ホーム > インタビュー&レポート > 「自分たちは弱い人間だけど、誰かを守りたいし寄り添いたい」 “あなたのそばで、音楽を鳴らす”というバンドの意志を込めた 4thミニアルバム『Hertzmetre』(ヘルツメートル)を携えて 全国9都市でのワンマンツアー“One call away”を開催中! yutori・佐藤古都子インタビュー
バンドを組むまでは自己肯定感が低かったが
ライブを重ねてちょっとずつ自身がついてきた
――yutoriの活動がスタートしたのは2020年の12月ということで、すでに活動期間は4年半ですね。そもそもどういったきっかけから始めたのですか?
「私が1曲だけレコーディングをしてみたくて、そのためにメンバーを集めてyutoriというバンドを組んだんです。(当初は)5年後、10年後とか、すごい先のことは全員考えてなかったし、メンバー間でも、ほんとに今目の前にあることだけをやるみたいな感じで5年近く続けてきました」
――佐藤さん自身がyutoriに一番可能性を感じてることは?
「なんでもできる気はしています。『スピード』(TVアニメ『ヴィジランテ -僕のヒーローアカデミアILLEGALS-』のエンディングテーマ曲)が今回みたいにアニメと関われることもそうですし、この4人でひとつの音楽を作って、yutoriっていうものを動かしていく状況がすごい楽しいですね」
――佐藤さんのボーカル力というのもすごく大きいですね。
「ありがとうございます。そもそもyutoriを始める前は歌は好きだけど、自分の声があんまり好きじゃなくて(苦笑)。でも歌が好きだから何かしらで歌っていたいみたいな思いはあったんですけど、小中の頃は自己肯定感がすっごい低くて。高校1年の時に軽音部に入って初めてバンドを組んでから、ちょっと楽しいなと思うようになりました」
――自分の声が好きじゃなかったというのは意外ですが、バンドを組んでから発声方法を変えたのですか?
「何も変えてないんですけど、ありがたいことにラジオに出させていただいたり、ライブで自分の声を人に届けるようになってからは好きになりましたね。でも、yutoriの初ライブの時も他メンバーに喋ってもらって、私はもう喋りたくない、人に自分の声を聞かせたくないみたいな感じでした。でもライブを重ねていって、ちょっとずつちょっとずつ自信がついて、自己肯定感も上がってきました」
――そういう力を音楽やバンドからもらったと。
「そうですね。あと、SNSでお客さんがありがたいことに褒めてくださって。うちのギターの(内田)郁也がライブ終わりにすぐにエゴサをするんですよ。さすがにまだ誰もつぶやいてないんじゃないかなって思うのに、私のことやバンドを褒めてくれてるようなツイートがあったらすぐにそれを見せてくれるので、そういうのを見て良かったと思ったりもしましたね」
――メジャーデビューシングルであり、最新作となる4thミニアルバム『Hertzmetre』(ヘルツメートル)の1曲目にもなっている『スピード』がTVアニメ『ヴィジランテ -僕のヒーローアカデミアILLEGALS-』のエンディングテーマ曲となりました。
「『ヴィジランテ -僕のヒーローアカデミアILLEGALS-』(以下、『ヴィジランテ』)はヒロアカの公式スピンオフなんですけど、『僕のヒーローアカデミア』に中高でドハマりしてて、友達といわゆるオタ活してたぐらい好きな作品だったんです。そんな作品のスピンオフっていうこともあって、アニメが始まる前から原作漫画を読んでたんですよ。メンバーそれぞれ読んでて、新刊が出るたびに"この展開はやばい!"っていう話をしてたので、まさかその作品のエンディング曲に決まるとは!という感じでしたね。アニメの初回放送はメンバー全員で見ました」
――そこでひとつ、夢が実現したんですね。
「はい、夢がひとつ叶いました」
――それはご自身にとってもバンドにとっても、やっぱり大きな自信になりますよね。『スピード』という曲自体はどういう風に作られたのですか。
