ホーム > インタビュー&レポート > 舞台を東京・新代田FEVERへと移し、大阪編に引き続き The NovembersとHomecomingsが再共演した 『JANUSPIA pre. "danro" vol.4』ライブレポート
暗転した場内に、ジーン・ケリーの「Singin' In The Rain」が流れ出す。The Novembersのライブが始まる合図だ。メンバーの小林祐介(Vo, Gt)、ケンゴマツモト(Gt)、高松浩史(Ba)、吉木諒祐(Dr)が拍手と歓声が響き渡るなか登場。小林がエレキギターをゆっくりとかき鳴らしながら〈リズムに合わせて/呼吸を合わせて/やっぱ合わないなってところを/愛すのさ〉とサビから歌い上げる。それに導かれるよう、高松のベースがソリッドな8ビートを弾(はじ)き出し、パワフルな吉木のドラムと宙を切り裂くようなマツモトのギターが覆い被さった。まずは2020年にリリースされた、通算7枚目のアルバム『Angels』表題曲からライブをスタート。麗らかなメロディーを小林と高松が息を合わせてハモるセクションと、音の壁が迫り来るような轟音セクションが交互に訪れ、次第にアンサンブルがヒートアップしていく。
「こんばんは、The Novembersです」と小林が短く挨拶。続いて演奏したのは「Seaside」。憂いを帯びたギターのアルペジオとイノセントな響きを称えたメロディーが、ザ・キュアーやザ・スミス、エコー&ザ・バニーメンあたりを彷彿とさせる疾走感あふれる楽曲だ。吉木のドラムはセクションごとにリズムを引き伸ばしたり倍にしたり、時間軸をコントロールしながらオーディエンスを記憶の奥深くへと誘い込む。
シンセベースの重低音が轟き、天から降り注ぐような幽玄なギターが会場を満たしたのは「Morning Sun」。この曲も小林と高松が紡ぐハーモニーが心地よい。まるで無重力の宇宙へと投げ出されたようなブレイクを経て、突如マツモトの痙攣ギターが緻密なサウンドスケープをカオティックに切り裂いていく。それに応えるかのように、吉木のドラムがスパークし会場が眩い光に包まれると、フロアからはひときわ大きな歓声が上がった。
間髪入れず、オリエンタルなシンセフレーズが響き渡る。そこに「人力ドラムンベース」ともいうべき吉木のドラムがシンクロし、フロアは再び歓喜に沸き返る。2020年にリリースされた、通算8枚目のアルバム『At The Beginning』の冒頭曲「Rainbow」だ。流麗なシンセサウンドに溶け込むような小林の甘美な歌声と、サビのギターエクスペリエンスを突き抜けていくようなハイトーンのシャウト、その鮮やかなコントラストをストロボの照明がさらに際立たせる。エンディングでは荒ぶるフィードバックノイズのなか小林とマツモトがギターを、高松がベースを頭上に掲げ、この日最初のクライマックスを迎えた。
さらに真紅の照明の下、フロント3人がヘッドバンキングしながら阿鼻叫喚のダークウェーヴを放つ「Hamletmachine」、まるで『Surfer Rosa』期のピクシーズのような狂気を纏った「Boy」と立て続けに演奏。そして、トライバルかつインダストリアルなビートを基軸に、自身のレパートリーである「Tokyo」と、芸能山城組「KANEDA」(映画『AKIRA』サウンドトラック)のカバーをマッシュアップした後半の展開が、この日のハイライト。ストロボが点滅する暗闇の中、手を翳しながら〈ラッセラ、ラッセラ〉とシンガロングする光景は、ディストピアで繰り広げられるミサのよう。こんな特異な空間を生み出せるバンドは、The Novembersをおいて他にいないだろう。
「改めて、今日みたいな日をつくってくれた関西チケットぴあ、心斎橋JANUS、そしてこの会場・新代田FEVERに心から感謝しています。関わってくれたすべてのスタッフ、そして何より、ここに集まってくれた皆さんのおかげで、このあとのHomecomingsも含めて最高のイベントになると思います。本当にありがとうございます。このライブが終わったら、僕たちはタイに行き、そのあと2回目の中国ツアーが待っています」9曲目の「New York」まで一気に演奏したあと、小林がゆっくりと話し始めた。
「海外へ行き、目に映る景色やその土地での体験、そうしたリアルのなか気づかないうちに、『〇〇人だからきっとこうだろう』なんて、自分の都合で誰かを判断してしまうことがあるかもしれない。でも僕が思うのは、いいやつ悪いやつ、最高なやつ最低なやつはどこにだっているし、たぶん自分自身の中にもその全部があるということです。そんな世界のなか僕らが信じている『正義』は、目の前にいる人に対して誠実であろうとすること。これから僕たちは、日本を代表するつもりでタイや中国に行きます。規模は小さいかもしれないけれど、『こいつらがいる国って、かっこいいな』『こういう文化をもっと大切にしたいな』『いつか、こいつらのいる国に行ってみたいな』と少しでも思ってもらえたらいいなと。そういう気持ちで行動することこそが、僕たちなりの『プロテスト』であり『反抗』なんだと思っています。大きな声じゃなくても、背中で見せられる何かがあると信じています。これから演奏する最後の曲は、そんな僕たちとHomecomings、そしてここにいるあなたに向けた曲です。またどこかで、今日ここにいる皆さんと元気な顔で、かっこよく再会できたらうれしいです。最後まで楽しんでいってください。本当にどうもありがとう」
