ホーム > インタビュー&レポート > 初のアジアツアーを経て、視界は良好! 配信シングルリリースが続く、あたらよ全員インタビュー
現在のあたらよとしての制作方法が
すごくフィットしている
――今日は4月にリリースするシングル2枚についてのお話を伺っていきたいと思っています。2024年の活動を振り返って、この2枚のシングルの制作につながっていると思える出来事を挙げることはできますか?
まーしー「超個人的にはデモ制作のスピード感が上がったことはすごく大きかったと思います。2024年はとにかく忙しくさせてもらってたくさんの経験を得たので、パパッと作ることができるようになったというか」
――それって、メンバー内で今のあたらよの方向性がしっかり共有できているということもありますか?
ひとみ「共有するということはないんですけど...私とまーしーが曲を書くことが多いんです。出した時に"違う"と思えばちゃんと意見するけども、今のところはそれがあまりないなと思います。自分たちの中で感じ取っているものが大体同じなのかな」
――デモ制作のスピードが上がることで可能になることっていうと...。
まーしー「単純に1曲に対する時間が増えるので、しっかりと練ることができますね。時間があって聞き直すのと、時間がない中で聞き直すのでは全く違いますから。もっとここにフックをつけたいとかここはいらないよねとかいろいろなことが見えてくるので。まぁ、そもそも前はデモがなかったから」
――デモがなかった!?
ひとみ「これ、ほんっとーに初期の話をしているんですけど!」
――"デモがない"ってパワーワードですねぇ。
ひとみ「あたらよ初期はみんなでスタジオに入って、セッションで曲ができていたんです。バンドの全体像を見つつ作っていくやり方はしていませんでした。でも今は私が歌詞とメロディーを考える時は、バンドの全体像はまーしーに任せていて。だからそもそもの作り方の違いがあるかなと思います」
――私が"デモがなかった!?"と驚いた時、たけおさんは首がもげそうなほどうなずかれていましたけども。
たけお「そうですねぇ」
ひとみ「当時は一番彼が大変だったかもしれないです」
たけお「スタジオで合わせてしっかりと固めて、よしRecやろう! ってなるんですけど、事前に固めたことがRecではガラッと変わる傾向にあって。そこまで自分が考えていたものが"当てはまらないぞ"ということが多発していたんです。その場で考え直すのが大変だった時期ですね」
――その頃とは違う新しいやり方は、現在のあたらよにフィットしている感じはありますか?
まーしー・たけお「うん、ありますね」
ひとみ「私も心地よくやれていると思います」
――じゃあ昨年の活動スケジュールがあれだけ過密でも、余裕を持って作れるようになったのは大きいですよね。昨年というと、ツアーでアジアに進出したことも大きかったのかなと思います。アジアツアーはバンドに何を残したでしょうか。
ひとみ「今までSNSやYouTubeのコメント欄も海外の方の声が多くて。こんなに聴いてくれているのと感動しつつ、でも本当に? という気持ちもちょっとあったんです。台北や上海以外にもシンガポール、インドネシア、マレーシアの人も多かったかな。ただあくまでもネットのコメントだから、実態が掴めずにいたのもあって"本当にこんなに応援してくれている人がいるの?"と。でも現地に行ったらすごい数の人が私たちを待っていてくれました。台北公演は30秒くらいで完売してしまって」
――30秒!
ひとみ「慌てて追加公演を発表して結果的に2デイズになりました。実際に現地に行くと、みんなすごい熱量なんですよ。そもそも日本でやるライブとお客さんの聴き方が違うんですけど、それを踏まえたうえでも熱量がすごかったです」
――ちなみにその日本人の聴き方というと?
ひとみ「個人個人の感じ方を大切にするのが日本人の聴き方かなと思います。聴き時はちゃんと聴く、みんなで盛り上がりたい時は盛り上がる。個々の感性や曲の受け取り方を尊重してあげる聴き方な気がして、素敵ですよね」
まーしー「あとはお客さんも僕らを盛り上げてくれようとするのが面白いというか。バラードの時は声には出さないけどいいと伝えてくれるニュアンスがあるし、激しい曲の時は思いをそのまま声に出して伝えてくれる。それは面白いと思います。曲調によって本当に聴き方や伝え方も変わる感じがしますね」
――一方アジア公演では何を感じたでしょうか。そもそも日本語詞中心のあたらよの言葉はわからない人も多いわけで...。
ひとみ「いや、もうライブ全編を通してみんな歌い続けるんですよ。日本のライブでは私たちは届ける側で、お客さんは受け取る側とわかりやすい対比なんです。でも海外のライブだとそれがごっちゃになるというか、むしろ戦いみたいになるというか(笑)」
――それってやりにくさを感じることはありませんか?