「yutoriとして5年近くやってきて、本当にお客さんに伝えたいことってなんなんだろうね?みたいなことをメンバーで話し合っていた時に作った楽曲だったので、『ヴィジランテ』と重なるところがあったんです。yutoriのモットーとして、自分たちは弱いけど、聴いてくれてるあなたを守りたいし、寄り添いたいっていうことを常に思っていて。『ヴィジランテ』の主人公の灰廻航一はヒーローになりたいけど、その個性がヒーロー向きではないから、自警団ヴィジランテとして町の人を助けていくんです。航一も言ってしまえば個性が弱いし、私たちメンバーも元々弱い人間なんです。でも、誰かを守りたい、誰かを救いたいっていう気持ちが一緒だったのでそこが自分たちと重なるなと」
――『スピード』の歌詞もそういう弱くてセンシティブな部分をさらけ出してるような気がします。その上で強い決意を歌ってますね。
「そうですね。『スピード』で、<弱気な奴の守るだなんて響かないよな わかってる わかっていても>っていう歌詞を書いたのはドラムの(浦山)蓮なんですけど、確かにわかるなぁって思いながら歌いましたね。私自身もずっと弱い人間なので、ボーカルレコーディングの時も素の自分で歌いましたね。なので、そこの部分はワンテイクで録りました」
――誰か別の主人公を演じるってよりも、佐藤さん自身と重なったんですね。だからこそ自然に歌えて、佐藤さん自身の内なるパワーを発揮できたんですね。この曲も佐藤さんのボーカリストとしての表現力の高さを感じました。ABメロはフラットに歌ってる印象で、<今のスピードじゃ追い越せないから~>っていうサビで一気に跳躍するような歌唱がすごく惹きつけられます。
「ありがとうございます。ABメロの歌詞が悲しげというか、けっこう卑屈なことを歌ってるなと思って。そこでわざと強い声で歌ったら台無しになってしまうので、曲にも失礼だなと思ったんで、その歌詞に合わせた声色で歌いました。でもサビは決意を固めたような歌詞なので、それに合わせた声にしました」
――そういう歌唱に関してはご自身の皮膚感覚で歌ってるんですか?
「そうですね。私がyutoriを始めた理由として、歌える場所が欲しかったから始めたので。自分が歌ってて楽しくなきゃ意味がないと思ってるので、曲を聴いて自然と出る表現を大前提に、そこから細かいアレンジ方法とかを考えますね」
――ご自身の感覚を重視してるからこそ、聴き手にも真実味を持って伝わってくるのかもしれないですね。お話しされてる時の佐藤さんの雰囲気も冷静ですごくカッコイイなと思います。
「いえいえ、冷静じゃないです(笑)」
――この『スピード』はyutoriの代表曲になるような1曲ですね。
「そうですね、人生で1回しかないメジャーデビューの楽曲なので、すごく大事ですね」
誰一人味方がいなかった
ひねくれた小学生の頃の自分に向けて歌った『スーパームーン』(M-7)
――4thミニアルバム『Hertzmetre』(ヘルツメートル)は『スピード』で始まって、ラストの『スーパームーン』まで曲順もけっこう考えましたか?
「かなり考えました。今のyutoriが出せる100パーセントの力を7曲それぞれ詰めてるので。こっち側の好きな順番に並べることもできるんですけど、今のご時世は単曲で聴く方が多くて、アルバム全部通して聴かれる方って減っちゃったイメージが自分の中ではあるんですけど。せっかくだから1曲目の『スピード』から『スーパームーン』まで、7曲通して聴いてくれたら、曲の良さがもっともっとわかりやすいような曲順にしてやろうと思って。4人ですごく考えましたね。なのでできたら1曲目から順番に聴いてほしいです。『Hertzmetre』(ヘルツメートル)というタイトルも"この音が届く距離"っていう意味を込めていて。言葉は違えど、7曲ともぜんぶ"距離"を歌った歌詞なんですよ。なので、そこに注目しやすいような曲順にしましたね」
――その距離というのは"私とあなた"の?
「そうです。"私とあなた"もそうですし、『スーパームーン』に関しても月と私の距離でもあったりするので」
――『スーパームーン』はなぜラストにしたのですか?