そう挨拶し、通算6枚目のアルバム『Hallelujah』(2016年)から「いこうよ」で、この日のライブを締めくくった。
続いて登場したのはHomecomings。デス・イン・ヴェガスの「Girls」をBGMに、メンバーの畳野彩加(Vo, Gt)、福富優樹(Gt)、福田穂那美(Ba, Cho)が、この日のサポートメンバーであるkurayamisakaの堀田庸輔(Dr)とともに現れると、フロアから暖かな拍手が起こる。まずは、昨年11月にリリースされたメジャー3rdアルバム『see you, frail angel. sea adore you.』から「angel near you」でこの日のライブに幕を開けた。
心地よい16ビートの上で、煌めくようなギターのアルペジオとメロディックなベースラインが揺れる。触れた瞬間に壊れてしまいそうなほど繊細なサウンドスケープ、その隙間を縫うようにたゆたう畳野の歌声は、はかなげであると同時に凛とした強さを持ち、聴き手の心の奥へとまっすぐ届く。音数は決して多くない。けれども言葉の一つひとつ、音の一粒一粒が丁寧に配置されたその空間には、呼吸のような余白と今この瞬間を確かめるようなリアリティが宿り、The Novembersの持つ濃密な音世界とはまた違ったベクトルで、こちらの想像力を刺激する。
「よろしくお願いします、Homecomingsです」と畳野が挨拶し、続いて演奏したのは「luminous」。テンポをぐっと落とし、ヘヴィかつグルーヴィーに繰り出されるビートが、ファルセットを交えた畳野の歌声を引き立てる。物憂げに佇む畳野、福田とは対照的に、体を大きく揺らしながらノイジーなギターをかき鳴らす福富。そんなユニークなフォーメーションも、Homecomingsの魅力の一つだ。
メジャーからの2ndアルバムとなる『New Neighbors』(2023年)から披露した「euphoria / ユーフォリア」は、心地よい畳野のギターと、トレモロのかかった福富のクランチギターが融合し聴き手の心をざわつかせる。サビでドラムとベースが一斉に加わり、そこからエンディングへ向かってじわじわと盛り上げていく、まさにユーフォリック(高揚感溢れる)なナンバーだ。
「改めましてHomecomingsです。今日のこのイベント、本当に楽しみにしていました」と福富が挨拶。「The Novembersとはお互いにリスペクトし合っているし、どっちが主催とかそういう関係でもなくて......。こういうツーマンイベント、実はすごく貴重なんですよね。特に最近はワンマンライブが増えてきた印象もありますが、もともと僕ら自身も、そしてきっとThe Novembersのみなさんも、こういう夜を経て仲間というかリスペクトできる存在を見つけ、それがバンドを続けていく糧になったり、そんな夜に救われたりしてきたと思うんです。一見すれば単なるツーマンライブかもしれないけど、それ以上にこの『danro』は価値のあるイベントです。たまたま今回は僕らが後攻を務めさせてもらったけど、The Novembersから引き継ぎアンコール分も本編でしっかりやって、ダワさんのDJを楽しんで最後帰るっていう、この空気感が最高やなと。だからみなさん、時間が許す限り今日は最後まで楽しんでいってください」
溢れる想いを吐露したあと演奏したのは、再び最新作から「recall (I'm with you)」。ハチロクのどっしりとしたリズムの乗せた、抑揚たっぷりのメロディが心地よい。畳野と福田による美しいハーモニーも、細胞の隅々に染み渡っていくようだ。ギブソンの赤いSGを畳野が静かにかき鳴らす後ろで、福富と堀田がアイコンタクトをとりながら徐々にボルテージを上げていく。そしてカオティックに広がるフィードバックノイズと目が眩むようなストロボが会場を包み込んだ。
深くリバーブをかけたドラムが鳴り響く「Shadow Boxer」は、縦横無尽にリズムを変化させながら、まるで音そのものが生き物のようにうねり、呼吸し、空間を支配する。畳野のボーカルは、時にささやくように、時に真っすぐに伸びあがりながら、言葉のひとつひとつに感情を宿していく。そして、福富のエモーショナルなギターソロを合図に、バンドは怒涛のフィードバックノイズを放出。フロアは歓声と拍手で沸き立ち、一体感がピークに達する。まるで音と光が渾然一体となって降り注ぐようなその瞬間、Homecomingsが描く「儚さのなかの確かな熱」が、会場の隅々にまで染み渡っていた。