ひとみ「...って思うじゃないですか。これが意外と楽しくて」
まーしー「僕らもお客さんも相乗効果でどんどん楽しくなっちゃう感じです」
ひとみ「演者とファンの一体感がすごいんです。壁がぶっこわされて、"俺らもステージで歌えるぜ"という熱があります。そうやって向かってくるならこっちも負けないぞ〜と
――そういう新しい経験が、制作に与えた影響はありましたか?
まーしー「制作に関しては...全然ないかなぁ。ライブのやり方はやっぱり変わってくるのかなと思うんですけど、制作に関しては今のやり方がフィットしているというのが大きいですね。それほど今、しっくりきているんだと思います」
自分がいなくなった後のことを
想像するようにもなってきた
――そして4月はシングルリリースが続きます。まずは9日に「ツキノフネ」がリリースされました。この楽曲はTVアニメ『暗殺教室』の再放送 第1期エンディング・テーマということで...そもそもアニメの再放送でテーマ曲が新しくなるということも驚きでした。制作はどんなところから始まっていったのでしょうか。
まーしー「トラックに関しては結構迷ったんですけど、戦いの中で登場人物たちが成長していくシーンが印象的だったので、スピードやテンポは速めがいいなというのが出発点だったかな」
――テンポの速さはこの楽曲の意外な点でした。エンディングで疾走感を感じる曲というのが驚きで、むしろオープニング曲でもハマるのでは!? と。
まーしー「アニメの本放送の時のエンディング(moumoon /「Helloshooting-star」)はバラード調だし、それをリスペクトして僕らも曲を作るのもいいと思いました。ただそれよりも自分が作品から感じたことと、それを見た時の新鮮な気持ちを表現したいという方向に進めました。疾走感を感じられるサウンドって青春感も感じられると思うんです。アニメは学園ものという側面もありますし、この形になりました」
――まーしーさんからのトラックを受け取ったおふたりの反応は?
ひとみ「私は爽やかな曲が上がってきたなと思いました。アニメの制作陣とも楽曲の方向性を話し合ってから制作を進めたので、ある程度こういう感じの曲がくるだろうなとは思っていたけど想定していたよりも爽やかさが目立った印象です」
――アニメは爽やかさのある内容とは遠いですもんね。
ひとみ「今配信されているものとは違うギターリフが入っていたんです。それが爽やかというよりポップに感じた要因だったかなとも思います。そこから話し合っていく中でそこは別のリフに変わって今のサウンドになりました」
――たけおさんはどうですか?
たけお「疾走感がすごくいいなと思ったのが第一印象です。アニメの制作陣からもらっていた意見で"エンディングらしくならなくてもOK"みたいなものもあったので、確かにエンディングっぽくないかもしれないけど、これはこれで正解だと思っています」
――刷り込みなのかエンディング・テーマはしっとりしたものが来ると思い込んでいるというか。エンディングとはこういうものだ! という考え方も古いなと気付かされました。
ひとみ「あはは!」
――こういう疾走感あるトラックに対して、ひとみさんが大切にした歌詞の方向性を伺えますか。
ひとみ「『暗殺教室』に学生時代から触れてきた中で思うのは、学生って周りに同世代の子だけがたくさんいる環境に閉じ込められて、どうしても自分自身とも周りとも向き合わなきゃいけない。その場所で彼らは一体何を思うんだろうというところから考えました。そのうえで彼らはどう成長していくのだろうということを歌詞に反映させたいと思いました。特に『暗殺教室』の3年E組は落ちこぼれが集められたクラスで、"ちょっと暗殺してください"ってありえない展開の中で最初は意味がわからないながらみんながどこかしらやる気になってワクワクして、心のどこかでやれるわけがないと思いながらも暗殺を試みずにはいられない衝動の部分を描きたいと思いました」
――言葉のチョイスにもそれはすごく表れていると思います。
ひとみ「〈手を伸ばしてしまう〉というフレーズを入れたり、紙飛行機が川沿いに残されているという描写の部分はコロ先生との関わりを経て成長していった生徒たちが過去の自分を見た時に、どこに行っていいかもわからないし誰かがこう拾い上げてくれて飛ばしてくれないと飛べないと思っていた紙飛行機がいたことを自分だけは忘れないでいようというイメージで。成長して心の変化があって大人になったなと思うところもあるけど、決して過去の自分...あの頃の自分はダメだったよなというのではなくて、あの頃の自分も自分だったんだなということを言いたくて。弱さと強さは紙一重な気がしていて、自分の弱みは環境や場所によって強みに変わったりするので、自分の弱さも強さに変えていけるんだというところを歌詞で表現したいなと思って書きました」
――トラックと歌詞が合わさったうえでのまーしーさんのアレンジのポイントというと?