「この曲は、自分自身に向けて歌った楽曲なんですよ。スーパームーンの日(2024年10月17日)にこの歌詞を書いたんです。小学生の頃の昔の自分はすごく人を信じられなくなってて。家族もそうですし、小学校のクラスメイトも担任も、誰一人味方がいないっていうすごくひねくれた小学校時代だったんですけど。その時の自分にあてて作った楽曲で。その小学校の時からずっと月が好きで、何かあったら、自分の部屋の窓から月を眺めてる子で、今、21歳になってもやってることが変わらないなと思って。で、月の光を通して、昔の自分に会えるんじゃないかなと思って、ほんとに会うだけでよくて。そういう、ちょっと淡い期待を込めた1曲ですね。その時の自分は音楽を聴けるものがCDしかないと思ってて。スマートフォンもパソコンも持ってなかったので」
――それは約10年ぐらい前のことですよね。
「そうです。その時にずっと聴いていた音楽が、ユーミンさんの45周年記念の2枚組のCDで。曲を飛ばすってことが分からなくて、アルバムを頭から最後まで聴くような子だったんですよ。なので、もし昔の自分にこの『Hertzmetre』(ヘルツメートル)』というアルバムが届いたら、頭から聴くし、何かしながら曲を聴く子だったんです。でもアルバムを全部聴き終わったら、ボタンを押して1曲目まで戻らないといけないから、最後の曲だけCDプレイヤーの前でじっとして聴いてたんですよ。昔の自分は最後の曲をぜったいにそうやって聴くから、『スーパームーン』は1番最後に入れようと思って。昔の自分には月の光があって、その先には21歳になった私がいるから。もうちょっと頑張って生きててもいいよっていう...、もうほんとに自己満な1曲ですね。裏を返せば、他の楽曲はぜんぶ聴いてくれてる人のことも思って歌って作ってるんですけど、この曲だけは考えなかったですね。小さい頃の自分だけを考えました」
――そういうお話を聞くと、もう1回じっくり聴きたくなりますし、『スーパームーン』を自分と重ねて聴く人もいると思います。
「そうですね。SNSでもそう言ってくれてる方とか、『スーパームーン』で自分と重ねて泣いちゃったみたいに書いてくれているのをいくつか見て、あー良かったなって思いましたね」
『NOT MUSIC』(M-2)は歌詞もサウンドも挑戦的な楽曲
――佐藤さん自身が歌詞を書いてる曲は『スーパームーン』ともう一曲『白い薔薇』があります。この歌詞はどのように書いたのですか?
「『白い薔薇の淵まで』という小説にものすごく衝撃を受けて書きました。こういう恋愛もあっていいんだ、みたいな。」
――この曲の佐藤さんの歌唱も素で歌ってるような部分とエモーショナルになるところのコントラストが鮮烈です。歌う時に意識したことは?
「この小説の登場人物の2人のことを思い浮かべながら歌ってて。レコーディングの時に多少の待機時間があるので、その間にずっとボーカルブースで『白い薔薇の淵まで』を読んでましたね」
――そこはある意味、演じるような気持ちで?
「演じるというか、2人の話を歌う朗読者みたいな、第三者の立ち位置として歌いましたね」
――そうなんですね。どの曲もさらっと聴き流せないフックの強さを感じますが、『Hertzmetre』(ヘルツメートル)』の中でサトウさん自身がここをぜひ聴いてほしいというポイントがあれば教えていただけますか。
「『NOT MUSIC』(M-2)という曲はけっこう挑戦的な楽曲だなと思っていて。歌詞もそうですし、ボーカルチョップを入れて遊んでみたりしているので。今までそういうことはしたことがないけど、メジャーデビューしてから初めて出すミニアルバムだし、遊び心と挑戦心でやれることはやってみました。ボーカルのレコーディングもそうですし、相手を小馬鹿にするような歌い方をして遊びましたね。でも歌詞の本質としては、本音は楽になりたいだけだし、音楽だけは裏切らないでほしいという、本心が垣間見えてるのが面白いなと思いますね」
――確かにタイトルもそうですけど、ちょっと辛辣な表現がありますよね。でもそれは音楽を大事に思ってるからこそ?
「そうですね、大事に思ってるからこそ出てくる表現なのかなと思います」
――この曲はボカロの影響もあるですか?
「もともと私と蓮の2人が特にボーカロイド、インターネットミュージックにすっごい救われてきたし。たくさん聴いてきた人間だったので、こういうことやりたいよねみたいな話はしますね」
――そういう要素もサウンドに入れつつ、ストレートなロックサウンドっていうのがベースにあって?
