが多いですね。でも『裸、道すがら』に関しては歌詞から書いて、その雰囲気を頭の片隅に置きつつ曲を作っていくみたいな感じでした」
ーー歌詞が文学的で、意味があるようなないような。
中塩「自動筆記みたいに頭を空っぽにして、ばーっと文章を書いて、さらに単語ごとに実際にハサミで切ってシャッフルして並べ直して、それを繋げた歌詞なんです。だから特に意味はないというか。雰囲気だけがあるみたいな歌詞を書きたくて」
ーー歌い方も、結構パツパツと単語で切れる感じですよね。歌詞が1行で書かれていても、途中で歌が途切れるのが面白いなって。
中塩「僕は詩を読むのも好きなので、印刷した時の字面を結構意識していて。文字の語尾同士を行に繋いでいった時の線の形も意識しているので、改行なんかは歌い方とは別で考えてるかもしれないですね」
ーーへー! 言葉の並べ方もひとつの芸術なんですね。中塩さんが手掛けた中で1番印象に残っていたり、聴いてほしい曲は何ですか?
中塩「『害虫』は結構好きですね。もともとソロで弾き語りライブに出る時にやってて、バンドではやってなかった曲なんですけど、ソロでやってるうちにだんだん曲の全体が固まってきて、"これバンドでできるかも"と思って出したんですけど、良い感じの出来になってすごく嬉しいです」
ーーKhakiの曲は基本展開が多いですが、『害虫』はもう抑揚がすごいです。
中塩「ダイナミクスというか、弾き語りの部分とバンドが入ってる部分のコントラストはうまく出せて良かったなと思います」
ーー弾き語りの時も感情豊かに歌われていたんですか。
中塩「そうですね。歌ってて気持ち良い感じがしました」
ーーアレンジは作曲者の方がイニシアチブを持って各パートの指示を出していくとインタビューで拝見しましたが、その作り方は今も同じですか?
中塩「はい。部分部分において各パートのイメージを伝えつつ、細かいフレーズは皆さんに自由に決めていただく感じで作ってます」
ーー平川さんはどういう感じでギターをアレンジされましたか?
平川「『害虫』は、このアルバムの中では割とがっつり歌モノで、そもそも中塩くんが弾き語りでやってた曲なので、歌詞にも中塩くんの内省的な自我の発露がある。そういう歌のギターを弾くときは、中塩くんとバイブスが一緒じゃないとダメかなというか。作曲者の意図を汲んでそれを表現できたらいいなと思っていて。『害虫』のギターはレコーディング丸2日ぐらい、中塩くんもつきっきりでやったんです。少しでも自分の解釈がギターで弾けたらいいなと思いながらフレーズを考えました」
ーーでは細かいところまで音作りのリクエストをされたんですか?
中塩「歪みの音を作るのに、3〜4時間ぐらいかけたね」
平川「全然決まんなかったね」
中塩「細かいところまで一緒にやらせていただいて、ありがたいことに良いギターになったと思います」
ーー<散り散りの駐輪場に>から<まったく、どうしたら良い......>の不協和音は印象的でした。
平川「あれは考えてきたフレーズが全然ハマらなくて、"ドロップDにしてみるか"と思って、6弦ギターを全音下げて弾いてみたらハマりました」
ーー自分がやりたいというよりかは、曲に合うものを探していくんですね。
平川「自分の"やりたい"もそうですけど、自分がやりたいことと、誰かの曲に尽くすことは割と違うので。自分のやりたいことがハマればもちろんいいんですけど、ハマらなくてまでやることではないと思って。でもあそこのフレーズはやりたいことができたというか、面白くなったと思いました」
ーー最後にセリフが入っていますが、あれはつぶやき的な?<自我、自我、自我......>と聴こえました。
中塩「映画のエンディングというか、独白みたいなイメージなんですけど、ほんとにかき消されるぐらいの、うっすら聴こえるボリュームにしようかなと思って付け足した喋りですね」
ーー副音声付きのCDと同時再生したら、そのセリフについても喋られたりするんですか。
平川「喋ってないね。割と雑談メインなんで(笑)」
中塩「ライブでもたまにやるので、今後やっても良いかもしれないですね。」
9分超えの大曲となった中塩作の『文明児』
ーー『文明児』は、歌詞をワンフレーズ歌った後に<トゥルットゥル〜>や<タラッタラ〜>と続くパートを何個も何個も繰り返していくのが面白くて。さらに途中でアコギの弾き語りやジャズっぽいアプローチが入り、エコーがかかったりドラムソロが入ったりして、後半の4分はセッションという。
中塩「そうですね。9分を超える曲になりました」
ーー初恋の嵐との対バンでも演奏されていて、没入空間に入れる楽曲だなと思いましたが、構成はどうやって決まったんですか?