まーしー「アレンジャーさんにも入ってもらってストリングスやピアノが加わったことですごくアニメっぽいと言うとアレですけど、広がった感じが出たなと思っているんです。歌の世界を広げてくれたし、歌の世界観を強くしてくれた気もしています」
――確かにストリングスはすごくアニメ感を感じられました。そして23日には次の配信シングル「忘愛」のリリースが続きます。こちらもドラマ『パラレル夫婦 死んだ"僕と妻"の真実』の挿入歌になっています。この曲の出発点を聞かせてください。
ひとみ「これは私が弾き語りで作ったところからスタートしています。あたらよは恋愛の曲を書くことが多かったんですけど、活動を重ねるにつれて曲の視点も恋から愛に変わっていった瞬間がどこかにあって。今回のドラマも夫婦の愛が題材ですし、設定もめちゃくちゃ面白いじゃないですか」
――この取材日現在はまだまだ謎が多くてわからないことだらけです。
ひとみ「ですよね(笑)。このドラマのお話を聞いて、夫婦にはそれぞれの形があって夫婦の数だけ愛の形もあるんだなと思いました。自分の両親や友人の話を聞いていても、"うちではこれが当たり前だけど、別の家だとこっちが普通なんだね"ということもあったりして。ときどき喧嘩もしながらひとつの愛の形や絆の形を作り上げていった結果なんだろうなと捉えました。『パラレル夫婦』の主人公の幹太くん(伊野尾慧)となつめちゃん(伊原六花)も夫婦として当たり前だったことも"どこで間違えたんだろう、何が違ったんだろう?"というところを考えていくのがこのドラマの面白いところかなと思うんです。サビではそういうイメージの言葉を入れつつテンポ感とリズム、メロディーの細部にはあたらよが得意とする部分を全面に押し出した方がグッとくるかなと思って、知識と経験をフル活用して作りました」
――ドラマを見ていても「どこから自分たちは間違っていたのか」ということが軸に描かれていくのだろうなと想像しています。先にリリースされた「ツキノフネ」はすごく疾走感のある楽曲ですが、一方で「忘愛」にも質の違う疾走感を感じました。アコースティックギターとピアノの音が立った疾走感というのでしょうか。
まーしー「これはドラマ用にふたつアレンジを作ったんです。アコギのストロークに合わせた曲にするのかしないのか。結果アコギに合わせる形になりましたけど、そうすることで単純に聴き心地がいいものになったなと思います」
ひとみ「それこそ疾走感に関わる話ですけど、まーしーが最初に作ってくれたパターンだと、個人的にはすごく音が止まって聞こえたんです。走っていない感じというか。私としてはもっとグイグイ前に進みたい感覚があって。ふたつめに作ってきてくれたものが、それが言いたかったやつだ! とハマる感じがありました。ドラムパターンで聴こえ方がかなり変わった1曲です」
――疾走感というところにフォーカスすると、ドラムも大事だと思いますがベースもかなり重要な気がするんです。弾き方で全体の流れが変わるのでは? と。
たけお「そうですね。ドラムパターンがふたつあったとお話ししましたけど、僕の印象だとひとつめはイントロからアウトロまで一直線に進んでいくみたいな感じがしていたんです。でもふたつめ...リリースする方ですけど、イントロから入ってサビで流れが変わるみたいな印象があります。ちょっとわかりにくいけど、体感で流れが変わるというか流れが二段階になるというか。そういう構成が疾走感につながっているんだとも思います」
――そして私が気になったのはタイトルが忘れる愛と書いて「忘愛(ボウアイ)」なのに、資料上で付いている英語タイトルが「I still love you」なことでした。忘れるではなく、まだ愛していると。これは意図的に?