「ギターロックを根底に持ちながらも、色々な挑戦をしてもいいだろうと思ってます」
――今後も曲の幅は広がっていきそうですか?
「広げていきたいですね。別にやっちゃいけないこととかないと思うので、楽曲面で何してもいいし。変なアレンジをしても、ちょっと変わった楽曲とかサウンドをしてもいいと思ってるので」
最初はふわふわした感じだったけど
メンバーを引っ張って行きたいという意識が芽生えてきた
――ライブも楽しみですね。ボーカルとして佐藤さん自身が意識していることは?
「いつだってメンバーを引っ張ってはいきたいです。メンバーからも頼られる人でありたいし、"古都子がいるからyutoriは大丈夫だ"と思っててほしいところはありますね」
――それはバンド結成時点からそう思ってましたか?
「いや、もう全く(笑)。結成した時は本当にもう流されるまま、たどり着いた先がyutoriみたいな感じだったので。ここでどう生活して息をしていったらいいんだろうなぁ...みたいな、ふわふわした感じは最初の2年ぐらいはありましたね」
――でもいろんな経験を経てきて...。
「メンバーを引っ張っていきたいという意識がやっぱり芽生えましたね。この子たちの人生を少なからず私が背負ってるんだなっていう、最初はそれがすごいプレッシャーで嫌だったんですけど、今はなんか嬉しいなと思いますね。背中を預けてくれてるのが」
――今回の4thミニアルバム『Hertzmetre』(ヘルツメートル)が完成して一番実感してることはどういうことですか?
「メジャーデビューした実感が最初すごくなかったんですけど、このミニアルバムを出したことによって、メジャーデビューしたっていう自覚と、さらっと言ってしまうとyutoriの第二幕が始まった感じはすごくありますね」
――その第一と第二幕の違いというのは?
「第一の時はもうほんとにプレッシャーと、楽しまなきゃいけないみたいな義務感みたいなのがあった気がしてたけど。『Hertzmetre』(ヘルツメートル)を出したことによって、気づいたら楽しかったり...っていう気持ちはあって、居心地がいいですね」
――始めた時が16歳で、今は21歳で5年のキャリアがあるというのもすごいなと思うんですけど、年齢的なものはどういう風に感じてますか?
「すごいシンプルに言うと、20代になるのが怖かったんです。将来を見据え出す年齢でもあるし、今大学4年でまわりが就活やインターンに行ってて、ゼミの先生が就職説明会がありますよとか言ってるのを聞くと、そうか世間は就活の時期かと思うことは増えましたね」
――20代になりたくなかった?
「なりたくなかったです。なんか大人にならなきゃいけない気がしてて。でも蓋を開けてみたら全然そんなことないから、好きなように好き勝手やらせてもらおうって思ってます」
――4月12日から、"One call away"というワンマンツアーも始まってますね。
「はい。新しいyutoriをみんなに観てもらうっていうのと、私たちは何も変わりませんよっていうのをみんなに届けるためのツアーなので、その意識が強まってます。やっぱりツアーって一公演一公演成長していくものだなって自分は思ってて、そのファイナルが大阪です」
――どんなライブが目撃できるのかとても楽しみですね。ありがとうございました!
Text by エイミー野中
(2025年6月20日更新)
Mini Album『Hertzmetre』
発売中 2530円(税込)
KSCL-3579
01. スピード
02. NOT MUSIC
03. 白い薔薇
04. 合鍵とアイロニー
05. 1 sheep to sleep
06. 純粋無垢
07. スーパームーン
ゆとり…佐藤古都子(さとうことこ)(vo&g)、浦山蓮(うらやまれん)(ds)、豊田太一(とよだたいち)(b)、内田郁也(うちだいくや)(g)
声にならない言葉を歌う、関東出身平均22歳4人組バンド。
【東京公演】
▼6月29日(日) Zepp Shinjuku(TOKYO)
チケット発売中 Pコード:295-442
▼7月11日(金) 19:00
BIGCAT
スタンディング-4500円(ドリンク代別途要)
※未就学児童入場不可。
※販売期間中はインターネット販売のみ。1人4枚まで。チケットの発券は7/4(金)10:00以降となります。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888