中塩「1番最初のデモの段階ではもう少しシンプルというか、全然未完成の状態だったんですけど。スタジオで合わせていく間に、皆のアイデアや僕のアイデアをどんどん入れて部分を作っていきました。アルバムの中では『文明児』は最初からバンドでやってた曲で、ライブでやったりしつつ、スタジオでさらにアレンジを変えていったりしつつ。収録されているのが、それで完成した最終形態ですね」
ーー相当なインパクトがありますね。
中塩「マスタリングの時も工夫を凝らして、アウトロのロングパートの音圧を自分の手で少しずつ上げていってバーっとなるのも調整しています」
意外なインスピレーションを元に生まれた平川作の『Winter Babe』
ーー1曲目から強烈な音の洪水を浴びている中に、平川さん作曲のシンプルな『Winter Babe』がきてホッとさせられました。
平川「本当ですか」
ーー平川さんが手がけた曲は『天使』『Winter Babe』『夢遊病』の3曲ですが、平川さん的にはどの楽曲が1番手応えを感じましたか?
平川「展開が多いのは『天使』なんですけど、『天使』の話をするのは飽きたので、『Winter Babe』の話をしたいなと思います(笑)」
ーー色んなところでお話されているんですか?
平川「『天使』が先にできて、"これはこれでいいけど、やりすぎはやめようかな"と思って次に作ったのが『Winter Babe』なんです。その際、"1人1曲作ってこようぜ"のターンになって期限が決まっていたけど、制作中のデモもなかったので"何から作ろうかな"と思って適当にYouTubeを見てて。僕、東進ハイスクールの林修先生が"今でしょ"と言ってるCMがめっちゃ好きで。そこから何か作れたら面白いかなと思い始めたのが最初です。インスピレーション元は東進ハイスクールのCMなんですけど、そこからどんどん要素を足して曲が完成しました。どんなインスピレーションからでも曲ができる体験は自分でも面白くて、"次は自分こんなこと思いつくんだな"みたいな感じで進めていけたので、思い出に残ってます」
ーー<チューリッヒ>とあったので自動車保険かと思いました。
平川「それはシンプルにスイスの都市の名前です(笑)」
ーーメロディも良くて、わかりやすい構成ですね。ギターリフもしっかり聴こえます。
平川「展開としてはオーソドックスです。複雑な展開の『天使』が最初にあったので、王道ポップスじゃないけど、自分が好きなちょっとずらしたポップスがいいなと思って作りました。曲順は特に決まってなかったけど、結果として『天使』の次に収録されました」
ーー『Winter Babe』があることで、アルバムに前半・中盤・後半とチャプターができるような感覚になりました。
平川「やっぱり全員が曲を作るので、そういう隙間産業もできるのが強みです。"今回はポップスをやってみるか"という相対的な関係もあるので、『Winter Babe』というポップな曲ができたのは、その時の制作のタイミングもあるのかなと思います」
ーーちなみに『天使』は女性コーラス入ってます?
平川「入ってます」
ーーどなたが歌われたんですか?
平川「お名前は言えないんですがCDのクレジットにペンネームは入っています。今まで5人の声しかなかったので、コーラスを入れてみても面白いなと思って、今回歌っていただきました。あと単純に『天使』は音楽的イメージで、女性と一緒に歌えると作品がより良くなるだろうと思いました」
下河辺が初めてKhakiで作った『夢遊病』
ーー『夢遊病』に関しては?
平川「これは下河辺くんがデモを作ってきて。下河辺くんは頑なに歌うのを拒否するので、メロディーもキーボードで作ってくるんです。そして、"これで歌詞を付けてくれ"と僕が任命されました。作詞もやっぱり作曲者と気持ちが合ってる方がいいなと思ったので、どんな歌詞を書いてほしいか彼に聞いたところ、クレイロという海外のシンガソングライターの最新作が送られてきて、"ざっくりこの感じ"と、歌詞の説明ではないんですけど、バイブスの共有をされて。それも参考になったというか作曲の楽しいところなんですけど、僕はそのリファレンスを聴いて、"こういう歌詞を書いたら面白いかな"と思ったので書きました」
ーー<雨だけど また龍を見た>。
平川「いたらいいなって感じですよね(笑)」
ーースピリチュアル的なことではなくて?
平川「動物としてです。『夢遊病』というタイトルは僕が歌詞を書いてから、下河辺がつけました。Khakiで下河辺が作曲をするのは初めてなので、作り終わってから"最初は自分っぽい感じだったけど、皆の手が入ったらこうなるんだね"という、彼自身の感想もありました」
大阪・アメリカ村での喧騒が収録された『軽民物語』
ーーあと5曲目の『軽民物語(けいみんストーリー)』ですが......。
中塩「タイトルの読み方は"物語"らしいです」
ーー歌詞では<ストーリー>と歌われていましたよね。
平川「僕らも"そうなんだ"と思いました」
ーーこの曲はツインボーカルですか?