スペイシーかつノイジーなSEを挟み、「ghostpia」ではツインギターのオーケストレーションと、ルート音をあえて外したベースフレーズが浮遊感溢れるサウンドスケープを構築。ノスタルジックなメロディに浸っていると、時折カットインするノイジーなギターとドラムのフィルが心を揺さぶる。「今日はありがとうございました、Homecomingsでした!」と福富が挨拶し、4つ打ちのキックに乗せ〈これは私たちの歌〉と畳野が力強く宣言するダンサブルなキラーチューン「US / アス」、ドラムンビートを取り込んだ疾走感あふれる「blue poetry」を続けて披露。そして、2017年にリリースされた3rdEP『SYMPHONY』から、ミドルテンポの名曲「PAINFUL」を演奏し、この日のイベントに幕を下ろした。
HomecomingsとThe Novembers、それぞれに異なるアプローチで音楽と向き合いながらも、交差する部分を確かに感じさせたこの夜。それは単なるツーマンではなく、ジャンルを越えた音楽的対話であり、敬意と刺激に満ちた共演だった。次なる『danro』が、どんな化学反応を見せてくれるのか。この場に立ち会った誰もが、その続きを待ち望まずにはいられない。
(2025年6月18日更新)
01. ANGELS
02. Seaside
03. Morning sun
04. Rainbow
05. Hamletmachine
06. BOY
07. TOKYO
08. KANEDA
09. New York
10. いこうよ
01. angel near you
02. luminous
03. euphoria / ユーフォリア
04. recall (I’ m with you)
05. Shadow Boxer
06. ghostpia
07. US / アス
08. blue poetry
09. PAINFUL
The Novembers 自主企画「首 Vol.17」
▼7月14日(月) 18:30
梅田クラブクアトロ
一般スタンディング-6600円(整理番号付、ドリンク代別途要)
学割スタンディング-3300円(当日要学生証、整理番号付、ドリンク代別途要)
[ゲスト]People In The Box
※小学生以下は入場不可。中学生以上は有料。
※学割チケットを購入されたお客様は当日学生証の提示が必要となります。お持ちでない場合は差額をお支払いいただきますので予めご了承ください。
[問]GREENS■06-6882-1224
【愛知公演】
▼10月29日(水) 名古屋クラブクアトロ
The Novembers 結成20周年記念公演「Your November」
【東京公演】
▼11月20日(木) LINE CUBE SHIBUYA
「京都藝劇 2025」
【京都公演】
▼8月11日(月・祝) 14:30
KBSホール
オールスタンディング<一般券>-5800円(整理番号付、ドリンク代別途要)
オールスタンディング<学生券>-4800円(当日要身分証、整理番号付、ドリンク代別途要)
[出演]クレナズム/The Novembers/ストレイテナー/TETORA/Hakubi/ULTRA/No Fun/hananashi/雪国
[問]清水音泉■06-6357-3666
Homecomings presents 「many shapes, many echoes」
▼7月12日(土) 18:00
梅田クラブクアトロ
スタンディング(一般)-5000円(整理番号付、ドリンク代別途要)
スタンディング(学割)-3500円(学生証要提示、整理番号付、ドリンク代別途要)
[ゲスト]No Buses/LAUSBUB
※4歳以上チケット必要。学割チケットは入場時に学生証提示必須、未所持の場合は差額1500円を徴収。
[問]SMASH WEST■06-6535-5569
【愛知公演】
▼7月13日(日) 名古屋クラブクアトロ
[ゲスト]downt/MASS OF THE FERMENTING DREGS
【東京公演】
▼7月21日(月・祝) 渋谷CLUB QUATTRO
[ゲスト]ART-SCHOOL/雪国
The Novembers Official HP
https://the-novembers.com/
Homecomings Official HP
https://homecomings.jp/
FLAKE RECORDS Web Site
https://www.flakerecords.com/
心斎橋JANUS HP
https://janusosaka.com/