ひとみ「意図的にですね。「忘愛」を英語にしたらLOST...失う・なくすみたいな意味になるので、ちょっと違うなと思ったんです。サビの最後に入れた〈僕はまだ君を愛してる〉という歌詞を改めて見て、もうこれしかないでしょと。それこそ海外で聴いてくれる方もたくさんいるので「I still love you」だと思って聴いていた曲の日本語タイトルを調べたら"忘れる"という意味が含まれているので、全然違うと気づいてもらえるのもそれはそれで面白いのかなと思いました」
――なんなら中国公演も経験したあたらよなので、「忘愛」って中国語かな? と調べたら全然関係なくて!
ひとみ「(笑)。歌詞の中の〈忘れてしまった愛のカタチを〉というところにかけたのもありますし、歌詞を読むと忘れてしまった愛の形を確かめていくという愛に向かって前向きな捉え方ができるけど、タイトルだけ見ると僕はもう愛を忘れてしまったよという二面性があるのが面白いかなと思ったんです。ドラマのタイトルに『パラレル』という言葉も使われているので、二層に分かれている感じともいいますか」
――なるほどなるほど。そして今年はまたアジアツアーも予定されていると伺いました。
ひとみ「本格的に語学の勉強が必要だなぁ」
まーしー「前回は日本語で押し切っちゃったのでねぇ...」
――現地の人たちは楽しみにされるでしょうね! 最後にぜひ伺いたいのですが、バンドは「悲しみをたべて育つバンド。」というキャッチコピーを掲げています。先ほどひとみさんが恋から愛を歌うタイミングが来たともおっしゃっていましたが、年齢や活動を重ねたことで今はどんな悲しみに目が向いているのでしょうか。
ひとみ「それでいうと、自分がいなくなった後のことを考えるようになりましたね」
――さすがにそれは年齢的に早くないですか?
ひとみ「やっぱりいろいろ経験して昨日まで元気だったのに...ということが全然あると思って。例えば自分に何かあった時に、何が残せるだろうとか何があったら周りはしばらく生きていけるかなとか。それこそ自分がいなくなった後に悲しませちゃうだろうなと思う人たちに向けて残したい言葉を早いうちから作っていきたいと思うようになっています」
――"悲しみの食べ方"も変わりました?
まーしー「食べ方ですか?」
――例えばどういうことで泣くようになったとか、悲しみを感じるようになったとか...。
まーしー「映画で号泣するようになりましたね。今までは想像上のものだったことに実際に触れる機会も増えてきて。経験を重ねたということでもあると思いますけど」
ひとみ「大人になって、そんなことあるわけないと思っていた最大級の悲しみが襲ってきたりもするんですよ。全身で悲しみを浴びる感じ...なんなら頭のてっぺんまでひたひたに浸かるような悲しみも経験したので、想像だけじゃなく実生活に落とし込んでリアルに捉えられるようになりました」
――でもあたらよの場合はそれが制作に生きることもあるわけで。
ひとみ「悲しみに直面しながらも、ちょっとラッキーと思っちゃう自分がいることも否定できなくて。なんかちょっとややこしいですね(笑)」
取材・文/桃井麻依子
(2025年5月 8日更新)
あたらよ…ひとみ(Vo&Gt)、まーしー(Gt)、たけお(Ba)からなり、「悲しみをたべて育つバンド。」を掲げている。グループ名のあたらよは”明けるのが惜しいほど美しい夜”という意味の可惜夜(あたらよ)に由来している。 2020年11月 YouTube に楽曲を投稿したことを皮切りに活動を開始。初のオリジナル曲「10月無口な君を忘れる」では、切なくエモーショナルな歌声と都会的な空気感、共感を呼ぶ切ない歌詞の世界観が話題となり、YouTubeでは5000万再生突破(2025年4月現在)。2021年3月にデジタルリリースを開始すると、瞬く間にLINE MUSIC・Spotify・TikTok・AWAでチャート首位獲得。そして活動開始から1年足らずでのTHE FIRST TAKEへの出演も話題となった。2022年3月に1stアルバム「極夜において月は語らず」を2024年9月にはアルバム「朝露は木漏れ日に溶けて」をリリース。2024年3月に行った初のアジアツアー「Atarayo First Asia Tour 2024」は追加公演を含む全6公演がソールドアウトを記録し、日本のみならずアジア圏でも活躍の幅を広げている。
あたらよ オフィシャルサイト
https://atarayo-jp.com/
オフィシャルX
https://x.com/Atarayo_band
オフィシャルInstagram
https://www.instagram.com/atarayo_band/
オフィシャルYouTube
https://www.youtube.com/@atarayo