平川「いや。『天使』で歌っていただいた女性、中塩くんと僕、作曲者の黒羽くんの4人で歌ってます」
ーー皆さん歌われるんですね。
平川「そうですね。今回は下河辺以外は歌ってます。『かれら』は橋本くんが作った曲ですが、僕がメインボーカルでオクターブ下で橋本くんがコーラスしています。『軽民物語』は僕と中塩くんと黒羽くんがそれぞれ歌って、それを作曲者の黒羽くんが"ここは平川くんで"、"ここは中塩くんで"と切り貼りして作ってました」
ーー街の音が入ってくるような部分がありますよね?
平川「街の喧騒みたいにしたかったと言っていて、大阪のアメ村でフィールドレコーディングをしました」
ーーアメ村の喧騒なんですか! 音楽を作る手段が広がっている感覚はありますか?
平川「前回のアルバムはほんとにバンド4人の演奏をやるだけみたいな感じだったんですけど、今回は制作にもレコーディングにも時間をかけられたので、色んなエディットもアイデアとして入れられた感覚はありますね」
ーー中塩さんはジャズの研究をされているとお聞きしたのですが。
中塩「そうですね、今研究してます。今回のアルバムはかなりジャズ感が出ましたね。コードの感じも、ドラムのチューニングもジャズによくある高めのチューニングにして録ったり、もろジャズっぽいパートを入れてみたり、そういうところで発露されました」
ーー研究の先の展望というのは?
中塩「知識欲も結構あって。"この複雑なコード進行は何で成り立ってて美しい感じがするんだろう"とかそういうことを考えつつ、アイデアを自分の作曲に活かせていけたらなと思いながら日々聴いてますね」
ーー平川さんは極めたいとか研究したいものはありますか。
平川「今のところ研究対象はないんですけど、2〜3年前に、僕と中塩くんがジャズにハマる前、"名前は知ってるけど全然聴いたことのない音楽を2人で担当して聴こう"みたいな感じになって。中塩くんがマイルス・デイヴィス担当で、僕はフランク・ザッパ担当で、お互いがその音楽を聴くみたいな。ザッパは音楽的にも色々な知識を持ってる人なんですけど、僕も彼の表現の発露の方法やイメージに共感できるというか。"ここでこれをやりたくなるのはわかるな"という感覚があって。それは歌詞というよりは、リードギター弾く時などに無意識に入ってると思います。ある友人から『裸、道すがら』のギターを"ザッパみたいでいいよね"と言われた時、めちゃくちゃ嬉しかったです。別に研究してるわけじゃないけど、吸収した色んなものが無意識的に出るんだなって。ザッパはこれからもっと聴きたいと思います」
ーー良いお話をたくさんありがとうございます。改めて今作は、Khakiにとってどんなアルバムになりましたか。
中塩「約3年半ぶりのアルバムで、ライブもやりつつ、シングルも出しつつ活動していたら、聴いていただける方も増えてきて。それと共に、だんだん膨らんでいく皆のアイデアや曲の作り方に、今のKhakiの状態をうまく保存できたアルバムだなと思ってますね」
ーー今のKhakiだからこのアルバムができた。
中塩「そうだと思います」
平川「"2025年5月現在のKhakiはこういう感じなんだ"ということが、楽曲が出揃って、ないしはこういうインタビューをしていただいてよくわかるようになりました。歌詞もそんなイメージがありますし、それこそ自分たちの思考的に、次は同じように展開が多い曲が入ったアルバムになるということでもないと思うので、今後の自分たちも予測がつかないですし、楽しみです」
Text by ERI KUBOTA
(2025年7月 7日更新)
3300円(税込) / PECF-3299
【収録曲】
01. 裸、道すがら
02. 君のせい
03. 天使
04. Winter Babe
05. 軽民物語
06. かれら
07. 夢遊病
08. 文明児
09. 彩華
10. 白鳥の湖
11. 才能の方舟
12. 害虫
Khaki(カーキ)…東京都出身のオルタナティヴロック・バンド。メンバーは中塩博斗(g,vo)、平川直人(g,vo)、下河辺太一(b)、橋本拓己(ds)、黒羽広樹(key)の5名で構成。メンバー全員が作詞・曲を務めるほか、音源や映像、グッズなど自らが企画制作を行なう。2018年に早稲田大学のバンドサークルにて結成し、翌年に1st EP『Thirteen』を発表。2021年より本格的に始動し、同年に1stアルバム『Janome』を発表。ライヴも盛況を収め、2025年5月に2ndアルバム『Hakko』をリリース。
【福岡公演】
▼7月13日(日) 秘密
[共演]aldo van eyck
【東京公演】
▼7月17日(木) 渋谷CLUB QUATTRO
[ゲスト]The Novembers
公式サイト
https://www.khaki-band.com/
Instagram
https://www.instagram.com/khaki_band/
YouTube
https://www.youtube.com/@khaki_band